TALES OF MILLEWYNN~テイルズオブミレウィン~ 作:瑠璃。
フレイヴェルド、この星を満たすエーテルは命そのもの。
私たちは何時しかエーテルを操り命術を使えるようになった。
大陸国家ハガルニイドの中央に位置する首都ベリンダにて
視える探偵がいると巷で噂になっている。
「ありがとう、ルーチェちゃん!この子ったら、すぐに
逃げてしまって困ってたのよ」
飼い猫を抱いて、女性は愚痴った。ペット探し、浮気調査、失せ物探し、
そのプロである。ルーチェ・アヴァロン、軍は彼女の噂を信じてやって来る。
一般人として扱われるはずの彼女を自分たちの野望の為に操るのだ。
「最近、命術に長けた魔術師をメインに人攫いがされているのよ。ルーチェちゃんも
気を付けてね?エーテル量が高いのだから」
「物騒な世の中ですね…。気を付けます。貴方も気を付けてください。必ずしも
魔術師を狙うとは限らないし」
ルーチェは魔術師として優れた才能がある。首都の中でも最東端に位置する
事務所がルーチェの家。そこにやって来たのは軍人だった。男の名を
ジルド・クウェイン、大陸軍総帥。全ての指揮権を持つ男。歴戦の猛者として
覇気が強い。ルーチェは身構えてしまう。
「私は依頼する側。身構えずとも良い。私たちが不甲斐ないばかりに
とある物を盗まれてしまった」
本来ならば軍だけで解決するべき問題を一般人に伝えた。何の役にも立てないはず、
ルーチェはすぐに断った。しかし巨体は床に伏せ、土下座する。
「迷惑は重々承知。しかし体裁よりも大事な事だ。組織の名をフラグメント、
奴らに宝珠を奪われるわけにはいかないのだ。一刻も早く取り戻したい。
君はあらゆるものを視ることが出来ると聞いている」
「そう言われていますが、万能ではありません。貴方たちが期待するほどの事など
出来ないと思います」
嫌な予感がする。この依頼も、依頼を持って来た目の前の男も。彼は
ルーチェの力を信じているのだろうか。彼はきっとすべては信じてないのだろう。
都合のいい耳と頭をしているのかもしれない。だってルーチェには彼が
本当の目的を隠していることが明確に視えるのだから。
逆に考えれば、ルーチェは彼の思惑に乗りながらひっくり返すことが出来るかも
しれない。正義の味方になろうなど大きな事は考えちゃいないが、悪事を暴けば
救われる人がいる。ありがとうと言われるのはとても嬉しい。きっといるだろう。
彼女が悪事を暴くことで喜ぶ者が。
「…分かりました。私なりに頑張ってみます」
「ありがとう。では早速基地に案内する。そこで詳しい話をしよう」
首都の中心に位置する塔こそが基地だ。基地であり、国主の根城でもある。
基地の敷地に入ると数人の軍人たちが敬礼する。彼らが真っ直ぐ見つめるのは
総帥のみ。尊敬の目。ルーチェを一瞥する。怪訝な目。懐疑な目。
「彼女は頼れる人間だ。失礼なきように」
と、言われても何処か不服があるような顔だ。総帥ジルドの後に続いて
中に入った。廊下を歩く最中、担架がやって来る。乗せられているのは青年。
見覚えのある顔。包帯に巻かれていても隙間から覗く紫紺の瞳は冷たくも
優しさを宿している。
「―ゼイン!?」
「ゼイン・アーガイル少尉を知っているようだな。先日、彼に任務を
与えた。私は彼の力を過信していたようだ」
「…総帥のくせに部下の能力を正確に把握すらしてないのですね」
毒のある言い方で真実を突きつけた。ジルドは驚いた様子。ルーチェの事を
調べたつもりだ。強く相手に出る事が出来ない人間だと思っていた。
ゼインがそれだけ大事な相手なのだろう。深く聞くつもりは無い。
「後で、会いに行っても?」
「断ったらどうするつもりだ」
「依頼を放棄します…。それは、貴方にとって一番困るのでは?」
ルーチェは不敵な笑みを見せた。
「…そうだな。君の言う通り、君に動いて貰わなければ私が困る。
君が自由に彼と面会できるように伝えておこう」
総帥の部屋にやって来た。如何にも高級そうな椅子。本棚にはびっしりと
本が並べられている。ソファに座ったルーチェの前にジルドも腰を下ろす。
改めて依頼の詳細を聞いた。一週間前、火属性の宝珠を祀る聖堂を警備していた
軍人たちが襲撃を受けた。揃って黒いローブ姿。背中にある紋章で襲撃者が
フラグメントであると分かったらしい。
「警備が手薄になる時間だったんですね?」
「そうだ。警備をするのは人だ。不眠不休で仕事が出来るはずも無い。深夜は
結界も張って警備の人数を減らしている。君には視えるかね?」
ルーチェは促されて、聖堂がある方角に目を向ける。妙に高い密度のエーテルが
彼女の目にハッキリと映っている。結界として力を発揮しているのだ。加えて
鍛えられた軍人たちによる警備。正面から突破など出来るはずも無いほど
強固で手強いはず。自信があった警備を正面から砕かれた。
「フラグメントの幹部は手強い戦士ばかりだ。こちらの油断があった」
「一週間か…かなり距離が移動しているように感じるけど」
「そうでもない。我々の包囲網を抜けるべく、道を探している。私の
考えた通りに」
既に罠を張っていたという。ジルド・クウェイン、大陸軍総帥、狡猾で
油断も隙も無い男。