①《メリニ商業総合組合『三頭竜』組合長チルチャック・ティムズ》
ワイバーンが鳴いている昼下がり。メリニ中央区にある大きな館の前へイツキは近衛騎士の格好でやって来ていた。
「…なんか緊張するな」
などと言ってはいられないので覚悟を決めて両開きの扉を開ける。エントランスの受付には金髪のハーフフットの女性が立っていた。背丈的に、恐らく台座に乗っているのだろう。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご要件でしょうか」
「イツキです。組合長に会いに来ました」
「国王直属近衛騎士『竜王』様。本日は御足労頂き誠にありがとうございます。組合長は執務室でお待ちです」
「ありがとうございます」
イツキは自分の役職と二つ名に内心ニヤつきながら執務室へ向かう。執務室へ向かう途中、出会う役員の殆どがハーフフットで構成されていた。
何となく疎外感を感じつつも執務室の前にたどり着いた。扉をノックすると、部屋の中から声が聞こえる。
『誰だ?』
「イツキです」
『入ってくれ』
イツキが開けるまでも無く扉は開かれた。執務室の中、窓際の机に座っているのはチルチャック。そして扉を開けたのは、
「ダンダンさん!」
「よう、久しぶり」
かつてライオス一行が新米冒険者の頃、鍵師として世話になったダンダンだった。
「お変わりないようで」
「お陰様でな。お前は……随分ゴツくなったな」
ダンダンはイツキの竜腕を軽く触る。棘は革製のカバーで守られているお陰でダンダンの手が傷付くことは無い。
「まぁ、色々ありまして」
「ちょっと前まで新米冒険者だったのが、今となっちゃ近衛騎士で竜人か…人生何があるか分からないとはよく言うがここまで分からないのはお前くらいだろうよ」
「えへへ」
「二人とも、立ち話もなんだ。座ろうぜ」
チルチャックは接客用ソファへ座り、ダンダンとイツキもそれに続いた。
「呼び出して悪かったなイツキ」
「いえ、お役に立てることがあればいつでも駆けつけますよ」
「そりゃ助かる。……早速だが、今の俺の仕事は知ってるよな?」
チルチャックの現在の仕事。それは迷宮が消失したことによる大量に溢れた失業したハーフフット冒険者の仕事の斡旋、そしてメリニ商業の統括だった。
「はい。同族が困っているのを見過ごせない…チルさんらしい仕事です」
「それはいいんだよ……まあ、今回お前を呼び出したのはそれでな」
チルチャックが言うには、失業したハーフフットへの仕事を斡旋するのは順調だが、問題がひとつ。
現在メリニへは三つの手段で訪れることが出来る。ひとつは陸路。街道を通ってメリニを囲う防壁の入口から入ること。
もうひとつはワイバーンやグリーンドラゴンを使った空路。商業地区から少し離れた場所にある空港を使う。
最後は海路。リヴァイアサンと呼ばれる海を自由自在に操れる海竜を使ったものだ。
今回問題が起きたのは一番使用頻度が高い陸路。整備された歩道を馬車や牛車ならぬ地竜*1を使った『竜車』が商人や物品を運ぶのが主な場所だ。
馬車や牛車では山賊や魔物に警戒しなければいけず本来なら護衛を雇わなければいけないが、どんなに阿呆でもどんなに飢えていても竜を相手にする奴はいない。
唯一の欠点は、竜達は定期的に休息をとる為速さ自体は馬車より少し早い程度というところだろうか。それでも本来護衛に払うべきコストを竜への魔力のみと考えると人を雇うより安いものである。
「で、その問題なんだけどな」
「はい」
「竜な、普通のやつには怖いんだわ」
「……あー……」
余程のことをしなければイツキが使役する竜達は基本無害だ。しかし無害だからといって自分より遥かに生物として格上の相手に近付くのはかなり勇気がいる。実際、今回の陸路だけでは無く他国へ竜を派遣するにあたって一番揉めた部分でもあった。
「うーん…なにか良い方法は無いもんかね」
「鱗の色をピンクにしてみるとか?」
「食性をカロテノイドを含んだ甲殻類にするとか…?」
「フラミンゴじゃねぇんだから…」
そこで、名案を思い浮かんだらしいダンダンが口を開く。
「魔物だろ?それこそ、ライオスとかに聞いてみるか?」
「「ドラゴンを可愛くするのは解釈違いとか言いそうだから却下」」
「…さいですか」
この場にいなくとも信頼がある。これこそ正しき統治者の姿なのかもしれない……。
「へっくし!」
②《鍛冶師ナマリの憂鬱》
冒険が終わり、借金も返せたナマリはメリニ騎士隊や兵士達の武具を作る仕事に就いていた。
仕事も順調。部下のダイアは良い子で職場関係も良好。
しかしそんなナマリはため息が止まらない。なぜなら、
「「ナマリ、俺(私)と結婚してほしい」」
今ナマリは、タンスの孫であるカカとキキに言い寄られていた。
『いやいやいや!落ち着けお前ら!今のお前らは若気の熱にうなされてるだけで冷静に考えたらドワーフの女なんて』
『『一生大切にする』』
『せめてどっちかにしろーっ!!』
という発言が原因で仲良し兄妹だったカカとキキの仲に亀裂が入りかけていた。
タンスには『はよ結婚しろ』と急かされ、更に『泣かしたら社会的に殺すぞ』と直接は言われていないが暗に言われる始末。
嫁複数でその辺の事情に強そうな奴に相談しても、
『カカさんが旦那さんで、キキさんがお嫁さんでいいのでは?』
という答えが帰ってくる始末。
「私の身が持たねぇよ…!」
カカの年齢とはギャップの強い子供っぽい可愛さ。キキの大人びた妖艶な雰囲気。どちらも恋愛クソザコナメクジのナマリには荷が重かった。
「ぬがーっ!!」
「(ナマリさん、今日も荒れてるなぁ…)」
もはや慣れきったダイアは棚整理をしながら、ナマリの咆哮を聞き流す。
結局カカとキキ両方娶る事になるとは、今のナマリには想像出来なかった。
「「ナマリ♡」」
「みゃーっ!?」
③《メリニ治安騎士隊『白竜』隊長シュロー》
「シュローさん、おはようございます」
「ああ、おはようイツキ」
イツキは現在、メリニ中央区噴水前に訪れていた。理由は毎朝の各部隊への挨拶回り兼散歩のためだ。
シュローは今、メリニでの治安維持を目的とする騎士隊の隊長を務めている。シュローが所属する第一騎士隊の他に、第一から第七までメリニや他地方で活動していた迷宮が無くなったことにより路頭を迷っていた高名の冒険者や、元々メリニの治安維持をしていた組織と合併して構成された部隊。
毎日厳しい訓練や欠伸が出そうな道徳を学ばなければいけないが、志願者は多い。給金が多いというのもあるが、騎士隊に所属すれば毎日の食事と屋根がある寝床は彼らにとって魅力的なのだ。
シュロー、あらため俊郎は本来の目的である半本家を継ぐ為の頭首への土産話を持ち帰る任を終わらせる為、一度東方へ帰った。
もちろん、お付きであるマイヅル達を連れて。……ついでにイツキも着いて行った。国王直属近衛騎士が気軽に国王から離れていいのかという意見が聞こえるかもしれないが、ライオスとイツキは遠距離連絡用妖精を常に携帯しており連絡はいつでも取れる様にしている。
緊急時の対応も、イツキはその気になれば例え東方からであろうとメリニまで数分足らずで文字通り
シュローの実家である半本家の屋敷に辿り着き、頭首へ土産話としてシュローは今までの冒険譚を話した。
「ひとまず…マイヅル、ヒエン、ベニチドリ。俊郎護衛の任、ご苦労だった」
「「「はっ」」」
「……ん?アセビとイヌタデ、どうした」
何やらソワソワしている二人を見抜いた頭首はそう問いかけるが、二人から答えは無い。代わりに、イツキが控えめに手を挙げた。
「あ、頭首様。それはお…私から」
「お前は…」
頭首は無精髭をなぞりながらイツキの発言を許した。
「私、イツキと申します。メリニという国で近衛騎士を務めさせて頂いています。……私はアセビとイヌタデあらため、イヅツミとヒジョウヒと親密な関係にあります」
「妻だ」
「妻です」
まさかの発言に目を見開いた頭首は、更にイツキへ質問を投げかける。
「ほう?このどら猫と鬼むすめを?お前、中々の変わり者だな」
「見ての通りです」
イツキのうねる尻尾に思わず吹き出した頭首は膝を叩いて笑い出す。そこに、ゆっくりとヒジョウヒが手を上げた。
「頭首さま、いいですか?」
「ん?……なんだ、
敢えて忍名で呼ぶ頭首。あらかた予想は着いているのだろう。
「頭首さま、マイヅルさま、拾って頂いた御恩、決して忘れません。……お世話になりました」
深々と頭を下げるヒジョウヒ。それに横にいたイヅツミも軽く頭を下げた。
「あざした」
「イヅツミちゃん軽いよぉ…!」
「……ふふ」
「はっ……なに、好きにしろ」
元々拾ってきたのは頭首だが、世話はマイヅルに丸投げしていたのであまり言える事は無かった。しかしこれだけは言わねばならない。
「小僧、イツキと言ったか?」
「はい」
「儂から言う事は一つだけ。手放すなよ」
その言葉に、イツキは頭首にまっすぐ眼を合わせ答える。
「はい。この身が滅びようが、決して」
「――ははっ!……では俊郎」
「はっ」
「お前にしちゃあ大した大冒険だったようだな」
現半本家頭首、俊郎の父親はその無精髭をなぞりながら頷く。
「はい。友達も出来ました」
「ほう?……イツキのことか?」
俊郎はイツキの肩に手を置き、目を真っ直ぐ己の父親に向けて答える。
「俺の、親友です」
頭首はその言葉に、ニヤリと口角を上げた。聞きたかった言葉が返ってきたのだ。イツキは照れ気味に頭を搔いた。
「よぉし分かった!俊郎、お前を半本家頭首として…」
「あ、父上。その事なんですが」
「ん?」
口上を邪魔された頭首は空振った手を胡座をかいている膝に置き直す。
「俺、頭首にならなくていいです」
「…………あぁん!?」
「今回土産話を持ってきたのはケジメの為。後継は弟達へ譲ります」
「一応聞くが、何故だ?」
「やりたいことがあるからです」
「それは、育ててもらった恩義や今まで積み立ててきたものより大事なものか?」
殺気を混じえながらシュローを睨み付ける頭首。しかし、シュローは至って冷静だった。目すら逸らしていない。
「はい。申し訳ありません、父上」
そう言って俊郎は深々と頭を下げた後、立ち上がり部屋を出ようとする。そして、イツキを連れ襖を開けて顔だけを父親に向けて言い放つ。
「おさらばです、父上。今までお世話になりました」
そして俊郎は、え、大丈夫なのこれ?となっているイツキとイヅツミ達を連れて部屋を出た。部屋に残ったのはマイヅル、ベニチドリ、ヒエン。
事前に話を聞いていたマイヅルはなんとか冷静を保っているが、頭首は別。
「……は、はは、はーっはっははははは!!」
大爆笑する頭首に、マイヅルは普段通りに対応する。
「どうされました、頭首殿」
「どうもこうもあるか!俺に似ずつまらん奴だと思っていたが、マイヅル、やはりアイツは俺のガキだぞ!」
笑いすぎて涙を流す頭首に、マイヅルは静かに頷いた。
「はっはっはっ!……ふぅ、ヒエン」
「はっ」
「暫くの間、奴を頼む」
「俺の息子だぞ?生活能力は皆無だろうな」
二人は日頃身支度を全てマイヅルに任せっきりの俊郎を思い出した。本来なら頭首候補にして半本家長男としては正しい姿だが、これから一人で過ごす人間の姿では無かった。
「それに、ヒエン」
「はっ」
「やつのこと、嫌いではなかろう?」
「…………まぁ」
ヒエンは横でにんまりと笑みを浮かべるベニチドリの脇腹を小突く。
「ベニチドリ、お前はどうする?」
「と、言いますと」
「これからもここで諜報を続けるか?」
頭首は理解していた。今まで群島という小さな国で過ごした人間にとって、外界は耐え難い魅力に溢れていることを。
「……申し訳ありません。私も、メリニでしたい事があります」
「許す、好きにせい。今回の俊郎護衛の報酬と思え」
「ありがとうございます」
ベニチドリは化粧品開発に昔から興味があった。しかし忍びの足抜けは重罪。女の忍びとして生まれたベニチドリには遠い夢であった。
「マイヅル、お前はどうする?」
「坊ちゃんに着いて行ったら……貴方はどうする気です?」
「ははっ!――――地の果てまで追いかけるぞ」
でしょうね。とマイヅルが熱を帯びたため息を漏らす。ヒエンとベニチドリは冷めた目で二人を見た。
なにはともあれ、俊郎はシュローとして、ヒエンは本名のナカとして、ベニチドリはマツとしてメリニへ渡った。
シュローとナカの距離を狭めようとしてイツキが大失敗したり、マツの化粧品がメリニで爆発的に大ヒットしたのが原因で市場が大荒れしたりなんだりしたが……
「――今となっては騎士隊の隊長ですもんねぇ。侍と騎士のハイブリッドとかロマンの塊ですよ」
「ははは、この甲冑にも慣れてきた頃だよ」
西洋式の甲冑と長い黒髪と外套を靡かせ、太刀を履いているシュローは朗らかに笑ってみせる。
そこで、酒場のテラス席から豪快な男の笑い声が聞こえてくる。
「騎士隊長様、今日もアンタのお陰で酒が美味いぞぉ!」
「呑みすぎですよ、奥方様に叱られます」
「なにぃ?俺は頭首様だぞ?元だけどな!ほれ、マイヅルも呑め!」
「……イツキ」
「は、はい」
「治安維持、しようか」
「シュローさん落ち着いて太刀抜かないで!?」
騎士隊のお陰で、今日もメリニは平和であった。
④《メリニ騎士隊遊撃隊『黒竜』隊長イヅツミ。副隊長ヒジョウヒ》
「イヅツミ隊長ー!」
「たいちょー!どこですかー!?」
私のことを探しに部下である二人の女騎士が私が登っている城壁の下をうろちょろしている。またサボりがバレたか。
私は面倒事が嫌いだ。
真面目に働くなんて真っ平御免。人間関係とか、倫理とか摂理とかくそくらえ。
自由に生き、理不尽に死ぬ。
それが私の中にある揺らがない真実であり、全てだった。
そんな私が職に就き、部下を持ち、仕事をする?
やってられん。そんなの、あいつの仕事だろ。
軽量化を重視した西洋式の鎧を爪先でコツコツしていると、城壁の下から爆発音がしたと思ったら、タデが私の傍に着地した。
「イヅツミちゃん、みっけ」
見つかった。タデはあれから女っ気が増した。雑に切ってた髪はカール……だっけ?巻いてるやつ。着ている甲冑に良く似合う。色気付いたとも言うか。
「それはお互い様でしょ」
「……うるさいな」
かく言う私も化粧を覚えた。ほぼマルシルの受け売りだけど。
「風、気持ちいいね」
「……副隊長様がこんなところでサボってていいのかよ」
「隊長様がサボってるしなぁ」
「へっ」
今のこいつは私より自由な気がする。
「でも、イヅツミちゃん」
「ん?」
「首輪、付けられるの意外と悪くなかったでしょ」
「……別に」
私は自分の首にある黒い小さい鱗で装飾されている首輪を弄る。アイツの所有物であるという証。アイツの女であるという証。
……鬱陶しい。
「嘘」
「……」
「にへへ」
本当に、こいつは私より自由になった。
「よ、二人とも。サボり?」
音も無く空から降ってきて着地してきた物体。竜と人が混じった身体。見慣れた顔。ソイツは私とタデの間に座った。
「イヅツミちゃんを探しに来たの」
「またサボったのか?」
「うるせーな」
「ま、おれもだけどさ」
イツキは洒落た服が汚れるのを意に介さず城壁に寝転がる。尻尾が邪魔なのでうつ伏せで。
「いやぁ……ヤアドさん、スパルタでさ。騎士道とは〜…的なことを何度も説かれたよ」
「足癖悪いもんな、お前」
「考えるより先に手が……足が出ちゃうのなんとかしなきゃなぁ」
「なにかあったの?」
「ファリンさんにセクハラしようとした外交官蹴り飛ばした」
「そりゃ相手が悪い」
三人で大笑いする。涙が出るまで。
自由は好きだ。私の居場所だ。
でも、不自由なのも、悪くない。
……結局見つかって三人揃ってヤアドに叱られたけど、まぁ、いいか。
⑤《冒険者センシ》
「……ふぅ」
わしがメリニから旅立ってからそこそこの日数が経過した。
元々わしは一人が好きだ。同じ場所に留まるのもいいが、見知らぬ場所へ生き、見知らぬ食材を調理する。つまり冒険はわしという人間を形作り、そして語るのに必要不可欠な要素だ。
……旅立つ際にイツキに猛反対され大泣きされたのは今でも鮮明に覚えておる。
嫁が出来て、立派な職務に就けても、わしの前ではあの子は子供に戻ってしまうようだ。
父親の様な人だと言われた時は決意が揺らいだ。世帯を持つ気は無かったが、あの子が泣いてしまうかと思うと更に持つ気は失せた。
わしも、あの子を自分の子の様に思ってしまっているのだ。
……ギリン。今なら貴方の気持ちが良く理解出来る。
あの時わしを庇ってくれて、スープを作ってくれた。
インバー、ヌール、ブリガン。何も知らぬ無知な子供で済まなかった。
アンヌ、ダメな主で済まなかった。
わしは、今日も生きる。
魔物を糧とし、今日も朝日を浴び目を覚ます。
「お、あの魔物は……」
さぁ、冒険を続けよう。
あの子達に土産話を持ち帰る為に。
⑥《宮廷魔術師見習いマルシル》
「おはようございます、シスルさん!」
「おはよう。今日の授業の内容は…」
今日も今日とてシスルさんに宮廷魔術師としての振る舞い方や魔法を教わる。
今私は宮廷魔術師としてシスルさんに教えを乞うていた。本当は中央に行って古代魔術を教わろうと思ったんだけど…
『え、メリニに残んないんですか?』
『マルシルはメリニで魔術師をやるんだろう?』
『ダメだよ、マルシル』
あの三人(ライオス・ファリン・イツキ)に圧されに圧されメリニに残ることに。しかもファリンが私を宮廷魔術師にしようなんて言い出して尚更メリニから離れる機会が無くなった。
いや、あの三人に必要とされているのは悪い気はしないしむしろ……
と、とにかく。最終的にやると決めたのは私だし、やるからにはちゃんとやらなきゃ。
でも……その……とても言い辛い事が……
「シスルさん、それ古くないですか?」
「何を言う私の現役の頃は…」
「現役何千年前だと思ってんですか」
「あ?」
「お?」
そう、シスルさんはやり方という考えがすっっっごい古い。いや、仕方ない事なんだけどね?何千年も迷宮に閉じこもっていたんだから当然なんだけど…
とても指摘し辛いので普段はこういう考えもあるんだな程度に頭に入れているが、イツキくんがいると彼ったらズバズバ言うもんでいつもシスルさんと言い争ってる。……まぁ、仲が悪いという訳では無いのだけど。
「大体この魔術式すら型落ちしてますよ。ほら、こっちの最新の方が何倍も工程短いしやりやすいじゃないですか」
「そっちの方がやりやすい!」
「パソコン出来ないオッサンかあんたは!」
「あぁ!?」
「おぉん!?」
パソコンってなんだ!!って怒ってるシスルさんと知る必要はねーですよ!!と声を荒らげるイツキくん。
お城ではもはや日常茶飯事になりつつある光景。使用人の人達も足早にスルーしていく。
もう……
「二人とも今は私の授業中!!!!」
「「すいませんでした」」
今日もメリニは平和だよ、全く……。
⑦《黄金城直営医療施設施設長ファリン》
「はい、これでもう平気だよ」
「わあ、ありがとう先生!」
ファリンの元から去り家族の元へ戻る少年。それを見送るファリン。
ファリンは現在その卓越した治癒魔法を振るうため医療施設を立ち上げた。部下はメリニと国外含め何万を超える。
もはや今のファリンの治癒魔法は常軌を逸しており、四肢欠損程度ならばそれを補う為の肉やタンパク質無しで再生可能という、もはや治療というより創造魔法に近い神業にまで至っていた。
「先生、妖精通信です」
「ありがとう」
部下の一人である看護師がファリンの元へ妖精を連れてきた。それを受け取り妖精越しに会話を始めるファリン。
「ファリン先生、美人で可愛くて治癒は神がかっててスタイル抜群とかほんっと隙が無いよなぁ……」
「お前な……」
幸い、部下達の会話はファリンの耳には入っていない。
「ああ、オレにもワンチャンあったりしねぇかなぁ…」
「……無理だろ」
「知ってるよぉ……」
ファリンが幸せそうな表情で話している相手。もちろん、あの男だ。
「んだよ…嫁抱えすぎだろ…呪われろ…」
「そういうところだぞ」
「うるせぇよ……」
男性が嘆いていると、通信を終えたファリンが近付いて来る。
「二人とも」
「はい」
「は、はい!」
ファリンはウィンクしてニッコリと笑う。その笑顔に片方の男性は膝から崩れそうになる。
「今日も頑張ろうね!」
そう言って、とても上機嫌なファリンは軽やかに立ち去る。
「……大方あの人に『お仕事頑張ってね♡』とか言われたんだろうな」
「……オレ、今なら憎しみで人を殺せるよ」
「仮にも医療従事者がその発言はヤバいだろ」
「チクショー!!」
⑧《『悪魔食い』『終末の捕食者』『魔物食い』『迷宮の主』『魔王』『人王』―――『悪食王』ライオス》
「ですので、今日の議題は―――」
「カーカブルードとの会議―――」
「王としての振る舞いを―――」
「…………つかれた」
ライオスは今、深夜に自分の部屋にあるバルコニーの椅子にもたれかかっていた。
今日も、いや昨日も一昨日もその前もその更に前も……ライオスは働き詰めだった。
突如現れた国の新たな王として、外交、会議、交渉、人と人との関わり合い、人の悪意、人の善意、人の…………。
ライオスは未だかつてないほど人が嫌いになっていた。あれだけの啖呵をきったというのに?
「いや、嫌いというより疲れた……」
それは、どうして?
「ヤアドもシスルもカブルーもイツキも……とても協力してくれる。でも、それは俺が未熟だからだ」
別にカブルーとイツキも同列だろう?
「それは……そうかもしれないけど、王様がこんなに大変とは思わなかった……」
ほう。
「もっと、こう…周りは俺の友達だけで、皆で協力して…みたいなのを想像してたんだけど」
それは無理だろう。もはやこの世界にメリニを知らない人はいない。身内だけで乗り切れる段階はとっくに過ぎ去っているよ?
「うん……正直、王様は辛い」
【じゃあ、迷宮に戻す?なにもかも時計の針を逆回しして】
「それはダメだ」
「それだけはダメだ。約束したんだから」
「イツキと……マルシルが……退屈しない……国を……」
ライオスは眠ってしまう。最近の苦労が祟ったのだろう。
バサり、バサり。大きな翼を羽ばたかせて一匹の竜がバルコニーに降り立った。
「お疲れ様です、ライオスさん……いや、我が王」
そう言ってイツキはライオスを抱えてベッドへ運んだ。
寝るのに邪魔なので、竜と翼が生えた獅子の装飾が施されたご立派な外套を脱がせ、近くの机に置いた。
「……誰と、話していたんですか?」
イツキはニタリと笑いながら月を見る。その紅い瞳をギラギラと輝かせながら。
そんなところ、誰もいないよ?
次回、最終回です。
……まだ下書きすら手付けてないけどネ!