機動戦士ガンダムSEED アストレイ3人娘生存ルート実況 作:島民
「あー皆さん聞こえますかね。本日はお客さんが来ていますんで、ここは格好いい所を見せて行きましょうか」
無線機片手にフカミは揚々と眼前に並び立つM1×3に語りかける。
乗っているのは言わずもがな、アサギ、ジュリ、マユラだ。
《わ、隊長さん一体どこほっつき歩いてたんですか?》
《あちらさんのモビルスーツが見たいとか言ってエリカさんに無理言ってついて行ったらしいけど》
《モビルスーツならこっちにだってあるでしょーよ。あちらさんに浮気ですかー》
本来予定に無かったものを捩じ込ませて貰ったのはそうだが、そこまで影響は無かったが搬入して即オーバーホールと言うのだからバラされる前に早く見ておきたかったのもある。
細かい開発史がどうなっているかはフカミは知らないがストライクとM1、どう考えても関係ないはずもないし兵器の常識をこれから変えてしまうであろうものを一度目の前で見てみたかった。ただそれだけ。……つまり一個人の酔狂である。
「えぇ?」
「ちゃんと許可は貰ったっての……」
隊長にあるまじき言われように隣でキラが怪訝な顔をする。
3人の方もストライクのパイロットをいち早く見たかったらしいが許可が取れず、しれっと許可を取ってきたフカミに対して軽く根に持っていた。
なお明暗を分けたのは尤もらしい理由を付けてきたか否かである。建前って大事。
──後で恨み言は聞いてやろっと……
とはいえ正規の手続きとはいえ抜け駆けをやったのは事実なので多少のガス抜きに付き合わないと不味そうだ。
正論で事がなんとかなるのなら人間関係というものは苦労しはしない。
「相変わらず緊張感のカケラも無い奴らだ。お前も隊長ならしっかりしろよ」
と、カガリ。
何も言い返せなかった。彼女らを無理やり制御しようとするとそれはそれで厄介なのであんまり強くは言っていないが言うべきなのか。とはいえそこで作ってきた人間関係ガタガタにさせて仕事をやり辛くするのも本意では決してない。
──何が正解だ。
何故か1人で勝手に頭を抱え始めるフカミを他所にアサギ機が無線のスイッチを入れた。
《あれ? 隊長さん。隊長さんの隣にいるのってカガリ様?》
「おん、そうだけど?」
《あらほんと》
《なーにー? 帰ってきたのー? ウズミ様と喧嘩したって言ってたけど》
フカミが肯定した途端にこれだ。最後のマユラの発言が刺さったらしく途端にカガリが「悪かったな」とバツの悪い顔をする。
どうやらこの3人、カガリとは知人らしくフランクな物言いが飛んでくる。
……3人に舐められているのはお互い様らしい。
「女三人寄れば姦しいって奴ですな」
「随分やられているんだな」
呆れ半分にカガリが聞くと、「へい」とフカミが短く返した。
「もうその辺実力でお手本見せてなんとかするしかないですよ。ガタガタ上から偉そうにした所で逆効果なので」
「……」
なので落ち着いたらもう一度シミュレーターか本体使って模擬戦でもしよう。
今度も3対1で、だ。とはいえ負けてしまえば本格的に舐められかねないのでこのやり方は諸刃の剣と言える。
4人の中でモビルスーツを一番上手く使える必要があるのだ。上に立つ存在としてある種歪と言えるが今はこれしか出来る事が思いつかない。
愚直に一つ一つやっていくしかないのだ、今は。
カガリから謎の、何かを探るような視線を浴びながらフカミは前を向く。
「お喋りはそこまでよ。じゃあ、始めて!」
エリカの一声でフカミもカガリも口を閉ざす。
そしてそのまま指示出しをすると並びだったM1アストレイがのっしのっしとメンチ切る不良のように歩き、油のささっていないブリキ人形が武術の真似事をし始める。
武術というよりは出来の悪いロボットダンスだが。
これを兵器ですと言うには憚られる惨状にカガリは大きくため息をつく。
「相変わらずだな」
だがこれでもマシになった方だ。
少し前まではこれにずっこけたりと余計な動作がさらに含まれる惨状だった。しかも特定の動作をすると想定していないモーションを取り始めたりと。
そんな時期に比べれば圧倒的にマシだが、世の中には偉大な先人たちが残したこんな言葉がある。
五十歩百歩、どんぐりの背比べ。
「これじゃああっという間にやられるぞ」
「これでもマシになった方なんですけどね……」
せめてもの抵抗にフカミが力無く言葉を返す。
だがマシになった所でなんだ。相手がそれを慮ってくれるはずがない。
「マシになっても実戦じゃなんの役にも立たない。ただのカカシだ」
ひどい言われようである。
まぁ事実だからしょうがないが。これでは出撃した途端にジンのアサルトライフルに蜂の巣にされてM1の生首が地面に転がるのがオチだ。
《ひっどーい!》
流石にボロカスに言われたことに思う事があったのかアサギ機から不平不満が飛んでくる。
「ほんとのことだろーが!」
無慈悲過ぎるカガリの返し。もっと手心をと言うか……と言いたかったがこのM1の惨状を庇い切れるほどフカミも甘くはない。
《隊長さんもなんとか言ってくださいよー!》
泣きつくアサギにフカミは余命宣告をしに来た医者のごとく黙って首を横に振った。
《人の苦労も知らないで!》
《乗れもしない癖に!》
マユラとジュリが口々にアサギに続いてカガリに文句の一つ二つを投げかけるがそれにヒートアップしたカガリが「そんな苦労敵が慮ってくれるかよ」などと無慈悲かつ無遠慮に返していく。
言っていることは一切間違えていないのが中々厄介でフカミも庇い立て出来なかった。
「……うーん、何も言い返せねえな。困ったな」
《隊長さん! 貴方はどっちの味方なんですか!》
それどころかついでに後ろから蹴りを入れるような真似までしてきたフカミにジュリがぷんすか怒りながらM1のジュリ機が怒りを表明するかの如く首をぶんぶん上下左右に振る。
「はいはい! やめやめやめ!」
5人の敵味方入り混じった口喧嘩で収拾がつかなくなりかけた所でエリカが無線機のスイッチを入れて少し声を荒げてその場を収めた。
「でも、カガリ様の言うことは事実よ。だから私たちはあれをもっと強くしたいの」
そう、それがM1隊の一つの目的。
クソの役にも立たないOS問題が解決すれば後は稼働データを収集して機体の完成度を高めるだけだ。
エリカの言葉の矛先は完全に先程の喧嘩に置いていかれたキラの方へと向いた。
「貴方のストライクのようにね。技術協力をお願いしたいのは、あれのサポートシステムのOS開発よ」
ストライクは事実として驚異的な活躍を見せている。ストライクならではの性能と彼がコーディネイターであることもあるだろうが、これを少しでもM1が真似をする事ができれば格段に性能が上がるだろう。
聞いた話によればキラは工業カレッジの生徒だったと言う。その辺の技術的な話も出来るはずだ。
M1が──変わる予感がした。
赤橙に照らされた少年が広場で佇んでいる。
虚な瞳で宙を見ていた。
足元には路傍の石のように転がった少年と同じくらいの男たちの姿。
少年の拳には、白いシャツには赤橙よりも濃い赤に染まっていた。
それを遠くから目の当たりにしてしまった私は恐怖していた。
まるで這い上がるゾンビのように起き上がる男の顔をオレンジ色の土ごと無慈悲に蹴り飛ばす。
それを目の前で見ていた友達の女の子は怯え切った目で少年を見ていた。
こうしてはいられない。そう私は飛び出そうとしたけれども大人たちに首根っこ掴まれて私はこの場から引き離されていた。
赤橙が映した少年から伸びるあのまるで人ではない怪物のように見えた影を、私は忘れたくても忘れられなかった。