地下五階。黄金城を抜けた先にある城下町。かつて栄華を誇っていた町はいまや魔術や人為的な破壊活動により歪み、しかしそれでも賑やかであったであろう痕跡を残す。
ライオス一行は何度か地下五階にまで到達しているものの、異変が起きてからは来たことが無かった。
そしてライオス達が城下町に足を踏み入れた途端、チルチャックは遠方から戦闘音を察知。
「地下五階で戦闘…多分オークだぜ、これ。それっぽい雄叫びも聞こえる」
「魔法陣の封印には彼らにも協力を仰ぎたいところだが…難しいだろうな」
「オークにならわしは何人か知り合いがおるぞ」
えっ。とライオスはセンシの方へ向く。ヒョイッと片手を上げたセンシがいた。
「ほ、本当か?」
「ああ、そこの族長とは旧知の仲だ」
「族長…って、もしかして前に話してくれた口下手な?」
「そうだ」
オーク。人間と猪型の魔物を掛け合わせた様な亜人種。男女共に大柄な体格が基本であり、一見太っているように見えるが殆どが筋肉であり体脂肪率も低い。
特徴としては彼らはトールマンからしたら変わった美醜の審美眼を持っており、エルフやハーフフットなど細かったり小さかったりするものを醜いと感じる。
また、オークには角が生えている者もいるが、それは本来生えている物では無くボーン・インプラントと呼ばれる歯科技術に近いもので、魔物の骨などを分厚い頭皮の下に埋め込み自然回復を待つと、角が出来上がる。
序列が高いものほど、立派な角を作ることが許される。
「もしかしたらわしの知り合いかもしれん。様子を見るだけでもいいから近くに行ってみてくれんか」
「うーん…どうする?みんな」
「おれはいいですけど…」
「私も、いいよ」
イツキとファリンが同意後、渋々チルチャックも同意し結局全員で向かうことに。
近付くほど激化していく戦闘音。そして曲がり角を右に曲がり、そこにいる存在にライオスとイツキは目を奪われる。
まずはオーク達。槍や棍棒を持った彼らは十数人いたが、誰もが傷付き悪戦苦闘を強いられている。
そして、一際目立つ圧倒的存在感を放つ魔物。
緑の鱗。長い首に蜥蜴の様な顔。大地を踏みしめる四肢は巨大で力強く、そして一番の特徴である巨大な翼。
「グ、グリーンドラゴン……!!」
グリーンドラゴン。緑竜とも呼ばれる生物界頂点の竜の一種。見た目に違わずその動きは機敏で素早く相手を翻弄し、竜の特徴である炎のブレスで獲物を消し炭にすることができる。
そして、そのグリーンドラゴンが一人のオークに向けてブレスを準備していた。
「ゾン!!」
「
「ファリンさん!マルシルさん!」
「ーっ!防護魔法をイツキとその前方に展開!」
「イツ…ッ!?」
イツキは既に走り出していた。
本来、迷宮に住むオーク達は冒険者にとって討伐対象であり、逆にオーク達も冒険者を殺す。
なぜイツキが走り出したかというと、それはセンシの『ゾン』という名前を呼んだ焦った声。件の族長なのかそれは分からないが、少なくともセンシの顔見知りである事は確かだ。
それはイツキが正義感を燃やすには十分過ぎる理由だった。
イツキは負傷して膝をついているオークの前に立った。
「な、人間…!?」
「伏せて!」
イツキは前方、竜の正面に剣を構え防御結界を展開。しかしそれはファリンやマルシルが扱うそれとは比べ物にならないほど脆く小さい。
それを理解していたイツキは瞬時に炎を展開し、放出。イツキの炎は射程こそ短いものの威力や破壊力だけは一丁前に強力であり、それはグリーンドラゴンの炎を押し出すほどである。
しかし脆弱な防御結界と炎だけではグリーンドラゴンのブレスを全て防ぐ事は不可能。そこでイツキは事前にファリンとマルシルに声を掛け、それを汲み取ったライオスが二人に防御魔法の展開を指示。
結果、三重に展開された防御魔法とイツキの炎でグリーンドラゴンのブレスを防ぐ事に成功。
「早く走って!!」
イツキは負傷したオークから離れる。竜の標的が自分にあることを理解していた。
ブレスが終わったことを見た前線戦闘組は竜の前に立ち塞がる。
これはグリーンドラゴンだけではなく全ての竜種に言えることだが、彼らには超強力なブレスがある代わりにそれを連発することは出来ない。
長距離を全速力で走った短距離陸上選手がその後水泳が出来ないように、生物である彼らにも息切れがある。
「うおおおお!!」
ナマリとセンシは斧をグリーンドラゴンの手足に振り下ろす。しかし殆どが鋼の様な鱗によって防がれる。が、それは折り込み済み。二人は炎を使ったイツキの代わりにターゲットを自分にした。
しかし、グリーンドラゴンは二人を無視し翼で上昇。風圧で二人は飛ばされてしまう。ライオスは二人を起こし、指示を続ける。
「翼を狙え!」
「『
マルシルの五発同時展開の爆発魔法はグリーンドラゴンに見事命中。グリーンドラゴンは地面に墜落し、なんとか起き上がる。
「シュローさん!怯ませるんであとお願いします!」
「分かった!」
イツキは剣に再び魔力を充填。飛び上がって力いっぱい思い切り炎剣を叩きつける。剣から迸る業火にグリーンドラゴンの肉体は傷付き、倒れる。
「はっ!」
隙を逃さずシュローが逆鱗に刃を突き立てる。そしてすぐさま退避。竜の生命維持に多大な影響を及ぼす血管に致命的な損傷を負ったグリーンドラゴンは少しのたうち回った後、絶命した。
「や、やった…!」
「こんの…大馬鹿野郎っ!!」
「いっだぁっ!?」
チルチャックの小さい拳がイツキの脳天を貫く。防御魔法は既に切れていたのでまともに食らったイツキは思わず涙目になる。
「なにするんですかチルさん!」
「なにすんだはこっちのセリフだクソボケ!ドラゴン相手に正面から突撃する馬鹿なんざ初めて見たわ!!」
「そうしなかったらあのオークは黒焦げでした!」
「オーク助ける為に命燃やす冒険者がどこにいんだ!」
「ここにいますけど!?」
「あーそうかいもう一回ぶん殴ってやるからそこ座れ!」
ギャーギャー騒ぎ続ける二人を尻目に、オーク達の回復を済ませたファリンはメンバーの回復に勤しんでいた。
「怒るタイミング逃しちゃった」
「ま、チルがあそこまで怒ってくれるならイツキも理解出来るだろうさ」
「全く…三児の親父はうるさくてしょうがないね」
「はは、チルチャックらしいじゃないか」
「え、あの子供に子供が?」
悪態をつくのもその理由は心配だから。それを理解しているメンバーはなにも言わなかった。一人チルチャックの、というよりハーフフットの生態を知らないセンシは困惑したが。
「て、お前…両手爛れてるじゃねーか!?」
「…え?あ、ホントだだだだだ痛っだぁぁーっ!?」
「このドアホーっ!!」
アドレナリンが切れたのか、イツキはのたうち回って痛みを訴える。すぐさまファリンが回復に取り掛かる。
「セ、センシ…」
「おお、ゾン族長。無事か?」
「ああ、俺は問題ない。他のやつらも、金髪の人間が癒してくれた」
ゾン族長。メリニの迷宮に住まうオーク達の族長であり、センシの旧友。
「なぜ、ドラゴンと戦っていたのだ?」
「やつが下の階から上がって来たんだ。迎撃する他無かった」
本来グリーンドラゴンなどの竜種は地下六階かその下で生息する。
「あの少年に礼が言いたい。彼がいなければ、俺は消し炭にされていた」
「今は…ちょっと待った方が良さそうだの」
回復しながらも未だ騒ぎ続ける二人。はたから見たら子供同士の喧嘩。それを見たゾン族長と他のオークは笑うしか無かった。
しばらくして二人とも落ち着きを取り戻し、正座しているイツキの前にゾン族長と他数十人のオークが頭を垂れていた。イツキはドラゴン戦より緊張していた。
「命を懸けた救出、感謝する」
「あ、あの…助け出したのはおれだけじゃなくて他のメンバーもなんですけど…」
「しかし、あの場で一番に動いたのはお前だ」
「そ、そうでしたっけ?」
たははと笑うイツキ。あまりにも圧巻な光景に笑うしか無かった。
「本当に、感謝する」
「…はい。感謝を受け取ります」
もはや受け取るしか選択肢は無かった。そしてそんな光景の傍でテンションをぶち上げている人間が三人。
「おおおお!改めて見ると本当にカッコイイなグリーンドラゴン!!」
「兄ちゃん兄ちゃん!見てこの牙!服なんてちょっと触れただけで切れちゃった!」
「ドラゴンの料理が作れるぞー!!」
言わずもがな、ライオスとファリンとセンシだった。
「あの、ゾン族長」
「なんだ」
「ご飯、作りませんか?おれお腹空いちゃって…」
「……はっはっは!ああ、喜んで!」
そして、ライオス一行とオーク達によるグリーンドラゴン解体作業が始まった。
「本当に我々も鱗や牙を貰っていいのか?」
「ああ、食えんしな」
「こんな量全部持ち帰れないしな」
帰還魔法があるのに素材を持ち帰り切れないのか?そう思った者も少なくないはず。
実は帰還魔法には条件が厳密に定められている。*1
それは術者の力量にもよるが、転移先が密室であることだったり、重量制限だったり、通る人間の数だったりと様々だ。
今回の場合重量制限。牙や爪などは一部持ち帰れるが全部となると膨大な魔力を消費する。それはマルシルが誇るエルフの魔力量でも一人では不可能だ。
加えて転移門を開きっぱなしにも出来ない。展開する時間が長ければ長いほど魔力を消耗するからだ。
話を戻そう。ドラゴンの素材は捨てるところがない。肉、鱗、爪、牙、眼球、内臓。涎にすら値段が付く。
「どうするか…やはり王道にステーキか、それとも…」
「センシさん。実はこんなものがあったりするんですよ」
イツキは鞄から片栗粉と薄力粉、そして胡椒を取り出した。
「片栗粉、薄力粉……唐揚げか!」
「はい!流石に全部は無理ですけど、沢山作りましょうよ!」
イツキの提案により唐揚げが決まり、他にもステーキやパン粉もあったのでハンバーガーやチキンサンドならぬドラゴンサンドを作ることに。
「と、言うかこの量を流石にこの人数では食いきれまい。ゾン族長、他のオークも連れて来ると良い」
「ああ、避難させた女子供に、あと俺の妹にも食わせてやりたい」
ともあれまずは解体から。筋肉逞しいオーク達にも手伝ってもらい解体作業は進んでいく。
「鱗を抜きにして皮だけでも硬いな……!」
「よし、ここはわしがやろう」
センシが取り出したるは伝家の宝刀。センシが片時も手放さず一日も欠かさず手入れをしてきた包丁。
「おい、おいおいおいおい。ちょっとその包丁見せてくれいや見せろ」
ナマリの様子が急変する。センシは包丁を渡さず見せるだけに留めた。
「こ、この艶…独特の刃紋…匂い…ま、まさか…ミ、ミス、ミスリル?」
「うむ。この世にふたつとないかも知れぬミスリルの包丁だ」
ミスリル。アダマントよりも遥かに貴重である鉱石。鉱山ひとつ崩して一欠片見つかるか分からないほど数が少なく、取引額は億を下らない。
ナマリは速やかに意識を手放した。
「ナ、ナマリーっ!」
マルシルがナマリを支える。ナマリは真っ白に燃え尽きていた。
それはさておき、言い出しっぺのイツキは唐揚げを担当。
解体してもらったドラゴンの肉を一口大に切り分ける。オークもいるのでその分の肉は大きめに。
切った肉に下味を付ける。今回はしょうゆ。にんにく。生姜。酒を配合したものをまぶしていく。手を洗い、しっかりと揉みこみ味を染み込ませる。なにぶん肉が多いので手間がかかる。
「手伝おうか?戦士イツキ」
「へ?」
イツキの隣には、白の基本色とした長髪のオークが立っていた。
「初めてまして、私はリド。ゾン族長の妹だ」
リドが連れている魔狼に顔をぺろぺろ舐められるイツキ。
「わぷ、はじめまして…あ、すみません手がタレだらけなので握手は…」
「気にするな、話は兄上から聞いた。グリーンドラゴンに怯むことなく立ち向かうその様はまるで勇者のようであったと」
「リド!!」
ゾン族長が照れ気味に怒り出す。それを見たリドは大声で笑った。
「とにかく手伝わせてくれ。君の武勇伝でも聞きながら」
「武勇伝ってほど大した事はしてないですけど…」
その後、イツキは迷宮での出来事を話しながら工程を終了。仕上げはセンシに任せてゾン族長と話していた。
「人間にも、お前の様な者がいるのだな」
「おれも初めてオークと話しましたけど、話に聞いてたよりよっぽど理性的…あ、すみませんバカにしてる訳じゃなくて」
「構わん。言いたいことはわかる」
ゾン族長は酒を取り出し、杯に注ぎイツキに手渡す。
「呑んでくれ。礼の足しにしたい」
「お酒…」
もちろん、イツキは15歳なので未成年。現代日本ならば親に怒られたり警察に説教を食らうことになるが、幸いそれを咎める人間はこの世界にはいない。
いなければ呑んで良いという訳でもないが、これを断るのは流石に無礼と思ったイツキはぐいっと一気に呑み干した。
「〜〜っ……か、辛っ…!」
「ははは!良い呑みっぷりだ!」
「あーイツキずるい!私も呑みたい!」
遠くの方でマルシルが目ざとく察知。
「
「ゾン族長、彼女は貴方の思う様な人じゃないですよ」
「……まあ、考えておく」
エルフとオークの溝は深い。直ぐに埋まるようなものではなかった。
「ライオスさんにファリンさん、チルチャックさんにナマリさん。シュローさんも、おれの大切な仲間です。ぜひ、仲良くしてください」
「は。まあ、そのうちな」
「出来たぞ!皆の者食卓につけ!」
そして完成したのは、
グリーンドラゴンの唐揚げ。ステーキ。ハンバーガー。ドラゴンサンド。
どれもこれも美味しそうな香りと湯気を立ち込めている。
「最初の一口は、一番勇敢だった者に」
「異議なし」「異議なし!」
オーク達はフォークにすら触らない。これが彼らの流儀なのだろう。ライオスとマルシルはそっとフォークを置いた。
「じゃあ、いただきます」
イツキは唐揚げを一口で頬張る。サクサクの衣に溢れる肉汁。食べたことのない牛にも豚にも鳥にも似つかない、竜の味。
「うっっっま!!あ、みなさんどうぞ!」
イツキの合図で全員一斉に料理を食べ出す。
ライオスとファリンは感激で涙すら流していた。
「こ、これが…竜の味…!」
「おいひい……!」
マルシルも一口。ドラゴンサンドはオーク達が常用するスパイスで味付けされていた。
「うまっ辛っ!ううん、このスパイスお肉と合う!やるじゃんオーク!」
「へっ!
「そうだそうだ!」
などと言っているが、オーク達は笑顔だった。
「うーん、竜ってこんな味か…なんか、こう…例えが浮かばないな」
「俺はどちらかというと牛に近い様に感じるが…」
「え、私は鳥」
「わしは羊肉の様な気が…」
「「「それはない」」」
チルチャック達もそれぞれ料理を楽しんでいた。
「ほれイツキ。酒はまだまだあるぞ」
ゾン族長がイツキの杯に満々と注ぐ。透明で呑みやすい良い酒だが、オークが常飲する酒。アルコール度数は結構高い。
「んぐ…ぷあっ!唐揚げと合う!」
「呑めー!歌えー!」
オーク達による大合唱。踊り、かくし芸。死地となっていた地下五階はあっという間に宴会場へと変貌していた。隠れていた幽霊達も、影へと帰る。
「ひっく…ほらーゾン族長!もっと腰使って踊れー!」
「よしきた!」
「あはははは!」
顔を真っ赤にして完璧に酔っ払ってるイツキはゾン族長の匠の腰つきに笑いが止まらない。
「イツキのやつ笑い上戸か。一緒に呑みたくねーな」
「そんなこといって、もう呑んでるじゃん」
「うるせーな」
イツキはふらふらと千鳥足でファリンの元へ。
「おーファリンさん、呑んでます〜?」
「呑んでるよ〜」
「へへ、よかったぁ〜」
「やーん♪」
イツキはファリンの膝に横になる。手付きも地味にいやらしい。
「おいイツキのやつセクハラか?」
「イツキー!それ以上は許さんぞー!」
「あははは!みんな呑めー!」
その後宴会も終わり日を跨ぎ、休憩所でファリンが目覚めると、そこには地に頭を埋める勢いで滝汗をかいて土下座をしているイツキがいたとかいなかったとか。
マルシルの魔法それっぽいのないかなーって近いものを探してたらルーン文字ピッタリじゃね?と思い採用。英語をルーン文字に変換するサイトなんて最高に便利なものがありました。