ネクタイを緩め、僕は彼女を不機嫌そうに見る。
フルフルと、ユエは小さく首を横に振った。
「アオになら、何をされても良いよ…? 乱暴にされても、手篭めにされても…」
「……だからさぁ……もー……立花の女って、みんなこうなんですか? カヅキおばさん……ほんっと…勘弁してくれないかなぁ…」
ユエから手を離し、僕は蹲った。
彼女が慌てて僕の肩に手を添えるが、僕は顔を上げない。
「アオ? どうしたの?」
「どうしたのじゃないんだよ…どうやったら異性に対して、危機感持つの君…僕、凄い心配になるんだけど…」
僕に対してもならないなら、他なんてもっとならないじゃないか。
僕を怖がれとは言わないけど、僕以外の男は怖がってよ…頼むから。
「うーん…私が男の人怖い、なんて思うのは、陛下かパパくらいなんだもんなぁ」
「それは怒られたらって意味だろ…」
ユエに何言っても無駄か、と思った僕は、お腹がすいた事もあり、立ち上がった。
だが彼女は、その場から動かず立った僕を見上げる。
「ユエ?」
「あのね、アオ。私、怒られたら怖いって意味じゃなく、本当にあの二人に襲われたら太刀打ち出来ないから、怖いの。パパも、陛下も、そんな事しないってわかりきってるけど。同年代には勝てるよ? でも、大人の男の人は、流石に怖いって思う」
僕は屈んで、真剣な顔で言うユエの頭を撫でた。
「危機感、ちゃんと持ってたんだ…」
「持ってるよ。さっきも言ったけど、同年代には勝てるし、アオになら何をされても良い。あ、流石に別れたり、浮気されたりするのは嫌だけど…」
するわけないだろ、とユエの額を弾いて立ち上がる。
そして、彼女に手を差し出した。
「行こう、お腹すいたよ僕」
「うん」
ユエは僕の手を取り、立ち上がった。
◆◆◆
「遅い」
「ごめん」
シンクが玄関前で仁王立ちしながら、どんだけかかってんだと言いたげに、一言だけ言葉を発する。
それに対して、僕は謝る事しか出来ない。
彼は一つため息をついて、リビングに歩いていった。
「遅いよ、グンジョウ」
「本当ごめん…」
ユエの手を引いてリビングに行くと、シャナからもそう言われてしまい、僕はまた謝る。
ユエを座布団に座らせ、僕もその隣に座ろうとしたのだが、
「着替えてきなさい」
と、シャナに言われてしまったので、再び立ち上がって自分の部屋に行く。
寝巻きに見えない寝巻きを着て、自室の外に出た。
シンクかシャナか知らないが、ローテーブルの長さが、六人で使えるような長さになって、逆にソファーが無くなっており、僕が着替えた数分でよくやるなと感心した。
ローテーブルに六人分の白米と汁物、取り皿が置かれ、中心にはサラダと生姜焼き、横にはドレッシングのボトルと何故か僕が出る前には作られてなかった、唐揚げが鎮座している。
「これ、一体いつの間に作ったの…」
「グンジョウが帰ってくるの遅いから、サラダと一緒に作ったよ。揚げるのはツルギ君がしてくれたけど」
まぁ、ツルギはカヅキおばさんの実家で鍛えられたそうだから、揚げ物くらいは出来るか。
いただきますと声を揃えて、僕らは食事を始める。
ふと、先程話に上がったツルギがポツリと、
「姫の綺麗な手に火傷が出来たら…流石に嫌だなって…思ったので…」
と言うものだから、シャナの食事の動作が少しぎこちなくなった。
姉は少し頬を染め、目を泳がせている。
しかし、それにツルギは気付いていないようだ。
見ててもどかしいなぁ、これ。
シンクも僕と同じ事を思っていたようで、ツルギに微妙な目線を投げかけている。
暫く無言で食べていたのだが、ユタカがそう言えば、と話し出す。
「何かあったって、シンク言ってたけど。何かあったの?」
「あー…ユタカはあまり魔力探知得意じゃねぇもんな? 気付かなくて正解だったと思うぜ」
シンクの言葉に、シャナもうんうんと頷いている。
話が見えなくて、僕は彼らに尋ねた。
「一体何があったの? というか、それ一体いつの話だよ」
「今日の昼だよ。お前がユエと痴話喧嘩してた時間帯。お前ら置いて、俺ら食堂行ったじゃん?」
あぁ、あの時かと納得する。
なら、僕とユエがわからないのも無理はない。
「桃華がいたんだよ。名前は違ってたけどな。顔も、雪那そっくりでよ。セツナ・マーガトロイ・ネヴァーマインドって言ったか。ツェリと連れ立っていた時は、流石に俺も表情取り繕うのに必死だったわ」
ズズッ、とシンクは味噌汁を啜り、懐かしい美味しいと少し笑う。
だが、僕とユエはそれどころじゃない。
僕は驚きすぎて、箸で取り皿から持ち上げて掴んでた唐揚げをそのまま落としてしまうし、ユエはユエで、少し眉が吊り上がっている。
「何、それ…あいつ、何しに来てたわけ? もちろん吐かせたんでしょうね、シンク?」
「ツェリが傍にいたんだぞ? 聞けるわけねーじゃん。大体、お前らが痴話喧嘩起こしてなきゃ、桃華に接触して情報聞き出せたっての」
ユエの言葉に、シンクは肩を竦めた。
それは、うん。