空を飛ぶ。
それは人間として生まれた者ならば人生一度は夢想するだろう。鳥になりたいとか、翼が欲しいとか、あの澄み切った青い空に飛んで行きたいだとか。あの星空に溶けてしまいたいだとか。
かくいう俺だってそうだ。竜の背に乗って空を飛ぶ事も夢だが、自分に翼が生えていたらどれだけ良かったかと思った事は今までの人生で何度もあった。
今俺は空を飛ぶという願いを叶えている真っ最中だ。だが、どうかこれから空を飛ぶ人は気を付けてほしい。
「ツキ……イツキィ……!」
【どうかしました?ライオスさん】
「寒いし風強いしどうにかならないかなぁこれぇ!!」
空を飛ぶというのは、とても寒い。
【ああ、ごめんなさい!防寒防風付けるの忘れてました!テンション上がってて……】
イツキは背に乗っているライオスに慌てて魔法を付与する。途端に調子が良くなり一息吐いたライオスは、改めて今乗っている近くにある丁度掴みやすい鱗を掴む。
【大丈夫ですか?】
「う、うん。大丈夫」
【なら良かった】
この暴風域で、かつイツキの声の発生源がライオスから離れているにも関わらず会話出来ているのは、単純にイツキは口で喋っているのではなく相手の脳内に直接会話の情報を送っているからだ。
【そろそろ悪魔に接触するので、改めて説明しますね】
「ああ」
【今から始まるのは、魔力無限同士の途方も無い『いたちごっこ』です。何せお互い魔力無限ですからね、魔法打ち放題だし防壁張り放題で決着付かないんですよ】
そこでイツキが提案した作戦は、『なんかいい感じに防壁突破したら悪魔の体内にライオスを突っ込む』というものだった。
「改めて、凄くふわっふわな作戦だな!」
【相手は無限の魔力のその大元ですよ?まあ、弱点はもちろんあります】
【悪魔は人の想像の域を出ない程弱体化している。つまり悪魔の対抗手段は人類が扱う魔法のみ】
【もちろんそれは、人類の到達点を遥かに上回っているかも知れません。ですが、魔法は所詮魔法。限界があります】
【その隙を突き、作戦通り悪魔の体内に入れたら、その食欲を食べるんです】
「なるほど……で、その肝心の食欲ってのはどこにあるんだ?」
【え?】
「え、いやだから内臓とかデュラハンの魔核みたいにどこか体内にあるんじゃ……」
【……………………………………】
イツキは急に黙りこくってしまう。心做しか飛行も安定していないように感じる。
「…えっ、まさか忘れてたのか!?」
【完っっ全に盲点だったぁ!!やべぇどうしよう!?ライオスさん魔物詳しいんですから、大体の魔物の核の場所分かったりしません!?】
「そんなの魔物によって違うしそもそも悪魔は魔物じゃなくて魔、そのものだろ!?」
【ふふっ】
「なにわろてんねん」
そうこうしている内に悪魔と黒竜の戦闘区域に入り込んでしまう。斬撃の雨、雷撃の嵐、氷極の渦、あらゆる魔法の余波に加えて強力な炎魔法の熱を防護越しに感じ取ることが出来てしまう。
「な、なにが起こってるんだ…!?」
【黒竜の奴派手にやってるな…ライオスさん気を付けてくださいね。今はおれの防護魔法がライオスさんを覆ってますけど、本来なら此処は『人類立ち入り禁止区域』ですから】
「ははは……もう何がなにやら」
【あ、そうだライオスさん。さっき渡した剣なんですけど…】
「これがどうかしたのか?」
イツキはその剣の特性をライオスに説明し、いざと言う時それを振るう術を教える。それにライオスは難色を示す。
「それ、大丈夫なのか…?」
【大丈夫ですよ。消費されるのは剣の魔力だけですし、何回でも打てますから】
そして、遂にイツキとライオスは悪魔と邂逅を果たす。
イツキ達の接近に気付いた悪魔と黒竜は手を止めた。
【やぁ、イツキ……なるほど魂が同一か、面倒が省けて助かるよ】
イツキと黒竜が成した契約、お互いの魂を分け与え双方の力を増幅させる。それ以外にも多くの利点はあるが、悪魔の言う面倒が省けるというのは、どちらか片方の魂が消失すればもう片方の魂も消失するという欠点の話。
イツキが死ねば黒竜も、黒竜が死ねばイツキも死ぬ。
【驚いたぜ。そんなボロボロの状態で煽れる奴がいるなんてな】
余裕綽々に見える悪魔も、所々欠損があったり火傷を負っている。しかしそれは黒竜も同じ。
【ふふふ、私としては君があのトラウマを克服出来たことの方が驚きだよ】
ピクリ、とイツキの目が細くなる。
【家族を焼き殺し、その炎で魔物や人間すら焼き殺すというのはどういう気分なんだろうね】
イツキの魂にすら焦げ付いた心的外傷。悪魔は再びそれをイタズラに傷付ける。しかし、今のイツキにとってそれは着火剤に過ぎなかった。
【確かに…あの時お前に記憶を呼び起こされて、吐きそうになったしなんなら死にたくもなったよ】
【別に今でも克服した訳じゃない。あの時の母さんと父さん、そして弟の顔は良く覚えてる】
【でも、でもな。悪魔よ】
【ん?】
イツキはその五つの瞳で悪魔を見据える。その眼にメラメラと燃えたぎっているのは、憤怒。
【それを、テメェにどうこう言われる筋合いは、ねぇんだよ!!】
瞬間、イツキを中心に空間が歪む。正確にはあまりの熱に発生した陽炎によるものだが、今現在イツキの周りの温度はもはや生物が生存するのは不可能な程だった。
【くく、ふふはははは!何やら計画があるらしいのは分かってる!それはそんなお荷物抱えて出来る事なのかね!?】
悪魔は再度魔法を展開。斬撃を中心とした極大魔法の波が再び襲い掛かる。
【ライオスさん!合図したらおれが翼獅子の所までぶっ飛ばしますので心の準備してて下さい!】
「わ、わかった!……え、ぶっ飛ばすの?」
【黒竜!】
黒竜は翼獅子に火炎を放つ。同時に四つの掌それぞれに炎の槍を生成、翼獅子に突き刺す。しかしそれらは翼獅子の防御結界により阻まれる。
【ぬるいなぁ、その程度の炎でやれるとでも!?】
悪魔は黒竜の腹部に拳を叩き付ける。同時に黒竜の腹部が斬撃に襲われる。
防護結界をライオスと地上及び地上全生物に付与しているイツキにとって、自分自身を覆う防護結界がどうしても脆くなるのは、それが元人間であるイツキの限界なのだろう。
【この距離なら結界は張れまい】
黒竜は口から血を吹き出すも、再生しつつ負けじと悪魔に掴み掛る。
しかし、その掴んでいた腕までも両断されてしまう。
【脆いねぇ!】
だが、黒竜に集中していたのが命取り。イツキは飛行したまま竜のうなじ、逆鱗から上半身だけ姿を現した。
イツキは両手を前に突き出し、右手を上にし掌を下。左手を下にし掌を上に構える。魔力を炎に変換し、その莫大な火力を一点に集中させ練り込んでいく。
【っ!】
そのエネルギーを感じ取った悪魔は、イツキに向けてミリ単位に細かい網目状の斬撃を放つが、それは黒竜の『劫火』によって跡形もなく消し飛んだ。
【概念ごと燃やすか……っ!】
『燃える』という現象をあらゆるものに強引に押し付ける。それが黒竜の最大の攻撃にして最強の十八番である『劫火』だ。
悪魔の展開する防護結界は、凡そ人類が再現するのは不可能な程緻密に作られ、それが曼荼羅の様に重なり悪魔を守っている。
それは黒竜の劫火ですら全損は厳しいだろう。
イツキがすべき事は、その結界に一点だけ穴を開ける事。
故に、イツキが思う最強の炎技を再現する必要があった。
魔法に必要なのは本人の魔力量、魔法の知識、精霊の有無、そして何より大切なのは。
絶対に出来るという、確信。
【『■』】
イツキが口にする詠唱を、悪魔は知覚する事が出来なかった。もし悪魔が人の域を出ない悪魔ではなく本来の悪魔としてならば理解出来たかも知れないし、防ぐ事も出来ただろう。
【『
万死の厨房が、その調理工程を無視して開かれる。
弓矢の様に放たれたあらゆる生命を滅ぼしかねない炎は、悪魔の結界へと突き刺さり、破裂する。
本来この技は刹那の高温・衝撃波・減圧と超加圧で対象を死に至らしめる一都市すら壊滅させる熱と炎による最終奥義。
イツキはそれを工程だけ模倣し、その出力を出鱈目に底上げした。
結果この紅蓮の矢の火力は国家は疎か大陸にまで及び、生物はもちろん微生物すら存在しなくなる不毛の大地を作り上げる死の炎と化した。
故に、イツキは防護結界を地上全域に展開したのだ。
これはイツキが人の身であるのならば実行不可能であっただろう。しかしもはや彼は人では無い、無限の魔力が人の形をした別次元の存在だからこそ実行出来た技だ。
そしてその死の炎は、悪魔を容易に貫いた。
【グ……ヌゥ……!】
悪魔が展開していた結界を物の見事に貫き、悪魔本体のその腹にすら深手を与える事に成功した。
しかしこれほどまでの火力を持ってしても、深手を与えるまでにしかならない。悪魔はその無限の魔力を持って傷を再生し始める。
【さあ行きますよ、舌噛まない様に!!】
「うおおおおおお!!??」
竜の掌に収まったライオスを、イツキは思い切りぶん投げる。ライオスに掛かる負荷や衝撃は幸いながら防護結界が無効化するので問題は無い。せいぜい舌を噛んだり酔ったりする可能性があるくらいだ。
ライオスは悪魔の腹に入った瞬間、意識が途絶える。正確には、別の場所へと移り変わった。
「こ、ここは…」
そこは真っ暗闇の空に覆われた崩壊した都市の様な場所だった。しかし、イツキの『開』の影響により引火しており、崩壊都市は業火に包まれていた。
業火に包まれているにも関わらず、そこは風もなく、暑くもなく、寒くもなく、音もない。虚無。その一言に尽きる。少なくともライオスはそう感じた。
ライオスは歩き始める。そしてその建造物を見るが、どれもこれも見た事も無い建築方式で作られた物ばかり。ライオスからすれば未来の建物に見えれば、過去の遺物にも見える。
しばらく歩き続けると、踏み締める地面に人骨が混じり始めた。それは、ライオスが進む道を進めば進む程その数を増やしていく。
そして遂に人骨のみが歩く足場となると、それが積み重なった山が見える。そして、そこに鎮座する一つの存在。
「翼獅子…!」
【やあ、ライオス。本当にここまで来れてしまうとはね】
悪魔が外で見た異形の大山羊の姿ではなく、初めて見たあの翼獅子としての姿としてライオスを見下ろしていた。
「これは…お前が今まで食べてきた、その残骸なのか?」
【さあ……どうかな。食べ損ねてしまったから】
翼獅子は足元にある頭蓋骨を、とても愛おしく舐める。その表情を、ライオスは汲み取る事は出来なかった。
ライオスは翼獅子の欲を食らう為、翼獅子に近付く。
【今、外ではイツキが私の意識がライオスに向かない様に全力を尽くしている】
【見てごらん】
翼獅子が指さした闇の空が一部晴れ、そこには大山羊と戦っている二頭の竜の姿があった。
【今しかチャンスは無い。私の意識の全てが君に向く前に】
悪魔は、その意識のほとんどを目の前の外敵に向けている。抵抗するために、殺すために、食らうために。
今ライオスの目の前にいるのは、人間一人分程度の弱い意識。それでも、人間一人縊り殺す事は造作も無い。
【さあ、次は君の番だ。ライオス】
【私を食らうんだろう?】
ライオスは、翼獅子の前に立つ。
【ここだよ、ライオス】
翼獅子は、自分の心臓部に指さした。
【ここにその剣を突き立て、欲を奪えれば君の勝ちだ】
翼獅子は立ち上がる。目の前の自分の命を脅かす外敵の為に。
ライオスは剣を抜く。目の前の悪魔の欲を喰らい、世界を救う為に。
そして、悪魔を魅了した欲の味が気になって仕方ない為に。
翼獅子は斬撃魔法を繰り出す。一閃のみの単純なものだが、故に威力は強い。ライオスは斬撃を横転して回避。そしてイツキの言葉を思い出す。
【翼獅子の相手ははっきり言って長引けば長引くほど体力と魔力を無駄にします。決めるのなら、渾身の一撃を初手に出すのが最適解です】
【それこそ、翼獅子の防護結界全てを貫く様な】
そのままほんの少しだけ魔力を剣に充填。剣は紅く光り出し、火炎魔法が付与される。
魔力充填が始動キーであるこの魔剣は、ライオスのほんの少ない魔力でもその全性能を解放する。
ライオスは魔剣に意識を集中させ、イツキの言葉を更に思い出す。
【ああそれと、その魔剣の発動条件なんですが】
【心の中でも良いし、口にしても良いので、こう唱えてください】
魔剣はライオスの意思に反応し、この暗黒空間に存在するイツキが発生させた全ての炎を吸収し、その真の姿を顕にする。
ライオスは両手から伝わる確かな熱をその魂の底から感じ取り、静かにその魔剣の真名を唱える。
「『
「『残火の太刀』」*2
両刃だった剣は片刃、その形状は日本刀のものに。その刀身全てに炎が燻っており、今にもその溢れんばかりの魔力を解放せよと魔剣自身も荒ぶっている。
しかしこの魔剣は正確には卍解でも無ければ残火の太刀そのものでも無い。魔剣の魔力解放のキーワードをイツキが趣味全開で残火の太刀に設定しているだけである。
しかし、その剣に宿る炎は本物と遜色ない。
翼獅子は初めて、目の前の死を意識した。
「えっと……万象一切灰燼と為せ…!」
ライオスは斬撃の太刀を力一杯振るう、そして同時に叫ぶ。必殺の技の名を。
「『天地灰尽』!!」*3
放たれるは絶剣の炎。地獄の業火と見紛う光景を見た翼獅子は防護魔法に神経を尖らせる。しかし、放たれた炎の斬撃は翼獅子の張った防護魔法をいとも簡単に突破、破壊に至り翼獅子の身体は上半身と下半身が別れる形となった。
どしゃり、と翼獅子は仰向けに地面に倒れる。見えるのは、ただ闇の空。もはや翼獅子に動く気力は無かった。
【ああ……また、至らなかった、か】
魔力の消費が少ないとはいえ精神的疲労が凄まじかったのか、ライオスは息を切らしながら翼獅子の傍に立つ。剣は既に元の形に戻っていた。
「お前は…本当に、ただ人類の欲を食べる事が目的だったのか?」
【そうだよ。それ以外に、何も無い】
「お前は…本当は、もっと自由だ、この世で一番自由な存在な筈だ」
ライオスは思い出す、自分が今まで培ってきた魔物の知識。それらをまとめたノート。それらを自分好みに統合した最強の魔物。
目の前にいる一生物は、それら全てを圧倒的に凌駕する最強を超えた番外。
ライオスは悔しいと感じた。自分の理想が、夢想が、このザマなのだと。
「こんな…こんなものの為に」
ライオスは翼獅子の心臓部から欲望を司る結晶を取り出す。そして、それを一口齧る。
瞬間ライオスの脳全体に行き渡る、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の基本味。更に補助味である辛味、渋味ですらそれら全てが合わさり本来ならば不味い筈のその味は、甘美な味となってライオスを包み込む。
全身から溢れ出す多幸感。満足感。それらが溢れ出て止まらない。
そして同時にライオスは思った。これは【有毒】である、と。
「これは…ダメだ、確かに、凄く美味しい。きっとこれは人間の語彙なんかに当てはまる事が無いんだ。形容しがたい、としか言いようが無い」
「夢中になるのも分かる。でも、俺はもういらない。おなかいっぱいだ」
「これを…胃袋の底が無い様なお前が食べれば、きっとそれは天国であり、地獄なんだろうな」
【分かった様な口を…】
「分かるよ。なんとなくだけど」
ライオスは翼獅子の隣に座る。目の前に広がるのは、絢爛豪華な円卓に広がる無限大のご馳走だ。
「おなかいっぱいだが…ここで諦める訳にもいかない」
「全部頂くぞ、余すことなく」
そして自らの眼前で両掌を合わせ、目を閉じる。告げるのは、毎日欠かさず食事をする際に行う、とある一言。
「いただきます」
翼獅子の身体を、食欲を、ライオスは貪り始める。
【(ああ…消える、消えていく。私の食欲、私の欲望、私の原点)】
翼獅子は最後の時を噛み締める様に思い出していく。それは、欲望に支配された今までの翼獅子には思い出せなかった、食べ残し。
自分の生まれ。自分の在り方。自分という存在の定義。自分を受け入れた存在。自分を閉じ込めた存在。
そして、人間の破滅願望を。
【(人には破滅願望がある。それが受動的であれ、能動的なものであれ)】
【(どんなに幸せでも、ふと、そう思ってしまう)】
【(あの時私に願ったあの男。私に全てを滅ぼせと願ったあの男)】
【(無限に続く幸福。無限に続く毎日に、絶望したのか)】
【(そうか…はは、ははは。今、やっと分かった)】
【人は、飢える為に生きるのだな】
それを最後に、翼獅子はこの世界から消えた。
「ああ…いつか死ぬために、今を生きるんだ」
そしてライオスも、その言葉を聞いて意識を失う。
次に翼獅子が目を覚ましたのは、見渡す限り無限に続く平原。いつの間にか翼獅子は平原のど真ん中で座り込んでいた。
【ここは…】
【無限次元だよ、お前の】
翼獅子は後ろを振り向く。その竜人は、かつての怨敵。
【でも、なにも感じないね。君を見ても、憎悪もなにも湧かない】
【そりゃそうだろうさ。なんせ今のお前はおれより遥か上位の存在に戻ったんだから。象が蟻に意識を向けるか?】
竜人は翼獅子の隣に座る。そして少し微笑みながら翼獅子に問いかける。
【スッキリしたか?】
【…ああ、そうだね。とても】
【そうか…じゃあ】
竜人は立ち上がって、翼獅子の顔を、
【オラァ!!!】
思い切り、蹴り飛ばした。
【ぶふぇあっ!?】
翼獅子は竜人から遠く離れた所に撃墜した。
【っしゃあー!スッキリした!!】
翼獅子はピクピクしながら歩いて来た竜人を見据える。
【そ、そこは普通穏便に見送る所じゃないのか…?私を元に戻し、今までの罪は洗い流す的な…】
【何言ってやがる。おれは勇者でも無ければ賢者ですらない。全てを救う事も、全てを赦す事も出来ねーよ】
【こ、これだから君は…】
【元はと言えばあんな煽り方したお前が悪い】
竜人は翼獅子の背中に遠慮なく座る。
【正直言うと、少し淋しいよ】
【…何故?】
【んー…なんだろうな、友達…じゃないし、あー…】
ああ、そうだ。と竜人は納得した様な顔をする。
【唯一無二の同族がいなくなるから、かな?】
竜人は人間である事を放棄した。その原因が己をこの世界に導いた者であれ、目の前の宿敵であれ、心の底から寂しいと感じたのだ。
翼獅子はそんな男を、とても冷ややかな目で見る。
【そんなの、お断りだ】
油断仕切ったその背中に、翼獅子は爪を突き刺した。
【おまっ…!?】
【おかえしさ】
そして、竜人の魂からとあるものを取り出した。
それは、【無限】。魔力であり、寿命であり、竜人を形成するエネルギー。
【君にそんな感情抱かれるのなんて真っ平御免だよ。君なんて精々、畳の上でくたばるのがお似合いさ】
翼獅子は竜人の身体を改造する。完全に元に戻った訳では無いが、少なくとも無限とは縁が無い肉体に。
無限の力を奪われた竜人は、この世界からはじき出される。突如現れた極彩色の渦に呑まれるも、抗い続ける竜人。
「翼獅子…!また、会えるか!?」
それは、イツキの心からの本音。無限を知った彼は、無限による幸福も、無限による孤独も知った。
唯一無二の宿敵は、不敵に笑って見せる。
【いつかね】
それを聞いたのを最後に、イツキの意識は途絶えた。
【また会おう、我が宿敵】