IS+1(インフィニット・ストラトス・プラスワン) 作:暇人の鑑
山野順一郎と言えば、人類初の永久機関である「エターナルサイクラー」を発案した天才技術者だ。
だが……その消息はある日を境にパッタリと途絶えた。
まるで、世界に失望したかのように……。
「……この方は今,ターミナルの技術部の総責任者をなさっておりますの」
そんな人が目の前にいる事実と,キュナスさんの補足に,僕は目を丸くする。
「たしか、エターナルサイクラーの技術の運用方法を発表する会見の前に,いなくなったって言う話だけど…」
すると,博士は息を一つ吐いて話し出した。
「ISの登場で女尊男卑へと染まってしまった。そんな中でエターナルサイクラーの技術は‥‥余りに危険すぎたんだ。
IS産業に渡ってしまえば、ISとその他の差は永遠のものとなり、女尊男卑がほぼ永続化する事を指してしまう」
確かに、女性優遇とISは切っても切れない。ISは男には使えないという事実が永遠となってしまえば、その立場の差はずっと離れたままとなるだろう。
「AISF……反IS連合に渡れば、これは僥倖と、世界に復讐を始めるだろう。
現状、女性優遇社会に不満を抱いている人や企業は多い……ISの操縦の可否による,男女間における絶対的な力の差という壁がなくなって仕舞えば、その憎しみにはもう歯止めは効かない……すでに実害を受けた以上、彼らは己の行為に正当性を見出せてしまう」
AISFとは、ISがもたらした女性優遇社会や、軍事産業への影響に対して良い感情をもっていない人たちの集まりだ。
そんな人達に、無限のエネルギーなんて渡してしまえば、溜まりに溜まった不満を爆発させてもおかしくない。
「また、無限大のエネルギーを持つ物があったとて、人間は決して無限にはなれない。なら、その無限大のエネルギーに適応できるようにしようと、人体実験の蔓延が起こっても不思議じゃない……。ISに合わせようとドイツで『ヴォーダン・オージェ』ができたようにね」
ラウラの片目の眼帯の下にあるやつを思い出し……あれ以上のことが起こり得る可能性に、思わずゾッとしてしまった。
言葉を失う僕をよこめに、博士は悲しげに語った後。
「ただのパワードスーツでも、世界は大きく変わってしまった。
ましてや人類初の永久機関となったら……絶対,碌なことに使われないだろう。だからエターナルサイクラーの技術を封印し,私は身をくらませたんだ」
どこか,裏切られたような顔で締めくくった。
「なら初めから作るなと、笑うかもしれないがね…」
「…‥でも、博士はエターナルサイクラーに希望を見たんですよね?」
でも、裏切られたような顔をするのは…‥多分、その永遠に夢を抱いたからだ。
「ああなりたい…‥こうしたい。そんな思いがなきゃ、人は物を作ることはしませんよ。
そして、今だってそうじゃないんですか?」
僕がトリィやハロを作ったのだって…きっと,同じことだ。
「…‥かもしれないね」
やってきたハロをキャッチした博士は、少しだけ口角を上げた。
side流良
「そう言えば、ウズミさんと何話してたの?」
山野博士と話した後、病室に戻ると父さんたちも帰ってきていたので、気になっていたことを聞く。
「ん?ああ……私たちの今後についてちょっとね」
「怪我が治るまでの生活をどうするかって話よ」
……なんか,妙にぼかして話をしてるような気がするけど、確かに父さんたちはどこで暮らすのかは気になっていたし、まあいい。
「……まあ、いいや。暫くはここでゆっくりしようかな」
と,グータラの構えをとった僕だったが。
「勉強はしておきなさいよ?怪我が治ったらまた……」
母さんのその言葉に、あの時シャルロットとかわした約束を思い出した。
帰ったら,話す……でも,何を?
傷つけたことへの謝罪?思ってくれた事への感謝?
そもそも…今の僕に、それをする資格があるのか?
甘えて…‥傷つけて。
その手を血で汚した、今の僕が?
「……流良?」
「あ、うん……わかってる。アスラに後で教えてもらうよ」
「また泣きつくんじゃないの。もう……相変わらずアスラ君に迷惑かけて……」
そうしてなんとか誤魔化すが……その問いに,答えを見つけ出すことはできなかった。
side一夏
流良たちがMIA……消息を経って2週間経った。
いまだに、あいつの行方はわかっていない。
3日目の朝,全員を集めての緊急集会にてそのことを伝えられた時、MIAの意味を知ったクラスの面々は,最初こそ青ざめたり悲鳴をあげたりしていたものの…‥その悲しみは,少しずつ日常の中に薄れていった。
まあ,期末テストがあって悲しみに暮れている暇もなかった,という方が正しいかもしれないが……。
で、そうして一席が空席のまま、終業式を迎えていった……。
「で,夏休みの間みんなはどうするんだ?」
夏休み前最後の昼、いつもの専用機持ちの面々と飯を食っている中で問いかけると、鈴が冷やし中華を平らげてから。
「アタシはここに残るわよ。国に帰ってもやることないしね…‥アンタもそうなんでしょ?」
「おう、俺も一回実家に戻ろうか悩んでるくらいだしな……後,あんまり出るなって忠告されちまったし」
「うむ、私もだ」
食後のお茶を啜っていた箒も,俺に続くように頷く。
そうしてアジア組の残留が決定する一方で、欧州組の反応は実にまちまちだった。
「わたくしはオルコット家当主としての仕事が溜まってますので,一旦イギリスに帰りますわ…‥お土産を楽しみにしていてくださいまし」
その割にはなんだか心残りがありそうな顔をしているセシリア。
「嫁の浮気が心配だからな。私は残るぞ」
頭にトリィを乗せたラウラは、なぜか「心ゆたかに」…‥小学校の道徳の教科書を読みながらこちらに視線を向けた。
そして、シャルロットは……
「僕は,フランス本国から呼び出しが来ない限りはこっちにいるよ。いつ戻ってもいいようにね……」
元通りとまではいかないが、直後の憔悴しきった顔と比べると、大分落ち着いてはいるようだ。
「にしても,どこにいるんだろうな………」
結局あの2人は,ほとんど喧嘩別れみたくなってしまっている。
そのままこれっきり…‥とはなってしまうのは,なんだか嫌なのだ。
俺は,窓越しの空に視線を投げて…‥早く帰ってこいと願った。
sideキュナス
「…‥進捗はどのくらいですの?」
ターミナルの開発局「ファクトリー」の工廠に入った私は、ある1人の男性に声をかけた。
「ええ、現状をもちまして2機共に完成度は70%。
しかしその30%の内訳は搭乗者の設定によるものが大半を占めているので,私たちが手を出せる範囲においては90%を超えています」
「わかりましたわ……」
彼の名前はエドワード・アインライン。
MSの生みの親ともいうべき存在だが……ISが浸透した世の中に嫌気がさしたのか、現在はファクトリーの技術者をしている。
「しかし、山野博士がエターナルサイクラーの搭載を許可するとは。一体どういう風の吹き回しなんでしょうか?確かに,この機体の動力はエターナルサイクラー以外では賄いきれませんが…」
また彼も、マリアさんやエリカさんと同じく山野博士の弟子らしいが……この人が誰かに師事するというのが余り想像できない。
私は、今はまだ鉄鋼色の2機を見上げながら、彼に答える。
「博士が沈黙を破っても良いと、あの2人を見て感じたのかもしれませんわね」
「……ザラン少尉と、もう1人はM1のOSを作った彼ですかね?」
「ええ。あの2人なら……この力に溺れることはありませんわ。
そして……お互いが道を踏み外しそうになったときに,全力で止めようとするでしょう」
その言葉に、彼は少し考えた後。
「まあ、100%と言う言葉はありませんが、そう言う事にしておきましょう。しかし……素質はあれど、今の彼らに扱う心構えができているかは別ですよ」
滅多に見せない気遣いを滲ませながら、釘を刺してきた。
「ええ……」
そんなことはわかっている。
傷ついたあの2人を、また戦場に送ることの罪深さなんて……。
side流良
「MIAって聞いた時は,お姉さん生きた心地しなかったわよ…!」
「本当によかったわ……」
「ありがとうございます,先輩……」
僕がオーブにやってきてから3週間が経ち……世間では夏休みとなった。
正直、あのゾノのパイロットやニコラスについてはあまり振り切れてはいない。
世間には深海の鯱が壊滅したとしか報道されておらず,僕が罪に問われることはないと教えられても…‥その意識からは逃げられはしないのだから。
そんなメンタルとは裏腹に怪我はだいぶ癒えてきたため、モルゲンレーテの本社にて、デュエルとバスター用のOSを組んでいたところ…神戸先輩を筆頭にした3人に再会したのである。
「樹里は今、カレシに会いに行ってるわ…‥もう時期戻って来ると思う」
「ええ……後でお礼言いに行かなくちゃ」
初江先輩の彼氏である「ロウ・ソギュール」さんは、ターミナルお抱えのジャンク屋として生計を立てているらしく、たまたまあの海域に立ち寄っていたらしい。
で、その際に僕が落とされた事に気づき、回収してくれたのだ。
……そうだ。
「……僕がオーブにいるって事,学園のみんなは…」
ふと気になったことを聞こうとした時。
「分かっていれば、国か君宛に学園から連絡がいくだろうね……来ていないってことは,そう言うことさ」
聞き覚えはあっても、ここで聞くことはないと思っていた声がした。
「アイシャさん……マティーナさんも、どうして?」
「私達もターミナルに参加しているんだ。で,今日は学園の動向についての報告。ついでに君の無事を確かめにね」
…それって、もしかして。
「ターミナルからのス「勘のいい子は嫌いです」
至近距離でメンチをきってくるマティーナさんにびびっていると。
「……アサギ、マユラも!」
嬉しそうな声でカガリがやってきて、その後ろにはやっとギプスが取れたアスラが控えている。
「カガリ様,お久しぶりね。アスラ君もお転婆に疲れてない?」
「もしついていけないなら,私がいつでも変わって…」
「結構です……それに、こう言うのも悪くはないので」
「…‥そんなノータイムで答えなくても良くない?」
「良いわね……一途で。カガリ様のどこがそんなに良いのやら」
「うるさい!」
アスラがいつもの塩対応をかましているが…ある意味、惚れた相手には一途なのはリックさん譲りだ。
なんと、アスラはキュナスさんとの婚約を蹴ってまでも、カガリさんにゾッコンらしい。
「そもそもアスラが異性に惚れるってのがないと思ってた…」
「どう言う意味だ⁉︎」
小学生時代のあれこれを思い出した僕に、アスラが詰め寄る。
そんな,わちゃわちゃとしていた僕にアイシャさんが紙コップを片手に。
「…‥彼女は今も君を待っている。君はどうするつもりだね?」
老婆心を滲ませて,耳打ちした。
その言葉を受けた僕は…出したくてもなかなか出ない答えに歯噛みする。
シャルロットと和解して,どうしたいんだ?
守らなきゃいけないのは変わらない。でも……多分もう,ただの護衛対象として接することはできない。
でも……!
ひとり思考の海へ沈んでいくような感覚に陥ったその時。
「キュナス、どうした?………なに、IS学園へAISFが侵攻している⁉︎」
アスラの声に,ぶん殴られたような衝撃を受けた。
「………輝戸君⁉︎」
side一夏
「千冬姉!何があったんだ⁉︎」
夏休みの学園に、突如警報と爆発音が鳴り響いた。
自室で寝転んでいた俺は、飛び込んできた通信に思わず叫ぶ。
「織斑先生だと何度言えばわかるんだお前は!……って,そんなことは言ってられないな」
「アンタね……少しは学習しなさいよ」
個別回線で鈴からため息をもらっていると。
「現在,IS学園近辺に謎の勢力が襲撃に来ている。学園内の専用機持ちは準備が出来次第、応戦中の教員部隊の援護に回れ!」
また,漫画みたいな展開を大真面目な顔で口にしたが,それを突っ込む余裕はない。
セシリアとラウラは本国に帰還し、アイシャさんとマティーナさんもいない。他の学年の先輩達もいない為……今対抗できる勢力は、俺、箒、鈴、シャルロットのみである。
「…‥了解!」
この戦力で大丈夫かと不安になりながら、俺は窓から飛び降りた。
「行くぞ、白式‼︎」
エドワード・アインライン
30歳 男
極めて優秀な技術屋であり、「ジン」を開発。「シグー」「バクゥ」「ザウート」「ラゴゥ」「ディン」「グーン」「ゾノ」などの「ジンタイプ」のMSのプランを発案したが、IS偏重かつ女尊男卑の世の中に嫌気が刺し,ターミナルの開発部門である「ファクトリー」の技術者となった。
ジン
型式 ZGPS-01
分類 汎用機
所属 特になし
武装 重突撃銃「ラピッド」
重斬刀「リザード」
無反動砲「キャットゥス」
脚部3連装短距離誘導弾発射筒「パルデュス」
短距離誘導弾発射筒「キャニス」
特火重粒子砲 「バルルス」
備考
無人機化
解説
世界で初めてMSとして発案・開発された機体。男女を問わず扱えることや、生産コストの低さ、武装の切り替えによりさまざまな戦場に対応できること、使用国家における用途に応じてカスタマイズ可能な拡張性など、兵器としての完成度は高く、国ごとに色こそ違うものの,同じ形の本機が採用されている。
AISF(反IS連合)
ISの台頭により、シェアを奪われてしまった軍事企業や、社会的地位を失ってしまった人などの集まり。IS及び,ISへウェイトを置く現状の社会に良い感情を持っておらず、度々「魔女狩り」と称した抗議テロや女性へのヘイトクライムが問題となっているが、現状そう言った不満を抱く企業や人からの支持を得ており、参加者は増加傾向にある。
また、男でありながらISを使える流良や一夏に対しては「裏切り者」と特に敵視している。
モチーフは「大西洋連合」。
次回は流良の新機体を出しますので,もう少しお待ちください。