「ゾンさーん!お久しぶりです!」
「おお!久しいな!てっきり死んだかと思ったぞ!」
ライオス一行は四階の魔法陣封印をあらかた済ませ、再びオーク達が住まう五階の街道エリアに訪れていた。
ライオスは比較的オーク達がイツキに対して物腰が柔らかいのを知っていたので、まずイツキを先頭に五階を探索していた。
そしてオーク達に見つかり、最初こそ敵対したものの一人のオークが「知ってる匂いだ!」と発言。戦闘することなくオーク達の集落へ再び訪れる事が出来た。
「ゾンさん。なんか雰囲気変わりましたね」
ゾン族長は角が増え、豪勢な毛皮のマントを羽織っていた。
「あれからここも魔物が増えてな、我々も強くならざるを得なかった。襲いかかってくる魔物共を倒していくうちに…まあ、今となってはこの扱いだ」
ゾン族長は座っている立派な魔物の毛皮や剥製で出来た玉座を叩く。戦士としても族長としても彼は成長したようだ。
「ふふ、もうおれがドラゴンの前に立たなくても良さそうですね」
「はっはっは!次は俺が出よう!ドラゴンの炎がなぞ恐るるに足らぬ!」
そこで、ゾン族長の元に一人のオークがやってくる。
「おお、本当に勇者殿ではないか!」
「リドさん!……その勇者ってのやめません?」
「ははは、相変わらずだな君は。勇気ある者としてこれ以上相応しい名前は無いだろうに」
ゾン族長の妹、リド。彼女もまた研鑽を積んだのだろう。防具や装飾が立派になり額には一本の小さい角があった。
「えっと、お二人揃った事ですし…実は一つ相談がありまして」
「「聞こう」」
イツキは自分達の目的、特殊個体の討伐と魔法陣の封印について説明する。場所を移動し、普段オーク達が話し合う為に使っている部屋にライオス達、ゾン族長、そしてその妹のリドが同席している。
「魔法陣、だと?」
「ああ、俺達は依頼でその魔法陣を破壊しているんだ」
「最近、単独で強い魔物が湧いたりしませんか?それはあの魔法陣の影響なんです」
リドはイツキの言葉を聞き合点がいったのか、腕を組む。
「赤いのはアレの影響だったのか」
「この階層にもあるはずです。知ってる範囲でいいので、それを教えて欲しいんです」
「お願いします」
イツキとライオスは頭を下げる。ゾン族長とリドは目を合わせ、少し笑う。
「いいだろう。おい!地図を持ってこい!」
「ありがとうございます!」
ライオスは持っていた迷宮の地図を出す。
迷宮の地図。かつてここメリニの迷宮は人間の手によって地下五階まで探索され、大まかな地図が作られた。
しかし魔物に敗れたり欲を出し六階まで行った人間は帰ってきたことがない。
「いいか。ここが今我々がいる集落だ。幸い集落の周りに魔法陣は無い。しかしこの宿場跡と、噴水広場、そしてこの教会跡にあったのを遠方から確認している」
「遠方…なにが魔法陣を見張ってるんですか?」
「宿場跡にはドライアドの群れ、噴水広場には赤い大グモとその群れ。そして教会跡には霊が大量に集まっている」
「ファリンさん、地下五階に来てから霊って見ましたか?」
「見てないよ。多分、その教会に呼び寄せられてるのかも」
「霊共は厄介だ。物理攻撃が効かん上に壁や天井をすり抜ける」
「撃退じゃなく、魔法陣破壊を優先した方が良い」
チルチャックはライオスの肩に手を置く。
「ライオス、どれからやる?」
「そうだな…危険度で言えばトップはドライアド。そして大グモ。霊は正直ファリンとマルシルでどうにか…」
「霊が特殊個体になっている可能性は?」
「どうだろ…霊は魔物と違って元人間だし、前回の海坊主はエネルギー源として取り込まれただけだったから…」
「よし、近場のハーピーの方からやろう」
ひとまずこの場は解散することに。ゾン族長とリド、そして大勢のオーク達に見送られ、探索へ。
『マザーハーピー』
「いやデカすぎだろ」
「翼小さいし、あれじゃあ飛べないじゃないか」
「まさか羽根一枚一枚操って攻撃してくる魔法タイプだったとは…」
「図体に似合わない技巧派でしたね…」
『アラクネクイーン』
「人間っぽい上半身で下半身が蜘蛛!?最高じゃないか!!」
「なんで女王って名前付いてる人はいつも上裸なんですか!!」
「いつも、ってなに?」
「はわわ」
『車輪骸骨』*1
「前のと違って体格は普通だな」
「なんで車輪なんて背負ってるんでしょう」
「なんか転がってきたぞ!?」
「ぐわーっ!?」
「ライオスーっ!?」
ライオスが重症を負い、仕方ないのでオーク達の集落へ戻ってきた。
「うーん…何故か攻撃を食らってる間なにも出来なくなった…」
「兄さん口閉じてて、今治してるから」
「呪いかなにかだったんですかね…」
医務室としてオーク達が使用している部屋に、大慌てでリドが入ってくる。
「お前達、今戦えるか?」
「一人を除いてな」
「なにかあったんですか?」
「少々厄介なのが出た」
負傷して治療中のライオスとファリンを除いたメンバーに、リド、ゾン族長、そしてオークが数人加わって例の場所へ。
「あれだ」
ゾン族長が指さした方向は、宿場跡。植物が根を張って森の様になってしまっている。そして、その根は段々と広がっていっている。
「あれって、前言ってた宿場跡にいるドライアドですか?」
「そうだ。ドライアドとの戦闘経験は?」
全員首を振る。ゾン族長は説明を続ける。
「奴らは攻撃に自身の根を槍に変形させて使う。それだけなら問題無いが、問題は奴らの花粉だ」
「花粉?」
「ああ、その花粉が目や鼻に入った場合クシャミ、涙、鼻水が止まらなくなる」
「花粉症ってことですか」
「それの重症化したのを更に悪化させた様な症状になる。我々オークは鼻が利く。正直ここからでも鼻がムズムズして仕方がない」
リドは小さな可愛いクシャミをする。周りのオーク達がザワついて頬を赤らめた。
「いつもなら遠くから松明を投げて森ごと火攻めにするんだが、さっきお前が言っていた特殊個体とやらの性質があるのかは知らんが、火が付かなかったんだ」
ゾン族長の言葉に、センシは髭を弄りながら発言する。
「ふむ…植物は水分が多いと火が付きにくいが、そういうレベルの問題では無さそうだの」
「魔法か、それこそ本当に水分が豊富か」
「ドライアドとその特殊個体の討伐をお願いしたい。我々では手に負えん」
「はい、任せてください」
頑張れよー!と周りのオーク達に見送られながら宿場跡へ。
「それで、どうすんだ?」
「とりあえずおれの炎を小出ししながら前進して、いざとなったら魔力放出します」
イツキの言う魔力放出とは、自身の周りにある魔力を炎に変換。炎を大量放出して一網打尽にする技のことをいう。
「魔力保つのか?」
「はい。これでも強くなったんですよ?」
魔力切れを心配したチルチャックの前でイツキは自信満々に胸を叩く。そして魔法を発動。メンバーそれぞれの近くに火の玉を三個程並べる。
「自動で撃退する術式です。精度は悪いですがいざと言う時ドライアドや植物系の魔物を怯ませるには持ってこいです」
「器用になったもんだな」
「私もみんなに防護結界張っとくね。花粉に効果あるのかはちょっと分かんないけど…」
マルシルも魔法を発動。全員に肉体的損傷を防ぐ魔法を付与した。
「んじゃ、行くぞ」
イツキを先頭に一行は森の中へ。見たことも無い植物のオンパレード。センシはテンションが上がっている。
「ドライアドってどんな姿なんですか?」
「人の姿って聞いたことがあるぞ」
「ライオスがいれば早口で語り出すんだがな」
「とりあえず、花粉対策で私ら物理組は攻撃は控える方針でいいな?」
「はい」
「お、おい。あれじゃないか?」
チルチャックが指さした方向には、金髪の裸の男女が乳繰っている姿だった。
「いかん!」
「うわぁ!?」
センシはイツキを地面に伏せさせ視界を奪う。あれはドライアドの受粉光景であり男女の営みと言えるかもしれないが、センシが危惧した様な光景では無い。
『ドライアドはキスをする事で受粉するんだ!因みに男の姿をしているのが雌花で、女の姿をしているのが雄花だ!なんでだろうな不思議だな!』
以上。イマジナリーライオスの説明でした。
「なにやってんだセンシ!?」
「来てる来てる!ドライアドが来てるって!」
血相を変えたドライアドが自身の腕の根を槍に変形させ襲ってくる。
イツキの魔法が発動し、ドライアド達に向かって火の玉が放たれる。三体のドライアドに命中。他は外れた。
炎に当たったドライアドはこの世のものとは思えない絶叫を上げながらもがき苦しみ、やがて絶命した。
「うわ……なんて言ってる場合じゃない!」
マルシルは火炎魔法でドライアドを撃退。花粉は炎の熱で焼けて飛び散る事は無かった。
「いい加減に…離してください!」
イツキは背中に覆いかぶさってるセンシをどうにかずらす。鞘から剣だけが宙に浮き、その剣で魔法を発動する。
炎の剣がドライアド達を攻撃していく。阿鼻叫喚の地獄絵図の出来上がりである。
ドライアド達は全滅した。イツキはセンシを地面に下ろした。
「ったく…どうしたって言うんですかセンシさん」
「いや…すまんイツキ。わしはてっきり人間の男女がまぐわっているものかと…」
「あー…センシさん。庇ってくれたのは嬉しいですけど、流石に知ってますよ。男女どうのこうのは」
「おい、保健の授業やってる場合じゃないぜ。あれ見ろ」
チルチャックは炎で焼き拓かれた森の奥を指指す。そこには巨大な魔法陣があり、それらは植物の根で覆われていた。
イツキとシュローは一歩前に出て観察する。
「あれが今回の魔法陣ですか」
「随分と大きいな…魔法陣というのは大きさで効果が変わるのか?」
「物によりますが、基本的には効果は大きければ大きい程強力になります。単純に書ける術式が多くなるのが理由ですね」
「よし、じゃあさっさと封印しちまおうぜ」
イツキ達は炎やナイフで根を除去していく。そして、ナマリが大きめのピンク色の蕾を見つけた。
「なんだこりゃ」
そのままブチッとちぎり捨てる。その瞬間、森が大きく揺れ始める。
「な、なんだ!?」
「地震!?」
「上だ!」
チルチャックが指さした方向、森の上空。迷宮の天井に巨大なピンク色の蕾が数多くの棘が付いた植物の触手を器用に使って張り付いていた。
呼称を『プランテラ』。*2それはナマリに向かって一直線に降りてくる。
「私かよ!……さっきの蕾か!?」
なんとなく察したナマリは撃退準備。そこをイツキがカバーする。炎を直接ぶつけたにも関わらずプランテラは怯むことなくそのままナマリに向かっていく。
「あれが例の火が効かない…!やつとやつの触手が原因だったか!」
「うおりゃあ!!」
ナマリは落ちてきたプランテラをそのままかち上げる。ドワーフの強靭な肉体と日頃の鍛錬の賜物である。
そして、かち上がったプランテラをシュローが神速の斬撃にて攻撃。一瞬の内に何十回も斬られたプランテラは地面にそのまま落下した。
「やったか!?」
「まだだ!」
プランテラは触手を使い起き上がる。そしてピンク色の蕾が花開き、その真の姿を顕にする。
プランテラは触手を展開。マルシルに向かって攻撃する。
「させん!」
それをセンシが防ぐ。斧と腕に棘が付いた触手が絡む。
「凄まじい力だ…!」
プランテラは標的を変更。ハエトリソウなどの食中植物の様な二枚貝状になっている葉、捕虫葉。この場合捕人葉と呼ぶべき葉を開きイツキへ襲いかかっていく。
「『ヴォルカニックヴァイパー』!!」*3
イツキは襲いかかってくる捕人葉に炎を纏った剣を逆手持ちで斬り上げる。蕾を開いたことで攻撃性が増したプランテラだが、防御力を失っている為まともに食らうことになる。
浮き上がったプランテラにシュローが再び斬撃を繰り出す。すかさずイツキが遠隔でシュローの刀に属性付与を施す。
「ぜぇあああっ!!」
イツキが炎の刀を見てイメージしたのは『終の秘剣・火産霊神』。*4もちろんシュローは知らないので技名を叫ぶことは無かった。
炎の斬撃により一刀両断されたプランテラは倒れ伏した。
「急に火が付いてびっくりした」
「すみません、そっちの方が火力出るかと思って…」
イツキは魔法を解除。シュローは刀を収めて息をつく。
「センシさん、傷大丈夫ですか?」
「問題ない」
「よかった」
「すまんみんな。多分私がこの蕾を切ったから奴が出たんだ」
ナマリは切った小さいピンク色の蕾を皆に見せる。
「そんなの誰も分からないから、仕方ないですよ」
それより。と話を続けるイツキ。
「魔法陣封印してさっさと戻りましょう!おれお腹空きましたよ」
「わしはドライアドの実を戴いていくとしようかの」
その後、オーク達の集落に戻りライオスとファリンに出来事を報告。結果ライオスは血涙を流すこととなった。
「そういえばイツキ、技名叫ぶの解禁したんだな?」
「ナマリさん知らないんですか?必殺技は叫んだ方が気合い入るんですよ」
「成長した……のか?」
「悪化だろ」
チルチャックの鋭すぎる言葉にイツキも涙した。
ここすきと感想お待ちしてます!!