異世界ダンジョン飯   作:一般通過炎竜

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暴竜にボコボコにされたので初投稿です。


第四十一話『海坊主』

「四階…なんか、雰囲気変わりました?」

「い、いや…大体三ヶ月くらい前に来た時は普通だったんだが…」

 

絶品巨大ミミックを食した次の日。ライオス一行は迷宮地下四階へ訪れていた。しかし、やたらと濃い霧が出ていたりでおどろおどろしい空気が漂っている。

 

「なんか…霊的気配が凄いね」

「そうなのか?」

「水場だからですかね…」

 

ファリンは生まれつき霊感が強い。そのせいで故郷で迫害を受けていたりしたのだが、今は語る時ではない。

 

今となっては自慢の霊感を強く意識する。う〜んとしばらく唸り続けていると、いきなり顔を上げた。

 

「あっち!なんか…なんか…黒くて大っきい気配を感じる」

「じゃあ、それを避けるルートで行くか」

 

一瞬卑猥な妄想をしたチルチャックの頭をナマリが引っぱたき、マルシル達は全員に水上歩行の魔法を付与する。

 

「刃魚や魚人達の姿も見えん。まるで怖がっているようだ」

「すごい幽霊…って事ですかね?」

「うぅ…寒い…」

 

両手を抱いて寒がるマルシルに、イツキは外套を羽織らせる。

 

「ありがとう……イツキくんは平気?」

「おれは大丈夫ですよ」

 

やるねぇ色男。とナマリが揶揄う。

 

「ゔゔん!そ、それにしても、なんで四階って街が水没してるんですかね。五階は普通なのに」

 

誤魔化す様に話をすり替えるイツキ。それにファリンが反応する。

 

「なんでだろ…よっぽど見られたくないから?」

「水をここに引かなければならない理由があったとか?」

「防衛の為か?」

「じゃあもう全部水没させときゃいいじゃねぇか」

 

ナマリの発言にマルシルが答える。

 

「いや、そんなことしたらダンジョンが水精霊過多で多分死んじゃうし…食物連鎖や魔力の流れ的に水場はどうしても必要だったから、かな」

「随分詳しいな」

「元々そういうのを研究してるからね」

 

雑談しながら霧が出ている中しばらく歩き続け、湖の中心地点までやってきた。

 

「ホントになにも…ん?」

 

そこで、地面、正確には水面がグラグラと揺れ波が起こる。

 

「な、なんだ!?」

「チル!なにか聞こえるか!」

「聞こえねぇし見えねぇ!警戒しろ!」

 

全員がそれぞれの武器を手に取ったところで、一番先頭にいたライオスの目の前の水面がどんどん盛り上がってく。

 

「た、退避!」

 

大慌てでその場から離れる一行。そして、水面を揺らしていた正体が判明する。

 

それは、全身水で下半身が水で埋まっている人型の魔物だった。問題はそのサイズ。

 

「デカー!?」

「昨日見たぞこの流れ!?」

 

体長10mはあろう巨人の様な魔物。目は二つある様で、頭部でギラギラと赤い色が輝いている。そして、更に雨まで降ってきた。勢いは強く、前がどんどん見辛くなっていく。

 

「雨!?室内だぞ!?」

「魔法で出来た迷宮だから、なにが起きても不思議じゃないよ!」

 

「嵐…人型…まさか、海坊主か!?」

「知っているのかシュロー!?」

 

ライオスはシュローに詰め寄る。かなり興奮しているようだ。

 

「ああ、東方にいる船を遮る妖怪だ!だがあちらのは実体がある!コイツは近縁種かなにかか!?」

「分からん!海坊主なんて初めて聞いた!詳しく頼む!」

「言ってる場合か!来るぞ!」

「受け止めきれん!避けるのだ!」

 

海坊主の拳が一行を襲う。幸い図体が巨大であったが故に動きが鈍いため、全員避けることに成功した。飛び散った水飛沫が身体に当たって水上歩行魔法が発動し水を弾く。

 

「水上歩行付けてるから攻撃無効化説は!?」

「無いです!水上歩行はあくまで水を弾く効果で無効じゃありません!あれ程の質量をぶつけられたら水と水に挟まれて大変なことになります!」

 

イツキは既に属性付与していた剣から炎を放出。海坊主を攻撃するもケロッとしていた。

 

「やっぱりみずタイプにほのおタイプは相性が悪いか…!」

「雷魔法は!?」

「ダメ!みんな感電しちゃう!」

「物理攻撃が効くか試す!」

 

シュローが攻撃。鋭い剣筋は海坊主の身体を切り裂くも、直ぐに元通りになる。

 

「ダメか…!」

「衝撃で身体を保てなくさせてみる!『ᛖᛪᛈᛚᛟᛋᛁᛟᚾ(爆発魔法)』!!」

 

マルシルの五点同時攻撃の爆発魔法で海坊主の身体は弾け飛ぶ。

 

「やった!?」

「いや、まだだ!」

 

しかしみるみるうちに再生していく海坊主。そして再び海坊主の攻撃。相変わらず鈍いため回避には成功するも、チルチャックはある事に気付く。

 

「な、なんか周りどんどん水に囲まれてるぞ!?」

「まさか……海坊主の足か!?タコみたいな触手状の足なのか!」

 

ライオスが言った通り、海坊主の下半身である二本の触手により円形状にどんどん囲まれていく一行。

 

「どうする!?魔法もダメ、物理もダメ!逃走も無理!お手上げだぞ!?」

 

「みんな!私の話を聞いて!」

 

ファリンの声に全員が集中する。

 

「多分あの海坊主、幽霊の集合体!水の中から凄い霊気を感じる!」

「幽霊…!なるほど、実体が無い訳だ!」

「だから私があの中、海坊主の体内に突っ込む」

「なるほ……なに!?」

 

「私なら幽霊達を散らす事が出来るよ」

 

海坊主を見つめるファリン。それにライオスが待ったをかける。

 

「ダメだ危険過ぎる!マルシルの爆発魔法で足を攻撃しつつ逃げた方が…!」

「いくらトロくっても水の上じゃあの子から逃げる事は厳しいよ、兄さん」

「おれが炎魔法を最大火力でぶつけます!そんなことする必要は…!」

「それが効かなかったら?イツキ、あの炎の剣使えるのあと1回くらいでしょ?魔力切れになったら誰も対抗出来なくなるよ」

 

「〜〜…っ!分かった、ファリン。このロープを腰に巻け。なにかあったらすぐに引っ張るからな!」

「ありがとう兄さん」

「ファリンさん……!」

「大丈夫だよ、心配しないで?」

 

チルチャックはファリンの腰にロープを巻き付けていく。マルシルは心配した表情でファリンの服の裾を掴む。

 

「ほ、ほんとに大丈夫なの?」

「大丈夫だよマルシル、私に任せて」

 

「ナマリ、私を思いっきり海坊主に投げて」

「無茶言うな全く…!」

 

ナマリは丸まったファリンを持ち上げ、助走を付けて思いっきりぶん投げた。ファリンは海坊主と当たる直前に水上歩行を解除。ファリンは海坊主に呑み込まれた。

 

ファリンは僅かに目を開け、周りを見る。そして、その幽霊達の正体を見た。

 

「(やっぱり…子供ばっかり)」

 

時間が無くライオス達に伝える事が出来なかったが、ファリンは海坊主の体内にいた幽霊達の気配が一つ一つは微弱であることに気付いていた。幽霊達は苦悶に満ちた表情でファリンを見つめている。

 

「(もう…大丈夫だよ)」

 

ファリンは魔力を解放。優しい暖かな光が幽霊達を包み込む。そして、幽霊達は心做しか表情が柔らかくなりどんどん霧散していった。

 

成仏をした訳では無い。彼らは迷宮の主に囚われている魂。いずれ復活するだろう。それでも、この一瞬は救われたのだ。

 

「お、おい…海坊主が崩れてくぞ!」

 

海坊主はどんどんただの水になっていく。ギラギラと光り輝いていた赤い瞳もその光を失い、そして完全に水に戻った。

 

そして海坊主が水に戻った事でファリンは湖に沈んでいく。

 

「引っ張るぞ!」

 

ライオスはロープをファリンの負担にならない程度の力で引っ張る。しかし、途中で急に軽くなった。

 

「な、なんで…!?」

 

慌ててチルチャックは水中の様子を伺う。そしてその正体を見る。

 

「クソっ!魚人共だ!この騒ぎを聞きつけやがったんだ!」

 

見ると魚人はロープを切り、ファリンを水中に引き摺りこもうと近付いていた。

 

「ファリン!!」

「おれが行きます!」

 

イツキは重い荷物を手放し剣を持って水上歩行を解除。ファリンがいる水中まで泳いでいく。

 

イツキはファリンの周りに群がってきた魚人達に向かって魔法を放つ。

 

「(失せろ魚共!テメェらが触れていい人じゃねぇ!)」

 

それは炎魔法ではなく、属性魔法でも無い。

 

カナリア隊副隊長フラメラが得意とする剣を何本も実体化させ宙に浮かべ操る魔法。それの初心者向けである、既に実体がある剣を宙に浮かばせ操るものだった。

 

炎精霊が多すぎて他属性が使えないイツキにとってこれが限度であった。

 

イツキの手から離れた二本の剣は次々と魚人達を襲う。当たりこそしなかったが、まさかの水中での外敵に魚人達は驚いて逃走。イツキはファリンを抱えて水面へ浮上する。

 

「ぶはっ!」

「よくやったイツキ!」

 

ライオスは浮かび上がったイツキとファリンを水面へ上げる。すかさずマルシルが水上歩行の魔法をかけ直した。

 

「ファリンさん…ダメだ、息してない!」

 

ファリンの口からは水が垂れていた。気道に水が詰まったのだろう。

 

イツキはファリンを横にして気道確保の体勢をとり鼻を摘む。そして躊躇することなくファリンの口に自分の口を付けた。

 

マルシルが小さい声で「きゃっ…!」と言ったが、状況が状況であるため自分の口を閉じた。

 

イツキは息を気道に吹き込んで胸が膨らむのを確認。口から離れ息を確認。まだ自力で出来ていない為再度口を付け息を吹き込む。

 

何度か繰り返したところで、ファリンが息を吹き返す。

 

「げほ、えほっ、げほっ!」

「ファリン!」

「ファリンさん!」

 

「イツキ…マルシル…?」

 

ファリンはボーッとした表情で意識を取り戻す。ライオスがファリンの頭をこれでもかと撫で回した。

 

「あうあうあううう?」

「全く!心配させるな!」

 

安心しきった表情になるライオス。それは他メンバーも同様であった。

 

「一時はどうなることかと思ったぜ」

「全くだ」

「肝を冷やした…」

「二人共冷えただろう。ライオス、休憩処を探そう。身体を温めなくては」

「ああ、急ごう」

 

体調が悪いファリンをナマリが背負い湖から離れる。

 

休憩所を見つけ、マルシルは布で仕切りを作ってからファリンの衣服を脱がし、イツキがつけた炎魔法で暖を取る。魔法の炎であるため火口による煙が出ず、熱のみなのが利点だ。

 

「あったかーい…」

 

マルシルは裸のファリンに毛布をかけ隣に座る。そしてファリンに抱きついた。

 

「もう…ほんと心配したんだから」

「ごめんね。あの子達を解放してあげたくて」

「あの子たち?」

 

ファリンはマルシルに海坊主の正体を説明した。

 

「そっか…だからあの時あんなに張り切ってたんだ」

「うん」

「でも、もうあんなマネやめてね…」

 

マルシルは泣きそうな顔でファリンを見つめる。ファリンはマルシルの頭を撫でた。

 

「うん、もうしないよ」

 

「あー、ちょっとよいか?」

 

仕切りの向こうからセンシの声が聞こえる。

 

「センシ?どうしたの?」

「刃魚を釣ってきた。あら汁でも作ろうかと思うんだが、食欲はあるか?」

「食べます!」

「そうかそうか、では少し待ってなさい」

 

センシはまな板の上に刃魚を置いた。そして包丁で刃のヒレを切り落とし、包丁の背で鱗を取っていく。

 

「こう見るとまるっきりただの魚ですね。トビウオだ」

「内蔵もほぼ普通の魚。毒も無いし美味いぞ」

 

魚の下処理と完全に同じ方法で刃魚を捌いていく。下処理が終わったあらをお湯に投入。強火で煮込んでいく。

 

ある程度煮込んだらあらを取り出し、魚の出汁たっぷりのお湯に味噌を多めに入れる。少しだけでは魚の風味に負けてしまうからだ。

 

お椀を取り出しあらを入れ、味噌汁を注ぐ。

 

「完成したぞ!『刃魚のあら汁』だ!」

 

「マルシルさん、ファリンさんの服乾いたので渡して上げてください」

「ありがとね」

 

イツキから受け取ったファリンの衣服を手渡す。着替えたファリンは並んでいるお椀に入ったあら汁に目を輝かせた。

 

「いただきます…あちっ、ふふっ、美味しい!」

「それはよかった」

 

にっこりと笑うセンシ。その隣に何故かファリンに背を向けたイツキもあら汁を飲んだ。

 

「ほんとだ、なんだか安心する味ですね」

「やはり味噌だな」

 

イツキの言葉にシュローが同意する。そこで、ファリンは疑問を口にする。

 

「なんでイツキ背中向けてるの?」

 

ファリンのその言葉にチルチャックとナマリが吹き出しそうになる。

 

「あーえっとぉ…なんでだろうね?分かんないやぁ〜」

 

マルシルもファリンから目を逸らして誤魔化そうとする。もちろん嘘だとバレていた。

 

「イツキ…イツキ?」

「な、なんですか?」

 

「顔が見たいよ、こっち向いて?」

「ぐぅ……はい」

 

観念したイツキはファリンの方へ身体を向き直す。その顔は林檎みたいに真っ赤になっていた。

 

「?」

 

なんのこっちゃと首を傾げるファリン。そこで、ライオスのノンデリぶりが発揮されることとなる。

 

「ああ、ひょっとして人工呼吸したの気にし 危なっ!?」

 

イツキは思わずライオスにあら汁を丁寧に置いてから蹴り掛かった。

 

「ライオスさん…流石のおれでも怒りますよ…!!」

「あ、ああ悪かった悪かった!」

 

「これイツキ、食事中に喧嘩はいかんぞ。ライオスも自分の発言には気をつけろ」

「「はい……」」

 

二人揃ってセンシに怒られたため大人しく座る。

 

「イツキが助けてくれたんだ?」

「ま、まぁ……すみません、咄嗟とはいえ、キ、キスなんて…」

「全然気にしてないよ。命の危機だったんだし。それに…」

 

ファリンは自分の唇に人差し指を当て、にこりと微笑んだ。

 

「イツキなら、いつでもいいよ?」

 

熱くなったイツキの顔が更に熱くなる。それを指笛で揶揄うチルチャックとナマリ。イツキは立ち上がろうとしたがセンシに止められた。

 

「覚えてろよ二人共…!」

 

その後、迷宮から脱出し酒場で酒を呑もうとした二人から酒を強奪したイツキがいたとか、いなかったとか。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

オマケ。フラメラとの訓練。

 

「今日は三日間寝ずに過ごしてぶっ倒れたバカに代わって私が訓練を施す」

「また寝てなかったんですか…」

「ああ」

 

睡眠欲が無いミスルンは度々こういう事故が起こる。隈などで判断するしか無いが、本人は至って無表情なので判別し辛いのが難点である。

 

「今日は臨時故、まあ息抜きだと思え。私の魔法は知ってるか?」

「確か、剣を浮かべるあのカッコイイやつですよね?」

「カッ……ま、まあカッコイイかは別として、武器を浮かべるのは結構便利だ。なにかしらトラブルで剣を手放してしまった時とかしゃがまずにすぐ拾えるからな」

 

少し顔が赤くなったフラメラは剣を机の上に置く。

 

「ひとまず、これを浮かばせてみるんだ」

 

イツキは目の前の剣に魔力を集中。カタカタと剣が震えるも浮かぶ気配は無い。

 

「ふんっぬぎぎぎぎぎ……!!!」

 

あまりにも力み過ぎて顔がえらいことになってるイツキを見てフラメラは吹き出した。

 

「はははっ!前途多難だな」

 

それでも、最終的に二本操作出来る様になったのは、ひとえにフラメラの魔術的センスと教え方がよかったのだろう。

 

フラメラは教職の道も有り得たかもな、と皮肉気味に笑った。

 

 




オマケ短くてすまん。

ここすき、コメントお待ちしております!
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