異世界ダンジョン飯   作:一般通過炎竜

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みんながファリンのメイド姿が見たいって言うから…


第二十二話『捜索依頼』

 

迷宮調査が始まってから、実に四ヶ月が経過した。そのうちの殆どがイツキとファリンの魔術習得だったが、実はこんなことも起こっていた。

 

「じゃーん。どう?可愛いでしょ」

「ひらひらで落ち着かない…」

 

現在マルシルの部屋。以前から島主の館で見かけたメイドのエプロンドレスが気になっていたマルシルは決して安くは無い値段で服を購入。自分とファリンに着せてみた。

 

「ファリンもちゃんとこういう服普段から着ればいいのに」

「私は似合わないよ…マルシルの方が可愛いよ」

 

メイド服であるエプロンドレスは現代ではミニスカートが主流だが、本来のメイド、住み込みの使用人らしいエプロンドレスは基本ロングスカートだったりする。今となっては好みの問題だが、リアリティを追求したい人はロングスカート派なのだろう。

 

そこで、マルシルの部屋の扉がノックされる。

 

「はーい?」

「イツキです。すみませんマルシルさん、ここの術式で分からないところがあって…今お時間大丈夫ですか?」

 

声の主はイツキだった。前々から魔法の勉強で度々マルシルの部屋には訪れていた。

 

「今開けるね〜」

「マ、マルシル!今私たちの格好…!」

 

ファリンは慌ててマルシルを止めるも、既に遅かった。扉は開かれ、そこにはイツキと、イヅツミがイツキにぐでっと体重を預けていた。

 

「おぉ…ファッションショーですか?可愛いですね」

「ふふ、でしょー?」

「変な服」

 

普段はファリンからイツキに絡んだりするが、今回はそうではないようで。ファリンはマルシルのベッドの毛布で姿を隠していた。

 

「ファリンー?観念しなさ〜い?」

「あ、捲らないでマルシル〜!」

 

毛布を捲られたファリンはその姿を顕にする。

 

「可愛いです、ファリンさん」

 

イツキはサムズアップで肯定する。そこをイヅツミに軽く頭をしばかれる。なにすんのさ。アホを直してやってる。という会話が聞こえる。

 

「へへ…」

「イヅツミも折角なら着てみる?」

「は?」

 

実はイヅツミはライオスパーティの面々とはそこまで面識は無い。イヅツミからしてみればイツキのついでというイメージが殆どだ。

 

しかしライオスパーティの前でイツキと何度も会話しているためイヅツミという本名はとっくに知れ渡っていた。

 

「お、いいんじゃない?たまにはヒラヒラした服でも」

「爪で研がれたくなかったらその服を私に近付けるな」

 

フシャーッ!と威嚇するイヅツミ。まるっきり猫の様を見たファリンはイヅツミを優しく抱きしめた。

 

「なにすんだ」

「可愛いなぁって…着てみない?マルシルの気持ちがちょっと分かったかも」

「でしょ?可愛い子には可愛い服を着せるものなの」

 

ヴヴヴと威嚇し続けるもファリンのふんわりした雰囲気に押しつぶされるイヅツミ。頼みの綱であるイツキはマルシルから勉強を教わっていた。

 

「…………少しだけだ」

「おっ、イヅツミ着る?私のを貸すよ!」

 

じゃあおれは外にいますね。とイツキは退室。少し手持ち無沙汰になったイツキは近くの壁に背を預けマルシルから教わったことを復習していた。

 

しばらくして、マルシルの部屋の扉が開かれた。

 

「お待たせ〜、どう?可愛いでしょ!」

「…なんかムカムカする」

 

イヅツミのメイド服姿。ファリンやマルシルとはまた違うスレンダーなイヅツミが着ることでまた違った雰囲気を醸し出している。

 

「おー、可愛いじゃん」

「可愛いって言うな」

「え、じゃあ綺麗?」

「ほんとコイツ……」

 

イヅツミから呆れ顔でため息をつかれるイツキ。なんでさと内心思ったが何も言わなかった。

 

「よし!じゃあ次イツキ着てみよっか!」

「は?」

 

 

「は?」

 

反射で否定した後少し間をおいて再び困惑したイツキ。

 

「ほら、イツキわりと女の子っぽい顔してるし、背小さいしイけるでしょ」

「流石のおれでも怒りますよ」

 

部屋から出ようとするイツキ。しかし既に扉はイヅツミに塞がれていた。

 

「イヅツミちゃん?そこどいて?」

「私に着させておいて自分は帰る気か?」

「いや、そもそもメイド服って女の子が着るやつでしょうが!」

 

「イツキ?」

 

イツキはファリンに後ろから抱き締められる。しかしそれは先程イヅツミにしたような優しい抱擁ではなく、捕食者が獲物を逃がさない様に拘束するそれであった。

 

「は、離してくれます?ほら、おれ力強いからもしかしたらファリンさんにケガさせるかも」

「ファリンにそんなことしないでしょイツキ」

「それはそうですけど」

 

ジリジリとマルシルが近付いてくる。その後ろでイヅツミがすぽぽんと服を脱いでいた。

 

「や、やめません!?男に着させたってなんの面白みもないですって!」

「私は楽しい」「私も」

「貴族の道楽かなにかか!?イヅツミも着替えてないで止めてくれって!」

「わはは」

「なにその乾ききった笑い!?初めて聞いたんだが!?」

 

「観念しな〜?」

 

「は な せ!」*1

 

その後、メイド服を着せられたイツキは楽しくなってきた女性陣にほぼ一日中女装させられたとかされなかったとか。

 

それから数日後。イツキは勉強漬けの毎日から抜け出す気分転換のため迷宮に訪れていた。

 

タンスへの定期報告がある為不在のライオスから「絶対に一人で一階以降降りないこと。誰かと行くにしても二階まで」と念入りに言われた。

 

「(どこか初心者パーティとかいないかしら)」

 

初心者パーティならば一階ないし二階までだろうと思ったイツキは新米っぽいパーティを見定めていた。

 

「あれ、イツキさん?」

 

そんなイツキの後ろから、カブルーがやってきた。

 

「ああ、カブルーさん。こんにちは」

「こんにちは。……どうしたんですか?一人みたいですけど」

「いやあ…ちょっと息抜きに迷宮入ろうかなって。あ、一階ウロウロするだけですけどね」

 

「そうなんですか。……あ、じゃあ俺達のパーティにお試しに入ってみます?」

「カブルーさんのところにですか?」

「はい。今日丁度二階で行方不明になった冒険者を探しに行くところなんです。」

「二階で…となるとゴブリンに死体を持ってかれたか肉食植物の中にいるかですかね」

「多分そうだと思います」

 

「いいですね、行きますよ。植物相手にはめっぽう強いですよおれ」

 

イツキは自信満々に胸当たりを叩く。カブルーに連れられカブルー一行の元へやってきたイツキ。

 

「あれ、イツキじゃんどしたの?」

「ガウ」

 

「こんにちは。今日だけお世話になるイツキです」

 

イツキは前に出てリンシャ達に挨拶する。リンシャは怪訝な顔になる。

 

「はあ?どういうことよカブルー」

「暇してたみたいだから連れてきたんだ」

「暇してたって……随分と余裕なのね一級って」

「封印魔法の習得が上手くいかなくて…」

 

てへ。と笑うイツキに呆れるリンシャ。そこをホルムがフォローする。

 

「ま、まあまあ…イツキが入ってくれるなら頼もしいじゃないか」

「分け前どうすんの?今日の依頼報酬2000ゴールドだけど」

「今日の晩御飯奢ってくれればいいですよ」

「やすっ。イツキ今からでも僕達のパーティ入りする?」

「ミックベルさんが可愛い女の子だったら考えてました」

 

なんだと〜?とイツキを小突くミックベル。

 

「はあ。さっさと行くわよ」

 

リンシャは先導してスタスタ歩いていく。慌てて追いかけるその他男共。

 

一階から二階へ。最近はイツキ達や他の冒険者が一掃したり封印作業をしたりしたので比較的前の状態に戻りつつあった。

 

「どの辺りで行方不明になったとか情報はあるんですか?」

「少なくとも塔や建物には入っていないらしいです。一昨日吊り橋付近でパーティが半壊して必死に逃げたらいつの間にかいなかったらしくて」

「そうなんですか」

 

イツキは吊り橋付近に見えるウツボカズラの様な肉食植物の消化液があるところを見る。人一人入っていれば相応に膨らんでいるはず。

 

しかし、三時間近く捜索しても一向に見つからなかった。

 

「これはもうゴブリンでほぼ確定ですね」

「ゴブリンってさ。人の死体持ってってどうすんの?食べるの?」

「確か…」

 

イツキはライオスから聞いたゴブリンの情報を思い出す。

 

『二階に生息するゴブリン。総称を森ゴブリンといってな、弓矢や潜伏を得意とする彼らはすばしっこく厄介だが総じて知能が低い。人語も使えない。加えて火に極端に怯えるので彼らの巣穴に入る際には松明一本で制圧出来るほどだ。そして面白いのが彼らには信仰心があるんだ。地の精霊を崇め奉る彼らの儀式には動物を使用する。それは大きければ大きいほど良い。生贄には最大の敬意を払われるのか、よく二階で行方不明になった冒険者が森ゴブリンの巣穴からやたら小綺麗になって見つかったなんて話は聞くな』

 

「彼らの信仰の生贄には人間を用いる場合もあります。綺麗な状態で見つかることも多いので蘇生も可能でしょう」

 

「それじゃあ、ゴブリンの巣穴を探そう」

 

ゴブリンの巣穴の見分け方は簡単である。魔物の髑髏で飾られた横穴か、草や木々で雑に作られた鳥の巣みたいなのが彼らの巣だ。

 

しばらく探し続け、ようやく見つけた巣穴には髑髏が飾られている。

 

「じゃあ、おれ火を自分の周りに置いとくので着いて来てください」

「俺も松明持ってきます。念の為」

 

イツキ達はゴブリンの巣穴に入っていく。中はしばらく一本道となっており匂いも酷いが、イツキは平気な顔でスタスタ歩いていく。

 

「くっさー…よく平気だねイツキ」

「慣れですよ、鼻で呼吸すれば気分は最悪ですが慣れるのが早いです」

「くぅーん……」

「クロ、鼻栓しときな」

 

会話はするものの、イツキは抜いた剣に力を入れ続ける。一本道とはいえゴブリンは強襲を得意とする、警戒するに越したことはない。

 

しばらく歩き続け、開けた場所に出た。奥の方に光るコケで彩られたゴブリン式の祭壇が見えた。

 

「そこにいます。気を付けて」

 

イツキが剣で示した方向に森ゴブリン達が数匹いた。火に怯え震えながら丸まっている。

 

祭壇に近づき、そこにある棺を開く。中には果実やマンドラゴラらしき干物、そして人間が一人入っていた。

 

「この人ですか?」

「はい。捜索願いが出されてた人物と一致します。クロ、背負ってくれ」

「ガウ」

 

クロは棺から死体を取り出し肩に担いだ。すると周りのゴブリン達が一斉に騒ぎ出す。

 

「うるさっ!なんだよもう急に!」

「生贄に手を出されて怒ってるんだろう。火があるから襲っては来ないと思うが……どうします、イツキさん」

「とりあえず様子見で、おれが先頭を歩きます。クロさんはおれの傍から離れないでください。カブルーさんはリンシャさんの援護。他のメンバーは背中合わせでゆっくりと出口まで向かいましょう」

「え、なんでよ魔法でどかーんと派手にぶっ飛ばせばいいじゃん」

「ここはゴブリンが掘った巣穴。ヘタに魔法を放てば崩落の危険があります」

「…それもそっか」

 

納得したミックベルはナイフを取り出して臨戦態勢に。イツキに言われた通りの陣形のままゆっくりと出口に向かう。

 

静かになったゴブリン達のせいで、人の足音。呼吸音。装備が擦れる音しかしなくなった。

 

「あと少し」

 

そしてそのまま一本道に辿り着いた。

 

「おれが殿を代わります。そのまま早足で出口に向かいましょう」

「気を付けてね」

 

しばらく歩き続け、巣穴から無事脱出した一行。リンシャはかいた冷や汗を拭った。

 

「よし、脱出しましょう」

 

そう言って、イツキが火を消した瞬間。森の方からナイフや斧を握りしめたゴブリン達が叫びながら猛スピードで迫ってくる。

 

「うわ周りにもいたの!?」

「下がって!私がやる!」

「あっ」

 

リンシャは呪文を詠唱。強力な雷をゴブリン達に浴びせる。数体のゴブリンが丸焦げになった。

 

「よしっ」

「まだだ!更に四体!」

 

カブルーの言う通り奥から四体のゴブリンがやってくる。もちろんそれらも武器を持っていた。

 

「私が「おれが行きます」ちょっと!」

 

イツキは姿勢を低めにして走り出す。手に持った剣でまず一体を縦振りで倒す。続いて斧を振りかぶってくるゴブリンを蹴りで押し出し、横振りで真っ二つに。更に二体同時にナイフで突いてくる。

 

イツキはゴブリンの死体に剣を刺し片方のナイフ持ちに放る。怯んだゴブリンと突っ込んでくるゴブリンに分かれ突っ込んでくるゴブリンを剣のリーチ差で突き刺す。素早く抜き、怯んで倒れたゴブリンに上から剣を逆さ持ちにして突き刺した。

 

しばらく構え続け、追撃を警戒するもその気配は無い。イツキは血を払い剣を仕舞った。

 

「ふう。怪我はないですか?」

「無いよー」

 

ミックベルが手をひらひらさせながら笑顔で返事する。対してリンシャは不満げだ。

 

「別に、私の魔法で事足りたと思うんだけど」

「更にいうなら剣士で事足りた、です。魔法は貴重ですからここぞという時に使わないと」

「うん。イツキさんの言う通りだ。リンシャは切り札だから、いざと言う時まで待機しててほしい」

「……ふん。分かったわよ」

 

拗ねた様にも見えるが、そうではない。リンシャはイツキの警告を受け入れていた。

 

「じゃあ、蘇生するね」

 

ホルムはクロが置いた死体に蘇生魔法を施そうとする。しかしそれは飛んできた矢によって中断される。素早く反応したイツキが防いだためホルムに外傷は無い。

 

「その死体、おいてってもらおうか」

 

森から人間が数人現れる。覆面しているため顔は分からないが、だれもが筋骨隆々だ。

 

「死体回収屋…!」

 

「そうだ、それは俺たちの獲物」

 

獲物。とまで言いかけた男を筆頭にその背後にいた人間達は一瞬にして業火に包まれる。火を放ったのは、イツキ。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛!?」

 

服や装備、人体は燃え盛り四肢は崩れていく。呼吸すら出来なくなっていった彼らは次々と倒れ伏した。放っておけば、そのうち炭すら残らないだろう。ミックベルは恐る恐るイツキに声を掛ける。

 

「イ、イツキ…?」

「リンシャさん」

「は、はいっ」

 

「これがいざという時、です」

 

キンっ。と剣を収めながらにっこりと笑うイツキにゾッとするリンシャ。カブルーは内心「(こういうところだよなぁ…)」とうなずいていた。

 

微妙な空気のまま一行は迷宮を脱出。死体は一階で蘇生し依頼主の元へ送り届けた。

 

そして、酒場でカブルー一行と食卓を囲む。

 

「いやあ最初はちょっとどうかと思ったけど、まあ自業自得だよね」

「というか、話には聞いてたけどイツキの炎本当に凄いね。あそこまでサラマンダーが張り切ってるの初めて見たよ」

 

「いやあ。それほどでもありますよ」

「なんじゃそりゃ」

 

ハハハと笑うイツキとミックベル。

 

「カブルー、イツキはもうパーティに入れないで」

 

人間の焼死体を初めて見たリンシャはげっそりとしていた。

 

「う、うん」

 

その後、リンシャは一ヶ月ほど肉料理が食べられなくなった。

 

*1
特別出演の武藤○戯

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