俺は、女の子になった。
それは、今まで積み上げてきた、俺の人生を、全て、全部ぜんぶ、ぶっ壊した。
俺は、まあそこそこ優秀な水泳選手やった。
勉強が得意なわけでもない俺が唯一輝けるのが子供の頃からやってきた水泳やったんや。
高校の時は全国大会にも出て、スポーツ推薦も取れた。水泳が好きやった。
大学の時は、全国大会で表彰台を争うレベルにまで行けた。まあそれも世代の中での話やが。
そこでやめときゃよかったんや。
そしたら、スポーツ推薦で取った良い大学の名札で普通の就職活動もできたはずやし。というかやったし内定も取れてたんやけどなぁ…
でも、俺はこの調子で行けばオリンピックにも出れると思ったんや。周りにのせられたんかもしれんし、天狗になっとったんかもしれん。
俺はここでは終わらん、なんてカッコつけてな。
だから、内定も蹴って実業団に入った。
二年間、食事も計画通りに食べて、同じチームの奴と泳いで、トレーナーと話して、泳いで泳いで。
そうやって、頑張ったんやけど良い結果は残せんかった。同じ年齢で5位のやつが他の年齢のバケモンもゴロゴロおる世界で同じ5位なんか取れんのや。取れて20位や。
低迷する順位に、俺は焦った。
順位なんて大学出てからは下がって当然やのに、めちゃくちゃ焦った。実業団の先輩にもそう言われとったのにな?
まあなんでかって言われたら、大学時代に表彰台に乗ってたライバル達が、悠々と結果を残してたからなんやけどな。
あいつにできるなら俺にもできるはずだって。大学時代はあいつと競えてたんだから今もそのはずだって思った。
少し無茶な練習して、もっといけると思って。
オリンピックの選考会も近づいてたし、もっと練習して頑張らなって。
そうやって最後にはプールサイドで倒れたんや。
ちゃんと管理してるはずの水泳選手が過労で倒れるとか、笑えるわ。
この程度で倒れるなんて思っとらんかった。
てか、普通は倒れん。
結局、何が原因で倒れたのか、今でもよく分からん。
最終的に心不全に至ったってことしか医者もわかってないらしい。
それで起きたら言われたセリフはこれや。
「あなたは一度、心不全で心臓が完全に停止しています。あなたの体はその後、再構築されました」
はぁ……はあ!?
って間抜けな声を上げたところで気づいた。
息が苦しい。声がよう通らん。
声自体はよく通る声のなんやけど、はあ!? なんて大きな声を上げたつもりやのに、小さな声しか出んし、なんなら呼吸が浅いんや。
肺活量が全く無い。
息が詰まりそうでな。
さらに女の子の声やしな。それも小さな。元のような、いかにもアホな関西弁喋ってそうなヤツとは違うんや。
そこにはまだこの時には気づかんかった。違和感感じただけや。
で、追撃の言葉がこれ。
「良いですか、落ち着いて聞いて下さい。あなたが寝ている間に、世間では3年と9ヶ月が過ぎました」
初めの言葉はそんなご丁寧な枕詞、付けて無かったのに後からつけてんの、ムカつくなあ。なんて的外れなことも一瞬思った。
まあ分かってくれ。その時、俺は最初にかけられた言葉の意味をよく理解してなかったんや。
自分が女になったことも、泳ぐことすら難しい体になったことも理解せず、間抜けなことを考えてた……はっ泣けてくるわ。
それで返した言葉がこれ。
「3年9ヶ月……東京オリンピックも終わったんか? 誰が出たんや?」
流石にアホすぎるやろ。
でも、この時は一年半先のオリンピックに向けて、選考会に向けて、頑張ってた時の気分のまんまやった。
医者はその質問を無視して俺に手鏡を渡して来て、それと同時に多分こう言ったんやと思う。
「あなたは日本で7例目の肉体再構築症候群です。あなたの体はおよそ10歳程度の少女のものに再構築されました」
まあ、そんな話は耳に入ってなくて、渡された手鏡に映った変わり果てた自分の姿に驚愕しきってたんやけどな。
反応あれば続き書くかもしれません。
読んでくれてありがとうございます。