異世界ダンジョン飯   作:一般通過炎竜

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第二十三話『人魚姫』

 

今日の迷宮調査を開始してから実に八時間が経過。

 

「くそ、おいライオス、本当に大丈夫なんだろうな!?」

「ああ、作戦通りに頼む!」

「信じるしかなさそうですね!」

 

一行はピンチに陥っていた。その理由を語るには迷宮調査が四階に達し湖に辿り着いたところから話を始めなければならない。

 

一行は三階にある魔法陣の封印作業をあらかた終わらせ、次に四階へ向かった。

 

「ライオスさん、前にシーサーペントの特殊個体は倒しましたけど、次は何が出るんでしょう」

「うーん、クラーケンとか…魚人辺りかなあ」

 

ライオスの言葉を聞き、センシはレシピを考え出す。

 

「クラーケンとはなんだ?」

「あれ、センシ知らないのか?」

「うむ。初めて聞いた」

「クラーケンは…イカのような魔物で、とにかく図体が大きいのが特徴、かな」

 

クラーケン。正式名称をジャイアントクラーケンと言い、タコやイカに似た巨大水棲魔物。迷宮内でも一、二を争うほど図体が大きい上に表面は固い筋肉で覆われており、並の攻撃ではビクともしない。

 

シーサーペントと迷宮四階の死因NO.1の座を良く争っている。

 

「え、タコじゃないですか?」

「どっちでもいいっつーの、さっさと魔法陣探そうぜ」

 

ファリンとマルシルで湖を渡るための『水上歩行』を掛けていく。そこで、センシが例の魔法嫌いを炸裂する。

 

「いやじゃーっ!」

 

謎の見苦しい舞を披露し水上歩行を拒否するセンシ。

 

「なんでよっ、別に危ないものじゃないよ」

「お前達は呪い(まじない)に対して軽率がすぎる!」

 

「こりゃもう種族間の諍いだな。どうにもならん」

「じゃあ…おれとシュローさんでセンシさんを担いで行きます?」

「接敵したら共倒れになるぞ」

「ですよね」

 

「…ドワーフとはここまで魔法嫌いなのか?」

「いや、性格だろ。私は気にしないし」

 

「とにかく、わしにはわしのやり方がある」

 

そう言い、センシは水面近くにしゃがみこみ持ってきた干し肉を水に漬ける。

 

「なにを?」

「しっ」

 

しばらく待つが、特に変化は無かった。

 

「むぅ…やはり人が多いからか」

「なにか待ってたんですか?」

「ケルピーだ。名をアンヌと言う」

「え、ケルピーで…もしかして背に乗って移動するつもりなんですか?」

「そうだ」

 

イツキはチラリとライオスを見る。ライオスはセンシの隣に行き腰を降ろす。

 

「センシ。魔物は懐かないよ。特に愛嬌のあるやつは」

 

ライオスは金剥ぎ時代のころを思い出す。迷宮四階に到達し、仲間が金の査定を行っている最中暇だったので湖の方を見た。そして、そこにはケルピーがいた。

 

「(ケルピーだ…うわあ。カッコイイな)」

 

ケルピーはライオスのことを見つめながら、ゆっくりと近づいて行く。そして目と鼻の先まで近付いたケルピーは人懐っこくライオスに頭を近付けた。

 

「な、撫でて欲しいのか?」

 

ライオスはケルピーの頭をゆっくり撫でる。ケルピーは鼻を鳴らしそれに甘える様な態度をとる。

 

「感激だなあ…魔物とこんなにも仲良くなれるなんて」

 

の、乗れるかな?とも思ったライオスはケルピーの背の方をチラリと見た。それをケルピーが感じ取りゆっくりとライオスが乗りやすい様に沈む。

 

「の、乗れって言ってるのかな?」

 

ライオスは辛抱たまらずケルピーの背に跨る。そして、ケルピーはゆっくりライオスを乗せたまま水中に入っていく。

 

「あ、あれっ?俺は水中じゃ息出来なごぼぼぼぼ」

 

「兄さーんっ!?」

 

丁度そこを兄の姿が見えず探していたファリンが見付け、持っていたモーニングスター(鉄のトゲトゲが付いた殺意しかない棍棒)でケルピーの頭を砕き、事なきを得た。

 

「あれから俺は魔物とは相容れないものだと確信したんだ」

「お前バカだバカだとは思ってたけど芸術的なバカだな」

 

ナマリのセリフに前にその話を聞いていたイツキも口に出さずとも同意した。

 

「センシさん。おれの話を聞いてくれますか?」

 

イツキは語る。己の信仰。信仰というよりはイツキの病的なそれと言った方が良いかもしれない【八百万の神】について。

 

八百万の神とは、神道における神の名前。実際に八百万いるわけではなく、数え切れないという意味である。

 

普段自分達が意識していない、大気や水、地面、草、木々。ありとあらゆるものには【神】が宿ると言われ、信仰されていた。

 

特に食物には多く宿り、【七神氣】と呼ばれるものもある。それは一粒のお米には七人の神が宿るというもの。それぞれが水、土、風、虫、太陽、雲、そしてつくり手を司る。

 

イツキは幼少期『なんかかっこいい!』という理由で八百万の神を信仰していたが、どんなカタチであれ信仰は信仰。精霊はそれに応える様にイツキに魔法を行使させていた。

 

「おれ達はそうやって、普段から神々…こっちでいう精霊に感謝を込めながら生活します。おれ自身実はそこまで信心深かった訳じゃないんですけど、それが実在する精霊であると分かってからはそう思うようになったんです」

 

「大昔から、それこそまだ人が神と認識する前からの信仰」

 

「それは、センシさんの言う積み重ねと似た様なものじゃないですか?」

「む、むう……確かに、そんな信仰があるとは初めて知った」

「おれはその信仰心から精霊に感謝を捧げながら魔法を使います。おれの『水上歩行』ではダメですか?」

 

そう言い、イツキはセンシに頭を下げる。それにセンシは応える。

 

「うむ。すまんイツキ、わしが頑固だった」

「いえ。こちらこそありがとうございます」

 

イツキは『水上歩行』をセンシに施し、センシは自信たっぷりに水面に足を着ける。

 

否、着けられずに沈んだ。

 

「なんでっ!?」

 

ライオスとナマリに引っ張られ陸にセンシを上げる。

 

「なんで水上歩行が効かなかったんだろ…」

 

マルシルはぺたぺたとセンシの身体を触り調べていく。そして、一番の特徴である髭に触れた。

 

「うわっ何これ絶縁体!?」

「色んな魔物の脂や血が混ざってるな」

「いやーっ!早く洗ってよ!」

 

「お、おれ男向けの強めの石鹸あります!」

「わ、私お湯沸かすね」

 

ファリンが加熱式の魔法陣を設置している間、イツキはセンシの髭を細かく手ぐししていく。

 

「がっちがちに固まっちゃってる…」

「お湯出来たよ」

「ありがとうございます」

 

イツキはセンシが熱に耐性があるのを知ってるので髭にお湯を直接かけ、石鹸を泡立ててからゴシゴシ洗う。

 

「ぜんっっぜん泡立たない…!」

「頑張れイツキ。お主なら出来る」

「ありがとう、ござい、ます……っ!」

 

石鹸を付けたり流したりを繰り返し力いっぱい全力で洗い続けること三十分。やっと泡立つようになった。さらに洗い続け髭はピッチピチになった。

 

「つ、疲れた……」

「あとは私に任せて!」

 

多少清潔感が出たところでマルシルにチェンジ。火の前でゆっくりと櫛を通し乾燥させた。

 

結果。センシの髭はふわっふわになった。

 

「おー、もこもこ」

「やってる場合か」

 

いけね。とイツキは再び水上歩行をセンシに施す。

 

「浮いてるーっ!」

「よっしゃ!」

 

イツキはセンシに抱きついて喜ぶ。

 

「よし!それじゃあ先へ進もう!」

 

一行はそれから魔法陣を探しつつ休憩所の安全を確保する。しかし、とてつもない違和感を全員が覚えた。

 

「なんで、こんなに魔物いないんでしょう…」

「前みたいにシーサーペントが暴れてんのか?」

「かもしれないな…本当に静かだ」

 

「………………」

 

「チルチャックさん?」

 

チルチャックの様子がおかしい。目に光は無く、ボーッとある方向だけを見つめていた。

 

「マズイ。チル!チルチャック!!」

 

ライオスはチルチャックの耳の傍で何度も手を叩く。ハッとしたチルチャックは息を切らす。

 

「はあっ……はあ……わりいライオス。助かった」

「ライオスさん、ひょっとして」

「ああ、人魚だ。危険だが耳栓を付けるしかなさそうだ」

 

人魚。人の上半身に魚の下半身を持った亜人。彼女達は歌で人を魅了し水中へ引きずり込む。対策にはハーフフットを連れていくか耳栓を付けよう。

 

「お、おい……あれ」

 

チルチャックが指指した方向。そこには数多くの魚人が一人の、いや一匹の人魚の歌に酔いしれていた。

 

「la〜♪」

 

その人魚は赤い鱗に赤い瞳。金色のウェーブかかった長髪。細すぎず太すぎない玉体。そして貝殻に守られたとても大きな乳房が特徴の

 

「いやもっと特徴あるとこあるだろ」

 

彼女の頭には王冠があった。黄金時代のものか、少なくともそれも相まって彼女は『お姫様』に見える。

 

全員一旦歌が聞こえないところまで退避し作戦会議を開く。

 

「人魚姫、ってことですかね」

「人魚の特殊個体か…魚人と人魚は意外にも敵対してる。歌さえなんとかすれば…」

 

そして、彼女が座っている岩には例の魔法陣が。

 

「どうする?流石にあの量を一遍には…」

「おれの炎も水中じゃ威力が下がります」

「…………よし。あれを使おう」

 

「「あれ?」」

 

そして冒頭へ戻る。シュローやナマリとマルシルそしてチルチャックは魚人達の相手を。そしてライオス、イツキ、センシ、ファリンが人魚姫の元へ走る。

 

人魚姫は声量を上げ魚人達に命令を下す。ライオス達に襲いかかってくる魚人達をセンシとファリンで対応。センシは斧で、ファリンは閃光魔法で魚人達の目を眩ませた。

 

イツキはライオスを信じ耳栓を外し視界外の攻撃に備える。

 

そして、ライオスの奇策が炸裂する。

 

la〜〜♪la〜〜↑〜〜↓〜〜*1

 

「いや美声のわりに音痴!?」

 

ライオスの奇策とは、人魚姫の歌に自分の歌を被せかき消すというものだった。一見マヌケにしか見えないこの作戦。意外にも機能したようで魚人達は急に萎えて退散していった。

 

人魚姫は慌てて歌い続けるが、ライオスも負けじと歌い続ける。

 

そして、人魚姫の前にイツキが立ち塞がった。

 

人魚姫は最後の抵抗で精一杯全力の命乞いをする。身体をくねらせ胸を強調し、瞳を潤わせ人差し指をいじらしく噛む。

 

「おれが魚人だったら惚れてたよ」

 

イツキは人魚姫の首を長い金髪ごと斬り落とし、この戦いはライオス一行の勝利で終わった。

 

 

「…イツキ、ああいうのが好きなの?」

「誘い受けか?ああいうのは店とかにしかいねーぞ」

 

「うるさいですね!!」

 

*1
アニメのやつ。あれ笑わなかった人いる?





落ち着いて聞いてくだい。感想が200件を超えました。

流石に震えたよね

ちょくちょくランキングチラ見するとこの小説があったりするのでビビります。やっぱみんなダンジョン飯好きなんすねぇ〜
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