IS+1(インフィニット・ストラトス・プラスワン)   作:暇人の鑑

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第12話です。



第12話 オスカルなジャンヌ・ダルク

 小さい頃、星を見るのが好きだった僕が「宇宙飛行士になりたい」と夢見たのは6歳の頃だった。

 ISが発表されて、その宇宙開発におけるポテンシャルを見た時……ものすごく感動したのは、今でも何となく覚えてる。

 

 中学校を、公立じゃなくて中高一貫の工業カレッジに入らせてもらったのも、ISに……宇宙産業に関わりたかったのが大きい。

 

 それなのに、そのISが見せた狂気の夢を前にして。

 

 自室へ向かう道を歩く僕は、どうにも気持ち悪さが拭えなかった。

 

 

 ジャンヌ・ダルクとは、フランスにおける「救国の英雄」であり、「聖女」としてあまりに有名だが…その末路は理不尽と言って差し支えない。

 祖国のために戦ったのに、その祖国からは保身の為に裏切られて、火炙りで処刑された「悲劇のヒロイン」なのだから。

 

 だが、そんなお題目をつけてまで、その少女の死を惜しむふりをした世界は、その場しのぎから数百年たった今。

 同じことを繰り返そうとしている。

 

 

 イグニッション・プランと言う、西側諸国におけるISをめぐる争いの為に。

 イグニッション・プランとは欧州連合における統合防衛計画のことであり…‥簡単に言うと、各国同士によるISのコンペティションで、現在は第3世代における次期主力機の選定中らしい。

 

 で、その競争にフランスは関わっていない……と言うより、除名されているために関わらせてもらえないのだ。

 その為。フランスにおける第3世代型の開発は急務な訳だが。

 

 デュノア社においてそれはなかなか無茶な話だった。

 

 リヴァイヴは基本性能としては初期の第3世代にも匹敵するレベルの完成度を誇るが、それは元々最後発ゆえに開発において参考にするデータが揃っていたため。

 裏を返せば第3世代型の開発へすぐに着手など、夢のまた夢に等しい状況なのだ。

 

 そんな中で、日本においてISを動かせる男2人と言うレアケースが現れたことを知ったデュノア社は、ある命令を1人の少年に下す。

 

「IS学園に潜入して、その2人のどちらか……できれば両方のISのデータを盗んでこい」と。

 

 そしてその少年の名前は…。

 

「やっぱりシャルルが…」

 

「シャルル・デュノア」と、そのデータにはっきりと記されている。

 

「こんなのって…」

 つまり、自分の子供を闇バイトに斡旋するようなものだ。

 

 それを命じられたシャルルの結末は……役目を果たさなければ用済みと、良くて牢屋行き。

 最悪……他国の重要機密を盗んだ国際犯罪者として、デュノア社やフランスから全ての責任を被せられ、絞首台に立つことになる。

 

 そして、口封じの後ぬけぬけと言い放つのだろう。

 救国の為に汚れ仕事を請け負い、その身を散らした悲劇の存在。

 

 正に「現代のジャンヌ・ダルク」と。

 

 

「……男の立場が弱いからって、あれが許されるだなんて」

 

 正直、それだけでも胸糞だと言うのに…もう一つのデータは別ベクトルでまた、正気を疑うものだった。

 

 

 ドイツが密かに行っている事。

 

 それは…人工合成された遺伝子により、鉄の子宮から生み出された……戦うためだけの命を作っていることだ。

 

 力を、より強い力を求めた先に辿り着いたのは……戦うためだけに強化された人間を作り出す事。

 

 体にさまざまな投薬やナノマシンを取り入れ、戦闘に関する知識と技術だけを学ぶ。

ISに関しても、それに適した体にする為に処置を行うんだとか。

 

 要は、役目が食材から兵器に変わった家畜のようなものだ。

 

 

 その内容を思い返して、僕は裏切られたような気分を抱かずにはいられない。

「どうして、世界はこんなところまで……」

 

 親が子を捨て駒にして、人が人を家畜にして。

 

 人と人との対立を煽り、それに対して見ないふりをする。

 

 僕がISに抱いていた希望を、徹底的に踏み躙られた気分だった。

 

 

 だが、こうして憤ったところで何ができる?

 

 専用機を持っているだけで、世界に対して何の力もない僕が。

 

「何が、レアケースだ…」

 やるせなさと歯痒さを心に抱いたまま、僕は自室のドアを開けた。

 

 

「ただいまー」

 先ほど受けたショックを悟られないように、意識して明るい声を出す。

って、あれ?

 

「シャワーでも浴びてんのかな」

 だが、返答はなく、備え付けのシャワールームから聞こえる水音。

 

 どうやら、シャワーを浴びているらしい。

「……少し寝るかな。夕飯はいいや」

 あれらを見た後じゃ、食欲なんてそうそうわかない。

 半ば現実逃避のようにベッドルームに向かうと、向かいにあるシャルルのベッドの上には、バスタオルらしき布が置いてあった。

 

「……これじゃあ濡れたまま出てくることになっちゃうよ」

 

 要領のいいシャルルにしては珍しいミスだ。

 

 シャワールームは、洗面所兼脱衣所とドアで区切られている。脱衣所まで持って行って、カゴに入れて置いてやればいいだろう。

 

 そう思ってドアを開けた僕は、着替え入れとして使っているカゴを見て固まった。

 

 

 

 なにせ、そこに入っていたのは………綺麗に畳まれた女物の下着。

 

 つまりこれをシャルルは着ようとしてるんだから……考えられる可能性は二つ。

 

 

 一つは、そう言う特殊な趣味でもあること。

 

 

 もう一つは………

 ガチャ。

 

 もう一つの可能性を考えかけた僕の前でドアが開いた。

 

 

「タオル持ってきたけど……」

「さ、さ、さす……ら………?」

「え……?」

 

 視線を上に上げた僕は、間の抜けた声を上げてしまう。

 扉から出てきたのは……見たことのない女子だったから。

 

 

 濡れた髪は、わずかにウェーブのかかったブロンドで、柔らかさとしなやかさを兼ね備えている。

 

 すらりとした体は足が長く……くびれた腰は必要以上に胸を強調してるように見えた。

 

 水を弾く若々しい肌には、玉の雫が乗っていて……まるで、宝石でも散りばめたかのようだ。

 

 そして、男ならあるべきモノがない。

 その代わりにそこには……

 

「………おんな、のこ………?」

「きゃあっ⁉︎」

 驚きすぎて、そんな言葉しか口にできなかった僕を前に、その子は悲鳴と共にシャワールームに逃げ込んだ。

 

 

「えっと……その、ごめん……」

 

「こ、こっちこそ………」

 時が止まったかのような沈黙がしばらく続いた末、なんとか搾り出した言葉と共に、僕は脱衣所から出て行った。

 

 

 

「シャルルが………女?」

 

 

 リディクからのデータには、普通に男と表記されていたからか、目の前に出てきた女子に、脳の処理が追いつかない。

 

 

 

 だが、3人一緒での着替えを嫌がったのも。

 

 一夏が着替えの都合上下着まで脱いでた時に、顔を真っ赤にして恥ずかしがったのも。

 

 カゴの中に、女物の下着が入っていた事も。

 

 シャルルのことを「ジャンヌ・ダルク」と表現した事も。

 

 

 シャルルが女だから、と前置きをつけると、それまでのモヤモヤが一気に腑に落ちてしまう。

 

 にしても、同年代の女子の裸なんて初めて見た。

 

 すごく……

「綺麗だったな………じゃないよ!」

 思わず自分に突っ込んでいると、ガチャリとドアが開く。

 

「えーっと……上がった、よ?」

 

 出てきたシャルルは、いつものジャージだが……そのボディラインは明らかにいつもと違う。

 

「あ、うん……」

 

 もう、認めるしかないじゃないか。

 

「シャルル・デュノア」は、女の子だったんだ。

 

 

 数分後。

 

 どうすればいいかわからなかった僕は、とりあえず無心でシャワーを浴びてさっぱりして。

 

 

 お互いそれぞれのベッドに腰掛けて、備え付けの机越しに向かい合っていた。

 

 

 すごく気まずい。

 

 いや、故意じゃなかったにせよ思いっきり裸見ちゃったんだよな……。

 

 でも、我慢大会じゃないんだしこのままでは埒が開かない。

 

「その……なんで男のフリをしてたのか、聞いてもいいかな?」

 本人の性別が間違っていたように、あのデータの全てが正しいとは思えない。

……いや、むしろ否定して欲しかったのかもしれない。

 

 何にせよ、本人の口からその訳を聞きたかった。

 

 意を決して聞いた僕を前にシャルルは……諦めたように一息ついて

、話し始めた。

 

sideシャルル

 

「僕がここにきたのは……デュノア社の社長。

 

 僕の父からの直接の命令なんだよ」

 流良の目は、どこか浮ついてるような……何を信じればいい?と言わんばかりに不安に揺れていた。

 

 それでも知らなければと、こうして聞く姿勢を見せている彼はとても痛々しいが……それを招いたのは僕だ。

 

 なら、僕にできることは…真実を全て話して、信じてもらうことしかできない。

 

 いや、心のどこかでこうして真実を曝け出したかったんだと思う。

 

 この身体……は流石に恥ずかしかったけど、騙していたことへの罰と考えれば、妥当なのかもしれない。

 

 何より……誰かに、聞いて欲しかった。

 

「自分の子供なんだよね?なら…」

「……僕はね、流良。愛人の子なんだよ」

 絶句する流良に、出来るだけ平静を崩さないように話す。

 

 

「引き取られたのが2年前。

 

 ちょうどお母さんが亡くなったときにね、父の部下がやってきたの。それで色々検査する過程でIS適応が高い事がわかって、非公式ではあっだけれど、デュノア社のテストパイロットをやることになったんだ」

「……大丈夫?辛いなら日を置いて話すでもいいよ?」

 

 流良の申し出に首を横に振る。

 

 こうなった以上、その日が来るかはわからない。

 

 なら……全てを知って欲しい。

 

「父に会ったのは2回くらい。

 

 会話は数回くらいかな?普段は別邸で生活してるんだけど、一度だけ本邸に呼ばれてね。

 

 あの時はひどかったなぁ。

 

 本妻の人に殴られたよ。『泥棒猫の娘が!』ってね。

 参るよね。母さんもちょっとくらい教えてくれたら、あんなに戸惑わなかったのにね」

 

 こうして話してる間にも、自分が自分で嫌になる。

 

 こんなことを話して……事実だからと割り切る事ができたらいいのに、どこか同情を引こうとしてるように思えてしまう。

 

 それでも後少しと、続きを話そうとしたところで。

 

「………」

 流良が無言で見せてくるパソコンの画面に、僕は目を向いた。

 

 なぜならそこには……今から話そうとした事が全て書かれていたから。

 

 

side流良

 

「こ、これ……どこで?」

「モルゲンレーテがくれた情報だよ。

 

 そこに書いてある事が、君たちが僕らにしようとした事だろ?

 

 もし違うなら訂正して」

 

 驚くシャルルに、少し嘘を交えつつ答える。

 

 数週間前にここを襲いにきたリディクからもらったものだなんて、言えるわけないからだ。

 

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 

 会話の腰を折るのは失礼なのかもしれない。

 

 でも……嫌だった。

 

 曇りきった顔に、無理やり作った愛想笑いを浮かべるシャルルを……これ以上見たくなかったんだ。

 

「すごいね、ほぼ全て本当だよ。ついでに僕が女の子だって言う事もバレちゃってた。

 

 でも、ジャンヌ・ダルクだなんて……僕はそんな大した存在じゃないよ?」

「そこは流してよ……。

 

 でも、それが本当なのは間違いないね?」

「うん。今まで騙しててゴメン」

 

 深々と頭を下げるシャルルに、顔を上げるように手で制する。

 

 この子が謝ることなんて、何もない。

 

 この子はデュノア社の社長に言いように使われてるだけなんだろうから。

 たまたまIS適正があった、それなら使おうと……使えなくなったら切り捨てればいい、と。

 そして、それはシャルルもわかってる……あるいは、諦めきっているという方が正しいのかもしれない。

 

 

「……例え成功しても、あるいは今みたいにバレても、多分君が迎える末路は碌でもないものばかりだよ」

「そうだね……デュノア社は潰れるか、他の企業の傘下に入るのかな?まあ……僕にはどうでもいいことかな。

 

 どの道ことの真相が政府に知られたら、僕は代表候補生を下ろされて、良くて牢屋行き。あるいは……」

「死刑が廃止されたフランスなら、火炙りやギロチンとはいかなくても。消そうと思えばいくらでも出来る。

 護送中に事故を装ったり、刑務所内で何かを盛ったり。

 あるいは、ISの研究開発用のモルモットにでもするかもしれない。

 そして、その後にぬけぬけと言い訳を重ねて…世間から君を忘れさせようと必死になるだろうね」

 

 自分でも、意地の悪い言い方だと思う。

 でも……もし、ここで少しでも怖いと思ってくれたなら。

 

 まだ生きたいと、助けてと言ってくれたらよかったのに。

 

「それでもいいの?」

「いいも悪いもないよ。僕には選ぶ権利がないから……仕方ないんだよ」

 

 そんな、絶望を通り越した諦観を滲ませたような微笑みは、僕の中に渦巻いてた怒りに確かな火を付けた。

 

 こんなことをする世界にも。

 

 それを受け入れてしまっている彼女にも。

 

sideシャルル

 

 お母さんが死んだあの日からずっと、僕には居場所がなかった。

 

 血のつながりだけの父親には、氷の壁に閉ざされたような息苦しさしか感じる事ができず。

 

 向けられる視線と言えば、妾の子に対する嫌悪と、ただ道具として使えるかの確認で……ただただ無為に日々を過ごしていた。  

 

 いつしか自分が必要とされることさえ求めなくなって、温度のない灰色の日常にも慣れてしまっていた。

 

 でも……こうして全てが白日の元に晒されたのは、よかったのかもしれない。

 

 天国にいるであろう、お母さんの元に行けるのなら。

 

「ありがとね……話を聞いてもらって、すごく楽になったよ」

 

 あとは、この優しい男の子にとって、少しでも浅い傷であれと祈るだけだと思ったその時だった。

 

 

「……シャルル。デュノア社社長へのホットラインを教えて」

 

 突然、流良は立ち上がったかと思えば、ハンガーにかけていた自分の制服を手に取った。

 

 

 

side一夏

 

 

 両手に花という諺がある。

 

 五反田曰く「男の夢」「IS学園に行けば夢じゃない」らしいが……実際はそんないいもんじゃない。

 

 

「ああっ、いいなあ…」

「幼なじみってずるい」

「専用機持ちってずるい」

 

 道ゆくみんなからの視線が痛いし、身を寄せて歩いている2人分の女子特有の柔らかな膨らみが、考えまいとしても意識せざるを得ない。

 

 何より……

 

「あのだな」

「なんだ?」

「なんですの?」

 両脇で俺の腕をホールドする、箒とセシリアに、俺は抗議する。

 

「エスコートの割にはすげえ歩きづらい」

 2人してエスコートしろという割には、エスコートするための徒歩を妨害されていてはどうにもならない。

 

 そんな俺の抗議は、ぎりっ!と2方向から腕をつねられる事でかわされてしまった。

「貴様、この状況で他に言うことはないのか……」

「自らの幸福を自覚しないものは犬にも劣りますわね」

「いや、普段普通に歩いてるだろうに、なんで今日に限って……そうだ。鈴と流良とシャルルにも声かけようぜ。あいつらも飯食ってないだろ」

「まて、それでは何のために…!」

「そうですわ、これではいつもと…」

「おーい流良!一緒に飯食いに…」

 と、難色を示す2人を伴って、流良達の部屋のインターホンを押すと。

 

 

「一夏…すぐに鈴を呼んできてほしい。あと、セシリアに箒も。4人に頼みたい事があるんだ」

 

 開かれた扉から出てきた流良が、いつになく真剣な面持ちでいた。

 

 




いかがでしたか?

次回は流良が初めて主人公っぽいことをする話になりますので、お楽しみに!
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