「と、言うわけで。我々は現在この『来訪者』を探している。なにか知っていることはないか?」
島主の館にライオス一行は呼び出され、タンスからエルフの女王からの件を聞かされた。
タンスがこの島にいる冒険者でライオス達を一番信頼しているが故だ。
ライオスはチルチャックをチラリと見る。
チルチャックは何も語らず「黙ってろ」の顔をしていた。
なぜイツキを庇うのか、それはエルフにはあまりにも多くの悪評があるからだ。長命種故か、それとも人柄か定かではないが。
通説がある、罪を犯しエルフに捕まり尋問される場合。彼らは他短命種にくらべ時間感覚がかなり違う。
「前の話の続きがそれ?ふぅん…じゃあ二年後にまた聞くね」
などざらにあり、エルフに捕まるのは短命種からすれば終身刑を意味するとか。
今回は犯罪者として尋問される訳では無いが、エルフのことだ。きっとなにかあると思ったチルチャックはそう判断した。
「なにか心当たりはあるか?」
タンスはイツキを見て言う。しまった!とチルチャックは思って声を掛けようとするも、既に遅かった。
「い、いやぁ…なんにも知りやせんね?」
真島イツキは嘘があまりにもヘタである。今だって目は泳ぎすぎだし冷や汗はダラダラだし口笛まで吹いてる。もはや芸術的だ。
「…なにか、知ってるんだな」
「…はい」
観念したイツキは自白する。チルチャックは顔を手で覆った。
仕方がないのでタンスにも異世界について説明する。
「にわかには信じ難い…が、あの女王が直接名指しで探しているのだから、まあ嘘ではないのだろうな」
タンスは冷静さを保つ。故に、この事実を告げるのに躊躇ってしまう。
「タンス。あれを告げていないぞ」
「…分かっております」
手紙には続きがあった。
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来訪者をこちらに引き渡すのならば、今そちらで起きている迷宮の異変について関わらないとも約束しよう。
特殊個体。それと魔法陣だったかな?
すでにカナリアを待機させている。迅速な返事を期待する。
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「カナリア?あの鳥の?」
イツキが分からないでいると、タンスから説明が入る。
「カナリア隊。西方エルフで構成された迷宮調査、及び鎮圧を目的とした部隊だ」
カナリアは正式名称ではなく俗称だが。とも付け加えるタンス。島主が話を続ける。
「つまりカナリアの突入は迷宮の封鎖、破壊を意味する。そうすれば迷宮にまだある財宝を手に入れる手段が無くなる。なればそれに集まる冒険者、商人全てが路頭に迷う。子供一人引き渡してそれが免れるというのなら安すぎる話だ」
島主はふんぞり返ってイツキに指をさす。
「さっさとエルフの元へ行ってこい!逃げても無駄だ、エルフには私から全てを話そう!」
その発言の途端、イツキ以外のライオス一行の空気がピリつく。ライオス、ファリンに至っては交戦態勢に入りつつある。
「ライオスさん」
それを、当の本人であるイツキが止める。ライオス達は力を抜く他なかった。
「おれ行きますよ、エルフ達の国へ」
「イツキ……それは、理解した上で言っているんだな?」
シュローはイツキの肩に手を置く。その顔は悲哀に満ちていた。
「はい。大丈夫です。パッと行って、パッと帰ってきますよ」
「イツキ…」
ファリンはイツキの手を握る。その手は微かに震えていた。
そこで、ナマリが前に、島主の前に出る。
「島主さんよ」
「…ふん、忌々しいドワーフがなんの用だ」
島主とドワーフ族は例のナマリの父親の着服事件以来険悪を極めていた。
「イツキを差し出すんならこっちにも条件を出させてもらう」
そして、ナマリはイツキの腰あたりを手で掴み自分の方へ引っ張る。
「イツキを連れてくんなら、私たちもだ!」
ライオスもそれに続く。
「ああ!イツキは俺たちの大事な仲間、家族だ!そう簡単に明け渡すか!」
ナマリとライオスの言葉に突き動かされ、島主の前にライオス一行全員が立ち塞がる。
当の本人は泣きそうになり頬を引っ張って耐えていた。
チルチャックが島主の前に躍り出て大袈裟に話を続ける。
「イツキはウチの前衛かつ最高戦力でね。抜けられて帰ってきませんでしたなんて事になったらウチの火力はだだ下がり。そうなれば、俺たちは迷宮調査は辞める。そんな危険な事せずとも本土には仕事が山程あるだろうさ」
「そうすれば、島は一番迷宮を攻略しているメンバーを失うことになる。他の冒険者は頑張るだろうな、そのうちドラゴンに殺されるのがオチだろうが」
チルチャックは島主の机に勢い良く片足を乗せる。
「アンタが決めるんだ!迷宮を捨てるか!迷宮調査を先延ばしにして必死こいて女王と交渉するか!」
「ぐぅ……!」
島主はストレスと交渉に弱い。それをチルチャックは知っていた。イツキはチルチャックへ改めて尊敬の念を抱く。
「あ、あとでゆっくり考え」
「ダメだ!今決めろ!さあ、早く!!」
チルチャックの怒号は館中に響き渡る程だった。島主はタンスを見る。本来であれば補佐であるタンスが口を挟むが、タンスは何も言わなかった。
「ぐ……ぬぅ…………………………わ、分かった。女王と交渉しよう。来訪者を連れていくにはそのパーティメンバー全員も着けろ、と。そ、それでいいんだろ?」
「ついでに良い船で迎えに来いとも言え、酒も良いものをな」
「あ、俺のお付きの五人分も追加で頼む」
「わ、分かった……」
さりげなく条件を追加したシュローと、やりぃ。とチルチャックは指を鳴らしてライオス達の元へ戻る。
「島主さん」
イツキは前に出る。島主はもはやしょぼしょぼの犬の様な顔をしていた。
「絶対帰ってきます。そして、迷宮にまた行きたいです。お宝だって沢山見つけますよ」
「ああ………分かった」
そして、その場は解散となった。
数日後。再び島主の館にやってきたライオス一行。タンスの書斎にて全員集まっていた。因みに島主は疲れとストレスで寝込んでいる。
「女王からの手紙が届いた」
「手紙にはなんて?」
「そちらの要求を飲み、丁重に迎え入れるとさ」
タンスは皮肉気味に笑う。イツキ達は大いに喜んだ。
「迎えは三日後に来るそうだ。それまで準備しとけ」
「はい!タンスさん、ありがとうございます!」
島主さんにこれ渡しといて下さい。とタンスはイツキからドライフルーツの詰め合わせを受け取った。
全員で酒場に戻り、しばしの別れとして宴会を開くこととなった。
「えっ、センシさん行かないんですか!?」
「うむ。迷宮の管理を怠ってはならんからな」
「そんな…」
イツキは目に見えて落ち込む。そんなイツキの肩にセンシは優しく手を置いた。
「お主らがいない間、部屋の管理もやっておこう。安心して帰ってこれる場所を作るのがわしの役目だ」
「…はい、すぐ帰ってきます」
「安全に行くのだぞ」
そして、酒場に一人の男がやってくる。
「イツキ!」
「あ、カブルーさん」
「聞きましたよ、中央に行くって!本気ですか!?」
「はい、じゃないと色んな人に迷惑が掛かるみたいですし」
「〜…っ!………はぁ、まあ止めても無駄だよな。そういう人だ、貴方は」
カブルーはさりげなくイツキの隣に座りドリンクを飲み始める。
「じゃあ、一つだけ。もし向こうで困ったことが起きたら、中央第六区域に住むミルシリルというエルフを尋ねるんだ」
「ミルシリルさん?」
「俺の養母なんだ。俺の名前を出せば協力してくれる。そういう旨を書いた手紙も送っとく」
「養母さん…分かりました、頼りにさせてもらいます」
夜は更け、どんどん人が集まってくる。主に酔っ払いが。性別種族問わず、イツキの元へ挨拶にやってくる。
強面のノームがやってきたり
「聞いたぞイツキ!中央に収監されるって!?」
「収監じゃねーですよ!」
おちゃらけた顔をしたハーフフットがやってきたり
「おいイツキ!中央に行く前に貸した金返せよな!」
「借りた覚えもねーわ!」
「バレたか!」
妖艶な女トールマンもやってきたり
「ねえイツキ?西方エルフも良いけど私も良いよね?」
「はい。美人だと思いますよ」
「落ち着けファリン。そのモーニングスターを置け」
楽しい時はあっという間に過ぎていく。宴会は終わり、三日後。イツキ達は武装はしていないものの、大荷物を持って約束の時間に港へ訪れた。
そこには、豪華絢爛な客船が止まっていた。
「お、思ったより派手なので来たな…」
要求した本人が引くほど豪華だった。そして、客船から一人のエルフが降りてくる。
「異世界からの来訪者イツキ殿、そしてライオス殿とその御一行で宜しいですか?」
「あ、はい」
「申し遅れました。私は『パッタドル』という者です。今回は女王拝命の元、あなた方を無事に中央へ送り届けます」
「お願いします。パッタドルさん」
「貴殿が来訪者殿で?」
「はい」
「お会い出来て光栄です」
パッタドルとイツキは握手を交わす。では、こちらへ。とパッタドルは船へ通し、船内を案内するも内心穏やかではなかった。
「(な、なぜ…女王拝命のカナリア隊である私がこんな役目を…女王はいきなり私にこの命を授けました。なにかダメなところがあったのでしょうか…)」
「(お父様、お母様、私の何が……………さっぱり思いつかない。いや、逆に私がカナリアで優秀だから選ばれた?)」
「(ありうる。だってカナリアに続いてこれも女王直々の拝命。とんでもなく名誉な事よ?)」*1
「(女王のご期待に応えるためにも、この使命。果たさなくては!私、頑張ります!)」
「大丈夫か、あの姉ちゃん」
「表情がコロコロ変わって面白い人ですね」
改めて一行は船内へ。
「お、おぉ…外もすげぇけど中もすげぇな…」
チルチャックは己の審美眼を存分に発揮。飾られている調度品。敷かれているカーペット。そもそもの壁や床の材質。それら全てが一流の物だった。
「こちらが皆さんのお部屋がある通路です」
イツキは近くにあった部屋を何気なしに開けてみると、そこは二人部屋ではあるものの、もはや語るに及ばない程美しい部屋だった。
「ここ、お金払うとしたら幾らくらいになるんだろ…」
「王族や貴族御用達の客船ですからね。一部屋大体200万ゴールドです」
マルシルの何気ない質問にパッタドルはすぐさま反応する。マルシルはあまりの金額に少しふらついた。
一通りの説明を済ませ、再び甲板へ戻ってくる。
「では、出港致します。宜しいですか?」
「はい、お願いします!」
そして、船はイツキ達を中央へ運び出す。慣れ親しんだメリニとの暫しの別れ。出港してからしばらくして思うことあったイツキは海を眺めていた。
「イツキ、ここにいたんだ」
「なにしてんだ」
パッタドルのススメでドレスを着たファリンと忍び装束のイヅツミがイツキの元へやってくる。
「初めてこの島を出るもので…感傷に浸ってました」
イツキの髪と着ている服の裾が波風で靡く。覚悟を決めた戦士のそれに見える。
「ふふ、船は初めて?いや、私もこんな豪華なのは初めてだけどね」
「初めてです、思ったより快適でおろろろろろろろ」
「イツキー!?」
「酔ってただけかよ!!」
遠くで見ていたパッタドルは、本当に大丈夫だろうか……と再び不安になっていた。
みんながパッタドル出せって言うから…(言ってない)