TALES OF MILLEWYNN~テイルズオブミレウィン~ 作:瑠璃。
ファラド市、ルーチェ・アヴァロンとゼイン・アーガイルの生まれ故郷。
その前に二人は件の聖堂へやって来た。首都の郊外、そこに位置する
アルシエル聖堂。一般公開されることが無かった跡地だけが今や人が
足を踏み入れることを許された場所。本来、一般人が入れる場所は
聖堂の建物内。火の宝珠アドラ・イフリートが盗まれて以降、厳重に
警備がされている。
「少尉!総帥より連絡があります!」
どちらも驚いていたが、どちらがより驚いていたかと言えばゼイン。少尉である
事に違いないが、こうも熱心な声で呼ばれると気迫にたじろぐ。
「な、何だ?」
「というか、ゼインの事を知ってる一般兵士っているんだ?」
「無論であります!少尉同行であれば、ルーチェ・アヴァロン殿も軍による
指定禁止区域への出入りを許可するとの事!」
「それは何等までだ」
軍の指定禁止区域には危険度などを考慮したランク付けがされている。
一から五。数字が小さければ小さいほどより厳重な警戒が敷かれる。
許可されたのは三等までらしい。
聖堂の中に入ることも許可されている。がらんどう。人は誰もいないようだ。
警備を担当する兵士も人の出入りはゼロであると報告をした。
「一般兵士に至ってはお前の能力を細かくは理解してないらしいな。どうだ。
俺にはよく分からないが、エーテルの強さは」
「宝珠が無いから薄いのかなって思ったけど、意外と濃い。人工的に
充満させられてるよ」
「結界…宝珠があるように見せかけているのか?」
扱うことは出来ても感知に至っては非常に能力が低いゼイン。向き不向きと同じ。
作るのは好きだけど、使うのは嫌い。作ることは出来るが、いざそれを使うとなると
どうすればいいか分からなくなる。
「答え、あれな」
ルーチェが進行方向を指さした。
「…は!?」
巨大な虎は額にもう一つの目を持っていた。黒に、何処までも暗い紫の瞳。
命名されている。あれは通常の魔獣ではない。エーテルが堕落したもの、
人々が黒細胞、セリオン細胞と呼ぶものを規定値以上宿した黒獣。
セリオン細胞を過剰に取り込み過ぎた魔獣の成れの果てかもしれないし、または…。
「襲って来るなら、倒すだけだ」
「分かってる。細かい分析は後だよね!」
ゼインは鞘から剣を抜いた。その姿は正しく戦場に立つ戦士。ルーチェは
ホルダーから二丁の銃を抜いて構える。戦えるのか。彼女の力をゼインは
理解している。もう、守られるだけの幼馴染ではない。背中を預けられる
頼れる相棒になっていた。
二人はそれぞれ逆方向に避ける。次に魔獣が目を付けるのはルーチェ。
本能的に彼女の実戦経験の少なさを理解している。弱肉強食、弱い者から先に
狩られる。弱い者を先に狩るのが魔獣の本能、ルール。尤もそれはあくまで
魔獣だけの話で、今回の場合、倒されるのは魔獣なのである。
「隙を見せた奴から潰される…当然だろ」
ルーチェはすぐに気付いた。この魔獣はただのセリオンではない。必殺を決めるなら
一番の弱点がある。歪な額の目。目の形をした器官。呼吸する度に生物は
空気中に充満するエーテルを取り込む。黒細胞に侵食された魔獣は普通のエーテルを
黒細胞に変化させてしまう。
「―ライジングレイザー!」
敢えて弱点ではなく顔。角度が入り、ぐるりと回転。
ゼインの構えから確実に目を狙える位置になった。
「目を!」
「分かっている。―魔神剣」
一撃。必ず当てる、目を裂かれた魔獣は呻き声をあげながら消滅する。
残ったのは骸。骨は魔獣のそれでは無いようだ。ゼインは自分の姿を
重ねていた。
「これが…俺の行く末…」
「ゼイン…」
何時の間にか彼は感情を表に出すことが無くなった。出せなくなったと
言い換えても過言では無いだろう。しっかり彼と向き合えば、今の彼が
不安や悲しみを抱えていることが分かる。
「ゼインはきっと、こうはならない。きっと、この人は道を踏み外したのかも。
もしくは罠に嵌めた人がすごぉく悪い人だったんだよ。そんな気がする」
「ありがとう。変な事を口走ったな」
ポーカーフェイスはそのままに素直に礼を述べた。ルーチェは彼を慰めようと
言葉を並べていたのだ。
「不安も心配も感情は口に出した方が楽でしょ?」
聖堂、壊れた屋根の上から赤い光が射している。夕暮れ時。
不意に怒声と泣きじゃくる声が遠くから聞こえて来た。外から。裏手の門では
子ども相手にみっともなく立ち回る兵士の姿がある。
「そんなに牢屋に入りてえのか!?」
「もう!なんで、そんなこと言うのぉ!!おじさん、嘘吐きだぁ!!」
「やめないか。相手は子どもだ」
ゼインとルーチェが二人の間に入って仲裁する。その場にしゃがみ込んで
泣き続ける子どもの背中をそっとルーチェは摩ってやる。
「しかし、これは命令ですので!総帥より如何なる人間も立ち入りさせるな、と」
「そもそも揉めた原因は何だ」
「このガキが、兵士への侮蔑の言葉を並べたので教育していたまでです」
少尉に対して言葉を述べた。真っ先に否定したのは子どもだった。
「嘘だ!私、兵隊さんに酷いこと言って無いもん!この近くで綺麗な石を
落としちゃったから持ってきて欲しいって言ったもん!!」
「何を…!少尉、子どもの戯言であります」
「私の前で嘘を吐くとは、良い度胸してますね!ねぇ、石ってどんな石?
お姉ちゃんが探してきてあげる」
真っ直ぐ顔を見て、彼女の事を改めて理解する。そうだ。知っている顔だ。
何でも探し当てる凄い探偵。ルーチェ・アヴァロン。知ってる人だった。