IS+1(インフィニット・ストラトス・プラスワン) 作:暇人の鑑
「これが、サブフライトシステム「グゥル」……」
「ああ、俺たちのISは兎も角、アイザック達のMSは自由飛行ができないからな。その穴埋めとしてこれがあるが……ISに使っても推進剤の節約になるんだ」
シャルロットと溝ができてしまったその翌日。
どうにもならないモヤつきから逃げるように、僕はアスラたちの任務に同行していた。
織斑先生は酒を飲んでいて話にならなそうだったので、山田先生には適当なお題目を並べて、話を通してある。
そうして教師公認の元、早朝から港にやって来た僕は、用意されていたカーキ色のカイトみたいな形のマシン『グゥル』を前にして。
「ところで、マニュアルは読んだよな?」
「流石にぶっつけ本番なんてやだよ………って、なんでそんなに驚いた顔してるの⁉︎」
「いや、つい……」
小さい頃は予習や復習なんて全くやらなかったのを加味しての質問だろうけど……流石に手伝いを申し出ておいてそれはしない。
そんな思い出に浸りながら、マニュアル通りの手順で立ち上げると、折り畳まれていた翼が開かれる。
そうしてある程度設定をいじり……ストライクに対応させたところでアイザック達の3人も、赤いノーマルスーツを着てやって来た。
アスラも同じものを使っているため、どうやら僕のノーマルスーツの別バージョンらしい。
「よし……じゃあ、みんなもきた事だし、作戦の説明に入るぞ」
「了解」
「オーライ!」
「わかりました……よろしくお願いしますね、流良」
「うん、こっちこそ」
そうしてアスラが取り出したボードが投影したのは、ここら一体の地形図だった。
side一夏
「そう言えば、流良のやつはどーしたのよ?」
「む…言われてみれば、確かに輝戸がいないな」
朝食を終えた俺たちは、集合場所に向かう道すがら、まだ姿が見えてない流良を探していた。
「シャルロットさん、お顔がすぐれないようですが……」
「え?いやあ、ちょっと本国から送られる装備の量に辟易してて……」
そう笑うシャルロットだが、昨日と比べると明らかにその笑顔は無理してるのが丸わかりであり、やはり昨日のあれは相当ショックだったのだろう。
他人が口を出すべきじゃないのかもしれないが、こんなギクシャクしたままでいいわけがない。
普段、ISの特訓やらで色々世話になってるんだし、仲を取り持つくらいはしてやりたいものだ。
「それより、ラウラが来ないのも珍しいね……」
そして、もう1人……規則正しさには定評があるラウラもまた、この場にいない。
なんだか普段と違うことばかりだと考えていた俺は、みんなと一緒に集合場所にたどり着くと。
大量のコンテナが置かれており、その周りを護衛するように、ストライクとその他4機が滑空していた。
side流良
「ふん、これから兵器の運用訓練をすると言うのに呑気なもんだな」
そう、厳しい言葉を学園の生徒に向けているのはアイザックと、その専用MSの『デュエル』。
オーブが開発したMSの母体とも言うべきこの機体は、ストライクのプロトタイプと言った見た目をしていた。
因みに、全身には「アサルトシュラウド」と呼ばれる増加装甲を付けており、PS装甲の展開時間継続と、火力の増強を目的としている。
「んま、あの子たちからすればあれはテニスのラケットみたいなもんなんだろうさ。軍事転用なしなら、これらはスポーツメーカーの新商品だぜ?」
ディアスカはそれを宥めつつも、『バスター』の火器を両手に構えている。
バスターはデュエルの次に作られた機体であり、おもに砲撃による火力支援を目的としている。
現に、肩にはミサイルポッドを装備し、左手には長射程のビームライフル、右手にはさまざまな弾頭を発射できる「ガンランチャー」を持っている。
しかも、その二つの砲を縦に連結することで、強力な射撃を行うことができるらしい。
「まあ、良いじゃないですか。平和を享受している人たちに僕たちと同じようにしろ、と言うのは傲慢にしかなりませんよ」
ニコラスが乗るのは『ブリッツ』。
右腕にはビームライフル、ビームサーベル、3連装の貫通兵器の「ランサーダート」から構成された複合兵装である「トリケロス」、左腕にはロケットアンカーの「グレイブニール」を装備した、黒一色が特徴の機体だが、最大の特徴は姿を消し、レーダーにも反応が出なくなるステルス技術「ミラージュコロイド」を搭載した、忍者のような機体だ。
「3人ともおしゃべりは終わりだ。着陸許可が出たことだし降りるぞ」
最後にアスラの専用機である『イージス』。
指揮官機として開発された真っ赤なそれは、頭部のトサカみたいな長いセンサーを持つだけでなく、手足4本全てにビームサーベルを持ち、腹部には胸部アーマーに隠された高エネルギーのビーム砲「スキュラ」を搭載してたりと……まあ、色々とモリモリである。
これにストライクを加えた5機が、モルゲンレーテが作った試作機群である「Xナンバーズ」であり、「PS装甲の搭載」と「小型ビーム兵器の標準搭載」と言った、先進的な取り組みがなされている。
「了解……ストライク、着陸します」
「お前はIS学園の生徒なんだし、普通に降りていいぞ?流良」
「あ」
3人の視線に少し恥ずかしくなりながらも、僕はグゥルを収納して、地表に降下していった。
合宿2日目は午前から夜まで丸一日、ISの各種装備試験運用とデータ取りに追われる。
特に、専用機持ちは大量の装備が待っているのだから大変だろう。
普段から装備の試験を欠かさない僕が、若干他人事のように考えている前では。
「流石に優秀だな。遅刻の件に関してはこれくらいにしてやろう」
「は、はい……」
なんと、あのラウラが寝坊して、集合時間を5分遅刻して来たのだ。
で、織斑先生にISの自己進化についでの説明を押し付けられて今にいたる。
「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちはパーツのテストだ。各自、迅速に行え」
はーい、と一同が返事する。
流石に1学年全員がずらりと並んでいるので、かなりの人数だ。
「輝戸、お前はどれが何のコンテナかを教えてやれ。その後はあの4人についていってくれ」
「了解です、織斑先生」
因みに、今いるのはISの試験用ビーチであり、四方を切り取った崖に覆われている。
しかも、ここから大海原に出るためには一度水面下に潜って、水中のトンネルから行くらしく、映画に出てくる秘密基地みたいだ。
そんな呑気なことを考えていた時。
「それから篠ノ之。お前には今日から専用機が…」
「ちーちゃ〜〜〜〜〜〜ん‼︎」
砂煙を上げながら、何かが突っ込んできた。
「敵か⁉︎」
アスラが咄嗟に銃を引き抜くが、それよりも早く。
「やあやあ!会いたかったよ、ちーちゃん!
さあハグハグしよう、愛を確かめ……ぶへっ」
織斑先生にダイブして、アイアンクローの餌食になっていた。
「うるさいぞ、束」
「ぐぬぬぬ……相変わらず容赦のないアイアンクロー…」
ミシミシという音から、相当力を入れていると思われるが……その「束」という人はそれをスルリと抜け出す………って、え?
「……まさか、篠ノ之束博士⁉︎」
思わず僕が声に出してしまうと、あたりがざわめき出す。
だが、その人はそのざわめきに目もくれず、今度は箒に目を向けた。
「やあ、久しぶりだね箒ちゃん!
こうして合うのは何年ぶりかなぁ?
大きくなったねえ、特におっぱいが」
「殴りますよ」
唐突なセクハラに、箒が日本刀のつかでぶん殴るが……せめて殴る前に言ったらどうなんだろうか。
「え?えっと……この合宿は関係者以外」
「んん?珍妙奇天烈なことを言うね。ISの関係者と言うなら、一番はこの私をおいて他にいないよ?」
「えっ、あっ、はい?そ、そうですね……?」
もっともなことを言おうとした山田先生が言い負かされているが、それを言ったらアイザック達がいる時点で今更な気がする。
「あの、この状況下で僕たちはどうすれば…」
とりあえず、案内すればいいのかこの茶番を観戦してればいいのかわからないので織斑先生に話しかけると。
「……おい束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒達が困っている」
「えー…さっききらくんがしてくれてたじゃない」
なぜか僕を知っているような口ぶりで言うが……あれを自己紹介としていいのかは微妙だ。
「僕のこと知ってるんですか?っていうか、きらくんって……」
まさか、苗字の最初と名前の最後でくっつけてくるとは思わなかった。
しかも、この人とは初対面のはずなのに……。
「そりゃあ、君は……って、これは内緒だった。気にしないでねん。因みに私が天才の束さんだよ、はろー。終わり」
気になる事が多すぎるが……くるりんと回ってみせた束さんに、やっと本当に「篠ノ之束」と理解したのか、先ほどの比じゃないほど騒がしくなった。
「一体なんなのだ、あの女は……?」
「まあ、ただの美女じゃないのは確かだな」
「ええ……アスラ。警戒を強めましょう」
「ああ…いいか?流良」
「うん……」
色々とぶっ飛んでる人物の前、当たり障りのない警戒態勢が敷かれる。
そんな僕らに目もくれず、鮮烈な登場をした束さんが一体何をしにきたんだと警戒していると、箒がおずおずと。
「それで、頼んでいたものは……」
呼び出し主が口を挟んできた。
先ほど、織斑先生が箒に何かを話していたけど、それが関係しているんだろうか?
山田先生の豊満すぎる乳房を揉みしだいている束さんは、その言葉に素早く反応して。
「もちろん用意してあるよ!
さあ、それでは大空をご覧あれ!」
その掛け声と共に、空に向けられた人差し指。
「レーダーに反応…早い⁉︎」
「総員衝撃に備えて!」
それに合わせてみんなもそちらに視線を向けると、激しい衝撃を伴って、銀色の何かが砂浜に落下した。
激しい衝撃と砂煙を伴った銀色のそれは、やがて正面らしき扉が倒れ、その中身を青空に晒した。
「じゃじゃーん!
これぞ箒ちゃん専用ISこと、紅椿!
全スペックが現行機を上回る、束さんお手製のISだよ!」
そしてその中身は……紅い爆弾だった。
sideシャルロット
「……あ、あの!」
「……ん?どうかしたのかい、お嬢さん?」
箒の専用機である紅椿の説明をする束博士を前に、みんなが釘付けになってる中。
流良達モルゲンレーテ組がそそくさとどこかへ向かって行こうとするのを、僕は慌てて呼び止めた。
金髪の1人が興味深そうにこちらを見る。
ひょっとしたらデュノア社との共同開発をやってるのを思い出したのかもしれない。
「えっと……紅椿、もっと見ていかなくていいの?」
昨日の一件から、一言も話せずにいた僕達の沈黙を破らんと流良に話しかけるが。
「流良は兎も角、部外者がこれ以上この機体について聞くのは不味いんだ。そもそも装備試験の為に俺達はここにいる。プレゼンを聞きにきた訳じゃない」
間に入る……というより、どこか庇うようにザラン君が答えた。
「すみません、そういう事で……」
黒い機体からの声を皮切りに、別の場所に向かおうとする4人とそれに続く流良。
一歩一歩と離れていくその背中に、思わず叫び出したくなる。
行かないで!せめてもう一度だけ話をして!
確かに、僕達は色々と間違えたのかもしれない。
昨日の今日で、何か話せばいいのかわからないけど。
でも……これっきりなんてなるのだけは、どうしても嫌なのに。
どうして、こっちを見てくれないの流良⁉︎
答えようのない問いが、心の中を荒れ狂う。
張り裂けそうな苦しみに息が溜まりそうな感覚を覚えつつ、僕はその背中にそれ以上声をかける事ができなかった。
「どうして……!」
side流良
「ありがとう…」
「あんまりこういうのは得意じゃないんだけどな」
アスラにお礼を言うと、ため息混じりの言葉が返ってくる。
あの頃も今も、アスラには助けられてばかりだ。
「しっかり彼女と話してみろよ。
言葉にしないと他人の気持ちはわからないし、自分の気持ちは伝わらないんだ」
「うん……」
いつまでも、さっきみたいな逃げはできない。
言外に突きつけられている気がして、頷くことしかできないでいた時。
「ちょっと!なんでここにお姫様達がいんの⁉︎」
「アスラ!どう言うことだ貴様ぁ!」
ディアスカ達の困惑の声が聞こえたと思えば。
「いやー!作戦大成功だなキュナス!」
「ええ……わたくしもとてもドキドキしましたわ」
「カガリ……キュナスまでなにをしているんだ……?」
先ほどよりも数倍は深いため息と共に、アスラが聞くようにカガリさんともう1人……桜色の髪をした、妖精のような女の子が手を叩き合ってはしゃいでいた。
「部外者だらけじゃないか……」
「あはは…まあ、流良以外みんなそうですもんね」
sideアスラ
「何をって、私のISの最終調整をやるなら、私がいないとダメじゃないか。お前だけずるいぞ!」
「私はカガリさんが面白いものを見せてくださるとおっしゃるので……それに、アスラだけ気晴らしなんて意地悪ですわ」
「キュナス……ここをバカンスと勘違いしてないか?俺は任務でここにいるんだぞ?」
口を尖らせるカガリに、頬を膨らませるキュナス。
「そもそも、イザナ一佐の目を掻い潜ってきたとあれば、後が大変だろう」
後のことを想像して、気が気じゃない俺だったが。
「お前がいるなら大丈夫だろ?アスラ」
絶対の自信を持ってのカガリの言葉に、反論の言葉を失った。
正直、色々と言いたいことはあるが……惚れた弱みというやつだろう。
「……怪我でもしてくれるなよ?親御さんに詰められるのは俺とイザナ一佐なんだから」
「大丈夫だ、任せろ!それで……」
気が気じゃない俺をよそに、彼女は目をパチクリさせている流良へ。
「私がカガリ・ミラ・アシタだ。よろしくな!」
まるで双子のような、ほぼ瓜二つの顔をむけていた。
side流良
「えっと、輝戸流良です。よろしく……」
がっしりと掴まれ、半ば強引な握手を交わしたかと思えば、今度はもう1人が。
「わたくしはキュナス・エレインですわ。アスラからお噂はかねがね……」
「アスラから……?」
なんだか不穏なことを言い出し、思わずアスラにジト目を向けるが……こちらにその視線を合わせることはなかった。
まあ、変なことは言ってないと信じるしかないか……。
とりあえず、埒が開かないので話を掘り下げず、先に進めようとした時。
「それで、私のISはこのコンテナだな?」
防弾ジャケットを着ているカガリさんがコンテナを操作するのを、慌てて止めた………
「待て、なんでそれを知ってるんだ」
「ピンクちゃんが教えてくださいましたわ」
ピンク色のハロを見せるキュナスさんに、アスラが頭痛を堪える仕草をした。
「………」
いつも冷静だったアスラが、思いっきり振り回されている様子に笑いを堪えようとしたが……そのまま開かれたコンテナの中身に、僕は言葉を失う。
なぜならその姿は………ストライクと瓜二つだったからだ。
「これが私のIS………『ストライク・ルージュ』!」
いかがでしたか?
ここで新キャラを。
キュナス・エレイン
女 16歳
無邪気な性格をしており、天然気味なお嬢様だが優れた歌唱力とカリスマを併せ持ち、平和維持のために動く女傑でもある。
父シーグル・エレインはオーブの現国防長官であり、カガリとは家族絡みで仲が良い。
元はアスラの婚約者だったが、アスラの父リックが精神的に不安定になった事で関係維持が困難と判断され、婚約は破棄。
現在は友人関係に落ち着いている。
モチーフは「ラクス・クライン」。
リック・ザラン
男
アスラの父であり、オーブの前国防長官。
昔気質な頑固親父ではあるが、愛妻家だった。
1年前にテロで妻「リノア・ザラン」を亡くした事で精神的に異変をきたし、現在は療養中であり、それによりその前任だったシーゲルが再び国防長官を務めている。
モチーフは「パトリック・ザラ」。
リノア・ザラン
女
アスラの母親であり、現在は故人。
流良とも面識があり、その母親である「輝戸カリナ』とは親友同士である。
農業系の科学者として世界各地を回っていたが、1年前I、過激派女権団体によるテロの犠牲となってしまった。
モチーフは「レノア・ザラ」。
カリナさんについてはもう少し後で解説します。
次回は機体設定の解説をまとめ、そのまた次から銀の福音戦に向かって行こうと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします。