異世界ダンジョン飯   作:一般通過炎竜

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アニメのミスルンとシスヒス最高だった


第十三話『イツキという少年とは』

「それじゃあ、出発だ!」

 

「「おー!」」

 

ライオス一行は迷宮内へ潜っていく。彼らは現状この島で一番迷宮を探索しているパーティであり、一番戦果も上げている。

 

魔物の情報。罠の有無。宝の在り処。そしてそれらをマッピングした地図。どのパーティも彼らに勝ってはいない。

 

人々は彼らを一級冒険者として称えた。正式な名称ではないが、この異名を聞いただけで彼らがどれほどまでの実力か分からない者はいなかった。

 

そして、そんな迷宮に潜っていくライオス一行を見ていた者がいた。

 

「…真島、イツキ」

 

彼の名はカブルー。どうやら目当てはイツキの様だ。

 

「なにしてるの?」

「えっ?ああいや。やっぱり一級は違うなと思ってさ」

 

カブルーに話しかけた女性の名はリン。詳しい説明は省くがカブルーとは昔馴染みであり、東方出身の魔法使いだ。

 

「一級…そうね、私達じゃ彼等にはまだ勝てない」

「なになに、なんの話?」

 

リンの背後からは続々とメンバーが集まってくる。ハーフフットのミックベル。コボルトのクロ。ドワーフのダイア。ノームのホルム。いずれも鍵師。戦士。精霊術士と、かなり高水準なメンバーである。

 

「一級よ、例の」

「ああ…あのいけ好かない茶髪野郎がいるパーティか」

 

ぺーっぺっぺ。とミックベルは唾を吐く様な仕草をとる。それに苦笑気味でホルムが宥める。

 

「まあまあ…でも彼ら凄いよね、危険な迷宮に何度も潜って未だに大きな損害はないんだって」

「彼ら一人一人が一流の冒険者だ。特に…トーデン兄妹に、イツキ」

 

カブルーは鋭い目で思考する。初めてカブルーがイツキと出会ったのは、シーサーペント討伐祝杯の時、ではなく。実は一方的にではあるもののカブルーはイツキの存在を知っていたし、見ていた。

 

しかも最初からである。人好きのカブルーは元々金や人に無頓着を極めているトーデン兄妹に興味があった。そして、そんな兄妹の傍に突然現れた未知の存在。それがイツキだ。

 

義母から戦闘訓練を受けていたカブルーは教わった知識と持ち前の観察力で、イツキの身体を見極めていた。

 

『年齢に比べて運動神経は極めて高い。特に走るのが速い』

『覗き見した過酷極まる鍛錬にも耐える胆力』

『精霊を神格化するノーム魔法をいとも容易く会得した』

 

というのがひとまずカブルーが得たイツキの戦闘時の情報。次に、人としての情報。

 

『彼は余程の名家出身なのか、常識に疎い』

『船で来たという情報も無い。島出身?』

『しかし島にいる誰もが昔の彼のことを知らない』

『とても温厚な性格だが、危険な一面も持ち合わせている』

 

調べれば調べるほどイツキのことが分からなくなっていく。依然トーデン兄妹にも興味があったが、イツキへの興味は尽きなかった。

 

そして件のシーサーペント祝杯時、カブルーはイツキと接触した。話した感想は『普通の礼儀正しい少年』だった。ますます分からない。なぜそんな感性の持ち主が態々迷宮なんかに潜るのか。金剥ぎを相手にした時のあの燃え盛る業火の様で永久凍土を感じさせる冷徹極まる視線はどこで何をしたら身に付いたのか。

 

人間観察が好きなカブルーにとって、イツキの存在はあまりにもイレギュラーだった。

 

「…カブルー」

「えっ、ごめん。なに?」

「顔。凄いことになってるわよ」

 

カブルーは思わず自分の顔に手で触れる。顔がニヤけている。それも盛大に。ミックベルはこれでもかと言うぐらい引いていた。

 

「カブルー…それ癖なら直した方がいいよ、マジで」

「そ、そんなにだった?」

「ガウ」「うん」

 

クロとダイアは頷いて返事をする。贔屓目に見てもさっきのカブルーの顔は酷かった。「思ったよりヤバいのが出てきたな」の表情を三割増しで気持ち悪くした感じだ。

 

「と、とにかく!今日はもう帰るとしよう。うん」

 

話逸らしたな…とここにいるメンバー全員が思った。

 

その後、全員がそれぞれの宿へ戻りそれぞれの生活に戻った。カブルーはというと、自分の会話術を最大限に有効活用しさりげなく怪しまれないようイツキの情報を更に集めていった。

 

そして、さらに別の人物達へと繋がっていることに至る。

 

シュローのお付き。その忍者達である。

 

「(忍者。東方の地で主に要人警護や侵入、暗殺など裏社会御用達の諜報機関に勤める暗殺者達の総称。そんな人達があの人の警護か)」

 

カブルーはシュローの情報も集めていた。しかし彼自身もあまり他の人とはコミュニティを築かない。東方出身の冒険者は珍しいものの比較的ありふれている。それほど興味をそそられなかったが、イツキと関わり始めてからはそうはいかなくなった。

 

カブルーは町中で情報を集め、帰路についていた。

 

「(そういえばこっちが近道だっけ)」

 

そう思い、民家の間を通った時だった。

 

「動くな」

「ーっ!?」

 

背後からの声。首筋に冷たい感触。刃物だ、俺は今刃物を背後から突きつけられている。

 

「お前、アイツになんの用だ?」

 

女性の声。酷く重く冷酷な声色だ。返答を間違えれば死ぬ。そうカブルーは覚悟した。

 

「ア、アイツって?」

「とぼけるな。イツキのことだ」

 

カブルーの首筋から少しだけ血が滴る。

 

「イツキ、さん?」

「そうだ、お前最近ここらでアイツの事を聞き回ってたろ」

 

バレていた。カブルーなりに細心の注意を払っていたつもりだが、相手が悪かったのだ。

 

カブルーは必死に脳をフル回転させる。どうすればこの場を切り抜けられるか。何を言えばこの女性を納得させられるか。

 

どうすれば、再びイツキへ近付けるか。

 

「答えろ!返答次第じゃお前の首を…!」

 

「友達に!なりたいんです!!」

 

辺りが静寂に包まれる。まるでこの世界に2人しか存在しないかのように。

 

「……は?」

 

口火を切ったのは女性の方だった。

 

「ぼ、僕。昔から不器用でして、誰かと友達になるときに事前にその人のことを色々知っておきたいタチなんです!その人の会話に出されたくないこととか、逆に出して欲しい会話を事前に頭に入れておかなくちゃまともに会話も出来ないんです!!」

 

あまりにも苦しい言い訳だ。しかし、首筋から冷たい感触が消えた。思わず振り向こうとするも、頭を両手で掴まれて阻止される。

 

「振り向くな、振り向いたら殺す」

 

カブルーは言われたまま前を見続ける。そして女性はポツリと

 

「友達……か」

 

そう言って、カブルーから両手を離した。

 

「……?」

 

後ろから女性の気配が消えた。ゆっくり振り向くが、そこにはもう誰もいなかった。

 

今の女性は恐らく忍者だ。イツキの交友関係に該当する人物が何人かいる。

 

忍者がイツキを守ってる?ということは彼は彼女にとって相当な重要人物なのか?

 

「ふ……ふふふ……ははははは!」

 

なにがなんでも突き止めてやる。そして、その顔の内を見てやろう。

 

冷や汗が止まらない。動悸もだ。

 

僕は今、自分の命を天秤に賭けている。

 

 

数日後。迷宮からイツキ達が戻ってきたと聞き、即座に彼らがいつも集う酒場へ向かった。今度こそ忍者に殺されるかもなとも思ったが、そんなことは些事であった。

 

酒場の扉を開く。彼らがいた。

 

「それじゃあ、乾杯!」

 

「「かんぱーい!」」

 

ライオスの音頭には相変わらずファリンとイツキしかのってない。カブルーは注文したドリンクを受け取りさりげなく近くのテーブルについた。

 

「マルシルさんの爆発魔法、凄かったですね!」

「そ、そうかな?」

「そうですよ。あんな広範囲の魔法は見たことないです!」

「えへへ…」

 

彼は相変わらず人を褒めるのが上手い。それを計算でもなんでもなく素でやっているのだから、彼には頭が上がらない。

 

そう思ったカブルーは思わず苦笑した。

 

「でもでも、そういうイツキも凄いじゃん!あんなに綺麗な炎魔法見たことないよ!炎魔法って扱いが難しいから断念する人結構多いのに!」

「それが分からないんですよね。おれにとっては氷や雷の方がよっぽど難しいですよ。なんなら出来た試し無いですからね」

 

「うーん。日常生活にあまり無いから…かな。でも私はわりとすんなり出来たし…魔法適性も人によってまちまちだから、イツキはよっぽど炎魔法が得意なんだと思うよ」

「そうですか…」

 

「シュローさん?なんか上の空ですけど…大丈夫ですか?」

「えっ?あ、ああ……いや、なんでもないよ」

 

「あ、チルさんなにかおつまみ頼みます?」

「ん、頼むわ」

 

「ナマリさん、このチキン凄い美味しいですよ!」

「へぇ、ちょっくら一口…」

 

「ファリンさん、結構呑めますよね。おれも近々付き合いますよ」

「ふふ、楽しみだね」

 

「ライオスさん、眠かったら担いで送りますから、寝ちゃっていいですよ?」

「あー…いや、大丈夫、一人でも帰れるよ」

 

祝宴は相変わらず彼主体で進んでいく。そして滞り無くそれは終わり、メンバーはそれぞれの宿や家へ戻っていった。

 

しかし、イツキは酒場のマスターに頼まれ洗い物を済ませているそうだ。他に客の姿は無く、そろそろ他の店も閉まる頃だ。

 

「あの!すみませんエールをひとつ!」

 

試しに、奥にいる彼に向かって声を掛ける。

 

「はーい!」

 

彼の声が聞こえた。ほどなくしてイツキがカブルーの元へやってくる。

 

「お待たせしました。エール…あれ、カブルーさん?」

 

彼は僕のことを覚えていたらしい。あの夜以来直接会っていないので忘れられていると思っていたが。そう思ったカブルーは、いつもと変わらない笑顔で答える。

 

「やあ、イツキさん。迷宮探索お疲れ様です」

「ありがとうございます」

「その、どうでしたか?迷宮の方は」

「それがなんだか変なんですよね」

「変、とは?」

 

イツキはさりげなく席に座り話を続ける。

 

「特殊個体の存在は知ってますか?突然変異なのか狂乱の魔術師がなにか細工をしているのかは不明ですが、通常の魔物より強力な個体が増えてるんです」

 

「最近だと走るグールが確認されたとか」

「はい。それと似た感じでシーサーペントの特殊個体に襲われたんです。赤い身体で牙から常に致死性と思わしき酸を含んだ毒を出していたんです」

 

「そんな魔物が…!?」

「はい。あっ、大丈夫ですよ。もう討伐したんで」

 

シュローさんとマルシルさんの協力が無かったら危なかったですけどね。と付け足してイツキは苦笑気味に笑う。

 

「それに他にも動く鎧やスライムすら特殊個体と思わしき個体を見つけたので、明日島主さんの方へ警告に向かおうと思ってた所なんです。迷宮の方にも張り紙を幾つか貼ったので、多分今は迷宮にいる冒険者はいないですよ」

「迷宮が成長している、ということですか?」

 

「うーん…成長、というか…これ完全な主観なんで無視してもらってもいいんですけど」

 

「魔術式的に、変異している。の方がしっくり来るんですよね。なんかグチャグチャに式が書き直されてるっていうか」

 

とりあえず、安全のためにも調査しないと。とイツキは付け加え、むん!と力こぶをアピールする。自分に任せろ、と言いたげだ。

 

「……イツキ、さん」

「はい?」

 

「なぜそうまでして、危険な迷宮を?こう言ってはなんですが、貴方はかなり有能な方だ。わざわざ身を危険に晒さなくとも仕事は他に山ほどあるはずだ」

 

カブルーは辛抱たまらなかった。せめて彼の行動原理だけでもと思い、かなり突っ込んだ質問をしてしまう。

 

瞬間カブルーはしまった。と口を抑えた。つい聞きすぎた。

 

「そうですね…」

 

しかし、イツキはそれに真摯に答える。

 

「迷宮を攻略し、その内部のお宝を集めたり、魔物を倒したり、書庫を見つけたら読める本を漁ったり、誰かの日記を見つけては持ち帰り供養する」

 

イツキは、どこか後ろ暗い笑顔を浮かべならが答える。

 

「それもこれも、楽しいから、ですかね」

「楽しい……ですか?」

 

「はい!楽しいですよ、凄く」

 

「少し前のおれなら、そんな事露ほども思わなかったハズです」

 

楽しい?魔物と戦うことが?

 

「あ……えっとぉ……あ!もう1個ありますよ!恩返しです!」

 

「ライオスさんはどうやら迷宮全てを攻略したいらしいので、拾われた恩を返すついでに迷宮を楽しんでいる、が、今の俺という存在です」

 

「そう……なんですか」

 

「あ、そうだカブルーさん」

「はい?」

 

イツキはカブルーへ手を差し出す。自分より一回りぐらい小さいタコや生傷だらけの白い手。

 

「友達になりませんか?おれ、カブルーさんと話すの好きみたいです」

 

なんて直接的で、なんて感情的で、なんて、真っ直ぐな瞳なんだ。

 

他の利己的な冒険者や、トーデン兄妹の様でもない。

 

貴方は一体、なんなんだ?

 

 





カブルーの脳がひたすら焼かれる回でした。

いつも感想、誤字報告ありがとうございます。
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