異世界ダンジョン飯   作:一般通過炎竜

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第五十四話『竜竜相搏』

 

「さて、状況を整理するか」

 

狂乱の魔術師、シスルは『竜の目』を通して迷宮内を偵察する。

 

竜の目とは、複数体の小型の翼竜を飛ばしそれの視界を自身に共有するものであり、迷宮を管理するにあたって必要不可欠な魔術である。

 

一体目の竜。迷宮入口には何十人ものエルフが押し寄せていた。

 

『暇だなー、俺達』

『ミスルンとフラメラが入ったんだろ?なら別に入口見張らなくても良くないか?』

『女王がご執心なお方が迷宮に囚われてるからな…我々は従うしかあるまい』

『いい歳こいて必死だな女王』

『トールマン如きになにを期待しているのか…』

『囚人共!私語は慎め!』

 

「面倒だがコイツらはあとで全員始末するべきだな…次は」

 

迷宮地下四階。シーサーペントの群れと交戦中のエルフ達。その中にはフラメラの姿もあった。

 

『全員怯むな!水中に音波魔法を絶やすことなく展開し続けろ!そうすれば奴らは視界に頼って顔を出す!そこを狙え!』

 

「コイツが頭か?いや、それにしては…まあいい、次だ」

 

迷宮地下七階。シスルが拠点にしている家屋にて複数人の男女。

 

『ここに悪魔がいる』

『え、翼獅子が囚われてる場所じゃ?』

『翼獅子=悪魔か、それとも悪魔が翼獅子を封印しているかのどちらかと』

『隊長〜、合流したばっかなんですからなんかご飯食べた方が…』

 

「…奴らめ、もうここまで来たか」

 

シスルは考える。ひとまず迷宮入口で彷徨いている連中は後で良い。四階で交戦しているエルフ共は別の魔物を送り付けて対処。

 

「やはり最優先はコイツらか」

 

「七階まで進んだのが運の尽きだ」

 

「確実に殺してやる」

 

顔を憎悪で歪めるシスル。それを見ていたシスルを膝の上に乗せている黒竜は、シスルの頭を優しく撫でた。

 

「…?なにをしてるんだ、黒竜」

 

黒竜は何も言わない。しかし、撫でる手を止めなかった。

 

シスルは、かつて仕えていた主の顔を思い出す。

 

デルガル。黄金郷の王。かつての友。

 

『しする!』

『こんにちは、デルガル様』

 

『シスル、厨房からソーセージをくすねてきた。一緒に食べようぜ』

『まったく君は…』

 

『シスル、お前魔術使えたのか!?すげーな!宮廷魔術師になれよ!』

『僕にこんな力が……』

 

『俺も来月で結婚かぁ』

『デルガルが結婚かぁ…信じられないね、もうそんなに経ったんだ』

 

『父上が殺された……シスル、僕は、僕は恐ろしい。死ぬのが怖いんだ』

『大丈夫、大丈夫だよデルガル。僕が守るから…』

 

『だから、ずっと一緒に―――』

 

そうだね。ずっと一緒にいたいよね

 

記憶が混濁する。デルガルの顔が出てこない。出てくるのはあの悪魔の顔と―――

 

「……?あれ、なんだっけ」

 

黒竜は首を傾げる。

 

「…まあいいか。忘れるって事は大した事じゃないんだろう」

 

「行くぞ、黒竜。奴らを根絶やしにするんだ」

 

シスルは黒竜に抱えられ高速で移動していく。

 

「飛ぶのにも慣れたか?なにせ急拵えだったからな…」

 

一方、ライオス達は。

 

「はぁっ…はぁっ…よし、これでフェニックスの無力化は出来たろう」

「そんな破天荒なやり方貴方くらいしかできませんよ…」

「照れるなぁ」

「褒めてねぇよ」

 

ライオス達は家屋の中で不死鳥フェニックスと交戦。何度殺しても火の中から蘇る魔物に、家屋内にあったヤアド本人の肉体を被せて無効化。

 

迷宮にいる魔物は、その規則に基づき黄金郷の住人を傷付けることは出来ない。

 

それが例え、魂を抜かれた肉人形だったとしてもだ。

 

「なんで狂乱の魔術師は黄金郷の住人の肉体と魂を分けたんだ?」

「分からないけど…多分都合が良かったんじゃないかな、魂だけにしちゃえば迷宮から出ることは難しいだろうし」

 

「隊長、隊長!転移術でウロウロしないで下さい!」

「…カブルーのやつ、大変そうだな」

「隊長さん家に入ってからずっと落ち着かないね」

「それはそうよ。あの人にとって悪魔は復讐心とはいえ唯一の欲求なんだもの」

 

そこで、フレキとオッタの腹から腹の虫が鳴った。

 

「ふむ、厨房は洗えば使えそうだし何か作るか。ちょうどフェニックスもとれたことだしの」

「じゃあその間部屋を調べるね」

 

リビングには調理するためのセンシ、それに付き添うライオスとチルチャックとマイヅル、そしてリシオンとフレキが残った。

 

「…なぁ、ライオス」

「なんだ?」

「あんまり言いたかないんだけどよ、イツキ……どうするんだ?」

 

どうする、とは。元に戻すか、それとも殺すか。

それを察したライオスは重い口を開いた。

 

「一応、考えはある。イツキをああして組み替えたのは狂乱の魔術師だ。今までの特殊個体もそうだ」

「まぁ、そうだな」

「だから、狂乱の魔術師から迷宮の権限をどうにか奪って、どうにかして元に戻す……みたいな」

「つまり、迷宮の主になるってこと?」

 

腕を組んで壁にもたれかかっているリシオンはライオスに問う。その瞳には僅かばかりの敵意が現れていた。

 

「正直それしか思い付かない」

「…まあいいけどさ、さっき言ったイツキを組み替えるって話。あんまり期待しない方が良いかも」

「なんでだ?」

「知っての通り俺は魔術式を身体に描いて後天的かつ一時的に獣人になれる。それは元の魂に肉襦袢を被ってるようなもんでさ」

 

リシオンは机に爪でガリガリと卵の絵を描く。

 

「あの子、イヅツミだっけ?あの子が分かりやすい例だよ。あの子は獣の魂と人間の魂が混ざってる。正確には獣の魂に人間の魂を入れてるから獣人というより人獣だから…」

 

卵に注射針をさした絵を描いたリシオン。これは獣の魂ね?と付け足す。

 

「魂は良く卵に例えられる。殻が肉体。黄身が魂って感じで」

 

「イヅツミは獣の魂にこうやって人間の魂を注入して出来上がったタイプ。だから俺みたいに人間に戻ることはなく常に獣と人が混じった感じ」

「貴方はイヅツミがどうやってああなったか分かるのか?」

「詳しくどうやったかは知らないけど。まぁオーソドックスなやり方としては生まれたばかりの獣の魂にこれまた生まれたばかりの人の魂をぐちゃぐちゃに混ぜて具入り卵焼きみたいにした感じかな?そうすれば肉体も成長と共に人と獣を混ぜたみたいな感じになるだろうし。獣と人間両方すげー危険だからやらない方がいいけどね」

「イヅツミ……」

 

マイヅルは東方に帰ったら獣人関係の裏稼業に務める連中を根絶やしにすると決めた。

 

「対して、イツキは殻も竜になった状態で蘇生され、かつ魂が竜と混ざった。人間の部分がかなり薄いんだ」

 

「さっき君が言ったどうにか、の部分だけど。それで出来上がるのはどうしても『出涸らし』だ。人間のね」

「じゃあどうすればイツキは元に戻る?」

「うーーーん……竜の意識を深層意識に追い込んでイツキの意識を出せば身体は戻らないけど人間の意識が出てきてまぁもしかしたらきっと多分なんとかなるかも…?」

「えらい曖昧だなおい」

「しょうがないでしょー、竜と混じった異世界の魂なんて前例が無いんだから」

 

リシオンの魂講座の一方、マルシルはファリンとパッタドルと共に書庫に赴き、本棚を整理していく。書庫は酷い有様で、野盗でも入ったのかと疑うほどぐちゃぐちゃに荒れていた。

 

「あーもうぐっちゃぐちゃ!私こういうのホントむり!なんで巻数揃えないかなぁ!」

「まったくです」

「(ちょっとわかる)」

 

マルシルとパッタドルはテキパキと本を巻数や高さで揃えてから中を見ていく。

 

「うーん、魔導書はあるけど市場で買えるのと大差無いし…あとは日記とかそれ系かぁ」

「あっ……これは、あとにしよ?」

「なにを見つけたのですか?日記?……あっ、そ、そうですね。これは後で…」

 

シスルの独白で書かれた日記は、大変言い辛いが、例えるならイツキ辺りには共感が得られそうな内容のものだった。

 

本は大量にあり一緒のところを見ても埒があかないので、手分けして探すことに。

 

「ん?なんか奥で引っかかってる…んぎぎぎぎ!」

 

マルシルは本棚の奥に手を突っ込んで引っかかっている本を取り出した。

 

「なにこれ…」

 

それは、金で彩られた翼の装丁が施された分厚い本。

 

「あれ、開かない…封印されてる?」

「なにか見つけたのですか?」

「あ、パッタドルさん。これ」

 

これ見てと言いかけたマルシルは、屋外から聞こえてきた爆音で飛び上がるほど驚いた。

 

「なになになになに!?なんの音!?」

「まさか…!」

 

パッタドルは窓から外を見る。そこには狂乱の魔術師、そして魔人竜と化したイツキがいた。上空から着陸したのか、地面はへこみ、至るところから煙が燻っていた。

 

「イツキ殿……!」

「イツキ!」

 

ファリンは大慌てでリビングにいる仲間達に報せに行く。しかし、既にリビングにいたメンバーは屋外に出て戦闘態勢に入っていた。

 

「待たせたな、簒奪者共」

 

ミスルンはシスルの首に向けて木片を転移術で飛ばす。しかし、既にイツキがシスルの首に手を置いてそれをレジストで弾き飛ばした。

 

「チッ」

「貴様の転移術は厄介極まる。しかし!そこで貴様がいかに転移を繰り出そうと関係の無い処刑法を思い付いた!」

 

シスルは持っている小さな杖を上空に構える。すると、空があっという間に曇天に覆われた。

 

そして、ポツポツと雨が降り始め、やがてそれは大雨へと変貌した。

 

「なんだ!?」

「視界が…!」

 

一瞬の閃光。雷光が辺りを包んだと思ったら、ライオス達の目の前には地獄絵図が繰り広げられていた。

 

 

竜だ。それも一体や二体では無い。空中に飛竜が群れを成し、大地には地竜の群れがひしめいている。

 

そして、そのどれもがライオス達に敵意を向けていることが本能で分かる。

 

全員の鳥肌が立ち、知らず知らずのうちにガチガチと歯を噛み合わせ、雨に紛れて大量の冷や汗をかいている。

 

人間としての本能が言っているのだ。今すぐここから逃げろ、と。

 

「あ、あ……?」

「なんだよこれ…!」

「緑竜、赤竜、ワームにワイバーンにホワイトドラゴン…あれは東洋龍!?この嵐はアイツが原因だ!」

「あの首が大量にあるのは!?」

「東方の伝承にある八岐地龍だ、伝説とばかり思っていたが…!」

 

 

「さあ、絶望を味わえ」

 

「ここが貴様達の墓場だ!!」

 

 

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