IS+1(インフィニット・ストラトス・プラスワン) 作:暇人の鑑
翌日。
「って訳よ!こっちがこんなに思ってるのに、あいつときたら……」
放課後のカフェにて、烏龍茶をガブ飲みした鈴がグダを巻く。
「……」
それを聞きながらコーヒーを口にした僕は…
「…ねえ、聞いてる⁉︎」
「聞いてるって。てか、そんなにがぶ飲みしてたらお腹下すよ」
何度目かもわからない面倒事を前に、何度目かもわからないため息をついた。
昨日はもう夜遅かったので、明日話を聞くとか言うんじゃなかったな……。
「で、どうなの?」
「どうなのって、何が?」
「今日の一夏よ!昨日のこと、何か反省してる様子とかなかった?」
どうやら昨日の夜、一夏と箒が同室であることを聞きつけて、箒に自分の部屋と交換しろと迫りに行き。
そこで、「料理ができるようになったら、毎日酢豚を食べさせてあげる」……まあ、言ってしまえば「大きくなったらお嫁さんになる」的な約束を、「奢ってくれる」と勘違いされてた事にご立腹なわけだ。
「一夏本人は特に何もなかったかな?」
そんな訳で、一夏に恋する乙女3号からの質問に答える。
「今日も織斑先生に説教されて、女子達に囲まれてたよ。今頃はセシリアや箒とISの特訓じゃないかな」
「あーもう!あの女たらし!」
本人曰く「謝って来るまで会いに行ってやんない」らしいが……1日目でコレでは先が思いやられる。
でも……相手が気づいてくれないからって手を上げておいて、それで反省した?は流石に意味がわからない。
「一夏も大変だな…」
僕の心からの呟きは、やけウーロン茶中の鈴には届くことはなかった。
いや、面倒ごとにならないならその方がいいのかもしれない。
そんなことがあってから数週間経ち、5月。
意外や意外、鈴の無視は続いてるらしいが…まあ、それはいいや。
クラス対抗戦まであと1週間となり、アリーナは試合用に調整されるため、アリーナが使用できる最終日を迎え。
箒とセシリアによる一夏の特訓もまた、最終回となった。
「IS操縦も、ようやく様になってきたな。今度こそ……」
「まあ、わたくしが訓練に付き合っているんですもの。このくらいはできて当然、できない方が不自然というものですわ」
「ふん。中距離射撃型の戦闘法が役に立つものか。第一、一夏のISには射撃武装がない」
言葉を中断されたせいか、やや棘のある言葉で箒が告げる。
「その戦闘法に対する対策は立てられるから、無駄でもないよ。
でも……なんで剣一本?確か、最低でも二つは後付装備がつけられるんだよね」
「だよな。ストライクはあんなに武器があるのに」
「まあ、換装型の機体だからね。覚えることが多くて大変だったよ」
特訓の中で知ったことだが、この白式は雪片弍型以外の武装がなく、また追加で登録もできないのだ。
普通ISには「初期装備(プリセット)」…要は専用装備があり、補強として「後付装備(イコライザ)」を装備できる。
例えばセシリアのブルーティアーズなら、初期装備があのビットで、後付装備がスナイパーライフルとナイフになる。
で、その後付装備を収納するために必要な「拡張領域(バススロット)もある」は機体のスペックにもよるが、最低でも二つは装備できるはずが……この白式にはその拡張領域がないため、現状は雪片弍型が唯一の武装になるのだ。
と、僕らが武装について話している間も、2人のキャットファイトは続く。
「それを言うなら篠ノ之さんの剣術訓練だって同じでしょう?
ISを使用しない訓練なんて、時間の無駄ですわ」
「な、何を言うか!剣の道はすなわち見と言う言葉を知らんのか。見とは全ての基本において…」
「一夏さん、今日は昨日の無反動旋回(ゼロリアクト・リターン)のおさらいから始めましょう」
「ええい、このっ……聞け、一夏!」
「俺は聞いてるって!」
何故か理不尽に怒られている一夏を尻目に、指紋認証の扉に触れて少し待つ。
そして、シュッと開いた扉の先には…。
「待ってたわよ、一夏!」
最近よく見る不機嫌面はどこへやら、鈴が待ち構えていた。
「貴様、どうやってここに「ここは関係者以外立ち入り禁止ですわよ!」
箒とセシリアが顔を顰めて食ってかかるが、鈴は「はんっ」と一笑に伏し。
「アタシは関係者よ。一夏関係者。だから問題なしね」
暴論みたいな事を、自信満々に言い放った。
「ほほう、どう言う関係かじっくり聞きたいものだな……」
「盗人猛々しいとは、まさにこの事ですわね!」
箒の目が据わり、セシリアが猛る。
一見するとセシリアの方が怒ってるように見えるが、実際怖いのはこっちだ。
ほぼ無関係な僕でも、プレッシャーを感じずにはいられない。
「……一夏、今何を考えた」
「いえ、人切り包丁への警報を発令しただけです」
「お、お前と言う奴は…!」
真面目そうな顔で、意外と失礼な事を考えている一夏に、箒が詰め寄ろうとしたが、鈴がそれを遮った。
「今はあたしの出番。あたしが主役なの。脇役はすっこんでてよ」
「わ、わきやっ⁉︎」
「はいはい、話が進まないから後でね……で、一夏。反省した?」
いきりたつ箒を軽くあしらった鈴が、一夏にした話題はやっぱりあの酢豚のやつだ。
だが一夏は当然だが、やはり身に覚えがないと言う顔をする。
「なにが?」
「だ、か、らっ!あたしを怒らせて申し訳なかったなーとか、仲直りしたいなーとか、あるでしょうが!」
要は仲直りがしたいらしいが、言い方というものがある。
「なんか初対面の時のセシリアと似てるような…」
「お待ちなさい!わたくしはここまでひどくなくてよ⁉︎」
「名乗りもしないで、いきなり傲慢発言してたのは誰?」
「うぐ……アレは、わたくしも若かったということですわ!」
セシリアと昔話をしている僕の前では、一夏と鈴の応酬が続く。
「いや、鈴が避けてたんじゃねーか」
「アンタねえ……じゃあなに、女の子が放っておいてって言ったら放っておくわけ⁉︎」
「おう。放っておいてほしいならそうしてやるんだ、なんか変か?」
「変かって……ああもう!謝りなさいよ!」
そして、焦れたように頭をかき、鈴は一夏に謝罪を要求してきた。
だが……そこで首を縦に振らないのが一夏である。
現に徹底抗戦の構えをとっているからな。
「なんでだよ!約束覚えてただろうが!」
「意味が違うでしょうが。寝言言ってんじゃないわよ!」
そんな、幼なじみ同士の口喧嘩を見ていると、やがて対抗戦で勝った方が、何でも言う事を聞かせられる条件がついた。
「な、何でもだと⁉︎貴様、一夏に何を…」
「そうですわ、はしたないですわよ!」
何を想像したのか、顔を赤くする2人は……もう放っておこう。
「なんだ?やめるならやめてもいいぞ?」
「誰がよ!アンタこそ、あたしに謝る練習でもしておきなさいよ!」
「するわけねえだろ、馬鹿」
「馬鹿とは何よ、馬鹿とは!この朴念仁!間抜け!アホ!馬鹿はアンタよ!」
ついでにまだ口喧嘩を続けてる馬鹿2人も面倒だから放置でいいと、退散しようとした時だった。
「うるさい、貧乳」
売り言葉と買い言葉の果てに出されたその一言が、空気を一変させた。
いきなりの爆発音、衝撃で全体が微かに揺れる部屋。
一瞬で展開したのか、IS装甲化させた右腕で空気を殴りつけ。
「い、言ったわね……。言ってはならないことを、言ったわね!」
般若のような顔で、一夏を見据える鈴。
アレだけ理不尽かましておいて、一言禁句を言われたらIS装甲を展開して怒るって……。
呆れたのか、虚しいのか。
なんとも言えないような気分でいる僕の前で、鈴は鋭い目を一夏に向けた。
「ちょっとは手加減してあげようかと思ったけど、どうやら死にたいらしいわね……。いいわよ、希望通りにしてあげる。
全力で、叩きのめしてあげる」
試合当日、第二アリーナの一試合目は、一夏と鈴の組み合わせ。
何かと話題をさらっている新入生同士の戦いとあって、アリーナは満席御礼。
それどころか通路まで立って見ている生徒で埋め尽くされていた。
「良かったの?輝戸君。こんな所で見ないでも、管制室で見せてもらえるんじゃない?」
そして、それにすらあぶれた生徒や関係者は、僕のようにリアルタイムモニターで鑑賞するらしい。
今、僕がいるのは整備室。
ここにはそれを見られる大きなモニターがあるが、ここに来るのは大体メカニック専攻の先輩達であり、アリーナや教室よりもいる人数は少ない。
人だかりがあんまり好きじゃないので、そこに混ぜてもらって見ているわけだ。
「ここの方が落ち着くんで……それに、いろいろ教えてもらえるし」
そもそも、武器の展開のコツやシュミレータ、その他いろいろなことをここの先輩たちから教えてもらっていることもあってか、クラスメイト達よりも気安く話せたりもする。
「嬉しいこと言ってくれるじゃない。なら、先輩が胸を貸してあげようかな!……あ、おっぱいのことじゃないからね?」
「下ネタやめてください。後おばさんくさいです」
「そう言いながら少し視線動かしたでしょ?ちょっと男子〜」
箒やセシリアほどじゃないが、それなりなサイズの膨らみを腕で隠す仕草を取ったり、脇腹を叩いてくる先輩達と、そんなやりとりを挟みつつ一夏と鈴の試合中継に視線を移す。
「アレは、甲龍(シェンロン)。中国の第3世代ISね。実用性と効率性を重視した、パワータイプの機体……織斑君の白式とおなじ、近接格闘機だよ」
巨大な青龍刀を、まるでバトンのように振り回しながら斬撃を見舞う姿は、正にパワータイプのそれだ。
「三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)…初心者にしてはいい動きじゃない」
「セシリア……イギリスの代表候補生が教えてましたからね。でも…」
それができた所で、あの青龍刀を捌くだけの今の状況じゃいずれジリ貧だ。
一夏の白式は近接格闘機の中でも、距離を一気に詰めての一撃殺法を得意とするタイプ。
初めからインファイト状態に持ち込まれるのはあまり良い状況じゃない。
画面の中の一夏も同じことを思ったらしく、一旦距離を置こうとした時だった。
「甘いっ‼︎」
鈴の肩アーマーがスライドして開き、中心の球体が光った瞬間に、殴り飛ばされたようによろめいた。
そこから持ち直そうとした途端に、また球体が光り、一夏は地表に打ち付けられた。
「砲弾が見えない…?」
何が起こったとあっけにとられる僕に、先輩はしばらく考えた後。
「おそらく衝撃砲だね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で
生じる衝撃を、砲弾化して撃ち出すんだよ。
前に輝戸君が試合した、セシリアさんのブルー・ティアーズのビット兵器と同じ、第3世代型兵器よ」
「……要するに、超強い空気砲って事ですか?」
「そういう事。軌道は直線だし、飛距離はあんまりないけど…砲身や射角は自由に決められるし、弾切れもない。
基礎の技量時点で完全に負けてるわ。
織斑君がコレを突破するには、撃ち出す前に一撃で決めるしかない」
つまり……
「瞬時加速(イグニッション・ブースト)で詰めて、雪片の『バリアー無効化攻撃』を叩き込むしかない…」
一夏が練習していた「切り札」を、出しどころを間違えずに決めなくてはならないのだ。
そうして、構えをとった2人が動き出し、加速姿勢で突っ込んだ一夏の刃が鈴に届きそうになった瞬間。
「ああっ⁉︎」
何かがアリーナの遮断シールドを貫通して、ステージ中央に落下してきた。
「なんなんだ、あれ……」
煙が薄まり、見えてきたのは二つの人影。
一つは、シルバーグレイの装甲に、大きな翼のようなユニットを背負い、腕にはマシンガンらしき銃と、ガトリングがついたシールドを装備している。
だが、僕らが目を引かれたのはもう一つの方だった。
「何アレ…?あんな変な機体見た事ないわ」
深い灰色のそのISは、まさに異形だった。
手が異常に長く、つま先よりも下まで伸びているのに、首というものがなく、肩と頭が一体化したようなフォルム。
「サワ○ラー?」
「いや、似てるけどあそこまで変じゃないって!」
先輩達のうわずった声を聞きながら、モニターに釘付けになっていると。
「……どうしたの⁉︎」
何かに呼ばれたような感じがして、思わず走り出していた。
side一夏
「お前達は誰なんだ!」
俺と鈴の試合に突如として割り込んできた2機のISに呼びかけると、人型の方から声が聞こえた。
だが、その声にギョッとする。
「名乗るほどのものでもないよ……まあ、君達に名乗る意味もないがね」
その声は、間違いなく男のものだったからだ。
「どういう事……?世界にISを動かせる男は2人しかいないんじゃないの?」
青龍刀を構えながらも、困惑を顔に隠せていない鈴に、その声は甘く、だがどこか底冷えするような昏さと重たさで。
「世界は君の知ることだけで出来てはいないという事だが、そんなことはどうでも良い。
私は人を待っているだけだ……君達にはこちらの『ゴーレム』と遊んでもらうとしようか」
そうして、ゴーレムと呼ばれたISがこちらに突っ込んでくる後ろで、もう一機のISは、バリアの裂け目から外に向かう。
誰を待っているかはわからないが……
「一夏、来るわよ‼︎」
「おう!」
今は、目の前のこの怪物をなんとかするのが先だった。
いかがでしたか?
次回は1巻のストーリーの終盤、ゴーレム戦となります。
また、ここから主人公の方のストーリーも少しずつ始まっていきますので、楽しんでいただけると幸いです。