異世界ダンジョン飯   作:一般通過炎竜

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日間ランキング11位は流石にビビりました。ありがとうございます。ダンジョン飯ってすげーや。


第七話『番の竜』

 

「全員水上歩行は付けたな?よし、出発しよう」

 

ライオスの号令で全員休憩室を出る。昼食と仮眠を摂った一行の調子は良い。

 

しかし、その調子は早々に破られてしまうことになる。

 

「…なんですか?アレ」

 

イツキが引き気味に水の方へ指さす。そこには水面に浮かんでいる魔物の死骸。

 

死骸だけなら良く見かけるが、問題はその尋常では無い量。群れだったのか、それとも同種族の争いか。最低でも30体以上の魚人の死骸が水面に浮かんでいた。血の池の如く湖は赤く染まっている。

 

しかしそんな異常な光景でも、ライオスは冷静に考え湖の岸に流れ着いた魚人をしゃがんで観察する。

 

「上半身が無かったり下半身が無かったり…無理やり食いちぎられてるな。クラーケンか…もしくは」

 

ライオスが想像したのは最悪のケース。

 

迷宮4階最強の魔物。静かなる海の暗殺者。『シーサーペント』

 

「シーサーペント、ですか?」

 

イツキの問いにライオスは答える。その表情は強ばっている…ようにも楽しそうにも見える。

 

「あぁ、静かなる海の暗殺者なんて仰々しい異名は誇張でもなんでもない。水の中をゆったりと静かに移動し獲物を捕らえる。そしてその猛毒の牙で相手を毒に侵しゆっくりと殺す…」

「…シーサーペントはこんなにも暴れる魔物なんですか?」

「どうだろう…シーサーペントクラスの魔物がいつもこんなに暴れてたら湖の中の魔物なんてあっという間に絶滅するだろうし…」

 

ライオスは「でも」と切り替えて立ち上がる。

 

「ここで立ち止まっても仕方ない。とりあえず作戦としては、シーサーペントに出くわしたら極力撤退。逃げられない場合は迎撃。シーサーペントはその巨躯からは想像もつかない速さで相手を仕留めるという。加えて、やつには毒がある。この毒は治せたという前例が無いほど強力なものだ。毒を食らった場合速やかに撤退。安全な場所で蘇生する」

 

ライオスの指示に全員頷く。

仲間内でも、ライオスの魔物知識は相当信頼出来るものとなっていた。

 

「イツキ、大丈夫か?」

 

チルチャックがイツキの背中に手をそえる。気付くと、イツキの手は微かに震えていた。

 

「…大丈夫です。行けます」

 

イツキは手を握りしめ恐怖を打ち殺す。手の震えは無くなった。そんなイツキにチルチャックはアドバイスをする。

 

「イツキ、恐怖はして良いもんだ。臆病なやつほど迷宮では生存率が高い。問題はその恐怖に押し殺されてなにも出来なくなること」

 

「恐怖を飼い慣らせ」

 

チルチャックは真剣な目でイツキに言う。

 

「ありがとうございます。チルチャックさん」

「ん。分かったならいいや」

 

チルチャックは内心らしくないことをしたなと思った。絆されたのか、自分の娘がイツキと同い年くらいだからなのか。

 

考えても分からないので、後回しにすることにした。

 

そして一行は4階の探索を続ける。魚人の姿が無いお陰か、戦闘する事は殆ど無かった。宝箱を見つけ少量の金貨を見つけた。少量といっても金貨は金貨。その価値は高い。

 

そして、通路を抜け別の入り口から湖に出た。入り口から見えた別の扉に行くため、再び水面を歩く一行。

 

「こっちには魚人の死骸が無いですね」

「あぁ、被害がないのか、それとも…」

 

「おい、アレ」

 

チルチャックは湖の中心辺りにいる魔物に指さす。その魔物はゆっくりとこちらに向かってきている。

 

「…馬?」

「ケルピーだ。油断するなよ、あれは魔物だ」

 

ライオスは剣を構えケルピーを見据える。イツキも同様に剣を構えた。ケルピーは首を傾げたりさも警戒していない様に一行に近付く。

 

ライオスはそんなケルピーに動じずゆっくり説明する。

 

「ケルピーは水棲馬と呼ばれる種類で、その人懐っこい仕草などで人を騙し油断した所を捕食する擬態をする魔物だ。あれは、その擬態行為だ」

 

全員武器を構える。その様子にケルピーはきびすを返す。しかし、最早遅かった。

 

「なんか…ケルピーの下の水面、暗くないですか?」

 

イツキのそんな疑問は直ぐに晴れることになる。

 

「なっ…!?」

 

ケルピーは水中に引きずり込まれた。白い尾が見え、それに巻き付かれたのだ。その尾の持ち主は水面に顔を出し、イツキ達を睨む。

 

「あれがシーサーペント!」

「水上じゃやつの方が何倍も速い!全員迎撃準備!」

 

シーサーペントは水中に潜り凄まじい速さでイツキ達に向かう。すぐさま水面から尾を出して攻撃してくる。狙われたのは、イツキ。

 

「っ!」

 

イツキはなんとか尾を躱しそのまま斬り付ける。

 

「浅い…!」

 

しかし大した傷にはならず尾は水中に戻っていった。イツキはすぐさま剣に炎を付与。再度迎撃準備をする。

 

「任せてくれ」

「シュローさん!?」

 

シュローは一歩前へ出る。そして足を開き腰を少し降ろす。居合だ。察したイツキはシュローから少し離れる。

 

やってみろと言わんばかりに今度は尾ではなく毒牙を露出させながらシーサーペントは大口を開けてシュローに襲いかかる。

 

「はっ!」

 

一閃。その太刀筋はシーサーペントの首を斬り落とした。轟音と共に自由落下したシーサーペントは水面に叩きつけられた。

 

「嘘だろ…」

 

チルチャックは戦慄する。シーサーペントを一撃で葬る剣士など聞いたこともない。

 

「すごいすごーい!」

「やるねぇ…」

 

ファリンとナマリは驚くしか無かった。普段あまり褒められないシュローは照れくさそうに血を払い刀を鞘に納めた。

 

全員が斬られたシーサーペントに視線を向けている。ライオスとファリンは水に浮かんでいるシーサーペントに近付いて観察する。

 

「凄いなぁこんなに大きくなって…あれだけ魚人を食べればこうもなるのかなぁ」

「でも、暗殺者なのに凄い派手に移動するんだね?」

「あぁ…気が立ってたのかな?」

 

そこで、イツキは呼吸を整えているシュローを労おうと視線をシュローに向ける。

 

「流石ですシュローさ…伏せろっ!!」

 

急に声を荒らげたイツキはシュローに向かって斬り掛かる。正確には、シュローの背後から出ていた巨大なシーサーペントの顎に向かって。

 

イツキは剣に全魔力を集中させた。その炎は凄まじく、周りに陽炎が発生する程だった。

 

イツキの滅多に出ない荒らげた大きい声。それに驚いた一行はイツキ達の方を見る。イツキを見たファリンは、イツキがここに来てからの半年の内のある出来事を思い出した。

 

 

『必殺技?』

『はい、やっぱり必要かなって』

 

それはイツキとライオスの鍛錬の光景。たまたま仕事が早く済んだファリンはイツキの鍛錬の様子を体育座りしながら見ていた。

 

『必ず殺す技、か…そうだなぁ…有名所は、やっぱり爆発魔法とか…』

『爆発魔法は迷宮内はいいけど、迷宮外は免許が必要だよ』

『そうなんですか?…ちなみに、その免許ってどれくらいの期間とお金が掛かるんですか?』

『確か…期間が1年と、お金は…1万ゴールドくらい?』

 

『爆発魔法はやめときましょうか…』

『そうだな』

『あはは…』

 

イツキは剣を振るい始め、また思案する。

 

『うーん…剣の炎を最大まで高めて攻撃!とか?』

 

イツキの提案に、ファリンは珍しく目を開けながら答える。

 

『なら、お金も掛かんないしカッコイイんじゃないかな?』

『カッコイイ……よし、練習してみます!』

 

そんな平和な光景を思い出したファリンは、イツキの炎の剣によって思考を中断した。

 

 

「『緋炎衝(ひえんしょう)』!!」

 

イツキは下から炎の剣を切り上げそのまま跳躍。飛び上がりそのまま剣を振り降ろす。

 

それは破壊の奔流。あらゆる魔を焼き尽くす撃滅の焔。

 

「『(かい)』!!!」

 

シーサーペントの顎は豪炎によって焼き落とされる。速やかに絶命、シーサーペントは二度とその顎で獲物を食らうことは出来なくなった。

 

イツキは水面に着地。そのまま膝を付いてしまう。

 

「イツキ!」

 

そんなイツキにファリンが駆け寄る。イツキの顔色はまるで土色だ。汗は滝の様に流れ、激しく呼吸を繰り返す。

 

魔力酔いもしくは魔力切れによる症状。ファリンは服の前を開けてイツキを顔面から抱きしめ魔力を譲渡する。穏やかな光が2人を包み込む。

 

少しして、イツキの呼吸が段々と落ち着いていった。

 

「…ファリン、さん?」

「イツキ、大丈夫?」

「はい…大丈夫…えっ」

 

落ち着いたイツキは今の状況を確認する。胸元ががっつり開いたファリンに抱きしめられているのを。とても柔らかく、とても良い匂いがする。それは少なくともイツキの14年の短い人生で一番の衝撃だった。余裕で異世界転移時の衝撃を超えるほどに。

 

「あ、あああの、ファリンさん?なんで脱いで…!?」

「え?魔力は肉体同士接触面が多いほど魔力譲渡の効率がいいから…」

「あぁ、そうなんですか…じゃなくて!!すみませんもう大丈夫ですから!!」

「何言ってるのまだ回復する訳ないじゃん!」

 

ファリンの身体は思春期真っ最中のイツキにとってはあまりにも毒だった。良い意味で。そんなイツキをチルチャックとナマリは揶揄う様にニヤニヤしながら見ていた。シュローは気まずそうに顔を赤くしながら咳払いをしていた。

 

「ま、役得ってやつだ。甘んじて受け入れとけよ」

「イツキ坊やには刺激がお強い様で…」

 

「イツキ、大丈夫か?シーサーペントの番だったんだな…だから魔物が食い散らかされてたんだ…産卵の準備にはエネルギーを使うし、気性も荒くなるだろうからな。よくやったな」

 

ライオスはライオスで一切気にせずイツキの肩に手を置く。

 

「あ、大丈夫です…じゃねーよアンタ兄貴だろうが止めろよ妹を!!!」

「え?魔力を回復してるだけだろ?」

「人の心が分からなさ過ぎる…!!」

 

ギャーギャー騒ぎながら一行は湖の中心から動かない。ここは迷宮。あらゆる危険が何時どこからやってくるか分からない未曾有の地。

 

しかし今湖の周りにいる人魚達は『なんだアイツら…』と引き気味に水中へ潜っていった。

 

もう一度、此処はあらゆる危険が跋扈している未曾有の地。食うか食われるか。しかしダンジョン内では雌雄の関係に上もなく下もない。

 

ただひたすらに、愛は生の特権であった。

 




『緋炎衝・開』

テイルズオブアライズというゲームの主人公の必殺技です。
あ、肉体接触面が魔力どうのこうのはさっき考えました。原作には無いです。わはは。

毎回誤字報告、感想、ありがとうございます。

実はライオスパーティには昔ちょっと嫌なタイプの女魔法使いがいたんですけど、出しますか?ぶっちゃけ蛇足にしかならないお話になるんですが…

  • いる
  • いらない
  • 実は男のトールマンもいたって知ってた?
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