異世界ダンジョン飯   作:一般通過炎竜

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第四十三話『GAME OVER』

 

ライオス一行はオーク達との協力もあり、地下五階の魔法陣封印をほぼ完璧に達成することが出来た。

 

ほぼ、というのは未だに住んでいるオーク達ですら発見できていない隠し道などの可能性も一応あるというだけの話だ。

 

一行はプランテラとの戦闘後一度地上へ戻り、最短ルートと最小の戦闘で再び五階へ訪れていた。ひとえにマップ制作とチルチャック達の魔物回避力の賜物である。

 

「では、達者でな」

「はい。ゾンさんもリドさん達もお元気で」

「気を付けろよ」

 

ゾン族長達との別れも済ませ、一行は六階への階段の前に来る。下からは既に熱気を感じ、下にいる魔物の凶悪性を肌で感じ取ることができる。

 

「…みんな、準備はいいか?」

 

ライオスは振り返って仲間達に確認する。その顔は少し不安気だ。なにせライオスにとっても迷宮地下六階は未知の世界。ここからは全てが初見となる。

 

迷宮へ潜る冒険者の死亡の原因その実七割は初見の魔物や罠によるもの。パーティを引っ張っていくライオスにとって、初見というのはなにより恐ろしい。しかし、それを乗り越えなくては迷宮調査など夢のまた夢だ。

 

しかし、そんなライオスの心配などかき消す様に、メンバー全員の顔は自信に満ちていた。

 

そうだ。このメンバーで負ける要素など無い。そう確信したライオスは少し微笑んだ。

 

「行きましょう、ライオスさん」

「ああ、行こう」

 

そして、一行は階段を降りていく。

 

メリニ迷宮地下六階。かつて古代ドワーフが作り出した坑道を利用した地下水路であり、まるで血管の様に街の地下に張り巡らされている。

 

この場合の街、とは現在オーク達の根城である地下五階を示す。

 

かつてこの水路には様々なものが流れていっただろう。水はもちろん、人間や動物。陰謀と嘘と噂。金銀に血や臓物。武器、兵器、食器……

 

「随分と…蒸し暑いですね」

「うぅ…汗がベタベタする…」

 

地下六階に足を踏み入れた途端、まるでジャングルに迷い込んだ様な湿気と熱気に包まれる。古代ドワーフ達の機械が動いているのか、それとも別の理由なのかは今のライオス達には不明である。

 

「さて、水路の途中に出た訳だが…どっちへ進む?」

 

水路の上流か、下流か。チルチャックはライオスへ問いかける。

 

「よし、こっちから行こう」

 

ライオスが指さした方向へ進み出す。チルチャックはいつも以上に神経を尖らせて音を判別する。

 

「…?なんだお前ら、急に黙りこくって」

「い、いや。音を聴くのを邪魔しちゃまずいかなって」

「余計なお世話だよ。俺が人間の声と魔物の足音と唸り声の判別が付かないとでも思ってんのか?」

「ご、ごめん」

 

チルチャックは再び聞き耳を立てる。イツキは普段よりかは少し控えめな声で話し出す。

 

「六階って、どんな魔物が居るんでしょう」

「特殊個体が湧き出す前に到達したパーティがいたにはいたらしいが…」

 

基本的に冒険者パーティは情報をあまり共有しない。理由は簡単で、自分達の取り分が少なくなるからだ。

 

情報を共有するにはその人が要求するものを渡すか、仲良くなるのが手っ取り早いだろう。

 

現にイツキは初めて迷宮へ潜っていた頃、特にそういう意図は無かったが他の冒険者と親交を深め情報を共有してもらっていたことがある。

 

それは当時人間自体に興味が希薄なライオスには難しいことだった。

 

「兄さん、鎧暑くない?」

「大丈夫だ、ファリンこそ平気か?」

「うん、私も平気」

 

ファリンも随分と強くなった。それは戦闘だけでは無く、心や精神力といった話だ。

 

幼い頃の差別、疎外、悪意。子供の頃から既に精神力が強かったファリンでさえ辛くなることはあった。

 

そして町から最愛の実の兄にさえ告げずに逃げ出した森の中で、一人の少年と出会った。見たことも無い格好をした不思議な少年と。

 

「ナマリさんはへっちゃらみたいですね?汗一つかいてないですし」

「そりゃ、私らはドワーフだぞ?暑いのにも熱いのにも元々耐性はあるし、工房や鉱山に入り浸る様な連中だからな」

 

ナマリは快活に笑う。元々姉御肌な彼女だが、例の父親の影響で荒んでいた時期もあった。誰とでもいいから迷宮へ潜って金を稼がなければ彼女曰く面倒極まりないドワーフ特有の仲間意識や疎外感は強くなる。そうすればまともに生きることさえ難しくなる。

 

そしてナマリは出会った。自分の過去を欠片も気にしない三人の男女に。むしろ自分の罪ですら無いと言ってくれた自分より遥かに年下の男の子に。

 

「トールマン感覚で歩き続けるなよー、俺らは足が半分しか無いんだからな」

「種族的自虐は返し辛いですよ…チルさんも平気なんですか?」

「耐える方法を知ってるだけ」

 

凄いですね!と言ってくるイツキ。打算も企みも無い心の底からの尊敬。

 

自分達に向けられる視線といったら、侮辱か、蔑みか。寄ってくる女も金の目をした連中ばかり。だから自分と同じ種族の女を妻にした。勿論、愛しているのは事実だ。でなければ三人も子供を作らない。

 

何故彼女が自分の元を離れたかも分からなかった。自分なりに真摯であったつもりだ。

 

酒で弱くなり、うっかり漏らした弱音を目の前の少年に聞かれた。少年は真剣な表情で答えてくれた。

 

『きっと、チルさんと同じで不安だったんだと思います』

 

不安、誰かを信じられない心。それは自分が一番理解していたつもりだった。

 

『おれは、チルさん程素敵なお父さんは見たことないですよ』

 

聞けば、少年には両親がいないらしい。俺も焼きが回ったなと苦笑する。だからこそ再び彼女の元に戻ることが出来たと言えるかもしれない。

 

「イツキ、君こそ平気か?」

「全然へっちゃらですよ」

 

シュローさんも平気そうですね!と言ってくる。

 

自分は不器用でつまらない男だ。父親にもそう言われ、面白いものを見つけるまで帰ってくるなと言われる程に自他ともに認めるつまらない男だ。

 

武者修行の旅をした。そして一人の男に出会った。大雑把で、鈍感で間が悪くオマケに悪意が無い分タチが悪い苦手な友達。

 

その隣にいた不思議な子供。歳の割に礼節が備わっている苦労してそうな子供。同じ冒険者パーティとなり彼の話を聞いていくウチに、随分と余計な世話を焼いた。

 

笑顔を絶やさず、常に周囲に気を配り、人々からの愛情を受け入れることが出来る広い心の持ち主。正直言って妬ましかった。それでも、自分も彼ら彼女らと同じく、彼に救われたところもある。

 

臆病な自分では伝えることは出来ないだろう。それでも、彼なら全てを察しているのでは無いかと思えてしまう。

 

「マルシルさん失礼します。凄い汗ですよ」

「ああ、ごめん気づかなかった。ありがとね…ほんっと酷い暑さだね」

「冷房魔法とかあればいいんですけどね〜」

 

自分では気付かない程かいていた汗を嫌な顔一つせず拭き取ってくれる目の前の彼。

 

随分と彼には世話になっている。最初こそ自分の親友を連れ戻すために島にやってきたというのに、今では親友の兄ともそしてその仲間の彼とも親友になっている。

 

加えて、彼には自分の夢を打ち明けた。誰にも話したことが無かった野望。倫理や道徳全てを薙ぎ払ってでも叶えたい夢。

 

その為に彼を利用した。それにも関わらず彼は今と同じく嫌な顔一つしなかった。それどころか協力すらしてくれた。

 

親友の想い人でなければ、きっと私は彼の事を……。

 

「イツキ、少し落ち着きなさい。先程からウロウロしっぱなしだぞ」

「へへ…すみません、新しい場所で面白くって」

 

目の前の幼子は照れくさそうに笑う。自分より何回りも幼い子供。過去の自分と重ねて仕方がない子供。

 

庇護しなければならぬ対象。腹を空かせてはならぬ対象。

 

それは他のメンバーにも言えた事だが、この子は特にそうしなければならない。

 

かつての自分にそうしてくれた仲間達の為にも。

 

「あれ、なんだあの扉」

 

ライオスが一つの扉を見つける。随分と簡素なものであり、チルチャックのチェックにもマルシルのチェックにすら引っかかることは無かった。

 

「特になにもねぇな。さっさと行こうぜ」

「ああ、開けるぞ」

 

ライオスは扉を開ける。そこには暗黒が広がっていた。

 

「随分と暗いな…皆、松明の準備。照明魔法はまだ良い。魔力の消費は抑えたいしな」

「はい」

 

意外と魔力消費が大きい照明魔法は点けず、全員がそれぞれ松明を持ち扉を潜る。

 

「…反響音的に随分広いな。やっぱり照明は点けた方がいいぞ」

「分かった。マルシル、頼む」

「うん」

 

マルシルは照明魔法の光の玉を天井に向けて撃つ。そして光が広がり部屋の全貌が顕になる。

 

「え、なにこの壁の術式…」

 

マルシルがなにかに気付いた時。

 

全てが遅かった。

 

 

 

随分と待たせてくれたな、簒奪者共

 

 

 

底冷えする様な恐ろしく低く殺意が込められた声。その正体は、上空に浮かんでいる一人のエルフの男性から放たれていた。

 

「人間…?こんな下層に!?」

「いやありえねぇ、アイツ仲間は何処だよ。てか何で浮いてんだよ」

「え、じゃあ………まさか」

 

「狂乱の魔術師……」

 

イツキの言った言葉に、全員が武器を構え最大限に警戒する。

 

「貴様ら簒奪者には随分と苦渋を舐めさせられた。私の可愛い魔物共も随分と減らされた」

 

「しかし、それもここで終わりだ」

 

狂乱の魔術師は掌を下に向け、何かを呟いた。そして、彼の下の地面の影がどんどん大きくなっていく。

 

「奴らの尽くを焼き尽くせ」

 

 

炎竜(レッドドラゴン)よ!!」

 

 

『グオォォォォォォォ!!!!!』

 

 

影の中から巨大な竜が姿を現す。『黒い鱗』に覆われた深紅の瞳の飛竜。その瞳に映るのは己の主の害敵のみ。

 

「あれがレッドドラゴンだって!?」

「馬鹿な、レッドドラゴンは赤いウロコに覆われた地竜。翼など持ち合わせてる筈が…!」

 

「貴様らも散々滅ぼしてきたろうに、何を今更」

 

「特殊個体…!」

 

「ファリン、撤退だ!荷物は捨ててもいい、瞬間転移を!」

「う、うん!」

 

『瞬間転移』その名の通り範囲内にいる指定した人間を迷宮の外へ追い出す魔法。これは通常の転移と違いかなり制限が厳しい。

 

重量制限があるため持っている荷物を全て捨て尚且つ術者の範囲にいなければならない。

 

ライオスは劣勢を判断。ファリンに魔法を行使させるが。

 

「うそ、なんで、使えない!?」

「無駄な事を」

 

「やっぱり…ライオス、この部屋にある術式が原因!転移術を封じてる!」

「なんだと!?」

 

狂乱の魔術師が現れた時から部屋の術式を読み取っていたマルシルはこの部屋全域に転移術を封じる術式が刻まれていることに気付いた。

 

「んじゃぶっ壊してやる!!」

 

ナマリが自慢の斧で壁を叩くも、壁には傷一つ付くことは無かった。

 

「無駄だ!貴様らも散々封印してきた魔法陣のプロテクトが掛かっている。絶望に身を捩りながら死んでいけ!」

 

ハーッハッハ!と高笑いした狂乱の魔術師は姿を消す。これ以上は自分から手を下すまでも無いと判断したのだろう。

 

そして、レッドドラゴンはライオス達に襲い掛かる。

 

翼で飛翔。そして舌を鳴らし出す。

 

「マルシル、ファリン!防御結界を最大まで高めろ!!」

 

レッドドラゴンは宙に飛びながらライオス達に強力な炎ブレスを吐き出す。

 

「ぐぅ……っ!!」

 

こと防御結界においてマルシルすら追随を許さないファリンの最強の結界を持ってですら結界にはどんどん亀裂が走っていく。

 

それを見たイツキは結界内から炎魔法を展開。レッドドラゴンの炎ブレスを最大火力で押し出していく。

 

炎ブレスと防御結界の攻防はレッドドラゴンが息切れし地面に降り立つまで続いた。

 

「ファリンさん、大丈夫ですか!?」

「う、うん。大丈夫。私のことはいいから…!」

 

レッドドラゴンは様子を伺っているのか、二足歩行の状態で動かない。

 

「ライオス、私がこの部屋の術式を解除してみせる。それまで時間を稼げる?」

「ああ、任せた。みんな!マルシルの時間を稼げ!防御と回避中心で立ち回るんだ!!」

 

「「「了解!!!」」」

 

ファリンは前線に出るメンバー全員に身体が壊れるギリギリのラインを攻めた身体強化魔法を付与。それを受けたメンバーは怯むことなくレッドドラゴンの前へ。

 

イツキは手に持つ二本の剣に加え魔力消費が激しい為控えていた魔術剣を二本形成し浮かべる。それらに属性付与を施し、魔力の膜を自分の身体に纏わせ『抵抗』をかなり強めに掛けレッドドラゴンに突撃する。

 

これはイツキの最強形態であり、ことこの状態においてはミスルンですら相手取るのに苦労した。

 

レッドドラゴンは優先目標を目視と魔力視で捉え、イツキを標的に。

 

巨大な腕とそれにある鉤爪を振り下ろす。

 

イツキはそれを回避。簡単に言っているが身体強化が掛かっていなければ今頃せんべいが出来上がっていたのは必定である。

 

イツキはレッドドラゴンの目の前に魔術剣を展開。目線を魔術剣で誘導しながら実体剣で本体を叩く。

 

炎の剣はレッドドラゴンの黒い鱗を傷付ける。火力特化のイツキだからこそ出来る芸当とも言える。

 

「うおおおおお!!」

 

負けじとナマリもレッドドラゴンの脚部に斧を振るう。しかし、黒い鱗は傷一付かない。

 

「やっぱ頑丈だな…!」

 

それを見たシュローは鱗の薄いレッドドラゴンの関節部を狙って斬る。シュローの剣技を持ってでも、少し傷が付いた程度だ。

 

それを見たライオスはイツキに指示を出す。

 

「イツキ、関節部を狙え!そこなら攻撃が通る筈だ!」

「分かりました!」

 

レッドドラゴンは宙に浮いているイツキの魔術剣に気を取られ牙を何度も空振りさせる。

 

センシはレッドドラゴンの足の指の隙間を狙って斧を振り下ろす。血が僅かに吹き出した。

 

レッドドラゴンは怒り狂いセンシを踏み潰そうとするも、センシは既に撤退しておりただ地面を踏んだだけだった。

 

「ぜやああ!!」

 

イツキは関節部に炎の剣で斬り付ける。ざっくりと傷を付けることに成功。レッドドラゴンは悲鳴に近い咆哮を上げる。

 

レッドドラゴンはたまらず飛翔。まだ炎ブレスは出せないが、体勢を立て直すためのものだった。

 

すかさずファリンが閃光魔法を発動。眩い光に包まれたレッドドラゴンは地面に落ちてしまう。

 

「マルシル、あとどれくらいだ!」

「今解析が終わったところ!これからプロテクトを…なによこの嫌がらせじみた曼荼羅みたいな術式!」

「まだ掛かりそうだな…!」

 

イツキの火力を持ってしても鱗を傷付けることしか出来ないのを見たライオスは撤退中心の立ち回りを取り続ける。しかし、閃光に目が眩んだレッドドラゴンはめちゃくちゃに暴れ出す。

 

「しまっ…!?」

 

予測不可能な暴れ方にシュローが巻き込まれる。尻尾がモロに当たってしまう。

 

「シュロー!!」

 

幸い身体強化がかかっていた為大事には至らなかったが、刀を支えになんとか立ち上がるので精一杯なようだ。

 

「テメェ!!」

「こちらに誘わせる。シュローを回復するのだ!」

 

ナマリとセンシはレッドドラゴンの足を力一杯に何度も何度も傷付けようとする。レッドドラゴンはセンシの思惑通り目線をセンシ達に向ける。

 

「シュロー、大丈夫か!」

「すまない…!」

 

ライオスはシュローを担いでファリンの元に。

 

「(クソっ…それが俺の役目だが、隠れているだけな自分に腹が立つ!!)」

 

非戦闘員のチルチャックは魔術式を解析しているマルシルの傍に隠れていた。

 

「ぐおっ!?」

 

レッドドラゴンの蹴りに防御が間に合ったものの、センシは壁まで吹っ飛ばされてしまう。骨が折れたのか、立ち上がることが出来ない。シュローの治療に回っていたファリンはシュローを担いでセンシの元へ。

 

「セン…ぐぁっ!?」

 

イツキが火力を最大限まで抑えた爆発の衝撃のみでナマリを吹き飛ばす。そして先程までナマリがいた場所にレッドドラゴンの足が振り下ろされ地面が抉られる。

 

「すみません大丈夫ですか!?」

「悪い助かった!」

 

ナマリはすぐさま起き上がる。ライオスは所持していたナイフなどでレッドドラゴンの注意を引く。

 

「やはり最大手は逆鱗への攻撃か…いや、怒り狂ってはまたシュローの様に…!」

 

ライオスは振り下ろされる鉤爪をすんでのところで回避しながら剣で攻撃する。傷こそつかないものの、レッドドラゴンの注意は十分に引ける。

 

「(早く、早く、早く…!)」

 

マルシルは術式の解除を急ぐ。古代魔術に精通したマルシルでさえ術式の解除は困難を極めた。

 

そして、レッドドラゴンはライオス達にとって最悪の決断をする。

 

狙うはマルシル。魔術式の解析に多量の魔力を放出していたマルシルはレッドドラゴンの魔力視に引っかかったのだ。

 

回復した火焔袋を揺らし、舌を鳴らしてブレスの準備に入る。

 

ファリンはセンシの回復の為マルシルの元を離れていた。このままではマルシルは無防備状態であの炎ブレスを受けることになる。

 

それにいち早く気付いたのは、イツキだった。

 

「させるか!!」

 

イツキは炎の剣の炎部分をレッドドラゴンの逆鱗にぶつける。あまりの熱に炎を操るレッドドラゴンでさえ怯んでしまった。

 

そして、逆鱗を刺激されたレッドドラゴンの怒りは頂点に達する。

 

『グオオオオオォォォォォォッッッ!!!!!』

 

今までで一番の咆哮。レッドドラゴンの鱗と鱗の隙間から赤い光が漏れ出し、姿を変容させる。

 

もはやレッドドラゴンにはイツキしか映らなかった。

 

猛スピードで突進してくるレッドドラゴンに、イツキは自慢の足で走りながら回避し続ける。

 

四足歩行になり何度も何度もイツキのすぐ側で牙が打ち鳴らされる。

 

ナマリとライオスは慌てて追いかけるも、四足歩行のレッドドラゴンと足の速いイツキに追いつけない。

 

「おれは!大丈夫!です!回復!急いで!」

 

回避しながら指示を出すイツキ。曲芸じみた回避もミスルンの修行の成果だ。なお修行方法は滝の真下に待機し目をつぶって丸太や石などを魔力感知のみで回避するというもの。

 

ファリンは二人の回復を急ぎ、マルシルは解除を更に早め、ナマリとライオスは手持ちのナイフなど武器になるものをなんでも投げまくる。

 

しかしレッドドラゴンは標的を変えない。

 

イツキは敢えてレッドドラゴンの真下に潜り込み、それを見たレッドドラゴンが身体ごと地面にぶつけるも、既にそこにイツキはいない。

 

「はぁ…っ…はぁ…っ!」

 

持久力に自信があるイツキでも、そろそろ限界に近い。

 

そこで、マルシルが声を張り上げる。

 

「終わったよ!!」

「ファリン!!」

 

マルシルの終わった、という声。ライオスの怒号に近い叫び声。持久力の限界。そして。

 

「終わっ……」

 

安堵から来る油断。それに気付かないレッドドラゴンでは無かった。

 

レッドドラゴンは、ついにイツキを牙で噛み砕くことに成功した。

 

「がっ……!?」

 

身体強化と防御結界を貫通する牙。牙は腹部に突き刺さり、骨を幾箇所も粉砕しながら顎を閉じ続ける。イツキは吐血し、意識が朦朧となる。

 

「イツキ!!?」

 

ファリンの悲鳴に近い叫び声が部屋中に響き渡る。

 

「イツキ!!」

「イツキ、しっかりしろ!」

 

ライオスやチルチャックも叫び声を上げる。

 

マルシルは魔法でレッドドラゴンに攻撃しようとするも、イツキに当たる可能性があるため迂闊に魔法を繰り出せない。

 

「ファリンさん……!今なら瞬間転移内です、早く!」

 

肋骨など生命活動に多大な影響を及ぼす骨を噛み砕かれながらも、イツキは指示を出し続ける。

 

イツキの今の言葉は、嘘である。

 

たとえ今自分がレッドドラゴンの顎から離れたとしても、いつまたあの炎ブレスが繰り出されるか分からない。転移の為に纏まってしまっては全員が炎ブレスをまともに受けてしまい全滅する。

 

瞬間転移の範囲を把握していたイツキは、自分以外のメンバーが範囲内に収まっていることに気付いていた。

 

それはもちろん、術者本人のファリンも。

 

「ファリンさん!使って!」

 

「でも、でもイツキ……!」

 

「早くやれぇっ!!」

 

イツキの聞いたこともない怒号。驚いたファリンは発動する気が無かった魔法を発動してしまう。

 

瞬間、眩い光が辺りを包み。

 

部屋にはレッドドラゴンとイツキのみが残った。

 

「よう…トカゲ野郎…!おれの血肉は美味いか…!?」

 

イツキは強がりながら生成した魔術剣と手放してしまった実体剣をレッドドラゴンの周囲に展開する。

 

「タダで……死んで……たまるか……っ!!」

 

イツキは自身の全ての魔力を解放。魔術剣はレッドドラゴンの翼を、実体剣はレッドドラゴンの逆鱗のすぐ側に突き刺さり。

 

レッドドラゴンと自分自身全てを巻き込んだ爆炎は部屋を崩落させ。

 

あとには自身の傷や火傷の回復のため、全身に火傷を負い絶命した人間を呑み込んだレッドドラゴンのみが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、イヅツミちゃんお買い物?」

「ん?…ああ、明後日アイツの誕生日だろ」

「……あ、そっか!えっと……私達とおんなじだから…」

「17歳だろ」

「そうだ!えへへ、私も行く!」

「着いてくん……まあ、いいや」

 

「楽しみだね、誕生日会!」

「ああ、そうだな」

 

 

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