IS+1(インフィニット・ストラトス・プラスワン) 作:暇人の鑑
まずは導入といったところですね。
一夏が山田先生を押し倒し、その豊満すぎる胸を鷲掴みにした。
その事実を僕らが認識して数秒、一夏に向けてビームが放たれる。
「ホホホホ……残念です、外してしまいましたわ」
撃ったのは勿論、額に血管を浮かせてブチギレているセシリアさん。
「ね、ねえ……あれ」
「うわ……アレは怒ってるね」
シャルルと僕が、盾を構えつつも冷や汗をかいていると、今度は何かが組み上がった音がする。
「うおおおおっ⁉︎」
「待って、それは間違いなく死ぬから!」
さらには、その持ち主こと鈴音さんは、なんの躊躇いもなく薙刀のようにした青龍刀「双天牙月」を一夏に投擲して、青ざめた一夏がそれを避けるが……あれはブーメランのように戻ってくるのだ。
「シャルル!」
「うん……って、2人して僕達に何向けてるの⁉︎」
邪魔すれば殺すと言わんばかりに、撃ち落とそうとした僕らにはビットと龍砲が向けられる。
そして、戻ってきた双天牙月が、一夏の命を刈り取ろうとした時。
「はっ!」
短く2発、火薬銃の音が響き…その弾丸は的確に青龍刀の両端を叩いて、その軌道を変えた。
「……すごい、あんな体勢から状態だけをちょっと動かして当ててくるなんて!」
シャルルが驚きの声をあげるが、きっとここにいる大半は別のことを思うだろう。
今、アサルトライフルをしっかり構えているのは山田先生だが……その顔は間違いなく歴戦の戦士のそれだ。
いつもの、バタバタとした子犬のようなものとは全く違うその顔の方が、僕らにしてみれば衝撃だろう。
「山田先生は、元代表候補生だからな。今くらいの射撃なら造作もないさ」
「む、昔のことですよ…」
と、織斑先生の言葉にちょっと照れ臭そうにしているが……そんないつも通りの姿を見ても、僕らは唖然としたままだった。
織斑先生曰く、セシリア達の相手は山田先生。
すぐに負けると言われてムキになった2人は、果敢に向かっていくが……素人目からしてもアレは山田先生が勝つとわかってしまう。
「さて、今の間に……デュノア。山田先生の使ってるISの解説をして見せろ」
そんな模擬戦を観戦しながら、織斑先生はシャルルに視線を向け、シャルルはスラスラと説明し始めた。
山田先生が使っているのは、フランス製の第二世代ISの「ラファール・リヴァイヴ」。
打鉄が手堅い装甲による防御力の高さが売りなのに対して、操縦難易度の低さと、武装の切り替えにより様々な操縦者に合わせることができる汎用性が特徴の機体である。
「……ストライクにコンセプトが似てるような」
「逆だ。
リヴァイヴのコンセプトの究極がお前のストライクだからな。……さて、終わるぞ」
シャルルの説明に僕が漏らした言葉に、織斑先生が否定する。
そしてその言葉の終わりに…山田先生の射撃に誘導されたセシリアが鈴と衝突。
そこにグレネードを投げて…2人のISが地面に落下した。
そして、落ちたかと思えば2人で言い合いを始める始末で……きっと、専用機持ちと代表候補生のブランド株価は、大暴落してることだろう。
と、そんな一幕が終わり、今度はISを動かす訓練だ。
織斑先生曰く、専用機持ちがリーダーとなって訓練するらしいが…それは、珍しく織斑先生が致命的にやらかしている。
そんなことを言い出せば……
「織斑君、一緒にがんばろう!」
「輝戸君、わかんないところ教えて〜」
「デュノア君の操縦技術みたいなぁ」
と、僕らに集中するのがオチだ。
「この馬鹿者どもが……。出席番号順に1人ずつ、7人グループにしろ!
次もたつくようなら、ISを背負ってグラウンド100周させるからな!」
結局、その言葉を聞いた女子達は、蜘蛛の巣を散らすように移動していった。
一夏やシャルルのグループになって喜ぶ声。
セシリアや鈴のグループになって落胆する声。
ラウラの鉄壁ぶりに黙りこくる息遣いがちらほら聞こえる中。
僕らは用意された打鉄3機とリヴァイヴ3機の中から、打鉄をカートに運んで、他のグループと距離を取った。
とりあえず、ISのオープンチャンネルでの連絡によると、フィッティングとパーソナライズ……要は、搭乗者用の調整は切ってあるとのこと。
つまり細かい調整はせず、全員動かせればいいって訳だ。
「うん、じゃあ…」
「輝戸君、ISの操縦教えて!」
「そうそう、手取り足取りツーマンセルで!」
「ねえねえ、専用機ってやっぱいい感じなの?いいなー!」
とりあえず、どうするか伝えようとしたら、それより早く取り囲まれた。
やる気があるのはいいけど、これは流石に姦しいではなく喧しい。
「教えるからちょっと落ち着いてね……じゃあ、装着と歩行を全員やるらしいから、とりあえず出席番号順でやろっか。まずは…」
と、名簿を確認する前に、1人が前に出たと思ったら……。
「え?」
「鷹月静音、趣味は生花とお琴。よろしくお願いします」
まるで、面接みたいな自己紹介の後に手を差し出された。
「こちらこそ……でも鷹月さん?趣味まで教えてもらわなくても……」
とりあえず握手をして応じたが………それにつられてか、他の女子まで握手を求めてくる。
「ねえ、サイン頂戴!」
「私、今フリーだよ?」
いや、なんで婚活パーティーみたいなことに。
助けを求めて周りを見るも、一夏とシャルルも似たような感じで望み薄だ。
これじゃあ訓練にならないと思い始めたとき。
「やる気があって何よりだ。
そうだな……お前達は特別に私がみてやろう」
シャルルの班の女子が出席簿+地獄の扱きの禁止コンボを喰らうことになり、それをみた僕の班のみんなも、握手会を素早く解散した。
「うん、じゃあ起動してみようか」
そんなわけで、まずは鷹月さんから訓練を開始した。
午前の訓練は、アクシデントを除いて問題なく終わった。
「なんで、みんなして抱っこして欲しいって言い出したんだ」
「僕に言われても…」
一夏の班の女子が、ISをしゃがませて解除するところを立ったままでやってしまい。
乗れなくなってしまったところをお姫様抱っこの要領でコックピットまで運んでからと言うものの、それをみんな要求してきたのだ。
しかも、一度やった鷹月さんまで要求してくるんだからタチが悪い。
「なんかこう、やっぱり僕ら男とは違うんだな」
「でも…使ったものを片付ける、ってのは男女関係ないと思うんだけど」
「女子に運ばせるのもなんか違う気はするが……まあ、言いたいことはわかるな」
ISを乗せた重たいカートを引きながら、さっさと行ってしまったクラスメイト達への愚痴が、自然と僕らの口から溢れてしまう。
因みにシャルルの班は「デュノア君にそんな力仕事させられない‼︎」とか言い出した女子達が率先して片付けていた……この扱いの差には涙を禁じ得ない。
女子と男子だとやっぱり体つきも重さも違うし……その立場も違う。
女子はみんな、力仕事などのキツイ仕事は男がして当然だと思っているし、それ抜きにしても男の立場はますます弱くなっているのだ。
カートを所定の位置に置き、みんなの元へ急ぐ中で、僕の心はカレッジでの日々への追憶に満たされる。
あそこにいたみんなは男女関係なく、一つのテーマのもとに平等だった。
それが当たり前の日常は崩れ去り……今はもう、針の筵に座らされているのだ。
「どうして、こんなことになったんだろう…」
入学時から溜まり続けていた黒いモヤみたいな気持ちは、またそのモヤを溜め込んでいるような気がした。
放課後。
「どうしたんです?愛津先輩は」
整備室にやってきた僕は、目の前の有様に困惑を隠せずにいた。
愛津先輩が整備室の床に横になっていて、それを他の先輩達が介護しているが…熱が出てるような苦悶の表情というより、熱に浮かされたような……そう、一夏にお礼を言われた時のセシリアみたいな間の抜けた顔をしているのだ。
と、なんとも珍妙な状況を前にした僕に、初江先輩がこめかみを抑えて。
「ほら、シャルル君だっけ?……転校生のフランス代表候補生。
その子に声をかけたら…」
そこで息も絶え絶えになりながらも、恍惚とした表情を浮かべて。
「『僕のようなもののために、咲き誇る花のひと時を奪うことはできません。こうして甘い芳香に包まれているだけで、もうすでに酔ってしまいそうなのですから』って手を握られながら言われて………シャルル様ぁ…」
「意外と愛津先輩って乙女なんですね………確かに、教室に押しかけてきた女子への対応が丁寧の2乗でしたもん……いてっ」
抗議のタオル投げを頭に受けたが、そんな少女マンガの王子様キャラくらいしか言わなそうなクサいセリフでも、シャルルならなんの嫌味もなく使いこなせそうだ。
「まあ、こんな感じだから放っておいて大丈夫よ」
「ええ……嫌だなあ、そんなのとルームメイトになるなんて」
ただでさえ、折角の個室ライフが台無しになる上に、必然的に注目の的になってしまう。
更にはこの後、ルームメイトになったシャルルの荷解きを手伝わなければいけないのだ。
部屋が汚いわけではないが、面倒くさがりとしては避けたい。
「そんなのって何よ。私からしたら羨ましいことこの上ないわ!」
「同じ事をクラスメイトにも言われましたよ」
詰め寄ってくる愛津先輩にため息をつきつつ、僕は考え込む仕草を見せる神戸先輩の表情が、妙に頭に残っていた。
夕食後。
「なんとか包囲網を抜けたね……大丈夫?」
「うん、ありがと」
食堂における女子包囲網&質問攻めを切り上げ、部屋に戻ってきた僕らは団欒のときを過ごしている。
くる前は色々文句が湧き出ていた僕も、実際こうしてルームメイトができるというのも、悪くない気分だと驚いたものだ。
「……ふう。この抹茶って初めて飲んだけど、紅茶とは違った味がするね。美味しいよ」
「お礼なら一夏に言ってあげて。それ、一夏がくれたやつだから」
ついでに美味しいお茶の淹れ方まで叩き込まれたのは数週間前のことである。
なんであんな趣味や嗜好が年寄りくさいんだろう……。
案外、箒やセシリアのような同年代女子は守備範囲外なのかもしれないと、ドクペを飲みながら考えていると、シャルルが緑茶を入れたマグカップを眺めて。
「そういえば、抹茶ってこの緑茶と味は違ったりするの?
僕、畳の上で飲むくらいしかわからなくて…」
と、実に観光客のような事を言い出す。
「修学旅行で飲んだことある。
めちゃくちゃ苦いけど、お茶菓子と合わせると、なんか落ち着くんだ。
今度の日曜に、抹茶カフェに行こうって誘われてたんだけど…行ってみる?この辺りの散策も兼ねてさ」
「うん。是非とも参加させてもらうよ…ありがとう、流良」
と、柔らかな笑みを浮かべるシャルルは、時々本当に男かと思わせるほど引っ張られるものがあった。
しかも、クラスメイト達みたいに珍生物を見るような目を向けてこないし、箒やセシリア、鈴みたいに一夏のおまけみたいな扱いをしてこない。
ついさっきまで、プライパシーがーって嘆いてた自分を、ぶん殴ってやりたいくらい、シャルルの存在はでかい。
そんな、有難い存在だからこそ、僕は妙な息苦しさというか、嫌気を感じていた。
「デュノア社が何かしてくるかもしれないから、気をつけて」
神戸先輩のことばが、妙に引っかかってしまう自分に。
sideシャルル
シャワー室で、シャルル・デュノアとしての制服を脱ぎ……胸を誤魔化すためのバンドを外す。
この後すぐにまた戻るとはいえ……この時だけは本当の自分でいられた。
僕はシャルロット・デュノア。
デュノア社社長……つまり「父」の命令で、ある目的のためにこのIS学園に「男」として転入してきた。
その目的とは……日本で発生した二つのレアケースである「ISを使える男子」のデータ及び、そのISを入手してくること。
つまり、白式かストライクのデータを盗んでこいと言われているのだ。
たまたま僕にIS適性があったから、あの人は僕をそう使った。
愛人の子である僕が、自分の周りにいるのは社会的信用に関わるから……こうして捨て駒にしたんだろう。
それに意見する余地も、選択する権利もない‥‥少なくとも、デュノア社の人達がそんな選択肢を与えてくれるとは思えなかった。
だから、道具は道具らしく与えられた仕事をこなそう………って思っていたけど。
押し込めなければいけない感情は……罪悪感が、胸をつく。
出会って1日しか経ってないけど、あの2人の人の良さは痛いほどわかってしまった。
今さっきのやりとりでも、僕を気遣ってくれているがありありと伝わるほどにあの2人は優しい。
そんな優しい2人を騙していると言う事実が、一番辛いのだ。
普段は落ち着くはずのシャワータイムは、今の僕には罪の意識から逃げているように感じていた。
某所にて。
「……ほう?これはこれは」
IS学園に2人の転校生が入った、と言う情報を聞きつけたリディクは、それについての記事を見る。
そして、その写真に写る2人を見て彼はほくそ笑んだ。
戦闘用に作られた人造人間に、社運のための捨て駒と言う彼女らに着いての公表されていないはずの情報を、彼はなぜか握っていたのだ。
「……さあ、これを知ってどう転ぶかね?君は」
そう呟いた彼は、ディスクを片手に席を立つ。
なんの影も持たぬ、無垢な少年の行く末を賭けて…。
いかがでしたか?
今回の2巻のストーリーは、「力のありようと、本心との葛藤」をメインに書いていければと思います。
それでは、次回もお楽しみに!