IS+1(インフィニット・ストラトス・プラスワン)   作:暇人の鑑

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今回は日常回その1ですね。


第37話 織斑の元に

「………」

 日本の,どこにでも在りそうな住宅地の,どこにでも在りそうな家の前。

 

 「輝戸」と書かれた表札の前、その場に似つかわしくない異国の風を漂わせた金髪の少女「シャルロット・デュノア」は何度目かもわからない深呼吸をした。

 

(大丈夫,大丈夫……!今日は帰ってるって言ってたもの…)

 

 その顔はいつもの朗らかな笑みを潜め、まるでカチコミでもするかの如く引き結んだ表情をしている。

 

 

 この後に言うべき事と、その後の展開に悶々としながら、ついにその指でインターホンを押そうとした時。

 

「うちに何か御用かしら?」

「す、すみません!流良君は……」

 遠慮がちにかけられた声にビクッとした彼女が,後ろを振り向くと。

 

「…………イザベラ?」

 そこには、ウェーブのかかった黒髪を靡かせた女性が、穏やかな顔に懐古を滲ませていた。

「カリダさん!どうして…」

 そしてまた、シャルロットも……。

 

side流良

「終わったぁ……!」

「とりあえずこれで一区切りだな」

 最後の一ページを書き切り、やっと解放されたと床に倒れる僕に、アスラが一息ついた。

「全く昔からお前は………

前々からコツコツやってればこうならなかったんだぞ?」

 一緒だった頃には毎年恒例だった宿題片付けを,泊まりがけで遊びにやってきたアスラを巻き込んで、久しぶりに敢行したのだ。

「でもアスラも二学期からウチくるんなら,ちょうどよかったんじゃない?」

「まあ、それは否めないが……」

 

 いつも通りの追求を交わすためのネタを振るが……実はこれは紛れもない事実。

 

「オーブとターミナル公認のIS学園への内偵がメインだけどな。あとはカガリの留学も兼ねてるからその護衛だ……まあ,今日はイザナさんと一緒に大使館に行ってるが」

 

 なんと、アスラとカガリの2人が夏休み明けからIS学園に転入すると言うのだ。

 

 でも……中立国はその他の国の動きに敏感でなければならない所もあるだろうし、話題性としても申し分ないだろう。

 

 一夏と比べると話題性は低いが、ISを使える男の存在が世界に与える影響は大きく、世界各国でその発掘を試みる動きがあるほどだ。

 

 そんなわけで。授業で遅れないためにも僕の宿題を手伝ってもらって,どこまでやってるかを覚えてもらおうと………いや,これ以上言ったらさらに説教を喰らいかねないからここまでだ。

 

 麦茶を一飲みした僕は、先日の襲撃を思い出して。

「………確かに、これから世界はもっと緊張が高まるだろうね。

 

 出どころはどうあれ……男をISに乗せる方法が発見されてしまったんだから」

 ミハエルが使っていたISこそ普通のものだが、そのスーツには数ヶ月前に行方不明となっていた操縦者のデータが使われていた。

 因みにデータ元の操縦者の行方はわからないが……多分,碌な結末を迎えてはいない。

「……ああ、IS学園への襲撃は大々的に報道されてるからな。男が使ったISの存在と、それが国際IS委員会に押収されたことは特に…」

 あの時のしくじりと,これから先の戦いの行方……頭を悩ませるには十分すぎる要素の数々に、何だか重苦しいものを感じていると。

 

「……なんか,下が騒がしくない?」

「確かに,談笑してる声がするな。それに……なんか聞き覚えがあるぞ」

 先ほどより,下が騒がしいような気がしたが…どうやら気のせいでもないらしい。

「……そう?」

 でも、アスラがそう言うってことは、オーブのお偉いさんでもやってきたのだろうか?

 

「ちょっと様子見に行ってみない?」

「そうだな」

 

 色々と気になった僕らが、リビングへ向かうと。

「あ,お邪魔してます…」

「………え、シャルロット?」

 シャルロットが、なぜか母さんとにこやかに話していた。

 

sideシャルロット

「へ〜……じゃあこのイザベラさん……シャルロットのお母さんが,うちの母さんやリノアおばさんと友達だったんだ」

「ええ。リノアがフランスに行った時にイザベラと知り合って、イザベラがオーブにきた時に私と知り合ったのよ」

「母上ともお知り合いだったとは。何だかすごい偶然ですね……」

 階段から降りてきた2人が、カリダさんの説明に驚きの表情を浮かべるが、流良はさらに。

 

「世間は狭いなぁ……で、何しにきたの?」

「え?えーっとねぇ……」

 何ともストレートな質問をしてきたので、答えようとするが正直に言うとあまり用はない。

 

 ただ、漫画で見た「来ちゃった?」って言うのをやってみたくなっただけだとは言えないし……

 

……よし!

「その、流良に会いたいなーって……」

「……学園ならいつでも会えるよ?」

「いや,そうなんだけどね?えっと……」

 一夏の影に隠れがちだが、流良の唐変木ぶりも大したものだ。

 

 とは言え、ザラン君もいるこの状況で他にどう伝えようかと頭を悩ませていると、カリダさんが呆れたように。

 

「もう……女の子が会いに来てくれたんだからそこは喜びなさい。

 乙女心がわからないと、シャルロットさんに嫌われちゃうわよ?」

 そうフォローしてくれた。

「いや、そうは言ってもなぁ…ねえ?アスラ」

「まあ、俺も似たようなことやってキュナスに呆れられたからな…」

 兄弟同然の2人は、どうやら唐変木なところも同じなようだ。

 

「まあ,それなら時間潰してくるから,時間まで2人はゆっくりしてればいいんじゃないか?俺も日用品を買っておきたいしな」

「それなら近くに安いドラッグストアがあるわ。使ってない引き出物とかもあるから少し待ってて」

「ありがとうございます、カリダおばさん…」

 気を利かせた様子のザラン君が、そう席を立ったとき。

 

「………それなら、みんなで派手にやろう。そっちの方が楽しいよ」

 流良が、思い付いたかのようにケータイを見せてきて、その気遣いは水泡に帰した。

 

「………その、ごめんね?うちの流良ったら乙女心に鈍感で…」

「いえいえ……でも,可愛いところもあるんですよ?」

「そう言ってくれると助かるけど……何かあったらいつでも言ってね」

 今度の旅行がある以上,焦ることはないけど……何と言うか、こう……僕ばっかり悶々としているみたいだ。

 頭を抱えるカリダさんのフォローに、僕は曖昧な笑みを浮かべることしかできなかった。

 

side一夏

「お、来たな……って,シャルロット?」

 ドアを開けると、あらかじめ把握していた流良とアスラの他に、もう1人の家庭教師がやってきた。

「ウチに遊びに来たから、追加で連れてきたんだ……シャルロットの成績はよくご存知でしょ」

「えっと……そう言うことだけど、いいかな?」

「いや,大歓迎だな」

 

 夏休みの宿題をやっつけるのと、偶には男3人で緩く遊ぼうってことになっていたが……この助っ人はありがたい。

「なら、早速やろうぜ…今日のうちにある程度やっておきたい」

 

 滅多にないチャンスを逃さんと、早速本題に入ることにした。

 

sideセシリア

「……え?」

「あ,セシリアじゃん。ぱっぴー」

「え?流良さん?なぜ一夏さんのお家に?」

 一夏さんの在宅と言う耳寄りな情報を得た私が、早速2人きりになるべく織斑家に向かうと……確かに一夏さんはいた。

 

 だが……更に流良さんやシャルロットさん。果ては林間学校で一緒に戦ったザランさんまでいて、2人きりからのゴールインと言う、パーフェクトで桃色な計画は早速頓挫してしまったのだ。

「元々流良とアスラの3人で遊ぶ約束はしてたんだけど,そこに流良がシャルロットも連れてきたんだ」

「えぇ……」

 その後ろではシャルロットさんが、小さくため息をついていた。

 

「シャルロットさんも大変ですわね……」

「セシリアもね……せっかく2人きりになれると思ったのに」

 釣った魚に餌くらいは与えてほしいと、乙女心は抗議の視線をそれぞれの想い人へと向かう。

 

「……人数が人数だし、どこかゲーセンに繰り出す?」

「でも,今日の暑さは相当だぜ?市民プールも満員だろうし」

「いや,流石に話題の男2人が何の警護もなく繰り出すのはまずいだろう。暴動が起こるからやめておいた方がいい…こうなったらこの課題でタイムアタックでもやるか?」

「何でそんな学習塾みたいな事を…」

 その想い人達は、課題を前にわちゃわちゃしていて……何とも能天気な様子だった。

 

side箒

「鈴にラウラじゃないか。珍しい組み合わせだな」

「箒⁉︎何でアンタまでここに…」

「くっ、まさかお前にまで……!」

 一夏の帰省を知った私が織斑家に足を運ぶと、なんとそこには鈴とラウラがいた。

 普段鈴はセシリアと、ラウラはシャルロットと一緒にいる時が多いので、この組み合わせはまあまあ珍しい。

 だが,この2人の口ぶりを察するにどうやら目的は同じなようだ。

「この流れ……セシリアも来るだろうな」

「いや,あいつのことだから抜け駆けを目論んでもおかしくないわ」

「何ぃ⁉︎浮気とは許せんな…」

((そもそも結婚してないでしょ(だろ)))

 ついでに、ここにはいないセシリアもおそらく来るか……もういるかもしれない。

 

 毎度のことながら、微妙にズレたキレ方をするラウラに突っ込みながらインターホンを押すと、大きな物音がした。

 

「一夏⁉︎何してんのアンタ……入るわよ!」

「まさかセシリアと……貴様ぁ!」

「おい,待て!流石に反応を……!」

 鈴がその音に反応してドアを開け、ラウラもそれに続く。

 そのいきなりの行動に面食らったが、止めに行くべく私も入ると。

 

「ぐぬぬ……離してください!お昼はイギリス代表たるこの私が作って差し上げますわ…!」

「セシリア、落ち着いて……!夏休みの自由研究でもバイオテロなんてまっぴらだ!」

「なんですってぇ⁉︎」

「ほ、ほら!使っていい食材とか一夏のお家にも色々あるから……」

 

 厨房に向かおうとするセシリアを羽交締めして止めるシャルロットと、通せんぼしている輝戸。

「言い草はひどいが……2人とも必死だな。一体何を作る気なんだ?彼女は…」

「とりあえず,蕎麦でも茹でるから待っててくれ」

 その光景に唖然とするザランに、ため息をつく一夏。

 

 そんな,なかなかカオスな光景が,わたしたちの眼前で繰り広げられていた。

 

side一夏

「しかし,誰か1人くらい事前に連絡くれよ。男3人分の量が男女8人分だぞ?」

 なかなかの大人数になってしまったため、手軽に作れるざる蕎麦を昼飯にして。

 

 俺が後からやってきた4人に物申すと、箒と鈴が誤魔化すように声を上げた。

「仕方ないだろう…今朝になって暇になったのだから」

「そうよ?それともいきなり来られると困るわけ?エロいものでも隠すとか……」

「わ、わたくしはケーキ屋さんに寄ったついでにと……!」

 セシリアもそれっぽい言い訳をするが……普段あんまり食べない昼時といえど、男子高校生の胃袋には少し物足りない。

 

「まあまあ、宿題は進んだからいいじゃない……」

「因みに私は突然やってきて驚かせようと思ったのだ。どうだ?嬉しいだろう」

 堂々と言い張ったラウラに,なぜか羨望の目を向ける女子4人。

「それはもういいとして、午後はどうする?課題片付けた後、新作ゲームでもやろうって話だったんだけど」

「この人数じゃできないしな……ボードゲームでもあればいいが」

 

 と,ここで流良が麦茶を飲みながら今後について話題を振り、そこにアスラも乗っかると、鈴が食いついた。

 

「それよ!ボードゲーム大会にしましょうよ!暑いのは嫌いだしね」

「うむ!偶にはこうして親睦を深めるのも悪くはないだろう!」

「わたくしの華麗なる戦術を見せて差し上げますわ!」

「ふむ……無論,私も参戦しよう」

 

 そうして、女子たちの猛プッシュにより……午後はアナログゲーム大会になった。

 

side流良

「……当たれ!」

「うおおっ!」

「す,すごい早打ち……しかも、お互いコントローラーに目を向けてないよ…」

 後ろがボードゲームで和気藹々としているのと対照的に、僕とアスラはテレビの前で死闘を繰り広げていた。

 

 小さい頃から、いつも対戦ゲームをやる時はこんな感じであり、一つのミスが負けに直結する程の勝負である。

 

 ボードゲームはTVゲームより参加できる人数が多いが、それでも限度がある。

 

 その為僕らは当初の予定で遊ぼうとしていたソフトで、こうして激闘中と言うわけだが………その結果は、お互い同時にHPが0になっての引き分けだった。

「……また相打ちか」

「いつも勝負つかないね…」

 小さい頃,宿題の合間にゲームで勝負を仕掛けていたが…勝てるのは最初だけ。

 次第に対応してきて、結局はイーブンにまで持ち込まれてしまうのだ。

「……俺、この2人とゲームやろうとしてたんだよな……」

「てか、ザランのやつザ・御曹司みたいな顔して普通にゲーム強いのね…」

 

 何か後ろが騒がしいので,僕らの番が来たのかと振り返ると……なぜか、みんな唖然として僕らを見ていた。

 

「……何があったか?俺達」

「さあ……」

「自覚ないのがまた恐ろしいですわね…」

 

sideシャルロット

 

「何だかお母さんと一緒に買い物に行ってたのを思い出すなぁ…」

 カートを引く流良と2人,僕たちは夕飯の買い出しのためにスーパーにいた。

 

「まあ、社長令嬢のお嬢様生活じゃ、それはまずないか」

「そんな,お嬢様なんかじゃないって……田舎町暮らしの方が長いんだし。それに、フランスのスーパーと色々違うんだよ?」

「……田舎町だと商店街に買い出しとかじゃないの?」

「だいぶ認識が古くないかなぁ…?流石にあるよ。まあ,ここまできっちりと包装されてないし、牛乳とかは常温での販売だけどね」

 こうしてなんてことない雑談を交わしながら、カートに商品を入れていく。

 そんな,なんてことない行為のはずなのに……なんか,すごく満たされている感じがする。

(なんだか新婚さんみたい……)

「……何かいいものでもあった?」

「良いことならあったよ」

「そう?なら良かった…」

 そうして歩いていく前では……料理に参加させてと詰め寄るセシリアを,必死で抑えるみんなの図があった。

 

「……なんか,あそこまで必死にされると可哀想な気もしない?」

「いや,流石に食の安全基準を下げるわけにはいかないよ」

「聞こえましてよ!」

 

 

side流良

 

 材料の買い出しが終われば,当然次は調理のターン。

 

 帰ってきた織斑先生と一夏の熟年夫婦のようなやりとりを見て、焦ったのか……料理をするみんなの顔が,もはや少し怖いレベルになっている中で。

 

「なあ流良に一夏。あれは止めなくて良いのか…?」

「いや,すでに手遅れのような……」

「だから言ったじゃん…」

 

 待ってるように言われた男3人は、ある一点を見ながら戦々恐々としていた。

 

 

「まだ赤色が足りませんわね……!」

 コンロに陣取ったセシリアが、大鍋で何かを作ってるみたいだが……その光景はさながら謎の薬を作る魔女である。

 

「セ、セシリア……?やっぱり,向こうでお皿の準備していた方がいいような」

 その光景を間近で見ていたシャルロットが、青い顔をしながら提案するが、不敵な笑みに遮られた。

「ご安心を。私の料理は最後で挽回するのですわ」

「料理は勝負や試合じゃないぞ……?」

 あの箒までも冷や汗をかくのだから相当だ。

 

「このじゃがいも切りにくい……!ラウラ、アンタの選び方どーなってんのよ⁉︎」

「失敬なことを言うな。じゃがいも選びにおいては、部隊で右に出るものはいなかったのだぞ」

 

 もはや、向こうの怪しい包丁捌きと巧みなナイフ捌きが可愛く思えるのだから、すごい話である。

 

「……すきっ腹にアレを食うのか,俺たち」

「明日お腹壊しそうだね……」

「デリバリーにしておいた方がよかったんじゃないか?アレは…」

 

 そんな話をしているうちに、料理は完成し……僕達は、なんとか食べ切ることに成功した。

 

 

 そうして、夏休みは過ぎてゆく………。

 




いかがでしたか?
次回は流良とシャルロットのフランス旅行となり,そこから5巻のストーリーに入っていくつもりでいますので、お付き合いください。
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