IS+1(インフィニット・ストラトス・プラスワン) 作:暇人の鑑
正直この展開にするかどうかは迷いました。
ただまあ…その後の展開的に、より強く刻まれる方をとった感じです。
「一夏、離れて!」
緑色のビームが俺に向けられていたリボルバーカノンを破壊したと同時に、シャルルからの個人間秘匿通信(プライベート・チャンネル)と共に弾雨が降り注いだ。
「ちいっ、雑魚共が群がってくる!」
それまで俺を拘束していた見えない力が消え、体に自由が戻ってきたので、すぐさまラウラが離したセシリアと鈴を抱き抱えて、シャルルの元へ離脱した。
「一夏、2人は⁉︎」
高速切り替えにより、弾切れした銃を切り替えつつ射撃を行うシャルルが聞いてくる。
「う……一夏……」
「無様な姿を……お見せしましたわね……」
「少し寝てろ。……2人とも無事だ。なんとか意識はある」
「よかった」
わずかに安堵した声で答えるシャルルだが……その表情は苦い。
そして俺も、その表情の意味を悟った。
何せ目の前では……
「……!」
「ぐうっ……⁉︎」
『マルチプルアサルト・ストライカー』を装備したストライクが、一言も発さず……ヘッドギアで見えないながら、殺意を隠すこともせず。
ラウラの顔面に思い切り蹴りを叩き込んでいたからだ。
sideラウラ
「‥‥ええい!」
ビームでレールカノンを撃ち落とされた私は、瞬時加速で突撃してくるストライクに停止結界を発動させようと腕を向けるが。
無言で、表情は見えないものの……その黄色いカメラアイから発される、氷のように冷たく、かつ鋭い殺意に一瞬ゾッとした。
こんな平和ボケした国の、平和ボケが極まったようなあの男から向けられた、純度の高い殺意にゾクッとしたと共に、投げつけてきた身長と大差ないサイズの片刃の大剣へ、その対象を変えられてしまう。
そして、その一瞬の後。
私の眼前に広がるのは、ストライクの赤い足裏の装甲だけだった。
激しい衝撃を頭にモロに受け、脳震盪のようなグラつきと共に後ろに吹っ飛ばされたが……それはすぐに怒りに転嫁する。
「あんな軟弱者に!」
遺伝子レベルで強化された体は、本来なら失神もののその攻撃を耐え切ることができるのだ。
停止結界で空中に停められていた大剣が、元の重力によって地面に落ちる前に、ストライクはそれを掴み、再び突撃の構えを取ろうとしたが……それより前に今度はワイヤーブレードを発射した。
「行け! 」
6本もの複雑な挙動をするそれで、ヤツを拘束しようと脳波で操作するが……何っ⁉︎
「無茶苦茶をする……!」
ヤツは左腕に装着されていたシールドからアンカーを射出したかと思えば、そのワイヤーを掴み、ぐるぐると回し。
「ぐっ…好きにさせるか!」
私のワイヤーブレードを全て絡め取り、それを手元に手繰り寄せるように引っ張った。
それに伴って引っ張られた私は、プラズマ手刀でワイヤーを切断し、難を逃れようとするが……そこに打ち込まれたガトリングとミサイルの回避は間に合わず、シールドエネルギーを大きく減らす。
「停止結界を貼ろうにも、こうも攪乱されては……!」
おそらく、先ほどの戦闘から、停止結界の特性をなんとなく分析したんだろう。
そのせいか知らないが、奴は私の視界に入る位置に攻撃を続けているのだ。
プラズマ手刀しか残った武器がない今、仕掛けることができるのは格闘戦のみ。
相手にはまだ……様々な武器が残っている。
結界を張るために動きを止めようものなら、それこそ相手の攻撃の餌食と、接近しようとするが。
今度は左肩から出したブーメランのような投擲武器に、またもペースを崩され。
「ぐはっ⁉︎」
そこを見逃すものかと、突っ込んできたストライクはいつ間に跳ね上げていたのか、カーキ色の砲身を私の腹部に突き刺すように押し当て、アリーナの壁に叩きつける。
「ぐっ……何が戦いたくない、だ…」
貫手のようなその衝撃に軽く悶えた私に、頭部からのバルカンを連射しながら、腹部にぐりぐりと押し当てている砲身から、ゼロ距離の一撃を放とうとするストライク。
その姿はまるで……
と、そんな私の言葉など知るかと言わんばかりに、砲口からビームが放たれようとした時。
「やれやれ……これだからガキ共の相手は疲れるんだ」
そんな、聞き覚えのある声と共に降りてきた人影は、IS用ブレードを私たちの間に振り下ろした。
side流良
「な、なんだ……」
慌てて飛び退いた眼前に、IS用ブレードが据えられていたのにギョッとした僕は、夢から覚めたような感覚に襲われる。
「そこまでだ、輝戸」
何が起こったのか、まだいまいち理解しきれてない頭を働かせ、周りを見渡す。
ボロボロのセシリアと鈴を抱えながら、呆気に取られた様子の一夏とシャルル。
引いたような目を向ける箒に、IS用ブレードの切っ先を僕に向ける織斑先生。
そして……その後ろには壁を凹ませ、ところどころを破損させたシュヴァルツェア・レーゲンで地面に降り立つラウラの姿が、かわるがわるに僕の目に映った。
「僕が…やったの……?」
自分が行っていたことを、頭が理解するほど、愕然とした気分になる僕の前で、先生は向けていたブレードを地面に突き立てる。
「模擬戦をやるのは構わん。しかし、アリーナのバリアーや壁の破壊まで起こるのは、教師としては黙認しかねる。
その戦いの決着は、学年別トーナメントでつけろ……いいな?」
「教官がそうおっしゃるなら」
素直に頷いたラウラがISの装着を解除したのを確認し、僕も解除する。
声も聞こえるし、流れる汗とその湿り気が現実だと教えてくれるのに……どこか夢現な浮遊感を感じる。
織斑先生が一夏達にも確認をとっている間にヘルメットを取るが……変な気持ち悪さは少しも楽にならない。
「ではこれより、学年別トーナメント当日まで、生徒同士の一切の私闘を禁止する!いいな⁉︎」
聞こえてくる声も頭に入らず、自分が自分じゃなかったような気分でいた僕の前に、誰かが立つ。
顔を上げると、そこにはラウラが立っていたが……普段の無表情ではなく、口元には皮肉げに笑みを浮かべる。
「意味がない、傷つけたくないと口にする割には、素晴らしい戦いぶりだったな」
「な、なにを…」
その、慇懃無礼な口ぶりに戸惑っていた僕に。
「私が狂犬と言うなら、貴様はさしずめ狂戦士…バーサーカーだ」
「……ッ⁉︎」
バーサーカー……「狂戦士」と言う呼称が、楔のように突き刺さる。
違うと否定したいのに、なぜかそれに対抗できる言葉が頭に浮かんでこなかった。
「とんだ食わせ物だったよ」
救急班がセシリア達を担架に乗せてるのを横目に、僕はアリーナのピットへのろのろと歩いて行った。
胸に刺さった言葉の痛みに、打ちひしがれたように。
sideシャルル
オルコットさん達は、結論から言うと学年別トーナメントに出場できなくなった。
ISは、戦闘経験も含むほぼ全ての経験を蓄積する事で、より進化した状態へと移行させていくが……損傷時の稼働もその例外じゃない。
それにおいてISを稼働させるかさせてはいけないかの基準になるのは、ダメージレベルC……目視すると半壊一歩手前みたいなレベルの事。
その状態で稼働させてしまうと、不完全な状態での特殊エネルギーバイパスを構築してしまい、それらは逆に平常時の稼働に支障をきたす恐れがある。
要するに無理は禁物という事で、ISがダメージレベルCを超えるほどの損傷を受けたあの2人は、トーナメントへの参加を辞退せざるを得なくなったのだ。
でも、その2人をバカだと断ずることはどうしてもできない。
「好きな人をバカにされるのは嫌だもんね」
アリーナの記録映像を見た僕は、乱入してきた挙句、一夏をバカにされてのあの戦いという流れを知り、不思議と腑に落ちた。
「流良……どこにいるんだろう」
僕は、アリーナを最後に姿を見ない流良を探す。
と、言うのも……。
「あ、デュノア君!学年別トーナメントなんだけど…」
「ごめんね、実は組む人をもう決めてて……」
本来は1対1での試合形式だったのが、2対2でのタッグマッチに変わったのだ。
それでさっきも、女子達が大挙して押し寄せてきた中で「私と組んで」の大合唱だった。
普通に組めばいいんだろうけど、僕は男の子のふりをしていても女。
その正体と事情を知っていて、トーナメントに参加できるのは一夏と篠ノ之さん、流良の3人。
その中から選ばないと行けないので、相談したかったが……流良が見つからない。
「……何か、早まったことしてないよね」
ボーデヴィッヒさんに何を言われたのかわからないが、あの顔は……明らかにまずい状態で、放って置いちゃダメだ。
「……整備室にもいないとなると」
寮に向かい、僕達の相部屋のドアを開けると。
流良が、身を縮こませて蹲っていた。
「ッグ………ウアアッ………!」
明らかに押し込めたような、異常な泣き方で。
side流良
あれだけセシリア達を痛めつけておいて、自分がやられかけたら恨み言か?
戦うだけの存在だから……自分はそれだけだからと、他の人を傷つけてもいいのか?
そう思って、自分を正当化しようとしたが……無理だった。
むしろ、人のせいにしようとした自分が嫌で、情けなくて……やりきれない思いばかりが頭の中をぐるぐると回る。
そして…心の隅で、「正にその通りじゃないのか?」と囁かれ、必死に否定しようとするたびに、自分があの時何を思ったのかを思い出してしまう。
「許せない」「逃がさない」「殺してやる」
ラウラと戦っていた時、僕の頭にあったのはそれだけだったのだ。
あれだけ戦いは嫌だと口にしていたのに、あの時僕が求めたのは相手を殺すための力で。
頭にあったのは傷つけることに愉悦を感じたラウラへの、怒りを超えた殺意。
そして、それを満たすための行為として戦いを選んでしまった。
模擬戦だから、試合だから、緊急事態だから。
仕方なかったんだと自分を納得させる為の言い訳も今回ばかりはできない。
………むしろ、「仕方ないから」と逃げてきたからこそ、今回みたいなことになったんじゃないのか?
やらされていると言う被害者意識が、その力に対して向き合うことから目を背けさせたから。
目の前の現実に、真剣に向き合えていなかったから。
そのせいで、あの2人の大怪我を止められなかったのだとしたら。
……むしろ、心のどこかでザマアミロと思ってしまったんじゃないのか?
そんな考えが頭を占めて。
自分がやったことが、考えてしまったことが怖くて。
守れなかったことが悔しくて。
傷つけてしまったことが悲しくて。
もう、どうすればいいのかもわからなくて……なんとか辿り着いた自室で。
僕はメチャクチャに呻き、喚いていた。
「く……ぅぅううっ……!」
泣く資格なんてないのかもしれないけど。
「ぅあああぁ………っ!」
無様で、惨めなんだろうけども。
「僕は……僕はぁ……っ!」
そうでもしないと、自分が壊れてしまいそうだった。
「誰も、傷つけたくなんかないのに………!」
フローリングの床に、ポタポタと雫がこぼれ落ちる。
電気もつけず、鍵もかけず……ただ、自分の感傷のまま、身を抱くように縮こまり。
慟哭しかできないでいた僕は、そこに人がいたのにも気づかなかった。
sideシャルル
「流良」
「……!シャルル……ッ⁉︎」
「ン………」
涙に濡れた顔で僕に気づいた流良は、自分を恥じるように顔を慌てて拭おうとしたが。
何かを言いかけた彼の言葉を、思わず唇で奪う。
この優しい男の子が、これ以上苦しんで…自分を傷つける姿を、見たくなかった。
この子は、純粋で優しすぎるのだ。
だからあんな捨て台詞のような言葉なんて、放っておけばいいのにこうまで苦しむし……半ば自業自得だと断じれるようなセシリア達の怪我にさえも、自分のせいだと気に病んでしまう。
誰かを傷つけることも、誰かが傷つくのも……彼にとっては嫌なことで。
戦いが嫌だと言うのも、きっとこの戦いばかりのIS学園の中で彼が発していたSOSなんだろう。
そんな優しい王子様が、僕のために勇気を出して。
世界に立ち向かって、僕を助けてくれた。
お姫様なんて似合わないと、諦めていた僕なんかのために。
そんな子が、こんな暗がりで自分を責めている姿を見たくないんだ。
こうした理由なんて、それだけでいい。
ファーストキスを流良にあげた意味なんて、あれだけでいいんだ。
「大丈夫だよ………」
「恋」と呼ばれたその感情のまま、僕は彼に重なった。
少女なんかじゃなくていい。
君の苦しみを、少しでも和らげられるのなら。
side流良
「流良、飯食えるか?なんか心ここに在らず、みたいな感じだったけど」
「後で行くよ……学年別トーナメントの例の話もそこで」
「おう…ラウラのこと、あんま気にすんなよ?」
インターホン越しに会話していた一夏の、部屋から遠ざかる足音を尻目に、僕は自分のベッドに向かう。
「……びっくりしたね」
そこでは、生まれたまんまの姿のシャルルが掛け布団にくるまりながら、ふふっと笑みを浮かべていた。
まるで、何かを共有したかのような、悪戯めいた笑みだが…僕としては気が気じゃない。
「うん。……でも、大丈夫?初めては痛いって聞いたけど」
「痛かったら止めるって言ってくれてたし、僕もそれに頷いたじゃない。……止めなかったってことは、そう言うことだよ」
ゴミ箱にある用を果たしたアレについていた、赤い液体。
本人は平気と言っていたが……その時の苦悶の表情も、きっと嘘じゃないはずだ。
「ごめん……僕、なんて事を……」
僕は……彼女の優しさに甘えて、抑えることができなかった。
大事な人のためにとっておくべきものを、奪ってしまったんだ。
謝って許されることじゃないけど、頭を下げることしかできないでいた僕に。
「…‥いひゃい」
「……僕、人を見る目はあるつもりだよ」
少し怒った表情で、頬を引っ張ってきた。
sideシャルル
もし、女の子だとバレた時のために渡された避妊具は、いわば口封じのためだった。
既成事実でも作って、罪悪感からコントロールできるだろうと…男の仕草を教え込まれてる時に、渡された。
要は、最悪女を使えと言われていたのだ。
それだけじゃない……本社に行った時、本妻の親族の男に襲われかけた時だってあった。
お母さんが亡くなって……心の居場所がどこにもなくなって。
デュノア社に半ば道具として連れてこられた僕には、女であることが半ば呪いのようだったのだ。
それを考えれば……今、こうして女の子として、自分から全てをさらけ出せたのはもはや奇跡だ。
「同情なんかじゃないよ。
僕は、流良だからこうしたんだよ」
引っ張られた頬をさすりながら、流良は少しだけ和らいだ表情で。
「シャルル……ごめ「謝っちゃダメ」
謝ろうとしたのを止めさせる。
その……せっかくの初体験を、こんな後味悪い終わり方にしたくないのだ。
「僕……私は、君だからこうしたの。君がよかったんだよ」
しばらくの視線の応酬の後。
「うん……ありがとう、シャルル」
やっと、ぎこちないながらも笑ってくれたような気がした。
side流良
「じゃあ、ご飯いこっか。流石にお腹減っちゃって…」
「うん…」
どこか上機嫌なシャルルの後ろをついていきながら、僕は覚悟せざるを得なかった。
シャルルは、こんな僕を慰めようと、自らの身体を捧げたのだ。
そんな彼女を守らなければいけないと、強く思う。
僕が連れ出して……僕が傷つけた女の子だから。
そんな彼女を守るために戦う……守らなきゃいけないから。
そのためには強くならなくちゃと、密かな決意を刻みつつ、僕はシャルルと一緒に食堂に向かっていった。
いかがでしたか?
一応この小説におけるシャルは、SEEDにおけるフレイ枠とラクス枠のミックスに成ります。
彼女とのやりとりを通して、なんで戦うのかを考えていく事を今後のストーリーの軸にしていこうと思っています。
次回はバルドフェルド枠を出そうと思ってますので、是非お楽しみに。