IS+1(インフィニット・ストラトス・プラスワン) 作:暇人の鑑
流良とシャルルの部屋にて。
「え?」
「そんな…」
「は?」
「嘘だろ、おい…」
流良の隣で、居心地悪そうにしている1人を前に、俺たちは揃って驚きを隠せないでいた。
「そ、その……ゴメン。僕実は、女の子で……」
ペコリと頭を下げるのは、俺たちの知るフランス代表候補生シャルル・デュノアにして、ブロンドの貴公子ではなく。
「女の子…?」
シャルル・デュノアにして、ブロンドの美少女だったからだ。
「そうなると……あれよね。あんたら3人は同じ更衣室で着替えてたって事で……」
「は、破廉恥な!貴様らそこに直れ、成敗してくれる!」
「いや、僕が気づいたのもついさっきだから……それに、話の本題はそこじゃないからさ」
「そ、そうだ!俺たちに頼みたいことだっけ?その内容を教えてくれよ」
「それもそうですが、どうして男装していたかをお聞かせ願えませんか?同じ欧州の代表候補生として気になりますので」
流良が2人を押しとどめてる内に、頼み事の内容を促すと。
「……この事は他の誰にも漏らさないでね」
流良がパソコンの画面を開き、俺達はそれに目を通し始めた。
side流良
僕があの4人にシャルルの話をした理由は、仲間を募る為だ。
何せ、今から僕が相手するのは……他国の大企業。
専用機持ちであり、公式では世界に2人しかいない男のIS操縦者であるとは言え、それ以外は何の力も持たない僕が、1人で噛みついても大した意味はない。
だが……ここにいる4人を加えれば話は別だ。
「許せねえよ……こんなの。俺の名前でよければいくらでも使ってくれ」
まず、ブリュンヒルデこと織斑千冬の弟にして、世界で初めての男性IS操縦者である、一夏。
「わたくしも、これを助けないのは貴族として恥ですわ!本国には口出しさせませんので安心してくださいまし」
「あたしもよ。こう言う偉そうな大人、大っ嫌いだもん。存分にやっちゃいなさい」
そして、イギリスと中国の国家代表候補生であるセシリアと鈴。
「あの人の威を借りるようで、あまり気は乗らんが……私も協力しよう」
最後に、ISを開発した篠ノ之束の妹である箒。
この4人の持つ影響力も組み合わされば……流石にデュノア社社長だって無視するわけにもいかない。
なにせ、下手をすればデュノア社はフランスだけじゃなく、日本にイギリスと中国、そして篠ノ之束に潰される可能性を考えなければならないんだ。
となれば、こっちの話を聞かざるを得ないだろう。
「でも、IS学園の生徒は在学中はいかなる国家、組織、団体に帰属しないんじゃなかったか?
しかも、本人の同意がない場合それらの外的介入は原則として許されないんじゃ…」
「でも、それは在学中だけの話だよ。それ以降は保証されてない」
たしかに、箒の言う通りIS学園にいる間は誰も手を出せない。
そして、それまでに何とかなる方法を見つければいいのかもしれないが……それじゃあ、問題を先延ばしにしてるだけだ。
ここでキッパリ終わらせないと、データが来ないことに焦ったデュノア社が何かしてくるかもしれない。
何より……シャルルがこれ以上追い詰められるのを見たくない。
「ねえ、今更だけど何をするつもりなの?僕なんかのために…」
僕は、またも人の心配をしようとするシャルルの口を人差し指で塞ぎ。
「たまにはわがまま言ってもいいんだよ。僕も……君もね」
これからやることを、ついにみんなの元に晒した。
sideアルベール
フランスのデュノア社にて。
社長室の椅子に座ったアルベール・デュノアは、手元にいない娘……シャルロットの動向に気が気じゃなかった。
シャルロットをリヴァイヴに乗せたのは、IS適正が高く器用さと言う面からリヴァイヴの特性に合っていたからと言うのもあるが……それ以上に、IS学園に行かせる事ができるためだった。
IS学園は、ありとあらゆる国家や団体から独立した教育機関であり、また本人が望まない限りは干渉することもできない。
つまり……デュノア家の親族による圧力も及ばない。
デュノア・グループの中では、シャルロットを排除しようとする動きがあった。
ISが浸透してから、女性の方が社会的に優遇され…女社長なんてものも珍しくない中で、アルベールと血のつながりがある子供はシャルロットだけだ。
だが…シャルロットはアルベールの本妻であるロゼンダとの間にできた子供ではない。
ロゼンダは子供が産めない体だった為、別の女性との間で作った子供が彼女だ。
そんな、いわば妾の子を後継ぎにする事を良く思わなかったデュノア家の親族の間で、シャルロット暗殺の話が上がってきた為、デュノア家から離す必要があった。
暗殺の危機に陥った娘と、第3世代型ISの開発の遅れによる経営危機に陥った会社。
それら二つを解決するために生み出した策が、「シャルル・デュノア」と言う偽名で男装させ、IS学園に送り込み。
織斑一夏か輝戸流良、あるいは両方のISのデータを盗ませ、そのデータにより第3世代型IS開発の足がかりにしようと言うものだったのだ。
親族からの圧力と、嫉妬に狂う妻。
悪いのは自分のため、強く止めることもできず、日に日に感情を失っていった娘に対するせめてもの贖罪の手段を、アルベールはこのやり方しかとれなかったのである。
「私はどうすればいいんだ……」
娘がデータを盗んでくれば、確かに会社の危機は免れるかもしれないが…そうなれば娘は国際犯罪者になり、本国も親族も出涸らしに用はないと喜んで娘を切り捨てるだろう。
盗んでこなければ、会社は潰れ…社員や妻を路頭に迷わせることになり、シャルロットへの風当たりがさらにひどいものとなってしまう。
「私は、情けない男だよ……」
今は亡き、シャルロットの本当の母親にどう詫びればいいかと頭を抱えた時。
シャルロットからの通信が来た。
アルベールは、シャルロットに対して必要以上に連絡してこないように厳命してある。
つまり……これは何らかのことが起こったと言うことだ。
半ばやけくそじみた気分で、アルベールがその通信を繋いだ時。
「デュノア社社長、アルベール・デュノア。聞こえるか?
こちらはIS学園、輝戸流良」
「………どう言うことだ」
画面に広がったのは娘の顔じゃなく。
世界で2番目にISを動かした男、輝戸流良のものだった。
sideシャルロット
「残念だったね。
ストライクのデータは、まだ僕の手元にある。
自分の娘を捨て駒に使ってまで、盗もうとしたのにね」
目の前で、パソコンの画面に映っているであろう父に向かって皮肉たっぷりの口調で話す流良を前に、僕達は目を丸くした。
「あいつ、あんな芝居がかったことできるのね…」
「ええ、普段は天然気味ですのに…」
「うむ…」
「でも、なんかスカッとしたぜ俺」
4人のささやく声を前にして、僕は流良の意図を悟る。
つまり、父に向けて計画の失敗を突きつけることで、その計画から僕を助けようとしてくれたんだ。
「流良……」
「あなた達にも事情があるのかもしれない……でもだからって、ジャンヌ・ダルクの二の舞を、彼女に踏ませはしない!」
僕自身ですら諦めた希望を、彼は必死で取り戻そうとしてくれている。
たった数日の付き合いで……彼を騙そうとした僕なんかの為に。
もう、流れることはないと思っていたものが目から溢れそうになる。
「僕は……いや、僕達は真実を知っている。証拠も証人もある。これ以上彼女の人生を弄ぶと言うのなら、この話を国際救難チャンネルで全世界に訴える!」
激しく糾弾する彼と、その後ろで画面を睨み付ける4人。
そんな光景を前にして、僕の世界が彩りを取り戻していくのを強く感じていた。
「あなた達の負けだ!
イグニッションプランが何か知らないが、こんな企みは絶対に潰す!」
side流良
口をあんぐりとさせたアルベールを前に、僕はもう一つのチャンネルを開く。
提案を否定するときには代案を用意して行うのが、礼儀というものであり、それがないとただのいちゃもんになってしまう。
大体、それを確約できたからこんな事をしたのだ。
そのチャンネルから聞こえてくるのは、落ち着いた女性の声。
「アルベールCEO、聞こえますか?私はオーブ連合首長国のモルゲンレーテ社技術部顧問のマリア・ラミュースです。
流良君からある程度の話は聞いております。……あなた達デュノア社が経営難に陥っている事も」
《い、いや……それは》
アルベールは、突然の闖入者からの言葉をまえに、言葉を詰まらせる。
「現在我々は、新世代機開発の為の提携先を探しているところですが……もし貴方達が良ければの話ですが、そちらに技術協力の申し出を行う準備を進めております」
《な、何…?そちらは既に第3世代機の開発に成功してるではないか。我々の技術など》
「我々のISのコンセプトはもともと貴社のラファール・リヴァイヴのマイナーチェンジみたいなものですもの。その大元となる技術力は是非とも欲しいところですわ」
《……まさか、その代わりにテストパイロットを寄越せと言い出すんじゃあるまいな》
「そのまさかですよ。シャルルはフランス代表候補生でデュノア社のテストパイロットなんだ。
なら、そこにモルゲンレーテのテストパイロットの肩書きが追加されたった、今更みたいなものでしょう?
そうすれば、彼女にあんな事をさせなくても、デュノア社とフランス本国の課題である、第3世代型ISの開発を今より円滑に進める事ができます。
と言うか、なんで現実としてできてない事を、意固地に自分たちだけでやろうとするんです?」
《正気かね、君達は……?》
「生憎、ウチは世界が言うように変わり者の集まりな国の会社ですわ」
僕とマリアさんの当然と言った顔に、アルベールは呆れ半分賞賛半分と言った表情を見せる。
確かに、他社との共同開発となれば、その利益は独自開発よりも少ないものになるだろう。
だが…明らかに助けが欲しい時なのに、自分たちだけでなんとかしようとしても、うまくいくわけがないのだ。
それは人と人の間でも…企業同士でもそうだろう。
「彼女ほどの優秀な人材を、無為に失うのは私たちも惜しいのです。それに……あなただって、お嬢さんを死なせたくはないでしょう?」
「決して悪い話じゃないはずです。どうか……お願いします。
人の可能性を広げる筈のISが、人を潰す姿なんて、もう見たくないんです」
僕は、祈るように頭を下げた。
小さい頃から抱いた希望は、無惨に踏み躙られた。
でも……たとえ、どんなに裏切られようとも、やっぱりそれを捨てることはできなかった。
こんな、子供じみた夢想を抱く事を、少しでも許してくれと……頭のどこかで考えてしまう。
そうして、永遠のように感じられた静寂は。
「………すまない。すぐにその準備を進めさせてもらおう」
そんな救いにも思えた声に、優しく解かれていった。
sideシャルロット
「じゃあ、俺たち飯食ってくるから…」
「うん…みんなもありがとう」
「お礼なら流良さんに言ってあげてくださいな」
「そうね。アタシ達結局あんまりいらなかったような気がするし」
「まあ、いいじゃないか……人助けをしたんだから」
部屋を出ていくみんなを横目に、僕はパソコンで通話する流良を見ていた。
「ありがとうございました、マリアさん。
急な申し出にこんなにすぐ対応してもらって」
「流良君には色々助けてもらってるし、これくらいはお安い御用よ。それで、シャルル君…じゃないわね。シャルルさんはなんて言ってるのかしら?」
「……そう言えば、何も聞いてなかったような」
「それでよくあそこまで言えたものね。
……まあ、よく考えて決めるように伝えておいて頂戴。じゃあまた」
「はい、それじゃあ」
通話を終えたらしい流良は、僕の方を向くが……その顔はなんとも頼りなさげだった。
「その……ダメ、かな?」
「そこは自信持って言ってもいいところだよ?」
さっきまで、童話の王子様みたいに堂々としてたのに、今はまるで普通の男の子だ。
そんな、おかしな光景につい笑ってしまう。
でも……こうして心から笑える日が来るなんて、夢にも思わなかった。
「ありがとね、流良。僕で良ければ…よろしくお願いします」
流良の手を取った僕の世界が、あの日からの灰色から色づいていくのを、その温もりから感じていた。
某所にて。
「……ほう?どうやら私とは違う道を選んだようだな」
男は、外したコインを眺めて口元を薄く歪める。
「だが…その希望はいつまで続くかね?」
己の敗北を感じつつも、男は嗤う。
光の中を歩む少年が持つ希望が、絶望に覆る時を世界に預けて。
いかがでしたか?
ここで新キャラの紹介を。
マリア・ラミュース
女
26歳
国籍 アメリカ合衆国→オーブ連合首長国
亜麻色の髪 ロングヘアー
モルゲンレーテ社で技術士官を務める女性。
温厚な人柄であり、流良を年の離れた弟のように思っているが、酒豪。
ストライクの開発において主導的な立場についており、PS装甲やビームライフルなどの小型ビーム兵器の開発にも深く関わっている。
ISの操縦に関しては適性は低く、流良がISを動かせることが判明した原因になった、カレッジに墜落した打鉄の搭乗者でもあった。
また、とんでもないスタイルの持ち主であり、流良をしてクラスメイトに「あれと比べれば普通」と思わせるほど。
元ネタは「機動戦士ガンダムSEED 」より「マリュー・ラミアス」。
次回はラウラとの小競り合いを予定してます。それではお楽しみに。