――――ヘイメア女王が再びメリニへ訪れた。幾千の兵や従者を従えて。
傍から見ればエルフ勢の侵略に見えるかもしれない。しかし事前にイツキとカブルーの人脈つよつよコンビにより島の住人達に予め伝えられていた為、多少のいざこざで済んだ。
ヘイメア曰く、予定通り祝宴は行うが現場の混乱鎮圧の為時間を要するとの事。
ヘイメアの言う通り、メリニにはそれはもう大勢の人々が来島した。もはや大勢という言葉が過小に聞こえる程に。
他国の住人、商人、冒険者。果ては別の国の貴族大臣王族まで。
みな、世界を救った救世主を一目見ようと集まっていた。
「な、なんでみんな俺達がやったって知ってるんだ…?」
ライオスの意見は尤もなことだった。事実あの場にいた彼等以外知る由もない食卓へ並べた世界を賭けた最終決戦。
ライオスは知る由も無かった。あの時、ヘイメアは地上からイツキが展開していた防護結界ギリギリまで観測用妖精を送っていた。
その映像はリアルタイムで各国の上位層に送られていた。それを見て何も感じない者はいなかった。それが善なるものでも、邪な考えであろうとも、確かにあの瞬間世界が動いたのだ。
あとの反応は様々だ。とある国では世界救済を謳い人民に伝え、とある国では悪影響だと隠蔽したり。良くも悪くも、と言ったところだ。
「いやぁ、てんやわんやだなこりゃ!」
メリニにある船着場の管理者は嬉しい悲鳴を上げる。ヘイメアが伝達してからおよそ十六時間以内に各大陸から船がいくつも来航した。
その大半はメリニへの救援物資。内容は食料や医療品、綺麗な布や上等な素材など。迷宮が完全崩壊し黄金城の復活に伴いメリニにいる人々への支援とこれから興る国への手始めの恩といったところだろう。
目をサラにして驚く島主はタンスや他の人員と協力しなんとか物資を管理、配布へ至り。メリニに住まう人々に平等に配られた。
なお、物資をちょろまかそうとしたり詐欺を働く者も出たが、チルチャックやダンダンを筆頭にしたハーフフット達の働きでそれらは事前に防がれた。
多少の混乱もあったが、元々迷宮に挑んでいた者やそれらを相手に商売をしていた商人が殆どのメリニはあっという間に落ち着きを取り戻し。
今、メリニでは祭りが催されている。
世界救済と、新たな王の誕生を祝う祭りだ。
祭りには様々な人が楽しんでいる。種族性別宗教思想、各々が根っことして譲らないものを一先ず置いておいて。
そんな祭りを、イツキは町はずれの高台から見下ろしていた。
黒い鱗の腕を手すりに置き、穏やかな風を感じながら。
「こんなところにいたんだ、イツキ」
「な、やっぱりコイツだったろ」
「良くあんな遠い所から見えたね」
背後から声が聞こえる。それは、正式にイツキの恋仲になったファリン、イヅツミ、イヌタデだった。
「マジかよ…下見のつもりだったのに。……いや、ちょうどいい、か?」
「ん?どうしたの、イツキ」
「あー……うおっほん!」
イツキは三人の方へ振り返る。その表情に落ち着きは無い。上を向いたり横を向いたり笑顔になったり悩んでいる顔になったり。
「んだよ、落ち着かねーな」
そこでイヅツミはイツキが持っている包みに気付く。なにやら質の良い布で作られている純白のもの。何かを察したイヅツミは耳が横に平らになって瞳孔を開いた。
「こういうことを、さ。三人いっぺんにやるとか正直どうかと思ったんだけど……優劣なんて付けたくないし、この場にいないあとの二人にももちろん同じことはやるんだけど……さ」
顔を赤くして目を逸らしながらも、イツキは三人の方へ身体を向け続ける。
ファリンとイヌタデも察し、思わず身体がピン、と真っ直ぐになる。
イツキは深呼吸をした後、覚悟を決めて包みから黒い箱を三つ取り出した。それは、メリニ唯一の宝石店の指輪を入れる用のリングケース。
「おれの名前は、真島樹。異世界からやってきた、元人間」
「紆余曲折あって竜と混ざった亜人となり真人間とは言えなくなったけど」
「近々、メリニの王朝時代が再び幕を開ける」
「その時におれは竜王の称号と共に近衛騎士を正式に拝命される」
「ということで、今のおれの職業は王直属の近衛騎士ということになります」
生涯安定ですね、と付け足す。収入が多い、とも。
「……ファリン」
「……うん」
敬称を外したのは、敢えて。
「貴女と初めて会った時、おれを信じてくれてありがとう。貴女が居なければおれはこの世界の何処かその辺で、この世界の素晴らしさを知ること無く野垂れ死んでいたでしょう」
「そんな貴女の優しさと人柄に、おれは惹かれました。大好きです」
「……嬉しい、よ、イツキ」
ファリンはいつも以上に顔を真っ赤にして両頬を押さえた。イヅツミは内心、えっこれまさか三人分やるのか?自分も?と思って耐えきれず逃げようとするも、イヌタデに両肩を押さえられる。信じられない様な目でイヌタデを見るも、イヌタデも緊張のあまり前しか見てない。
「イヅツミ」
「……ん」
覚悟を決めたイヅツミは、イツキを見据える。
「君と会ったあの日、自由な子だなというのが正直な感想だったよ。それは今も同じ。自由で、我を通し、唯一無二が似合う女の子」
「協調性が無い、とも言うだろ」
「それが分かってる人は自分をそんな風に言わないよ。あと、おれが好きな子を乏しめないで欲しいかな」
「っ……」
「大好きだよ、イヅツミ」
嬉しさとむず痒さを全身掻きむしってなんとか耐え続けるイヅツミ。
「タデちゃん……いや、ヒジョウヒ」
「は、はいっ」
慣れ親しんだ忍名ではなく、本名で呼ぶ。
「ヒジョウヒは自分のことをガサツで乱暴だと思ってる。前に相談してくれた時そう言ったよね」
「自分は女の子らしくない、力しか取り柄がない相撲取りだって」
「は、はい」
イツキは笑顔で、ヒジョウヒの顔を真っ直ぐ見る。
「でもおれは、ヒジョウヒ程女の子らしい可愛い子を知らない」
「ひゅいぃ〜〜……!?」
「ふふっ……大好きだよ、ヒジョウヒ」
「は、はひぃ…!」
「うげぇっ…!?」
顔から湯気を出すほど赤くして思わずイヅツミを抱きしめるヒジョウヒ。イヅツミは抜け出せず苦しむがファリンがこっそり回復魔法と身体強化魔法を弱めに掛けた。
「すぅー……ふぅー……」
深呼吸をした後、イツキは三つのリングケースを開ける。そこには銀色に光る輪に、ダイヤモンドが施された指輪。月並みで、一般的で、だからこそ今の三人にピッタリな指輪。
「ファリン、イヅツミ、ヒジョウヒ」
「おれと、結婚してください」
その顔はどこまでも真剣そのもので、真島樹という人間を物語っていた。
ファリンは思い出す。
嫌なことがあり落ち込みながら町はずれの森中の湖へ幽霊達に導かれる様にフラフラと訪れ出会った、漆黒の服に黄金のボタンを付けた不思議な少年。
彼から聞いた異世界の話。彼自身のこと。
月明かりに照らされた笑顔をこちらに向ける。
それはファリンの瞳を焼き焦がす程強烈で、離れ難いものとなった。
イヅツミは思い出す。
自分に訪れた獣の性を抑えきれなくなり、彼にしつこく付きまとい挙句の果てに夜中に彼の部屋へ訪れた。
夜中に雌一匹で、雄の部屋に。
その意味を知らない程、自分は世間知らずでは無かった。
涙にまみれ心も魂もぐちゃぐちゃになった自分を、彼は優しく抱きしめた。気付けば眠っていたが、何かをされたような形跡も無かった。
自分のワガママと、獣性を受け入れてくれた彼。
惹かれない訳が、無かった。
ヒジョウヒは思い出す。
引っ込み思案で自分に自信が無く、力だけが取り柄の鬼。
ヒジョウヒは自分の事が嫌いだった。もっと小さければ、もっと細ければ、もっと力が弱ければ、もっと、もっと、もっと……そう思わない日は、無いほどに。
そんな自分を、彼は優しく抱き抱えた。
普通の女の子の様に、女の子の憧れのお姫様抱っこで。
太陽の様な君は、太陽に照らされ、太陽の様な笑顔を向ける。
初めはイヅツミとファリンに遠慮した。自分には釣り合わない。自分には勿体ない。自分には恐れ多い。
それでも、私は太陽に近付いたのです。例えこの身が太陽に近付き過ぎた鳥の様に滅びたとしても良かった。だって、こんなにも暖かいのだから。
三人は並んでイツキを見据える。その顔には、笑顔が浮かんでいた。
「「「こちらこそ、よろしくお願いします」」」
事前に打ち合わせでもしていたかの様に声が重なる。別にそんなことはしていない。ただ今この場にいる三人の気持ちが一つになっただけの事だ。
「っ……!!良かったぁ〜……!!」
イツキは思わず涙を流した。
「んだよ、振られると思ったのか?」
「だって……三人同時に告白とかさぁ…」
「ま、普通の男なら百振られてその後に玉蹴られても文句は言えないだろうな」
「普通の男の人なら、ね」
「イツキくんなら大丈夫だよ!」
「いやそれはそれでどうなの…?」
「ま、あと予定だけで最低でも二人も埋まってんだしそん時振られるかもな。振られても文句は言えんぐらいだが」
「うぐぅ」
「ふふふ」
「……よし。じゃあ、三人とも」
イツキは三人に近付き、最初にファリンの手を持った。
「へーやっぱ最初はファリンか」
「ふーんしょうがないよねーファリンさん可愛いもんねー」
「いや、それはそうだけどさぁ!分身する訳にもいかないんだからぁ!」
「からかってるだけだよイツキ」
「…じゃ、じゃあ……付けますね」
「うん」
イツキは指輪をつまんで、持っているファリンの手に近付ける。ファリンは薬指を少し上げて指輪を通りやすい様にする。
そして、指輪を通す。すんなり入った指輪のその輝きは持ち主の魅力に更に引き上げる。
「ふふー…ふふ、ふへっ」
「笑いが堪えられてねーぞおい」
「だって、嬉しくて……ふふふっ」
「イ、イツキくん、私も!」
「うん、もちろん」
「あ……ったく、まあいいか」
譲ってやるよと言わんばかりに腕を組むイヅツミ。そんなイヅツミの頭を撫でるファリンだった。
ヒジョウヒの手を掴み、指輪を薬指に通す。
「よ、良く私に合う指輪あったね…」
「まあ、オーダーメイドだからね」
「え、キッショいつサイズ把握したんだよ」
「こらっイヅツミ」
ヒジョウヒは指輪が通った手を月に向ける。
「キレー…」
「…自分の世界に入ったな」
「しょうがないよ、ほら、イヅツミも」
ファリンに背を押されイツキの前に立つイヅツミ。
「……ん」
顔を逸らしながらぶっきらぼうに腕だけをイツキへ向ける。
その手をイツキは持って薬指に指輪を通す。
「……うん、まあ、いいんじゃないか」
指輪を見るイヅツミ。その背後でファリンはイツキに唇を人差し指でトントンする合図を送る。ヤレ、と。同調したイツキは再び覚悟を決めた。
「イヅツミ」
「ん?…むぐぅ!?」
イツキはイヅツミの背中に抱き寄せてから手を回し、もう片方の手で指輪を付けている方の腕を掲げる。まるで舞台劇の様なキス。ヒジョウヒは乙女回路全開でギアを上げた。
「ふおおぉー!イツキくんカッコイイ!イヅツミちゃんキレー!」
「やられると弱いよねーイヅツミは」
ファリンの言う通り、イヅツミは抵抗のての字も無い。
一秒にも一時間にも感じたイヅツミは、イツキが離れてようやく落ち着きを取り戻した。
「ふぅー…!ふぅー……!」
「今睨まれても可愛いだけだけど」
「シャーっ!!」
暴れるイヅツミを押さえるファリン。そして、イツキはヒジョウヒの方へ目を向ける。乙女回路を回していたヒジョウヒはハッとなる。
「ど、どうぞ!」
両手を広げてむちゅーと唇を突き出しすヒジョウヒ。ここでイツキは絶望的事実に気付く、身長が足りないことに。
ヒジョウヒの身長は195cm前後。イツキは竜人となった関係で身長が伸びたが、それでも175cm行くか行かないかぐらい。
なので、再び舞台劇じみたことをすることに。
ヒジョウヒを抱えあげてお姫様抱っこしながらキスをした。これなら身長差は関係無い。ヒジョウヒを支える筋力も上がり、今となっては羽毛に等しい。
「ふぇへぇ〜……」
唇を離した後ヒジョウヒは惚けた。下ろしてもそのままだ。
落ち着きを取り戻したイヅツミはヒジョウヒのお尻をぺちんと叩く。なお無反応。
そして、ファリンの番。
「ふふっ……なんか、すごく照れるね」
「ですね」
ファリンは目の前にいるイツキの目を少しだけ目線を上げて見る。
「大きくなった、ね?」
「まぁマトモな成長とは言えないけど…」
少し目を逸らした隙を突いて、ファリンはイツキの首に両手を回して抱き着いてキスをする。即座に受け入れたイツキはファリンが倒れない様に背中に手を回して安定させる。
少しして、離れる二人。
「……これ、思った以上に照れるね」
「……うん」
ファリンはイヅツミとヒジョウヒに目配せする。それを合図に、二人ともイツキに抱き着いた。正面にファリン、右隣にイヅツミ、左隣にヒジョウヒ。
「これから宜しくね、旦那様?」
「女増やす時は言えよ?」
「イヅツミちゃん言い方〜」
「……うん、これからよろしく」
月と星々はこれからの四人の生を祝福するかの様に照らす。これからの幸多き人生、苦難も勿論多いだろう。
だがこの四人ならば、力を合わせれば難なく突破出来ることを、四人は確信していた。
祝福あれ、と月は輝く。
祝福あれ、と星々は輝く。
祝福あれ、と獅子は吼える。
その遠吠えが四人に届くことはなくとも、獅子は吠え続けた。
これから最終話に向けて、幕間という形で書きたかったけど時間軸的に書けなかったりメンバー的に書けなかったりする話を何話か投稿して、最終話という形になります。
単行本オマケみたいな感じで。
あと少し、お付き合い頂けると幸いです。