異世界ダンジョン飯   作:一般通過炎竜

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第五話『魔法剣士』

「みんな、準備はいいか?」

 

「はい」「うん」「おう」「いいぜ」

 

一晩明け、各々が支度を済ませてから再度出発する。

 

今更ではあるが、今回の目的はダンジョン内にある金目のものを集めるというもの。要は宝箱探しである。

 

誰が用意したのか、宝石や金貨などの換金物。もしくは希少な鉱石やインゴットなど。種類は様々だがそれは冒険者にとっては文字通りの宝箱だ。

 

入っている箱も様々だ。木箱、壺、タンスにクローゼット。大昔迷宮が迷宮になる前の城だった時のものなのか。それとも光るものを集めるのが好きな魔物が保管しているものなのか。

 

大体の冒険者にとってはどうでもいいことだが、イツキにはそれが気になる様だ。まさか唐突に虚空から箱が湧いて出てくる訳でも無し。

 

しかし魔術的作用がある迷宮なので、そういうことも往々にしてあるのでは?という考えが浮かぶのも、彼が一般人から魔法剣士になった影響なのだろう。

 

「魔物が集めるという例で、ミミックが金目のものを蓄えるという話もあるよ」

「ミミックがですか?」

「あぁ。金貨で目印を付けて最後に自分が入った箱を置けば何も知らない冒険者は引っかかってミミックの餌になる…っていうね」

 

「まぁそんなのはペーペーもドペーペーな冒険者が掛かる罠だけどな。少なくとも2階にすら降りられないだろそんなやつ」

「ちょいちょい聞くけどな、そういうやつ」

 

純粋な心を持った冒険者ほど早死する。迷宮とはそういう場所である。

 

「…この先だ」

 

ライオスが指さすのは、かつて栄華を誇っていたであろう、城の入口。正門とはまた違うところではあるため、規模は控えめだ。

 

「今回はこの城の入口と、その周囲の部屋の探索だ。それを済ませたら今回の探索は終了とする」

 

ライオスの指示に全員が返事をする。城内は広々とした森林地帯とは違い閉所だらけ。危険度は控えめに言っても4割増しになる。

 

「開けるぞ」

「手伝います」

 

ライオスとイツキで城の扉を開ける。暫く誰も来なかったのか、土煙と古い木が軋む音が辺りに響き渡る。

 

内部は薄暗く、とてもではないが明かり無しでは入りたくなくなる雰囲気を醸し出している。

 

全員がそれぞれ腰やリュックに付けている灯りを付ける。頼りない光が、今ではとても頼もしくみえる。

 

「全員、角や壁に気をつけるように」

 

一行は城内に進行していく。それぞれの足音。それぞれの装備の擦れる音。全員が無言を通していたが、それを無言が耐えきれなかったイツキが破り去る。

 

「昔、人々はここでどういう生活を送っていたんでしょうか」

「そうだなぁ…案外、今と変わらなかったりしてな」

 

ライオスは呑気に返事をする。実際、この質問に答えは無い。ただの雑談だ。

 

「この扉だ。この先に分布が変わっていなければ動く鎧がいる」

「鎧…どういう生態なんでしょう。ゴーレムに近いものなんですか?」

「どうだろう…でもひとつ言えることは、奴らは不死身ではないということだ。鎧の関節部は中が空洞のせいか脆いから、そこを突くといい」

「分かりました」

 

非戦闘員以外武器を構え、ライオスが扉を開ける。そこは一直線の広い廊下で、中心に赤く長いカーペットが敷かれている。そしてその両脇に左右対称に鎧が安置されていた。

 

「この中のどれかが動く鎧だ。もしかしたら全部か、それともいないか…」

「いずれにせよ、警戒は必要ですね」

 

全員内部に向かって歩き出す。見れば見るほど全部の鎧が動き出しそうだ。鎧全てが剣を持っており、いまにも襲いかかってきそうだ。殿にいるナマリは常に後ろを警戒する。

 

全部なぎ倒せば確認と討伐が同時に出来るのでは?とイツキは一瞬思ったが、それでは余計に体力を消耗するし長時間大きな音を出し続ければ動く鎧以外の魔物が寄ってくるかもしれない。

 

そう思い、出しかけた声を抑えるため口を閉じた。

 

「む、動く鎧だ!」

 

ライオスの目の前の鎧が錆びた鉄の音と共に動き出し、剣を構える。ライオスは盾を構え動く鎧に突進。動く鎧は倒れ、装備がバラバラに辺りに散らばる。

 

「これが動く鎧…斃すにはどうしたら?兜を壊すとか?」

「いや、基本的にはバラバラにすれば暫くは動けない。コイツはもう大丈夫だ」

 

バラバラになった鎧はどうにか鎧を戻そうともがくが、にっちもさっちもいかないようだ。

 

「じゃあ、今のうちに進もう」

「そうで…っファリンさん!」

 

そう言った、ファリンの背後の鎧が動き出した。

 

たまたまイツキはファリンの方へ向いていたのですぐに気付くことが出来た。イツキはファリンの服を片手で掴み自分の方の後ろへ引っ張った。

 

ファリンは小さな悲鳴を上げるが、それは引っ張られたことにではなく、動く鎧の剣がイツキの剣と鍔迫り合いになっていたからだ。

 

「こ…のぉっ!!」

 

片手持ちから両手持ちへ、両腕の力を振るえるようになったイツキは魔力を剣に集中。炎属性が付与された剣は動く鎧の剣を伝ってその腕部を燃やす。

 

炎に怯んだ動く鎧が1歩下がる。それをイツキは見逃さなかった。

 

「おぉっ!」

 

横薙ぎに動く鎧に剣を振るう。動く鎧の上半身と下半身は別れ、倒れ伏した鎧はメラメラと燃え続けている。

 

「こっちにも2体だ!」

 

ダンダンの合図で急いで声の方へ目を向ける。そこにはナマリの前、つまり一行の後ろから襲いかかる動く鎧の姿。

 

「オラァっ!」

 

ナマリは大斧を動く鎧に思い切り叩きつける。あまりの衝撃に動く鎧は一撃で再起不能となった。

 

しかしもう一体の動く鎧がナマリに襲いかかる。

 

「チッ!」

 

ナマリは慌てて防御態勢を取る。しかしその攻撃がナマリに当たることは無かった。

 

「『火球』!」

 

イツキの剣先から出た魔法が動く鎧に炸裂。それは炎属性の初級魔法のひとつであり、威力は不十分ながらも動く鎧の動きを阻害するには十分だった。

 

「援護ナイス!オラァっ!」

 

怯んだ動く鎧をナマリが叩き割る。バラバラになった動く鎧は再起不能となった。

 

「…よし、ほかの鎧が動く気配は無いぜ。悪りぃファリン嬢、索敵係がこんな近い鎧の音を聴き逃すなんて…俺もそろそろ隠居時かね」

「う、ううん。イツキが守ってくれたから、大丈夫」

 

ダンダンは尻もちを付いたファリンに手を貸す。それを支えにファリンは立ち上がった。

 

「ふぅー…よし、遠距離魔法もばっちり、かな」

「良い動きだったぞ、イツキ」

「ありがとうございます…ファリンさん、大丈夫ですか?余裕無くて結構強めに引っ張っちゃいましたけど」

「大丈夫だよ、ありがとね」

 

ファリンは朗らかに笑う。その笑顔を口火に切り、ダンダンがやけに頑丈そうな扉を見つける。

 

「おっ、ちょっと待ってろお前ら。鍵師の面目躍如かもしれん」

 

それは手のつけられていない鉄扉であり、ダンダンは扉と扉の周りに罠が無いことを確認しピッキングを始める。その様子をイツキは隣で見ていた。

 

「さーてさてさて…ここか…?いや、こっち…いやいやこっちかもな…?……よしっ!」

「さすが、早いですね!」

 

そこは狭い部屋だったが、昔だれかの部屋だったのだろうか。古ぼけた調度品やボロボロのベッド、本棚がありその横に宝箱が安置されていた。

 

「ゲホッ…埃っぽいな。金目のものはあるか?」

「宝箱以外には…おっ、このネックレスかなりいいぞ!」

 

女性の部屋だったのかもしれない。ダンダンはアクセサリー類が入っている木箱を見つけた。

 

「それもいいけどよ、早く宝箱開けちまおう!」

「へいへい落ち着けよ…」

 

ダンダンは宝箱の罠チェックを始める。しかし罠の類いは無く、ただ頑丈に鍵が閉まっているだけの様だ。

 

「へへ…そんな鍵、俺の前には掛かってないも同然…よしっ!」

 

ダンダンは宝箱を開ける。そこに入っていたのは、銀で出来た指輪と、一冊の本だった。

 

「あーん…?シケてんな、これだけか」

 

ダンダンは指輪を回収。イツキは本の方を見る。

 

それはこの部屋の住人の日記だった。しかし掠れていてほとんど読めなかった。

 

「うーんあんな頑丈な扉と宝箱でこれだけ…?他にもなにかあるかもしれない。探してみるわ」

「分かった、警戒してるよ」

 

イツキは本棚を見る。どれもすすぼけてろくに読めたものではない。なにか希少な魔導書でもないかと探していると、固定されて動かない本を見つけた。

 

「…?ダンダンさん、変な本があります」

「本?ほっとけほっとけ」

「いや、なんか取れないんですよ」

「取れない本…?まさか…そこどけ!」

 

イツキは1歩下がる。そこにダンダンが来て本を調べる。

 

「こういうパターンね…!」

 

ダンダンは本を取るのではなく、逆に押し込んだ。するとベッド近くの壁が一部動き、小さな宝箱が現れる。

 

「おお!」

「待て待て、罠のチェックが先だ」

 

宝箱をチェック。しかし罠も無ければ鍵も無い。

 

「中身は何かなぁ〜?」

「凄いだらしない顔になってますよ…」

 

気になる中身は、大きな宝石が付いたブローチや指輪だった。それもかなりの数だ。小さな宝箱一杯に入っている。

 

「おほほほっ!こいつは大量だぁ!宝虫でもなし!」

 

成人男性らしからぬ声を上げるダンダン。無理もない。こんな量は彼が冒険者を始めてから初めてのことである。

 

「はははっ!この部屋の主は成金だったのか!?よっしゃ帰ろう!さっさとこんなところおさらばして換金しよう!」

 

「よし、帰るとするか。ファリン、帰還の準備を」

「うん」

 

キラキラと光る財宝を前にだらしない顔になるハーフフットとドワーフ。

 

しかしそんな2人を差し置きイツキは再び日記を見ていた。ほとんど読めないが、微かにわかる文章だけ読む。

 

『またあの魔術師が』『なにも起こらないと』『奴は悪魔』『私は』

 

『母よ、すまない』『会いたい』『私の名は』

 

かろうじて読めたのはその程度。魔術師。悪魔。イツキはそのキーワードが引っかかる。

 

「イツキ?帰るよ?」

「えっ、あ、すみません!」

 

イツキは日記を仕舞い、部屋に向かって手を合わせてお辞儀をする。する意味など無いかもしれないが、しなければいけないという使命感があった。

 

ファリンが作った転送門は壁に作られた魔法陣で、迷宮の入口がみえる。

 

「初めての転送門だから、変な気分になるかもしれないから、なにかあったら言ってね?」

「はい」

 

イツキは転送門を潜る。違和感。イツキはどこかでこのゾワゾワする感じを味わった気がしたが、思い付かなかった。

 

転送門を抜けると、肩を回すライオス。深呼吸をしているファリン。首を回しているダンダン、そしてグロッキーになっているナマリがいた。

 

「ナマリさん、大丈夫ですか?」

「うぅえ…気持ち悪い…イツキは平気なのか?」

「はい、違和感があった程度で…確かドワーフは転移酔いしやすいんですよね?」

 

イツキはナマリの背中を優しく摩り、水を手渡す。

 

「ありがとよ…」

「よっしゃ!換金してくるわ!俺のツテでいいか?」

「ああ、俺は換金商にツテは無いから…」

「ハ、ハーフフットの店じゃ、ないだろうな」

「安心しろよ、ドワーフさ。ハーフフットみたいに換金額を変えるなんてセコい真似はしないからよ」

 

ダンダンが種族的自虐をしつつ先行し、その後ろをライオスが。未だグロッキーなナマリをイツキとファリンが支えながら歩いていく。

 

少しして換金商の店が見えてきた。

 

「よし、じゃあ行ってくるわ」

 

ダンダンが入っていき、少し待つこととなった。

 

「初回にして大成功だな」

「はい」

「強くなったね、イツキ」

 

ファリンはイツキの頭を撫でる。イツキは少し照れ臭くなるが、甘んじて受け入れた。

 

「…なぁ、ライオス」

「ん?」

「そういやお前らどういう関係だ?兄弟…にしちゃ似てないよな?」

「あぁ…イツキは俺たちが保護したんだ、帰る場所が無くてね」

 

ライオスはイツキについて少し誤魔化した。これはイツキの提案であり、毎回自分が異世界転移者と説明するのは億劫な上にトラブルを呼びかねないという理由だった。

 

「…そうだったのか」

 

ナマリが神妙な顔になっていると、ダンダンが店から出てきた。

 

「ははは!見ろよお前ら!この金貨をよ!」

「「おお!」」

 

ダンダンは金貨が一杯になった皮袋を4つも持っていた。

 

「しめて合計金額60万ゴールド!一人頭ちょうど12万ゴールドだ!」

「凄い…!」

 

イツキの酒場での給金が一日300ゴールドなので、まさに一攫千金である。

 

「ワハハ!今日は呑むぞぉ!!」

「見たことないくらいテンション高いなダンダン…」

「無理もねぇな!私も呑むぞ!」

 

「とりあえず、生活費を除いて銀行に預けに行こっか」

「そうですね」

 

それぞれ移動し、ダンダンとナマリは酒場に直行。それに引っ張られライオスも酒場へ。ファリンはライオスからゴールドを預かり入金。イツキも自分の口座を作成し、入金した。

 

イツキとファリンは銀行から出て歩き出す。辺りはすっかり暗くなっており、灯りは街灯頼りだが、人の往来が多いため賑やかだ。

 

「今日は凄かったね」

「はい、とても勉強になりました」

 

「また迷宮、行こうね」

「はい!」

 

敬語まだ取れないの?いやぁ…中々。と会話が続き、2人は歩き続ける。

 

そして、人の往来の中へ消えていった。

 

初めての本格的な迷宮探索は大成功に終わり、これはイツキにとってかなりの経験値となっただろう。

 

来たるべき、運命の日に備えて。




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