機動戦士ガンダムSEED アストレイ3人娘生存ルート実況   作:島民

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Part03 半端者たちの明日

 全身が痛かった。

 中でも後頭部の痛みが特段酷い。

 ベッドや布団じゃない床で寝るとだいたいこうだ。

 

 目を開けると黒いカーペットが広がっている。

 家にあるような柔らかいタイプのものではない。タイルカーペット。いわゆるお店とかによくあるものだ。

 

 肩が痒くて手を動かそうにもぴくりとも動きはしない。

 その上手足がビニール紐で縛られている。

 

「起きたか」

 

 そんな無様を晒しているフカミを見下ろすように男はぐい、とその脚でフカミの体を押すように蹴った。

 男は手に銃器を携えている。ハンドガンだ。

 顔はフルフェイスのマスクときた。誰がどう見ても見事なまでに犯罪者か悪の組織の戦闘員だ。

 

「まさかあのガキを助けようと突撃してくるなんてな。おかげでガキは逃げちまった」

 

 が、毒気を抜かれたのか呆れたように、それでいて小馬鹿にしているような口ぶりだった。

 

 

 どうしてこうなったのか。

 振り返れば何ともまぁ間抜けな話である。

 フカミはその日、口座を一つ増やそうとしていた。

 

 なにぶん口座を一つにしてしまうと無意識のうちに無駄遣いをしてしまう性分であることに気がついた。

 なので絶対に使わない金を別の場所に隔離して然るべき将来のために使おうと決心した。その将来というものは特に考えていないが生きていくうえで先立つものは必要だ。

 

 そんなこんなで──ハンコやら身分証やらを引っ提げて。

 手続きが終われば久々に実家にでも帰るつもりだった。だがしかし、突如として今眼前にいる男が現れた。

 

 当然目的は金銭の類だ。

 手近にいた10も行くか行かないかの子供の首根っこを掴み、金を出せと。

 その子供はひどく怯えていた。その家族らしき男の子が必死にその名前を呼んでいる。「マユ」と、だが彼が手を伸ばす先に反して周囲の大人たちに出口に押し流されていく。

 

 冗談じゃない。

 その子供は助けを求めるように、縋るように大人たちを見ているが大人たちは一目散に逃げていく。

 当たり前だ。銃を前にして飛びかかれる程人間は強くない。

 この国において銃は非日常、恐怖の象徴でしかない。

 

 けれどもそんな大人たちの都合なぞ、子供が知る訳もない。

 こんな銃を突きつけられて助けてくれる大人もいなくて。

 おそらく応援を待てば誰か助けてくれるだろう。その代わりこの子供が地獄のような恐怖を味わい続けることになるだろうが。

 

 札束を鞄に詰めている男だが、ちゃんと子供の頭に銃口を突きつけている。

 下手に飛びかかればうっかり脳漿をぶち撒けかねない危険な状況だ。

 だがセーフティは掛けられている。撃つ気はないか間抜けなのかのどちらかだろうが、狙い所だった。

 後はもうただ突き進むだけだった。

 

 床を蹴り、全体重を預けて肩で男にぶつかる。

 予想外の方向からタックルされてよろめく男の拘束が弱まったところで子供が離れる。そんな中フカミは男の腕を取り押さえた。

 

「逃げて! はやく!」

 

 そこから自分が何を言ったのかはよく覚えていない。ただ早く逃げろという言葉をきっと吐いたのだろう。這うように、もがくように店の外へと逃げていく後ろ姿を見送って──もう銃弾が届かないような場所まで離れたのを見た時──

 

 安心をしてしまった。

 

 

 がつん、と後頭部から酷い音がしたと同時に一歩遅れて世界が揺らぐ。

 自分が勢いよくぶん殴られた事に気づいたその時には世界が暗転していた。

 

 

 あぁ、なんたる迂闊。

 それで気絶して人質になっていたと言う訳だ。当然銃は回収済み。セーフティはこれ見よがしに外していることから同じ轍は踏まないという『意志』を感じる。

 

「……所でなんで立てこもってるんだ?」

 

 もし強盗の側に立って考えるなら、さっさと逃げてしまえばいい。

 銀行強盗を支援するつもりもないが、立てこもりなぞせずにさっさと逃げておけば良かったものを。

 

「お前とやり合ってる間に逃げ道を塞がれたのさ。機動隊が退路を塞いでる」

 

 ならば詰みだ。

 このまま待てばいずれは犯人は音を上げる。フカミとてそれに耐えられるだけの忍耐はあるのだ。ヤケになった犯人に頭をぶち抜かれなければなんとでもなるはずだ。

 

「まったく、まさかお前が軍人とは思わなかったよ」

 

 男の手元にはフカミのドッグタグが提げられている。ならばもう状況は理解しているはずだ。

 

「民間人ならともかく、軍人だ。人質としては使えんぞ。民間人なぞよりは圧倒的に優先順位は低いし、うっかり犯人が殺したところで世論に殴られるリスクは薄い。犯人に譲歩して犯罪者に舐められる方が軍並びに警察には怖かろう」

 

 警察と軍その他諸々のいざこざが発生するというリスクは敢えて挙げない。

 そんなことを言って自分の状況が良くなるわけではないからだ。

 

「銀行強盗をどうしてやろうと思った。成功率も高くないし得られるものも少ないし盗んだ札束なんざ足が出る。資金洗浄にも手間もかかる。割に合わんぞ」

 

「…………」

 

 そんな真似をするにまで追い詰められたのか、そもそもそういう考えに至らなかったのか。

 男の表情はマスクしているが故に読めない。激昂せずしばらくの沈黙をしてから男は口を開いた。

 

「お前――知ってるか。世界にはな。3種類の人間がいる」

 

「……あ?」

 

「まず一つはナチュラル。もう一つはコーディネイター。――最後はそのいずれでもない半端者」

 

 その言葉で真っ先にフカミが連想したものが一つあった。

 この世界には弾かれた存在がいる。

 ハーフコーディネイター。

 ナチュラルとコーディネイターが二分化した世界で、その二者の間に生まれたいずれでもない半端者。

 この時代において平和の象徴だと無責任に持て囃す者もいるがこの世界はそんな優しくなどない。

 

「ハーフコーディネイター。コーディネイターからすればコーディネイターを裏切った愚か者として蔑まれ、ナチュラルからすればどうあがいてもバケモンだ。双方から黙殺された時代が生んだ忌み子、それが俺だ」

 

 どちらかに振り切れればまだマシだっただろう。それすら出来ず双方から憎悪される存在。それがハーフコーディネイターというものだ。

 

「オーブに来てもそれは変わりはしなかった。ナチュラルの阿呆は俺をバケモンと詰り、コーディネイター馬鹿どもは裏切り者と詰る。俺に居場所なぞ無かった。……何が中立だ……!」

 

 最終的に仕事に困って銀行強盗という訳か。

 それで子供に一生物のトラウマ植え付けようとするとはとんだ野郎だ、と喉から出かけた言葉をフカミは飲み込む。

 

「話逸れるが多分このままだと捕まるぞ。どうするつもりだ」

 

「そうなった時は……!」

 

 鞄から手のひらサイズのパイナップル状の何かを取り出す。ちゃりん、と安全ピンが鳴りフカミの頬を冷汗が伝った。

 どこからそんなものを取り揃えてきているんだこの強盗は。

 

手榴弾(パイナップル)か。確かに機動隊のジュラルミンごときなら吹っ飛ばせるな」

 

 動揺を悟られないように淡々と言葉を続ける。

 

「やり過ぎたら遠方から狙撃されて死ぬぞ。もう銃器は持っているのは向こうは既に知っているだろうから狙撃出来るヤツは用意していると思っていい。手榴弾ポイポイ投げて混乱している間に逃げるのも一つの手だろうが確実性に欠ける。この島国に逃亡する場所、協力者がいれば話は別だろうが」

 

「お前は俺に肩入れしているのかしていないのかどっちなんだ。俺の話を向こうに流しているわけじゃあるまいな!?」

 

 そんなフカミの言動に戸惑っていたが、ある可能性に行きつくと打って変わって銃口をフカミの顔に向ける。だがその向けられた当人の表情は酷く怪訝なものだった。

 

「そんな回りくどい真似するか。わざわざ気絶して捕まって……下手したら片手間に頭ぶち抜かれてたぞ。そんな覚悟キマった化け物が銀行強盗個人の前に現れるものか。それにな、そのドッグタグを持っているってことは俺の持ち物も探ったんだろう。手札はもうない――投了だ」

 

「……それは……そうだな」

 

「そうだろ?」

 

 思ったよりこちらの話を聞くあたりさほどやる気はなかったのか。それとも自棄になったけれども途中で冷静になってしまったクチか。完全に話の主導権をフカミに握られた男はふと、何かに気付いて動きを止めた。

 

「だが待て、丸腰で子供を解放するために飛び掛かったお前はなんなんだ。馬鹿なのか、阿呆なのか」

 

「……」

 

 強盗に馬鹿だの阿呆だの言われるのはフカミには心底、それはもう心底心外だったが顔には出さないで心の奥底に仕舞い込む。

 

 子供にとって格好いい大人でありたい、そう願うようになったのはいつからだったのか。

 子供の頃、大人が嫌いだった。勝手に自分という存在を産んで勝手に消えた大人に期待もしてなどいなかった。けれども自分もいずれは大人になるし今はもうなってしまっている。

 そうさせた両親のようにはなりたくなかった。だからーーあんな真似をしたのかもしれない。だがそんなことをあの強盗に語った所でどうしようもない話だ。

 

「まぁなんであれ、助かる事だけを考えている訳じゃ無い」

 

「……ん?」

 

 その時、奇妙な沈黙がこの場を支配した。

 壁とシャッター越しに聞こえてくるサイレン音。どよめき。それらが代わりにやってくる。男が何か言い淀んでごくりと唾を飲み込んでからややあって口を開いた。

 

「こんな腐った世の中だ。この世からオサラバしてやるのも悪く無い」

 

 自決。自害。自殺。

 あらゆる単語が脳裏を飛び交う。あらゆるものに迷惑をかけてから死んでやる。そんな思考はよくある話だ。

 それが彼なりの復讐なのか。

 復讐は何も生まない。本人に言った所で空虚でしかない。そしてーー失うものが何も無い人間ほど怖いものは無い。

 

「この世界に半端者(ハーフコーディネイター)が生きていられる場所などないからな」

 

 二分していく世界において半端者は異物。

 どちらかが死ねば終わる戦争においてどっちに転んでも存在は許されない。

 そして逃げ場などない。オーブにいてもその一人一人の認識が必ずしも変わるとは限らない。中立というのは政治的な立ち位置であって国民が必ずしもそうではない。

 フカミ・シュネーヴィンという男は、コーディネイターの父親とナチュラルの母親の間から勝手に男と女、無責任な営みで産み落とされた必要ともされなければ愛されもしなかった虚無のような生き物だ。

 望んで産まれた訳でも産み出された訳でもない。半端者である自分自身を大っぴらに明かせば恐らく味方など誰1人いなくなる。針の筵を渡るような人生をずっと生きている。

 

 故にこの男に少しばかり思うところがあったのかもしれない。普通の賊ならここまで言葉など交わしちゃいなかった。

 

「……それでも」

 

「それでも、なんだ」

 

「それでも、生きていくさ。誰かに頼まれなくたって、俺は」

 

「お前はーー」

 

 男が信じられないものを見るような目でフカミを見たその時だった。カランカラン、と何かが円筒状のものが転がり込んだ。

 それが何か気付くよりも先に世界がーー白に染まった。

 

 

 

 

 

 気づいた時には全てが終わった後だった。

 軍人という生き物は強くなくてはならない。迂闊な奴。強盗相手にヘマをした間抜け。子供なぞ放っておいて大人しく応援を待ってそれに丸投げしておけば良かったものを、という言葉は腐るほど聞いた。

 それがフカミに与えられたレッテルだった。生きていて良かったね、と言う奴は基本厭味たっぷりだ。無茶をやったのは事実である。それをフカミ当人も理解していたが故に反駁もしなかった。

 

 あの人質にされかかった子は元気だろうか、そんなことを思いながらただ、ひどくなる一方の針の筵の上を歩いて行く。そして流されに流された先がM1隊。

 

 

 新時代の兵器、モビルスーツ開発に携わるテストパイロットと言えば聞こえがいい。

 M1隊のMはModelの意と言うが一向に完成しないそれと兵器開発ばかりに携わらされるその隊の性質から、悪意を込めてこう呼ばれる時がある。

 M1のMはMarmotのMだと。

 

 

◆◆◆◆◆

 

「すみません。一佐の紹介で軍に入ったのに」

 

 そんな特殊な出生もあって行く当て、人生が見えなかったフカミにとってその生き方を示したのはトダカだった。人生の先生のような男だが、結果的にその顔に泥を塗る行為をした訳でもある。謝りたくもなる。だがトダカの反応は違ったものだった。怒ってはいた。だが、思ったような怒り方ではなかった。

 

「例の事件のお前の行為の是非は一旦棚に置くが、お前はどうありたいんだ」

 

「どうって……」

 

 焼けるお好み焼きソースの香りが鼻腔をくすぐる。

 そろそろ食べごろだろうが、フカミもトダカも手を出さずただただ焼けていくだけ。

 

「俺の顔色を伺う存在になる為に軍人になったのか? 俺の顔色伺って賊とやりあったのか? お前は」

 

「……違います」

 

「ならお前はお前の信念を貫け。反省したなら変わっていけ。それにな、お前がどうしようもないやつなら間口を開けたりはせんよ」

 

 重い言葉だった。

 横転を防ぐ補助輪などもうとっくにない。支えて押してくれる誰かもいない。ペダルとハンドルを自分で切っていくしかないのだ。それは逆にどうしようもないやつで在るという選択肢は奪われる。

 焦げそうな匂いがしたことに気付いたトダカは咄嗟にヘラでお好み焼きをひっくり返す。

 

「一つ助言を送ろう。最低限、隊長になるのなら胸を張れ。上に立つならば堂々としろ、不安げでは誰もついて来んぞ」

 

 トダカは艦長だ。

 故に自身のありように芯を持っている。だからこそ質感を持ってフカミの背中に重くのしかかる。

 今の自分では不足なのだ。だから、変わるしかない。

 

「ほれ。腹減ったろ」

 

 皿にどんどんと押し付けられるような形でお好み焼きの切れ端が乗せられていく。トダカ当人の皿には少しばかりのお好み焼きしかなくフカミが手で制してストップをかける。

 

「トダカ一佐は」

 

「俺はこれで十分だ」

 

 と、焼酎の徳利を軽く持ち上げた。

 遠慮する理由が消え失せた所で「いただきます」とそのままお好みの切れ端にかぶりついた。カリカリに焼けたソースと肉、キャベツの歯応え。

 飯を食っている時は特に生きている実感がする。美味いものはどんな時でも美味いのだ。世界がひっくり返ったって、世界が終わりかけであっても美味いのだ。

 

「頑張れよ」

 

 激励の言葉を、受け取りながら。




 次回、ガキが代(ROSG)
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