異世界ダンジョン飯   作:一般通過炎竜

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前回のアンケートを見てなんとなく考えた結果、本編に関係あるオマケは本編に、本編に関係ないオマケ(そのうち書きたい学パロとか掲示板ネタとか)は後書きにしようかな、と思います。

まあ後者の方は構成すら練ってない完全にやれたらいいなぐらいなんですけどね?


第三十五話『飴と鞭』

「で、私を師に?」

「はい」

「何故だ」

「おれが今まで会った中で一番強い人からです」

「私になんのメリットが?」

「一応、手土産にこれを…」

 

イツキは紙袋からワインを取り出した。女王選抜の結構良いお酒であり、中々にイツキの財布にダメージを与えた。

 

「…………まあ、いいだろう」

「ありがとうございます!」

 

「…隊長多分なんでも良かったよな」

「だろうね」

 

先日女王ヘイメアにミスルンを師にして力をつけた方が良いと言われ、善は急げと翌日イツキはミスルンの元に訪れていた。

 

「とりあえずお前がどの程度動けるか見るぞ」

「はい!」

 

「あれ、結構やる気?」

「いやぁ…多分仕事のウチだと思ってるんじゃない?女王の紹介らしいし」

 

そこからは一日全て費やしての体力テストのようなものが行われた。

 

「走れ」

「はい!」

 

イツキは100mを10.53秒で走りきった。記録は魔法で限りなく正確に行われる。

 

「登れ」

「はい!」

 

垂直15mの壁を短剣で登る。記録は13.57秒。

 

「跳べ」

「はい!」

 

模擬戦場での走幅跳で7m12cm跳んだ。

 

「泳げ」

「はい!」

 

水泳で50mを22秒54で泳ぎきった。

 

「倒せ」

「はい!」

 

模擬戦用ゴーレムを魔法無しで倒す。コアを見付け迅速に破壊。手傷を負ったものの20秒21で倒した。

 

「遅い。手傷を負うな」

「は、はい!」

「次だ」

「はい!」

 

その様子を建物からフレキとリシオンがサンドイッチを咥えながら見ていた。

 

「うへー…昼飯時だぞ?まだやってら」

「隊長の訓練厳しすぎるから誰も受けたがらないしな。これは試験だけど」

 

そして、まだまだ続く体力テスト。

 

「素振りしろ」

「はい!」

「耐えろ」

「はい!」

「模擬戦だ。そこに立て」

「はい!」

 

この調子で試験は朝から始まり既に夜中になっていた。イツキはボロボロになるも、まだ目は死んでいなかった。

 

「…まあ、いいだろう。教えを請いたい時に来い。私は基本あの基地にいる」

「はい、ありがとうございます……!」

 

ミスルンはイツキの元を去っていく。

 

そして、ミスルンの姿が見えなくなってからイツキは地面に倒れ伏した。

 

「つ、疲れた…」

 

そこにパッタドルが建物から出てきてイツキの傍へ。しゃがんでイツキの様子を伺う。

 

「イツキ殿、大丈夫ですか?」

「な、なんとか…」

 

パッタドルはイツキに肩を貸し歩き出す。顔を赤くしながらも健気に運ぶ。

 

「とりあえず今日はもうお風呂と食事をしてからこの建物でお休みください。メンバーの方には私からお伝えしますので」

「は、はい…ありがとうございます」

 

その後食事を済ませ、パッタドルから着替えを受け取り風呂場へ案内される。

 

「で、では私はこれで、メンバーの方々にお伝えに行ってきますね」

「はい。お願いします」

 

パッタドルはパタパタと早足でその場を後にする。イツキは風呂場の扉を開け脱衣所に。そこで服を全て脱いで近くにあった大きめの鏡が目に入る。

 

「うわ、傷だらけだな。治したとはいえ結構跡残るな……まあいいか」

 

治癒術の練度が高ければ傷跡も残らないが、イツキにそこまでの治癒術は扱えない。治るだけ有難く思う事にしてイツキは風呂場の戸を開ける。

 

中は壁に囲まれて天井が開いており、露天風呂になっている。中央には大きめの岩があってそこから湯が流れていた。

 

そして、湯は白濁色。効能というか掛かっている魔法は疲労回復に治癒だ。お肌にも良いと女性にも人気である。

 

「どういう仕組みなんだこれ…魔法?」

 

ペタペタと岩を触るも、なにかの魔術式が書かれていること以外あまりの疲労に調べる気も起きなかった。

 

イツキは岩の向こう側、風呂場の奥の方へ向かい岩を背に腰を降ろす。風呂の湯は熱すぎずぬるすぎず、程よく心地いい湯がイツキを包む。

 

「はぁー…っ……ほんと疲れた」

 

寝ちゃいそうだな。と思っていると、風呂場の扉が開かれる音がした。そしてペタペタと歩く複数の音。

 

「(他のカナリアの人かな…)」

 

居合わせると気まずいなぁなんて思っていると、その入ってきた人間の声を聞いて絶句する。

 

「っしゃー!風呂だ風呂ー!」

「飛び込むなフレキ!!」

「あまりはしゃがないでもらえる?」

 

上からフレキ、オッタ、シスヒスの声だった。

 

一瞬にして緊張感に包まれるイツキ。迷宮攻略中のそれと変わらない程だった。思わず一瞬顔の作画が核の炎に包まれた世紀末格闘漫画に変わる程に。

 

「(な、なんであの三人が…!?)」

 

実はカナリア隊基地の風呂は男女交代制なのだが、パッタドルがうっかりして女風呂の時間にイツキを入れたのが全ての元凶である。

 

普段真面目な彼女がするにしては珍しいミスだが、そもそも男を風呂場に案内するという経験が無かったパッタドルはかなり緊張していたので仕方のないミスとも言える。

 

「ぶはーっ!うめーなこの酒!」

「オヤジかお前は」

 

酒でも呑んでいるのだろう、フレキの声とオッタの声は丁度イツキが背にしている岩の裏から聞こえる。

 

「にしてもよー、あのー…なんだっけ、あのガキンチョ」

「イツキのこと?」

「あーそうそうイツキなー!アイツ根性あるよなー隊長の訓練とか死んでも御免だ」

「結構苦労してそうだったけど…まあ自分から言い出したんだ。そういう子は長続きするよ」

「さすがは短命種コンプレックス(ショタコン)。良く理解してらっしゃる」

「私はショーターじゃないしアイツは男だろ!!!」

「声でっか」

 

そのような会話が聞こえてくる。イツキは出来る限り息と気配を殺す。

 

「(と、とりあえず……あの三人が出るまでここに…)」

「そんなことしたらのぼせない?」

「い、いや。さすがにまだ入ったばかりだしそんなすぐには……あ?」

 

自分は誰と話してる?そう思ったイツキは横に目をやると、そこにはタオルで髪を纏めてお湯の温度で頬が紅潮しているシスヒスが座っていた。

 

「な……っ!?むぐご!?」

「んー?シスヒスー?なんか言ったかー?」

「いいえなにも?気のせいじゃないかしら」

 

イツキはシスヒスに口を塞がれ身動きが取れなくなる。シスヒスの柔らかい身体に破壊力がありすぎるとある部分が全力で形を変えながらイツキにくっついている。

 

ファリンや女王で鍛えられたさすがのイツキも動揺を隠せなかった。二人は小声で向こうに聞こえない様話し出す。

 

「凄い傷……それに意外と筋肉あるのね」

「な、なんでおれの場所が…!?」

「え?脱衣所に服があったじゃない。あの二人は気付いていなかったけど」

「…………確かに」

 

一瞬冷静になるも、シスヒスは更に距離を縮める様にイツキの背に回り肩に顔を置く。

 

「悪い子ね、覗きなんて」

「い、いや!そんなつもりじゃなかったんです…!」

「(まあ大方パッタドルのポカね)ええ〜、本当に?」

「そりゃ信じられないでしょうけど…てか近過ぎません!?」

 

シスヒスはイツキを背中から抱き締めて逃がさない様に拘束する。抜けようと思えば抜けられるが怪我をさせる訳にもいかないイツキは多少抵抗を見せるもシスヒスには無意味だった。

 

「うふふふふふ、逃がさないわよ」

「な、なぜ…!?」

「え、楽しいから」

「性格良すぎるでしょうが……!!」

 

 

「ねえ、イツキ。貴方なんでそこまで頑張るの?」

 

突然、シスヒスは真剣な声色で語りかける。

 

「貴方はまだ未成年。貯金だって迷宮攻略で稼いだお金で成人して暫くは保つ筈よ?」

「なんでおれの預金残高知ってるんですか」

「ナイショ♡」

 

イツキはゾッとしながらも、質問に答える。その表情は真剣そのものだった。

 

「地力を付けたい。自分がどこまでやれるのかみたい。色々ありますけど、根底にあるのは恩返しです」

「恩返し?」

「はい、色々あっておれはこの世界に来てから初めて会った人にお世話になってたんですが、まだおれはその恩を返しきれてないですから」

「ファリン・トーデンとそのお兄さんのこと?それなら、もう十分返せたんじゃないかしら」

「なんでその二人の事を?」

「ナイショ♡」

 

イツキはため息をついた後、静かに語り出す。

 

「……おれは、命を拾われました」

 

「そして、まだ生きてます」

 

「それ以外に理由がいりますか?」

 

イツキはシスヒスの顔を見る。イツキの瞳の中にシスヒスの顔が映り込む。シスヒスは大きく見開いて目の前の少年を見る。

 

シスヒスは今まで色々な男と出会った。騎士。商人。貴族。領主。仕事柄シスヒスが相手をするのは私腹を肥やす薄汚い連中ばかり。

 

シスヒスはその手合いを一番に嫌悪し、憎悪すら抱く女性だ。

 

ミスルン隊長に出会ってからはお気に入りになる男の好みが分かった。

 

それは、信念を貫く人。

 

シスヒスはイツキから離れ、立ち上がった。イツキは全力で目を逸らす。

 

「そう。そうなのね。貴方も……」

「も?」

「こっちの話よ」

 

そこで、脱衣所の方から物凄い足音と共に扉が開かれパッタドルが姿を現した。

 

「イツキ殿ー!!申し訳ありません時間を間違えてしまいまして!!ご無事ですか!?」

「は?イツキなんていな……おい、シスヒスどこいった?」

「……まさか」

 

「イツキさんならここにいるわよー?」

「ちょっ……!?」

 

シスヒスはイツキを岩の裏から引っ張り出す。幸い下はタオルで隠していたため大事には至らなかった。

 

「ぴゃあっ!?」

 

パッタドルは脱衣所の方へ戻って行った。フレキはニヤニヤしながらイツキに肩を組む。もちろん全裸だった。

 

「おいおいおいやっぱり男の子だなぁ?」

「すみません本当にすみません勘弁してください!!」

「お、おおお前!?私の裸はタダじゃないぞ!?」

 

意外にも乙女な反応をするオッタは岩の裏に隠れて行った。

 

「ふふ…アッハッハッハ!」

 

シスヒスは心の底から笑う。いつぶりだろうか、こんなに笑ったのは。そう思えば思うほど面白い程笑いが止まらない。

 

風呂場はシスヒスの笑い声とイツキの悲鳴で埋め尽くされ、しばらくしてから気絶したパッタドルを担いだフラメラによって救出された。

 

「お前、あの子を揶揄うのも大概にしないと未成年淫行でとっ捕まえるぞ」

「イツキさんそろそろ成人だから問題ないんじゃないかしらー?」

「お前なぁ……」




書きたかったお風呂回とシスヒスのお話。

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