異世界ダンジョン飯   作:一般通過炎竜

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遅れてすまぬ


第六十四話『代償』

 

イツキは目を覚ます。目の前に広がるのは視界いっぱいの青空。白い雲は行先も無く、ただ空をさ迷っている。ふと右を見ると見慣れた人が倒れている、ライオスも空を見ていた。

 

「やりました、ね」

「…そうだな」

 

勝利、なのだろうか。複雑な感情を整理しようと、二人はまた揃って空を見る。しかし一向に気分が晴れる事は無かった。

 

「…あぁそういえば、無限無くなっちゃいました」

「そっか」

 

人類が望んでやまない人智を超えた叡智が失われたというのに、二人の反応は冷めていた。

 

「ライオスさんは…」

「…俺は、なんか疲れたよ。激動過ぎた」

「ですね」

 

ライオスは頭を横にズラしてイツキを見る。初めて会った時の学ランに、変容した腕や脚、角や頬の鱗。

 

見る影もないとまでは言わないが、今までの容姿からはかけ離れた姿。ライオスはグッとその探究心を抑えながらイツキの身体を心配する。

 

「角とか鱗とか触っていいか?(その身体、なんともないのか?)」

「いや逆ぎゃく、抑えられてないじゃないですか。後でいくらでも観察していいんで今はやめときましょう?」

「ごめん…」

 

「はは…まあ、ライオスさんらしいですけど。身体の方は大丈夫ですよ。身体機能を損なう様な所はありません」

「そうなのか」

「はい。まあ仕舞うとくしゃみ我慢してる時みたいなむず痒い感じになるんですけど」

「それは…辛いな」

「…アイツは、もっと辛かったと思います」

「……そうだな」

「分かってやれる機会があったのに、分かってやれなかった」

「……ああ」

 

イツキは余りの悔しさに、自分の手の傍にあった草を握り締める。

 

「ムカつくので、絶対会いに行きます」

 

イツキはへこたれない。後悔などとっくの昔に燃え尽きた。

 

「ははは!その意気だ」

 

ライオスの笑い声が辺りに響くと、遠くの方から声が聞こえる。それは二人にとってとても大切な人達の声。

 

「兄さーん!イツキー!」

 

ファリンを筆頭に全員が集まってくる。ライオス一行。くノ一組。カブルー一行。ドワーフ達。一部のカナリア達。

 

イツキとライオスは立ち上がり、飛び込んできたファリンを受け止める。

 

「おかえりっ、二人とも」

「うん、ただいま」「…ただいまです」

 

三人はふと、迷宮に入る前の下積み時代を思い出した。大変な毎日だったが、決して苦では無かったあの日々を。

 

しかし、イツキの表情はどこか暗い。それを聞こうとしたファリンだったが、

 

「あーゴホン、家族団欒中申し訳ない」

 

そこに、ヘイメア女王がカナリア達の中から出てくる。

 

「ヘイメアさん。あれから地上はどうなりましたか?」

「安心したまえ。まだ全て確認し終えた訳では無いが、少なくとも現時点で連絡が取れたドワーフ国やノーム国は無事だよ」

「そうですか…」

「まあ…これから色々あると思うからひとまずはお疲れ様と言っておくよ。君達は世界を救った。これは紛れもない事実だ」

 

ヘイメアの言葉に、もう我慢し切れなかったイヅツミとイヌタデがイツキに駆け寄り、ライオス一行の面々もリーダーであるライオスを労う。

 

「もう勝手にいなくなるなよ」

「うん」

「ざびじがっだでずぅ〜…!」

「…ごめんね、タデちゃん」

 

涙目のイヅツミと号泣しているイヌタデを他所に、チルチャックがライオスの背中を軽く叩く。

 

「よ、ライオス。世界を救った感想は?」

「うーん…あんまり実感無いってのが本音かな」

 

ライオスの言葉に、ナマリとシュローが呆れ顔でライオスに声を掛ける。

 

「お前は変わんねぇな…」

「全くだ。いい加減その大雑把な性格を直したらどうだ」

「そ、そんなに大雑把じゃないぞ!」

 

ライオスの反論にマルシルがいち早く反応した。

 

「いや結構そういうとこあるよライオス」

「そんなぁ…」

 

思わずがっくりしてしまう世界の救世主とは思えない態度に、全員が笑う。

 

そこで、センシが話を切り出した。その手にはイツキとライオスが呑む用のお茶を用意して。

 

「さて、これからどうするのだ?」

「とりあえず…戴冠式?」

「いや、まだ城も無いぞ?」

 

「…戴冠式?誰のだ?」

 

ライオスの言葉に、イツキとヘイメアが口を揃えて言う。

 

「ライオスさんの」「君の」

 

「……え?」

 

「そうだぞ、ライオス」

「え?」

 

混乱しているライオスに、二人の男性が近付いてくる。その姿に、片方の正体を知っている面々は警戒する。

 

「シスル!ヤアド!」

「やあ、さっきぶり…と言っていいのかな」

「お疲れ様でした、皆さん」

 

狂乱の魔術師シスル。そして王族の末裔ヤアドがライオスの前に姿を現した。

 

「話、出来たのか?」

「ああ。…こっぴどく叱られたし、殴られもしたけどね」

「良くその程度で済んだものだな」

 

ヘイメアの言葉に、ヤアドが口を開く。

 

「確かに彼は我々、黄金城の民達を魂ごと封じ込め幽閉しました。それは赦される事ではありません。ですが、元を辿れば過去の黄金城の民達や我々がシスル一人に重責を負わせたのも事実。話し合いの結果痛み分けという形となったのです」

 

「まさか君にラリアットされる日が来るとは夢にも思わなかったよ…」

「あ、あれは殴り慣れて無いから体勢を崩したと何度言えば…!」

 

シスルは自分の首元を摩り、ヤアドは顔を真っ赤にして訂正する。

 

そして、シスルはゆっくりとイツキに近付き、深々と頭を下げた。

 

「本当に、申し訳無い。私の身勝手な行いで君には多大な迷惑を掛けた。本当に「はいそこまでー」へうっ!?」

 

イツキはシスルの両方の頬を両手で引っ張る。

 

「いふぁい、いふぁい!」

「はい。これでおあいこですね。全部許しますよ」

 

パッと手を離し、頬を摩るシスル。

 

「こ、この程度で許しなど…!」

「うるさいなー、俺たちが良いって言ってるんですから良いんですよ」

 

そう言い、イツキは自分の胸あたりをトントン軽く叩く。

 

「…そこに、黒竜がいるのか?」

「ええ。無限魔力無くなって契約云々がちょっと面倒なことになったので一旦収まってもらいました。コイツも言ってますよ、主を守れて良かった…って」

「……そう、か」

 

泣きそうな顔になるシスルの頭を、イツキは優しく撫でた。

 

「と、とにかくそちらで話が穏便に済んだのならよかった…で、戴冠式ってどういうことだ?」

 

ライオスの言葉に、シスルは目元を擦り表情を切り替える。

 

「覚えてないのかい?この迷宮のクリア報酬を」

「『狂乱の魔術師を打ち倒した者には、わが国の全てを与えよう』。というのは、要は黄金城の王様になれるという事です」

 

シスルとヤアドの説明に、ライオスは愕然とする。

 

「お、王様!?俺が!?ていうか狂乱の魔術師、シスルを倒したなんて俺はやってないし目の前に本人がいるじゃないか!?」

「細かい事は言いっこなしです。狂乱の魔術師は悪魔によって狂わされていたと言っても過言ではありません。その悪魔を打ち倒したのは紛れもない貴方です」

「そ、それならイツキにだって権利はある!イツキの助け無しじゃ悪魔に勝つなんて不可能だった!」

 

「あ、おれはダメですよ?」

「なんで!?」

 

「おれ言ったじゃないですか『悪魔という超越的存在を打ち倒し、この世界を治めるのは人間でなくてはならないのです』…って。無限の魔力が無くなったとは言えおれは純人間とは言い難いので。人の王は人であるべきなんですよ」

 

「イツキは人間だ!俺達と同じ!」

「ふふ、ありがとうございます」

「ああどうも…じゃなくて!」

 

「まあまあ、積もる話もやるべき事もこれから沢山ある」

 

イツキとライオスの会話に、ヘイメアが割って入る。

 

「それら全てこんな所で立ち話は勿体ないだろう?」

「と、言いますと?」

 

いたずらっ子な様な表情で言うイツキに、ヘイメアも同じくいたずら顔で答える。

 

「祝宴を開こうじゃないか。世界救済の日として、かつイツキ救出完全成功を祝って。安心したまえ、食料などは全てこちらで用意しよう」

 

ヘイメアの言葉に、周りの面々は沸き立つ。タダ飯は美味いものだ。そこで、イヌタデがなにか思い出したのかイツキに話しかける。

 

「あ、そうですイツキくん!」

「…タデちゃん」

「お誕生日会、まだですよ!」

 

イヌタデの言葉に、イツキは「あーそういえば…」と答える。

 

「ふむ。ではイツキの誕生祭も兼ねようか。なにせ救済の竜としてこれから大変だろうしね」

「…え?」

 

先程のライオスと同じような表情になるイツキ。

 

「当たり前だろう?ライオスだけじゃなく君の戴冠式もあるぞ。人王と、竜王のね」

「竜王…!ならいっか!」

 

男の子心擽るワードにイツキは逆らえなかった。

 

「さ、私はこれから各所に連絡を取る。流石に今日中には無理なので、連絡をこちらから送り次第祝宴と洒落こもうではないか!」

 

「「おー!」」

 

ひとまずこの場は解散となり、ヘイメアはフラメラとカナリア以外のエルフ達と共に精霊を使い連絡など忙しくなった。

 

悩みまくっているライオスをチルチャックとヤアドがなだめている。

 

イツキはと言うと、暗い理由を聞き出そうとする女性陣を振り切り、感じ取った魔力を追って森の中へ。そこにはカブルーとミスルン、そしてリシオンとフレキの姿があった。

 

「カブルーさん。師匠…大丈夫ですか?」

「イツキ…いや、それが全く反応が無いんだ。辛うじて呼吸はしているけど…」

 

「無理も無いよ。隊長をつなぎ止めていた悪魔への復讐という唯一の欲が無くなったんだ。今生きているだけでも…正直奇跡だよ」

 

それを聞き、イツキはミスルンの前にしゃがみ、

 

その頬を思いっきり引っぱたいた。

 

「イツキ!?」

「ちょ…」

 

カブルーとリシオンはイツキを止めようとするが、フレキが手を出して止める。

 

「師匠、なに腑抜けてるんですか」

「…」

「唯一の欲?馬鹿も休み休み言ってください。元上位者として言わせてもらいますけどね、人の欲が枯渇する事なんてないんですよ」

 

「あれがしたい、これがしたい、あれを食べたい、これを食べたい。人の欲というものに際限は無いです。それこそ無限に」

 

「食べ残しとして残った師匠もそうです。それらが枯渇することは決してありません。今の師匠はただ不貞腐れてるだけなんですよ」

「…なんだと」

 

あ、動いた。とリシオンが驚愕する。

 

「お前には、分かるまい。食べ残された者の気持ちなど」

「分かりませんね。分かりたくも無いです。そんなしみったれた事考えてるおっさんの心境なんて激しくどうでもいいです」

 

フレキが吹きかけたがなんとか耐えた。

 

イツキはミスルンの襟を掴み上げる。その表情には確かな怒りが込められていた。

 

「おれにあそこまで鍛錬を叩き込んだりしたじゃないですか。あれも悪魔への復讐心故なんですか?」

「…それは」

「崖から突き落としたのも滝壺に蹴り落としたのも魔物の巣に単身かつ非武装で突撃させたのも、全部そうなんですか?」

 

カブルーはミスルンの所業に引きつつも、イツキの言葉に同調する。

 

「そうです、そうですよ。ミスルンさんだってそうなる前、空腹から満腹になるまでご飯を食べた事あったでしょう?」

 

「それでも、次の日になれば腹は減る。厄介なことに生きてる限り欲求というのは生まれ続けるんですよ」

「……」

「師匠、今師匠が考えてること当ててみましょうか」

 

「師匠、完食されたかったんですよね?」

「っ…」

「食べ残しとして、皿の上の野菜屑みたいな感じ」

 

「…ああ、そうだ。きっとそうなんだ。元々私は食べ残しだ。悪魔が去り、自分が完全にゴミとなった」

 

「全てが無意味だ」

 

「「違います」」

 

イツキとカブルーの言葉が合わさる。断固とした否定に、ミスルンは驚いた。

 

「無意味な事なんてこの世に存在しません。ウタヤで生き残って、今こうして貴方を説得してる俺の様に、この世の中は必要な事だけなんですよ」

「…私が食べ残された事にも、か?」

「そうです」

 

「師匠、料理なんてしませんよね」

「…なんの話しだ」

「おれの料理の師匠はセンシさんなんですけど、センシさんとその弟子のおれはこう言います」

 

「『食べ残しにも使い道がある』…って」

 

「……!」

「そうなの?」

「あ、カブルーさんも料理しないクチですか?」

「しないなぁ、しようかと思ったら誰かが用意してくれてるし」

「なんだそりゃ」

 

「とにかく、野菜屑とか食べ残しなら堆肥になりますし、違う生き物の糧にもなります」

 

「燃え尽きて、不貞腐れるのもいいですけど、灰からは別の生き物が生まれます。どう足掻いても」

 

「今度祝宴をやるそうです。またご飯食べましょうよ。食べ残さず、キチンと完食して」

 

「……ああ、そう、だな」

 

ミスルンの目から、涙が流れていた。

 

「食べ残しにも使い道…か、ふふ」

 

「それは、良い事を聞いた」

 

イツキとカブルーは目を合わせて安心する。そこに、フレキが口を出してくる。

 

「隊長さー、なんか趣味とか作ろうよ。貴族だし金ならあるから仕事はしなくて良いし、趣味に没頭すれば少しは眉間のシワも減るんじゃね?」

「例えば?」

「え、例え?うーん………麺打ちとか?」

「なんで麺打ちなんですか」

「今ちょうどパスタ食べたい気分だった」

 

フレキの案に、リシオンが被せてくる。

 

「それならさ、陶芸とか芸術系もいいんじゃない?」

「おーいいじゃん。自分の麺を自分のお椀でか…」

 

「…フレキさんお腹減ってるだけでしょ」

「バレた?」

 

和気あいあいとイツキ達が笑い合うのを、ミスルンは目に焼き付ける。

 

これからの永い人生、それに比べれば泡沫の様に溶ける一瞬の時間。それを決して忘れない様に、記憶と魂に焼き付けていた。

 

「イツキ見つけた!」

「あっ」

 

すると、イヅツミの声が辺りに響く。それに釣られて出てきた女性陣。

 

「逃げるなんてどうしたと言うのかしら、イツキさん」

「その手に持ってる杖下げてから言え」

 

パッタドルに指摘され、あら失礼、とシスヒスは杖を仕舞う。

 

「さ、責任取ってくださる?」

「シスヒス!貴様いい加減にその脅し文句やめないか!あれはイツキ殿であってイツキ殿ではない状態だった!そんなこと分かってるだろうに!」

「ほんとからかいがいのあるお人だこと」

「なんだとぉ〜!?」

 

オホホと笑うシスヒスと顔を真っ赤にしているパッタドル。

 

「イツキ、気にしなくて良いんだよ?怪我なんてとっくに治ってるし」

 

ファリン達はイツキが暗い理由をなんとなく察していた。

 

いくら狂化していたとはいえ、ファリン達を傷付けたのは事実。先刻はそれどころでは無かった為後回しにしていたが、その罪悪感はじわりじわりと心の奥底から溢れだしてきていた。

 

「…私達はいいのか」

「俺なんて刺された上に焼かれたんだけど。てかなんなら隊長死んでるし」

「二人とも、しっ」

 

もっともな意見をボソリと言うミスルンとそれに同調するリシオン。イツキ的には女の子を、しかも自分のことを想ってくれている人達を傷付けたという方が精神的に来る物があったらしい。

 

「私嬉しいの、イツキがこうしてまた私達の前にいるのが」

 

座って俯いているイツキに、ファリンが膝を突いて頭を撫でる。

 

「私がその程度の事気にすると思ってんのかよ」

 

イヅツミはイツキの背中を背もたれにして寄りかかる。

 

「そうです、イツキくんが元気ならそれで良いんです」

 

イヌタデはイツキの隣に正座する。

 

「わ、私も…!もがっ」

「今はやめときなさい」

 

パッタドルの口を手で塞ぐシスヒス。多少なりともこの三人に遠慮する気はある様だ。

 

「…うん。ありがとう、みんな」

 

そして、イツキは覚悟を決めた。

 

「みんなの責任は、ちゃんと取るから」

「え…それ、って」

 

「…おれが嫌、じゃなければ」

 

イツキの言葉に、ファリンとイヌタデは顔を真っ赤にし、イヅツミは顔を隠し、パッタドルはあわわと狼狽え、シスヒスは小さくガッツポーズした。

 

「へー、第一夫人は誰になんだろうな?」

 

フレキの爆弾発言に、ピシリと空気が止まる。滝汗をかきはじめたカブルーはミスルンを連れて退散。リシオンもフレキを担いで獣化して即座に撤退。

 

「どう決めよっか」←ファリン

「武力ですか?」←イヌタデ

「いや、魔力では?エルフ的に」←パッタドル

「ここぞとばかりに上位種族気取りかよ」←イヅツミ

「私エルフなんですけど?」←シスヒス

 

正に一触即発。尚シスヒスは面白がっているだけである。

 

「あ、あの…第一とかじゃなくて、おれは…その…」

 

「「イツキ」」「イツキくん」「イツキ殿」「イツキさん」は黙ってて」

 

「アッハイ」

 

悲しいことに、今この場を持って尻に敷かれる事が確定した一匹の竜人が誕生した。

 

まあ、複数の見目麗しい女性を手篭めにした代償としては、軽すぎるものである。これからも増える予定もある故、イツキは今後一生女性陣に頭が上がることは無いだろう。

 

 

 

「…むっ、出遅れた予感」←ヘイメア

「行き遅れじゃなくて?」

 

その後、氷漬けになっているフレキを見かけたリシオンだった。

 





原作でもそうだったんですけど、ヘイメアさん皺可変式なの?あったりなかったりするんですけど、そのへんどうなんです?

「魔法はいいぞ」
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