IS+1(インフィニット・ストラトス・プラスワン)   作:暇人の鑑

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第二話です。


第2話 英国の淑女

「僕に何か用?」

 

 目の前にやってきたのは、最近少女マンガでも見ないような縦ロールを提げ、どことなく育ちの良さを感じさせる金髪の外国人らしき少女だった。

 

 さっきの一夏みたいな面倒ごとにはなりたくないので、用件を促すと何が気に食わなかったのか。

「まあ!私に話しかけられて、その態度はなんですの⁉︎」

 

 そう声を上げる姿に、僕はなんとなく察する。

 

 女尊男卑の世の中において、僕達男の役割といえば労働力…というよりもはや奴隷、あるいは子供を作るための種馬だ。

 

 現に、街中をすれ違った女にパシられる男という、どう考えても犯罪な光景がほぼ黙認されてしまっており、社会問題にすらあげられない。

 

 ゼミにいた女友達である「美里」みたいな、男女平等にフランクに接してくれる方が、もはや希少種なのだから酷い話である。

 

 で、悲しいかなこの目の前にいる彼女はそんな希少種ではなく、その視線にはどことなく見下しが伺えた。

 

「誰かもわからないのに、光栄かどうかなんて……わかるわけないじゃないか」

 

 嫌な慣れ方をしたと思いつつ、誰かもわからないので名前を聞こうとしたところで、次の授業を告げる予鈴が鳴り。

 

「……また後で来ますわ!逃げないことね!」

「だから、君は誰…?」

 

 そうビシッと指差してきた彼女に、僕はやはり困惑するしかなかった。

 

 

 

 この学校は始業式の後はさよならって事はなく、1日目から授業が始まる。

 

 そんな訳で、山田先生にスラスラと読まれる教科書の内容に対して、事前に教授から叩き込まれていたISに関する知識により、危なげなくついていくことができた。

 

……まあ、ものぐさな僕が参加するようにと、カレッジでの単位を人質に取られての強制レベリングなんだけど。

 

 そんな訳で初手でつまづく事はなさそうだと内心ほっとしていると、目の前の一夏はどこか挙動不審であたりを見渡している。

 

「な、なに?」

「あ、いや、なんでもないんだ。ゴメン」

「そ、そっか…」

 

 そんなやり取りをしてれば、流石に教師陣にも気づかれ。

 

「織斑くん、何かわからないところがありますか?」

「あ、えっと……」

「わからないところがあったら訊いてくださいね。何せ私は先生ですから!」

 

 山田先生は、えっへんと胸を張った。

 

 そんな、頼もしさと不安が入り混じるような姿に一夏は覚悟を決めたように。

 

「先生!」

「はい、織斑くん!」

「ほとんど全部わかりません」

 

 この超難関学校において、絶対に聞く事はないであろう発言が飛び出してきた。

 

 空気が凍ったような静寂の中、山田先生の顔は先ほどまでの自信はどこへやら、困り顔で引き攣っている。

 

「え……ぜ、全部……?

 

 えっと、織斑くん以外で、今の段階でわからないっていう人はどれくらいいますか?」

 

 ここで一つ補足しよう。

 僕……多分一夏の場合は、ここに押し込んでおかないとやばい為、入試無しでの入学だろうが、普通に入ろうとすれば入試によるとんでもない倍率を勝ち上がらなくてはならない。

 つまり、予習や復習を欠かさないようなエリートがわんさかいるこの環境で、この質問に手を挙げる……最初の最初で躓くなんて事はそうそう起こり得ないという事である。

 

 でも、入学前の参考書にもあった内容で、なんで……?

 

僕と似たようなことを考えたらしい織斑先生がそのことを聞くと、一夏は恥じることなく、堂々と。

 

「古い電話帳と間違えて捨てました」

 まさかの理由を白状し、当然ながら日誌の餌食となった。

 

「必読と書いてあっただろうが馬鹿者。

 後で再発行してやるから1週間以内に覚えろ。いいな?」

「え?い、いや、あの分厚さを1週間はちょっと……」

「やれと言っている」

「……はい、やります」

 

 鬼軍曹も真っ青な傍若無人っぷりを見せ、仮にも弟をノックアウトした先生は、顔を全体に向け。

 

「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。

 

 そう言った兵器を深く知らずに扱えば、必ず事故が起こる。

 

 そうしないための基礎知識と訓練だ。

 

 理解ができなくても覚えろ。そして守れ。規則とはそういうものだ」

 

 と、忠告じみた締め方をして、再び授業の続きを促した。

 

 

 

「いやー、助かったぜ。ありがとな」

「別に良いけど……普通電話帳と間違える?」

 

 2時間目の休み時間。

 早速救援要請を受けた僕が、学食の1週間分の奢りと引き換えに、自分の参考書を見せながら教え始めていると、有言実行かKYか。

 

「ちょっと、よろしくて?」

 またも、あの金髪が話しかけてきた。

 

「んあ?」

「うわッ」

 

 気の抜けたような返事と嫌そうな返事のダブルパンチに信じられないと言った表情で。

 

「また、なんですのそのお返事は⁉︎

この私に話しかけられたというのにその態度はなんですか?」

 

 すくなくとも僕からすれば鬱陶しいとしか言いようがない…そもそも、この子は一体誰なんだろう。

 

 そんな僕とは対照的に、一夏はなんてことないと言わんばかりに。

 

「悪いな。俺、君が誰か知らないし」

 

 さらっと流したのだが、どうやらお望みの反応ではないようで。

 

 

「わたくしを知らない?

 

……このセシリア・オルコットを?

 

イギリスの代表候補生にして、入試首席のこのわたくしを⁉︎」

 

 ようやくの名乗りを、ナチュラルな自画自賛と共にお出ししてきた。

 

 今時の見下し女子に、自信過剰が組み合わさり、嫌な相乗効果だ。

 

 できれば関わりたくないなぁ……。

 

 そんな内心を悟られないように取り繕おうとした僕に、一夏は深刻そうな顔で。

 

 

「なあ、ひとつ聞いても良いか?」

「ん?良いけど」

 何気なく許可すると、なんて事はないように。

 

「代表候補生って、何?」

「え?」

 またとんでもない質問を繰り出してきて、聞き耳を立てていたらしい女子数名がずっこけた。

 

 素っ頓狂な声を上げてしまったが、それはそうだろう。

 

 何せ……

 

 とりあえず説明しようとした僕より早く、唖然としていたセシリアがすごい剣幕で捲し立てる。

 

「あ、あ、あ………」

「あ?」

「あなたっ、本気でおっしゃってますの⁉︎」

「おう、知らん。で、なんなんだ?代表候補生って」

 

 あっけらかんとした一夏を前に、セシリアは頭が痛いと言わんばかりにこめかみを人差し指で押さえて。

 

「信じられませんわ……!

 

 極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ、常識!」

 

 いちいち言い方が鼻につくので、これ以上何言われる前に説明することにしよう。

 

 

「織斑先生が、ここでの教師をやる前に何をやってたかは知ってるよね?」

「日本代表……あ。その候補生だから、代表候補生って事か?」

「そういう事」

 

 よかった。どうやら知識がないだけで地頭は悪くないのかもしれない。

 

 僕の説明で納得した一夏に、なんとか持ち直したのか胸を張り、腰に手を当てて。

 

「そう、エリートなのですわ!

 

 本来なら、わたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくする事だけでも奇跡…幸運なのよ。

 

 だから、その現実をもう少し理解していただける?」

 

「そうか……なあ、俺たちラッキーみたいだぜ」

「こんなのどっちかと言うとファンブルだと思うけど」

「何ですって⁉︎聞き捨てなりませんわね!」

 あ、つい心の声が漏れてしまった。

 

 でも仕方ないじゃない、めんどうだもの さすを

 

「こんなのにいちいち突っかかるのもはしたないですし、貴族たるもの笑って聞き流してあげましょう。

 

 というか、そちらの方は兎も角あなた、その程度の知識でよくこの学園に入れましたわね?

 

 世界で初めてISを動かせると聞いて、少しは知性的なのを期待してましたが、とんだ期待はずれですわ」

 

……あれ?そういえばオルコットってどこかで聞いたことあるような。

 

 記憶を掘り返す僕の隣で、期待されても困ると反論する一夏に、セシリアは勿体ぶった口ぶりで。

 

「まあ?

 

ISについてよくわからないことがあれば、泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ?

 

 何せわたくし、そこの凡夫とは違って、入試で唯一教官を倒した、エリート中のエリートですから」

 

 と、やたらと唯一という単語を強調した、よく分からない申し出をして来たが、次の一夏の言葉にその表情は凍りつく。

 

「入試って、IS動かして戦うやつだよな?

 

 アレ、俺も倒したぞ教官。

 

 まあ、勝手に突っ込んできたのをかわしたら、そのまま壁に突っ込んで動かなくなっただけなんだが…」

「あー…それで僕の実技試験が、きちんと動かせるかの確認になったんだ。おかげで楽できたよ」

 そういえばそれが試験としてあったんだった。学力試験は自動的にパスしてたんだ。

 

 色々ありすぎて、遠い過去のようになった入試のことを思い出している僕の前では、よほどショックだったのか。

 

「わ、わたくしだけと聞きましたが?」

「女子だけでは、ってオチじゃないのか?まあ、よくわからないけど」

 矢継ぎ早に返した一夏に、興奮気味に詰め寄ろうとしたところで、再び予鈴がなり。

 

 またしてもセシリアは1時間目に僕に吐いた捨て台詞を吐いて、自分の席に戻っていった。

 

 

 

 3時間目は、山田先生じゃなくて織斑先生が実践に向けての授業を行うらしく、教壇に立ち。

 

 いざ授業となったところで、思い出したように。

 

「ああ、そうだ。再来週のクラス対抗戦にでる代表者を決めなくてはな」

 

 そう前置きして話す事をまとめると、要は学級委員長を決めようって話らしい。

 

 で、そうなると当然推薦されるのは、織斑君と「俺は、輝戸を推薦するぞ!俺よりも知識あるし、そっちの方が適任だ!」

 

………って、ちょっと待った‼︎

 

「何で僕まで候補に、冗談じゃない!」

「自分は無関係みたいな顔をしたって、そうはいかないぞ!」

 

 道連れ推薦をして来た薄情者に、食ってかかろうとしたが、織斑先生は咳払いをして。

 

「落ち着けバカ共。どんな形であれ推薦されたものに拒否権はない。せいぜい覚悟を決めろ」

「「い、いやでも……!」」

 こんな理不尽な話があるかと、反論を続けようとした僕たちだったが、突然甲高い声に遮られた。

 

「待ってください、納得いきませんわ!」

 バンッと机を叩いて立ち上がったのは、例のセシリアなんとかさんだ。

 僕ら一般人のピンチを前に立ち上がってくれたのか、お貴族様の「ノブリス・オブリージュ」万歳と思っていた……時期が僕にもありました。

 

「そのような選出は認められません!

そもそも、男がクラス代表だなんて良い恥晒しですわ!

 

このわたくし…セシリア・オルコットにそのような屈辱を1年間味わえとおっしゃるのですか⁉︎」

 

……どうやら、高貴なる者の義務からのものかと思えば、ただのヘイトスピーチじゃないか。

 

 そして、それと同時にようやくオルコットの名前に覚えた引っかかりの正体に気づく。

 

「実力から行けば、わたくしが代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿共にされては困ります!

 わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来たのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

 まあ、そんな僕の気づきとは別にクラスの雰囲気が少しピリつきだし、一夏も少しムッとした顔になるが、ヒートアップしたセシリアにはみえてないらしく。

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけない事自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で……」

 

「イギリスだって、大したお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

「なっ⁉︎」

 だからこそ、一夏の不意打ちに痛快さを感じたのは僕だけじゃないと信じたい。

 

 しかも、一夏当人にとってもついついな失言的なものらしく、口を抑えてるのがまた良い味を出している。

 

 だが、それを言われたセシリアは、怒髪天をつくと言わんばかりに顔を真っ赤にして怒りを示していた。

「あっ、あっ、あなたねえ!わたくしの祖国を侮辱しますの⁉︎」

 

 だが、忘れないでほしい。

「先に日本を侮辱して来たのはそっちじゃないか。

 大体僕だって、国家の狗に成り下がった、没落貴族のグダ巻きなんか聴きたくない!」

 

 オルコットとは、少し前まで英国で幅を利かせていた名家の一つ……要は本人も言ったようにお貴族様の一族の一つだ。

 数年前に、当主が電車の事故で亡くなってからはだいぶ規模が小さくなったと、カレッジでの地理の授業で習ったことがある。

 正直、それを言うのは反則なのかもしれないが……。

 

 僕だって、あそこまで言われて黙ってられるような聖人君子でも、言葉の意味がわからない猿でもない。

 

 畳み掛けるように発した僕の言葉に、どうやら我慢の限界を迎えたようで。

「……!」

 こちらに足早に来たと思ったら、無言で腕を振り上げてきたので、その腕を受け止めると、彼女はその青い瞳に憎悪を宿して僕らを睨みつけ。

 

「あなたたち、決闘ですわ!

 祖国の侮辱も許せませんが、私のお家への侮辱は、それ以上ですわ‼︎」

「ああいいぜ。四の五の言うよりもわかりやすい」

「僕もそれでいいよ」

 

 正直、言いすぎてるとは思うけど……ここまでこじれてしまった以上、もう穏便に済ませる事はできない。

 

 なら、自分の意思を貫くしかないんだ。

 

 そんな訳で、1年1組のクラス代表決めは、なぜか3人による総当たり戦となった。

 

「あれ?何で僕達が戦わなきゃ行けないんです?」

「ここまで来たらついでだ。では、授業を始める」

 この中で一番理不尽なのは、やっぱり織斑先生なのかもしれない。

 

 

 と、そんな慌ただしい午前の授業を終え、昼食を食べようと学食に向かおうとした時、ケータイにメールが来た。

 

 それを開いて中身を見ると………

 

 

「えっ!輝戸君、もう専用機貰えるの⁉︎」

 

 それを覗き見ていたらしい女子の1人が素っ頓狂な声を上げた。

 

 そして、もうその名前も決まっていた。

 

 

「コードネーム「105」……ストライク?」




いかがでしたか?

専用機を出そうとしたのですが、原作も一夏の初戦まで結構引っ張っており、初戦を描こうものならあと倍の文章量が必要そうだったので、一応名前だけ出す感じにしました。

専用機の設定は次回で触れようと思いますので、楽しみにしていただけると幸いです。

それでは、お楽しみに!
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