異世界ダンジョン飯   作:一般通過炎竜

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第四十四話『確固たる意思』

 

メリニ迷宮入口前―。

 

数多くの冒険者が我先に報酬金目当てで迷宮へ訪れていく横で、数人の男女が倒れていた。

 

「う……ここ、は?」

「ライオス!目が覚めた?」

 

マルシルがライオスへ駆け寄っていく。

 

「どうしよ、イツキくんが!」

「分かってる、分かってるよマルシル。落ち着いて」

 

ライオスは気丈に振る舞う。しかし今慌てても仕方がないので冷静さを保つ。

 

「俺達は脱出出来たが……クソッ!」

 

チルチャックは近くの木を蹴って八つ当たりする。

 

「散々言っただろうが、カッコつけすぎんなって!!」

「落ち着けチルチャック。私らがキレてもしょうがねぇよ」

「ああ?なんだ、随分と余裕そうだな。足長くねぇからどうでもいいってか?」

「んなこと言ってないだろうが!なにふざけてんだこんな時に!」

 

「……クソッ!」

 

再び八つ当たりするチルチャック。普段冷静な彼だが、今回ばかりは訳が違う。

 

「ライオス、ファリンの姿が見当たらんぞ」

「なんだって?」

 

センシのその言葉にメンバー全員がファリンを探し出す。そこまで離れていない距離で、マルシルがファリンの姿を捉えた。

 

「ファリ………っ……ファリン?」

 

ファリンは座ったまま動かない。顔も目を見開いて口を僅かに開けているだけだ。

 

ライオスはファリンの目の前に座り、肩に手を置く。

 

「ファリン、大丈夫か?」

「………………」

「ファリン!ファリン!!」

 

「…………兄さん?」

 

やっと反応したファリンは、すぐに表情を変える。それは、焦りに満ちていた。

 

「にい、にいちゃ、イツキが、イツキが」

 

今にも泣きそうな顔のファリン。瞳に光は無く、ふらりと立ち上がり迷宮の入口へ歩いていく。

 

「イツキ…イツキ……」

「ファリン、落ち着け!今俺達は物資が無い。食料はともかくとしてひとまず雑貨屋に行って松明とか寝袋とか…」

 

ライオスのその言葉を聞き、ファリンは激昂する。

 

「そんなことしてる暇ない!!あんな下層で死んじゃったんだよ!?」

「分かってる!だから俺達が万全の状態で」

「万全の状態ってなに?イツキがいない状態は万全でもなんでもない。兄さんどいて、早く助けに」

 

そこまで言った時点で、ライオスはファリンの頬を叩いた。

 

周りのメンバー、特にマルシルは動揺する。

 

ライオスは確かに性格に問題があるところがある。しかし人に、ましてや実の妹に手を出す様な人間では無い。

 

「俺が今すぐイツキを助けに行きたい気持ちを抑えてるのが分からないか?」

 

見ると、ライオスの手は微かに震えていた。

 

「イツキは俺達の大切な家族で、仲間だ。だから救出するのは確実でなければならない」

 

「ファリン。迷宮へ潜るための基本中の基本はなんだ?」

「……荷物、とか、物資の準備」

「そうだ。俺達にはそれがない。だから一度街に戻って整える必要がある」

「……うん」

「ファリン。イツキを助けたい気持ちはみんな一緒だ」

 

ライオスは再びファリンの両肩に手を置き、その目を正面から見据える。

 

「確実に助けよう。イツキを」

 

ライオスの言葉に、ファリンは冷静さを取り戻した。

 

「うん。……ごめん、兄さん」

「そうだよ。みんなにも謝れ」

「ごめん、みんな」

 

ファリンはメンバーに頭を下げる。チルチャックは頭を片手でガリガリ掻きむしる。自分の不甲斐なさに腹が立ってきた。

 

「……はぁ〜〜〜〜〜〜……纏まったのは結構だけどよ、物資を準備するったって金はどうすんだよ」

「あ…そうか、手形が入った鞄も迷宮か…」

 

メリニでは銀行に現金や私財を預ける場合。手形を二つに割って片方を銀行に、もう片方を本人が持つ。再発行も可能ではあるが、かなりの時間が掛かってしまう。

 

「俺が出そう。俺の手形はマイヅルが持ってる」

 

シュローが手を挙げながら提案する。その表情には鬼気迫るものがあった。

 

「いいのか?シュロー」

「構わない。それと救出にマイヅル達も連れて行く。構わないな」

 

大人数での迷宮探索は罠の発見や魔物の戦闘などデメリットがある。しかしシュローお付きのくノ一達は伊達でもなんでもない。確かな実力がある。ライオスはそれを判断、意見に賛同した。

 

「ありがとう、シュロー」

「礼はイツキを助けたら聞く。早く行こう」

 

ライオス一行は走って町まで戻る。そして、シュロー達が利用している宿屋へたどり着いた。

 

「マイヅル!マイヅル!!」

「な、何事ですか坊ちゃん!?」

 

今まで聞いたことが無いシュローの大声に驚いたマイヅルとヒエン、そしてベニチドリが慌てて宿屋から出てくる。

 

「銀行の手形がいる」

「こちらに」

 

マイヅルは何も聞かなかった。普段寡黙な主のこの焦り様、時間が無さそうな様子。そしてなによりイツキの不在。この三点であの子になにがあったのかは明白であった。

 

それは、ヒエンとベニチドリも察することが出来た。

 

「よし。あと、お前達全員で迷宮へ行く。準備が必要だからライオス達に着いていけ」

「はっ」

「……イヅツミとイヌタデは?」

 

見ると、イヅツミとイヌタデがいない。その質問にはヒエンが答える。

 

「イツキの誕生日に渡すプレゼントを買いに行ったっきり戻ってこない」

「…そうか。探して来てくれ。今は一人でも多くの戦力がいる。戦闘準備をして集合はメリニ迷宮前だ」

「分かった」

「了解」

 

ヒエンとベニチドリは二手に別れて捜索に出る。

 

「ライオス、俺は銀行に行って金を下ろしてくる。先に道具の選別を済ませておいてくれ」

「ああ、分かった」

 

シュローは銀行へ走って行った。心配になったマイヅルも着いて行く。

 

「よし、俺達も行こう」

 

ライオス達は普段使っている雑貨屋へ訪れた。中にはドワーフの店主がいて、汗をかいて入ってきたメンバーに新聞を読んでいた店主は慌てて立ち上がる。

 

「おいおいなんだよ全員血相変えて」

 

店主は仕事柄人の顔を覚えるのが得意だった。加えてライオス達はお得意さんであり、いつもメンバー全員でこの雑貨屋へ訪れることも少なくなかった。

 

「ごめんなさい、時間が無いんだ。お金は後で絶対に払うから道具の選別だけさせてくれ」

「はあ?何言ってやがる。金が先に決まって……おい、いつものガキンチョはどうした?」

 

店主は異変に気付く。いつもにこやかに挨拶してくるあの子供が居ないことに。

 

「死んだ、時間が無いんです」

「…なるほどな、それで装備がいるのか。よし、好きなもんで整えな!もちろん金は貰うがよ」

「ありがとうございます!」

 

遅れてシュローとマイヅルが雑貨屋に到着。パーティ全員で物資を揃えることができた。

 

一方、ヒエンはイヅツミ達を見つけることに成功した。

 

「おいイヅツミ!イヌタデ!」

「はえ?ヒエンさん?」

「なんだよ騒がしいな」

 

「時間がない、文句は後で聞くから今は黙って私に着いてこい!」

 

「は、はいっ!」

 

イヅツミも返事こそしなかったものの、ヒエンの滅多に見ない狼狽えぶりに大人しく従うことにした。

 

ヒエンは草笛を鳴らし遠くにいるベニチドリに見つかった事を合図する。

 

そして、戦闘準備を済ませたヒエン達はメリニ迷宮前へ集まった。そこには既に準備を終えたライオス達が待っていた。

 

「来たか」

「よし、行こう」

 

「あ、あのっ、イツキくんは?」

 

イヌタデのその言葉に、メンバーは押し黙る。連れて行く以上伝えない訳には行かない。しかし、それをこの二人に伝えるのはあまりにも酷だ。

 

だが、押し黙った全員を見て察するものがある。

 

「…………は?」

 

イヅツミは動揺を抑えきれなかった。そしてライオスに爪で斬りかかりそうになるのを、イヌタデが止める。

 

「おいタデ!離せ!!」

「やだ」

「タデ!!」

「やだ!!」

 

イヌタデは過去に賭け相撲の力士をやらされていた過去を持つ。東方でのオーガは力試しの鬼退治として標的にされるのが殆どで、殺されずに賭け相撲をやらされていたのはむしろ運が良かったと言えてしまう。

 

賭け相撲を見ていたシュローの父親に拾われて以来、恩を返す為に半本家に仕えていたイヌタデ。過去の経歴と元々の性格で自分の意思を出すことが殆ど無かった。

 

しかし、今のイヌタデは違う。

 

ポロポロと大粒の涙を流しながらも、イヌタデは決してイヅツミを離そうとしない。

 

「タデ……」

 

イヅツミはそんなイヌタデを見て、力を抜き爪を引っ込めた。友達の意思を無碍には出来なかった。

 

「…その様子だと、察したんだな。俺達はイツキを死なせてしまった。今から取り返しに行く」

 

ライオスはイヅツミ達に深々と頭を下げる。

 

「俺達の友達を死なせてしまったのは、リーダーである俺の落ち度だ」

「ライオス、それは」

「だから!……どうか、力を貸してください」

 

ライオスの真摯な態度に、イヅツミ達は了承する。

 

ライオスは立ち上がり、涙を拭って切り替える。

 

「ここからは魔物との戦闘は極力回避。無くなった物資は現地調達。時間との勝負だ」

 

「行くぞ!」

 

「「「おう!!」」」

 

ライオス達の覚悟を決めた行進。一行は迷宮へ潜っていく。

 

場所は変わり、中央にある王宮で女王ヘイメアが壊れたネックレスをゴミ箱に捨てていた。その顔には珍しく冷や汗をかいていた。

 

「…少々、マズイことになったな」

 

「飛び立たせよう、私のカナリアを」

 






(シリアス初めて書いたから勝手が分かんない)
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