四面楚歌を超えたあまりにもあんまりな光景。
地上には赤竜や八岐地竜。制空権は緑竜やワイバーン、ホワイトドラゴンに東洋龍が握っている。
竜達の殺意を一身に受けている人間達は、あまりの絶望に戦意を無くし。
このまま雷撃で粉々になるか、火葬を受けるか、冷凍保存される未来しか想像出来なかった。
この二人を除いて。
「七階層の魔力は地上に比べて遥かに濃い!ファリン、全員に身体能力強化を身体が壊れるギリギリまで展開!防御結界も各個人に展開!ポーションがぶ飲みしてでも魔法を維持し続けろ!!」
「パッタドルはファリンの防御結界を更に固めろ。いつでも遠距離から回復出来るよう構えておけ。シスヒス、幻術で撹乱。オッタ、近接戦闘をするメンバーの足場確保の地形を生成。フレキ、使い魔を最大展開して撹乱と状況報告。リシオンはフレキの指示で動け」
ライオスとミスルンは各陣営に指示。その瞳に絶望は浮かんでいなかった。
ライオスは竜達が竜同士睨み合っているのを見た。
「竜だって魔物だ、弱い人間より脅威は隣の同族か!今ならもっと指示が出せる。シュロー!」
ライオスはイツキの炎の剣を手渡す。下層の魔力に反応しているのか、それとも本来の持ち主が近いからか、持つだけでその熱が伝わってくる。
「折れた刀の代わりだ。まさか両刃の剣は専門外なんて言わないよな?」
「あ、ああ。やれる」
「そこの金髪。私はワイバーンの群れと東洋龍の誘導をしつつ迷宮の主への攻撃の隙を伺う。竜達を倒せとは言わん。時間を稼いでくれ」
そういうミスルンの足元には、魔力回復ポーションの空瓶がいくつも転がっていた。
「分かった。チルチャックは逃げながら大声で危険を知らせてくれ。シュロー、ナマリ、センシは八岐地竜への陽動。マルシルとイヌタデとカブルーはホワイトドラゴン。俺とマイヅルさんとヒエンさんとベニチドリさんは赤竜と緑竜を陽動する。イヅツミ!」
「な、なんだよ」
「ファリンを担いで高速で移動出来るか?」
「こいつ地味に重いから「えっ」何時もなら無理だが、今なら行ける」
「分かった。イヅツミはファリンを担いで回復や結界が切れた人達に再展開。とにかく一箇所に固まるな、ブレスで全員纏めてあの世行きだ」
ライオスは自前の剣を抜き、空にいるドラゴン達に突きつける。
「行くぞ、ここが正念場だ!!」
ライオスの普段通りの鼓舞に、メンバー達の気合いが入る。
「「おお!!」」
全員各自狙いの竜達の元へ走っていく。ミスルンは転移を繰り返しワイバーンの背に乗って空中戦へ。早速大岩を一匹のワイバーンの首へ転移し切断する。さらにその首を別のワイバーンの首へ。
「飛べるのがお前らだけだと思うな」
シュローは八岐地竜へ高速で走りながら近付く。一つの頭がシュローを噛み砕こうと顎を開くも、その噛みつきを避けて冷静に剣を大上段に構える。
「きぇぇぇぇえええ!!」
優雅かつ静かに相手を切り伏せるシュローらしからぬ『猿叫』。
普段のシュローの滑らかなまるで水を流す様な剣筋は、シュローが持つ『刀』の影響が大きかった。
しかし今はイツキが持っていた『斬る』のではなく『叩き切る』用の剣。
故に、シュローは東方群島の更に小さな一つの剣豪集団の技術を応用した。
先手必勝を重きに置くその一振りは、正に電光石火の神速であり、その速さを手に入れた斬撃は竜すら滅ぼす破壊力となる。
奥義『雲燿』―――その真髄である。*1
「ギュオアアアアアアア!!?」
連鎖するように苦しむ首達。怒り狂いシュローを仕留めようといくつもの首が襲いかかってくるも、シュローが作った隙をつき、オッタが生成した岩盤を伝ってナマリとセンシが八岐地竜の背中によじ登っていた。
「「せーのっ!!」」
ナマリは鍛冶場で鍛える様に、センシは畑を耕す様に全力を込めて背中を攻撃していく。しかし何度攻撃しても硬い鱗に阻まれてしまう。鱗による防御力は赤竜以上だ。
「シュローお前どういう剣してんだ!全然通らねーぞ!」
「そんなこと言われてもな!」
「やっておる場合か!移動しながら攻撃し続けるしかないぞ!」
「お先!」
獣化したリシオンが足場を伝って八岐地竜へ攻撃を仕掛ける。
『上!次右から!下から来てそれを跳躍回避したあと後ろから来るからパッタドル!!』
「分かっている!」
フレキの指示通り避けていくリシオンだったが、逃げ場を無くしたところを大口を開けた八岐地竜が襲いかかる。しかしパッタドルが放った巨大な水球が顔面に炸裂した。
「ナイスアシスト!」
リシオンは水球を食らってよろけている首に向かって強化した足で飛びかかる。そして逆鱗に致命傷を負わせた。
『首はあと六つ!』
「ペース上げようかぁ!!」
白銀の羽毛を持つ、その美しさに心奪われそうになるホワイトドラゴンにマルシルは容赦なく爆発魔法を連打する。
マルシルが爆発魔法を集中して撃てる様に、カブルーとイヌタデは剣や金棒でホワイトドラゴンを挑発。しかし、ホワイトドラゴンはマルシルから目を離さない。
「マルシルさん!ホワイトドラゴンのブレスが!」
「うっそー!?」
生きる者全てを凍らせる絶対零度のブレスがマルシルを襲う。しかし、駆け付けたファリンを背負ったイヅツミが間に合い結界を張る。
結界はみるみるうちに凍りついていくが、中にいるマルシル達は無傷だ。
「こっちを……みて!!」
イヌタデの金棒による渾身の一撃は、ホワイトドラゴンの脛にぶち当たる。ホワイトドラゴンは絶叫を上げ怒ってイヌタデに襲いかかる。
しかし、振り向いた先にイヌタデはいなかった。
「いいぞタデ!そのまま動き続けろ!」
「うん!」
いつものイヌタデならその鈍足で捕まっていたかもしれない。しかし今は身体強化魔法を受けている。
豪快に大地に亀裂を走らせながら移動する。ホワイトドラゴンはすぐさまイヌタデを視認し、その剛腕を振り下ろす。
それを、イヌタデは金棒で受けきった。
「ぐうっ……ううう!」
「あそこに……!イツキくんがいるの……!!」
「邪魔!しないで!!」
身体強化魔法は、
オーガ族という戦闘に特化した種族。常日頃鍛錬を怠らないイヌタデ。好相性にも程がある魔法だった。
イヌタデは金棒をかなぐり捨てて、自慢の張り手をホワイトドラゴンの剛腕に炸裂させる。
鋼同士をぶつけ合った様な破壊音と共に、竜種であるホワイトドラゴンがあまりに強烈な張り手の威力に
「「タデちゃんすごぉおおおおお!!??」」
マルシルとカブルーがあまりの光景にいつもの呼び方と口調を捨てて一緒になって驚いた。
一方イヌタデは、過去にイツキに言われた事を思い出していた。
『女の子っぽくない?』
『うん…だって、お相撲さんって元々男の人がやるものだし』
年頃の女子とくノ一という職の間で揺れ動いていたとある日。イツキに相談を持ち掛けたイヌタデはうつむきがちに言う。
『体型とか、体重だって、イヅツミちゃんの方がずーっと女の子っぽいし』
そもそも種族が違うので致し方ない部分であるものの、性別や年齢特有の感覚はとても理屈だけでは語りきれない。
『んー…タデちゃん、ちょっと失敬』
『ふぇ?…ひゃあ!?』
イツキは自分と倍近い体格のイヌタデをひょいっと軽い木箱でも持ち上げる感覚で持ち上げた。所謂お姫様だっこ。
『ほら、超軽いじゃん。立派な女の子だよ、タデちゃんは』
イヌタデの視界に映るのは、自分を軽々と持ち上げ、太陽を背に微笑む男の子。
イヌタデはあの日、女の子であると同時に戦士となったのだ。
尚、その後イツキは手首や腰を痛めたがすぐさま治療し無かった事とした。
「ドラゴンさんごめん!私とイツキくんの為に引いてくれるかな!!」
【ゴアアアアアアアーッ!!!】
そうは行くかと言わんばかりに雄叫びを上げるホワイトドラゴン。イヌタデの後ろにマルシル達が駆けつける。
そして、鬼と竜が睨み合う鉄火場とはまた違うところで、大地を踏みしめる赤と悠々と空を舞う緑の双竜を前に堂々と仁王立ちする剣士と鍵師。
「「こっちだドラゴンどもぉぉぉぉぉ!!」」
ライオスとチルチャックは全速力で竜達から逃げる。背を向けた獲物を前に竜達は本能のまま追い掛ける。
(チリン――――。)
そして、二人が通った場所。そこには一定以上の重さを受けると発動する陣が引かれていた。
大爆発した地面。目の前が見えなくなるも、それでも赤竜は倒れない。本来の目的では無いので当然である。
本命は、爆発に気を取られ自分と同じ空域への侵入者に緑竜が気付かない様にするためのもの。
ヒエンとベニチドリは『鵺』と呼ばれるマイヅルの飛行型式神に乗って緑竜に接近していた。そして鵺から飛び降り、鵺自身は緑竜の前に飛び出し陽動。
ヒエンとベニチドリは緑竜に着地するとするりと移動し、首元にある逆鱗に発火札と呼ばれる爆発式が組まれた札を何枚も過剰に貼り付ける。そしてすぐさま離脱。まるでムササビの様な飛膜を広げ滑空する。
「(なにあれカッコイイ!あとで教えてもらお)」
「良くやった、二人とも」
マイヅルは遠隔から発火札を起動。爆発した逆鱗から大量の血が吹き出しそのまま緑竜は墜落する。
一方、赤竜は今にもライオスを噛み砕こうと大口を開けて襲いかかる。
【ガァッ!?】
しかし、赤竜が食らいついたのは大岩。
「私の幻覚はあらゆる生物に対して天敵なのよ」
ライオスが逃げ、爆発して目の前が見えなくなった辺りでシスヒスは幻覚術を作動。視界が晴れた赤竜には、大岩がライオスに見えていた。
「登れトールマン!」
ライオスの足場が赤竜に向かって迫り上がっていく。オッタの岩盤操作だ。
「このまま逆鱗まで一直線だ!」
ライオスは剣を構える。しかし、赤竜がライオスの方へ向き噛み付こうとする。
「やばいやばいやばい!?」
「喰らえデカブツ!」
そこにヒエンとベニチドリが投げた炸裂弾が爆発する。大した威力では無いが、陣による爆発で足を痛めていた赤竜は体勢を崩し、口を閉じてしまった。
「いけぇぇぇーっ!!」
そして、ライオスは赤竜の逆鱗に剣を突き立てる。
赤竜は大量出血の後、絶命した。チルチャックはライオスに駆け寄った。
「結構順調だなオイ!」
「ああ、なんとか上にいる隊長に合流を――」
上空を見上げたライオスは絶句した。そこには、身体中至る所にワイバーンが文字通り突き刺さって今にも落下しそうな東洋龍がいたからだ。
「いらねーな、これ」
「だな。シュロー達を手伝いに行こう!」
そして、ミスルンはと言うと。
「(クソ、思ったより時間が掛かって魔術師を見失った…)」
キョロキョロと視力と魔力視を頼りに捜索するも、そこに東洋龍の雷のブレスが襲う。
瞬間転移しそれを避け、トドメに東洋龍の頭蓋にワイバーンをまるごと転移させ東洋龍を絶命させた。
地面に叩きつけられた東洋龍の死骸の上に転移したミスルン。
「フレキ!狂乱の魔術師を――「隊長後ろ!!」」
ミスルンに声を掛けられたフレキの使い魔が大慌てで声を荒らげる。
しかし、既にミスルンの心臓部から黒い腕が突き出ていた。その手には、大きな内臓が一つ。
「ガッ…!?」
不意打ち。黒竜はこれでしかミスルンを確実に仕留めることが出来ないと判断し、魔力視などで視認されないようにシスルを気絶させてから瓦礫の下に隠し、
「隊長!!」
丁度八岐地竜を倒し終えたリシオン達、そしてホワイトドラゴンの討伐に成功したマルシル達が駆け寄る。
黒竜はすぐさま腕を引き抜き、心臓を握り潰した。
そして、ミスルンは死亡――。その永き生涯の幕を閉じた。
「いやぁあああ!?」
「慌てんな!まだ蘇生出来る!」
使い魔と通信を切ったフレキが錯乱したパッタドルを抑える。
「ナイス、フレキ」
リシオンは飛びかかってその剛爪を黒竜に振り下ろす。黒竜はそれを冷静に撃退しようとするも、何故かリシオンが数十体にも分身していた。
シスヒスの幻覚術。しかし、黒竜はギラりと睨みつけその幻覚を払う。
だが、その幻覚を払うという動作で足止めとしては十分だった。リシオンはもはや黒竜を殺す勢いで腕を振り下ろす。
しかし、黒竜には傷一つ無い。まともに攻撃が当たったにも関わらず、それどころかリシオンの爪はボロボロになってしまう。
「嘘だrごハッ!?」
蹴り上げられたリシオンを、黒竜は長剣を生成し突き刺した。そして突き刺さったと同時にリシオンの身体が激しく発火する。
このままでは灰になるまで焼かれ続け、蘇生は不可能になるだろう。
「があああああ!!?」
「させるかぁ!」
復帰したパッタドルの水球がリシオンに当たる。思わず剣から手を離し、地面に転がったリシオンの身体は鎮火されたものの、ピクリとも動かない。
「黒竜はイツキに適応しきったんだ!だからあそこまで流麗に魔法を扱える!!」
ライオスの予想は的中していた。黒竜はイツキという人間と混ざり竜魔人として姿を顕現させていたが、急な二足歩行や体格の違い、あらゆるズレに精一杯だった。
しかしもはや黒竜は今の姿に完全に適応したといえる。
「「うおおおお!!」」
ナマリ、センシ、ライオス……前線戦闘組が前に出てなんとか無力化しようとするも――――
数十秒後、黒竜以外に立っている者はいなかった。
誰も彼もが致命傷を負っていた。研ぎ澄まされた結界や身体強化ですら防ぎきれない凶刃に高密度の炎――。
「(く、くそ…身体が動かない…!)」
「(こんなところで…)」
「(考えろ、考えろ私!まだ、まだ何かあるハズ…!)」
他のメンバーが死亡もしくは重症を負っても尚、マルシルは頭をフル回転させ打開策を講じる。
そして、とあることを思い出した。
「(たす、けて…有翼の獅子……!)」
もはやこれしかない。マルシルはおそらく黄金郷の守り神が封じられているであろう魔術書の封印を――解いた。
【良く呼んでくれたね、マルシル】
本からズルりと翼が湧きでて、黄金と白の狭間を歩く様な体毛を持った獅子が、不敵な笑みと共に顕現した。
【後は、私に任せてくれたまえ】
上半身を本から出した翼獅子。不思議そうに下顎に手を添える。
【ふむ、君が傍にいるからかな?それとも地下の魔力濃度が上がっているからか…私がここまで姿を現せられるとはね】
【さあ、おいたはお終いの時間だよ。イツキ】
今話でポロッと出たタデちゃんとのストーリー。ちゃんとどこかで収められたらなぁと思う今日この頃。
令和ちゃん、日本の気温決める時に100面ダイス振らないでくれるか。