異世界ダンジョン飯   作:一般通過炎竜

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書いてみたかった日常回。あと昨日チルチャックの誕生日だったようで。奥さんと娘3人に祝われて照れてるチルチャック見てぇなー。


第九話『なんてこともない日』

 

島にあるそこそこ人気の喫茶店。そこの窓際の席に3人組の客がいた。ひとりはいつもの軽装備ではない普段着のイツキと、もうふたりが

 

「えーっと、改めて、真島イツキです。ふたりが…」

 

「イヌタデです!!」

「……………………………アセビ」

 

片方の角が生えた大柄で元気な女の子はイヌタデ。その横にチマっと座っているのがアセビという女の子らしい。

 

イヌタデは着物だが、アセビは頭巾も被った上に肌の露出を一切していない格好なため表情が分からない。

 

「(どうしてこうなった?)」

 

時は遡り宴会翌日の朝。シュローと約束した時間に公園にやってきたイツキ。約束の時間に現れたのは、普段着のシュローと例の2人だった。

 

「おはようございます、シュローさん」

「ああ、おはよう。イツキ。早速で悪いんだが…」

 

シュローは半歩下がり後ろにいるふたりを紹介する。

 

「大きい方がイヌタデ。小さいのがアセビだ」

「おはようございます!」

「…………」

「お、おはようございます」

 

「急で悪いんだが、2人と遊んでやってくれないか?」

「遊ぶ、ですか?」

 

「ああ、2人は…その、あまり今までの境遇が良くなくてな。同年代の子供と遊んだことなど無い程なんだ。俺は一応2人の主だから、そういうのはどうかと思ってな…」

 

「失礼なんですが、イヌタデさんとアセビさんのご年齢って…」

「イヌタデが15、アセビも少し前後するかもしれないが大体15歳だ」

 

今までの境遇が良くない。正確な年齢が分からない。これだけでも心に傷がある人だと判断する材料としては十分すぎる。

 

察したイツキは、それ以上過去について聞くのをやめた。

 

「なるほど。事情はわかりました。おれに出来ることをしますよ」

「…ありがとう。本当に」

 

じゃあ。とシュローはイヌタデとアセビに金貨が入った小袋を渡す。お小遣いらしい。イヌタデは素直に喜び、アセビは黙ったまま懐に入れた。

 

「今日一日、よろしく頼む」

 

シュローは一礼し、その場から立ち去る。

 

「(………えっシュローさん帰んの!?)」

 

まさかの主帰宅に驚いたのはイヌタデとアセビも同じ。

 

「えーっと……じゃあ、どっか寄る?」

 

イヌタデとアセビは頷くしか無かった。そして冒頭に繋がる。イツキは思わず片手で頭を支えていた。

 

「(ほんと、どうしてこうなった?)」

「あ、あのー…」

 

イヌタデが、俯いたままイツキのことを気まずそうに見る。

 

「やっぱり、ご迷惑だったでしょうか…」

「ああ、いや、ごめん。おれがこういうのに慣れてないだけなんだ。イヌタデちゃんは悪くないよ。アセビちゃんも」

 

初めてちゃん付けで呼ばれたイヌタデは驚きつつも顔が熱くなり、アセビはわりとゾワゾワしていた。

 

同世代の同性は呼び捨て。異性はちゃん付けと前から決めていたイツキは、特にそれに気付くことは無かった。

 

「なんでシュローさんはおれ達を会わせたんだろう…」

「知るか」

 

初めてアセビが口を開く。思ったより声は高く、やはり女の子なんだなとイツキは再確認した。

 

昨日15歳になったばかりの真島イツキは残念ながら同世代女子との交流は無かった。なにせ同世代の男子とも交流していなかったのだから。

 

「まぁ朝食の時間には丁度良いし、なんか食べようか」

 

イツキはメニュー表をイヌタデとアセビに手渡す。

 

「なに食べようかな…イヌタデちゃんは好きなものとかはある?」

「白米です!」

「分かるわ〜。なんで白飯ってあんなになんでも合うんだろうね、なんならそのままでも美味いし。アセビちゃんは?」

「肉」

「そうなの?あ、ベーコンエッグセットとかあるよ」

 

イツキは既になにを頼むか決まっていたが、2人が言い出すまで待つことにした。

 

少しして2人は決まったようで、イツキは店員を呼び料理を注文する。

 

その様子を、イヌタデはぽけーっと見ていた。それに気付いたイツキはイヌタデに問いかける。

 

「どうかした?あ、顔なんか付いてる?」

「いえいえ!やっぱり、手馴れてるなぁ〜…って思いまして」

 

「ああ…なんならここじゃないけど、飲食店で働いてたからね。ほら、昨日シュローさん達と行った酒場で」

 

ああそれと。とイツキは付け加えて言う。

 

「敬語要らないよ。おれも使ってないし…同い年でしょ?気を使う必要なんて無いんじゃないかな」

 

イツキはイヌタデの目を真っ直ぐ見て言う。かなり身長差のある2人だが、イツキは首を上げながらどうにかして見る。首が悲鳴をあげるが無視をした。

 

「ありがとうござ…あっ、ありがとうね」

「別にいいよ」

 

そこで、イツキはアセビとあまり喋っていないのに気付く。無口な子なんだな程度にしか思って無かったが、アセビは机にあるフォークをペン回しみたいに回しながら遠くを見ていた。

 

「アセビちゃん、凄いねそれ」

「あ?」

「手先が器用なんだな、って思っただけだよ」

「そうか…」

 

難しい…。とイツキは思う。そんなアセビを見てイヌタデはアセビに話しかける。

 

「アセビちゃん。そういえば久々だね、2人で、3人だけど、お出かけするなんて」

「そうだな。お前はすっトロいから、待つのがめんどうだ」

 

あうう…。とイヌタデも撃沈する。仲良さそうに見えたけどそうでもないのか?とイツキも思った。

 

実際アセビことイヅツミは半本家(なかもと家。シュローの実家)では一番仲が良いのはイヌタデなのだが、なにせ気まぐれ故2人きりで遊ぶことなど滅多に無かった。

 

「おまたせしました」

「ありがとうございます。料理来たよ、2人とも」

 

イツキは中腰になりながら運ばれてきた料理を2人が受け取りやすい位置に置く。

 

「じゃあ、いただきます」

「いただきます!」

 

イツキが頼んだのはバゲットのベーコンエッグセット。イヌタデはライスのハンバーグセット。アセビはライスのベーコンエッグセットを頼んだ。

 

イツキは食事中なにを話そうか考えていたが、全然思い付かなかった。イヌタデも同様である。アセビは黙々と食べていた。

 

アセビの食事マナーに思うところはあったイツキだが、おれが訂正するようなことでは無いなと思い、なにも言わなかった。

 

特に会話が発生することは無く食事を終えた3人は店外へ。

 

すると、アセビは急に口を開いた。

 

「足りない」

「え?」

 

「飯食ってくる」

 

と言いアセビはスタスタと歩き出した。イツキはイヌタデの顔をチラっと見る。どうやらイヌタデも同様らしい。

 

「まぁ喫茶店だしね。味は良かったけど量が足りなかったよな。おれも足りなかったし」

「そ、そうなんだ?」

「うん。アセビちゃんに着いてくか」

 

食べ盛りな上に身体が資本な仕事をしている3人には喫茶店の料理は足りなかったようで、2人はアセビについて行く。

 

アセビは目に付いた大衆食堂に入る。客は多く、それでも入口の端の方に席が空いているのを見つけたアセビは椅子にどかっと座る。それに続く様に2人も座った。

 

「ここのは肉が美味いよ。特にマトン系が」

「ふぅん」

 

そう言ってメニュー表を再びイヌタデとアセビに手渡した。

 

食べるものがすぐに決まった3人。イツキは店員を呼んだ。ノームの女性であり、イツキの顔を見た途端表情が変わる。

 

「はーいはいはい。あら、イツキじゃないの。……ふーん。両手に花とはやるわねぇアンタ」

「そういうのじゃないですよ…注文いいですか?」

「はいよ!」

 

イツキはマトンカレー。イヌタデはマトンの焼き飯。アセビはマトンのグリルライス付きを注文した。

 

注文した辺りで、店外に出ようとするひとりのドワーフがイツキを見つけ話し掛ける。

 

「おっ、イツキ坊じゃないか。なんだ朝っぱらからデートか?」

「ベームさん…そういうのじゃないですよ。友達です」

「なんでぇつまらねぇ。ファリン嬢に言いつけてやろうと思ったのに」

「自由かアンタは。てかなんでファリンさんに?」

「しーらねー」

 

という会話があったあと、ドワーフの男性は立ち去る。その後も料理が届くまで何人もイツキに声を掛けたあとに立ち去るというのがあった。

 

「イツキ、くん。お顔が広いんだねぇ…」

「え?ああ…近所の人だったり、迷宮で会った人だったりね」

 

「おまたせしました〜」

「ありが……多くないですか?」

 

運ばれてきた料理は明らかにメニューのそれより多かった。イヌタデのにいたっては山が出来ているぐらい。

 

「サービスだよサービス」

「ありがとうございます!」

「おお、気持ち良い返事だこと」

 

イヌタデは大きな声で感謝を述べる。アセビは既にマトンのグリルにかぶりついていた。

 

「うん、やっぱりここのマトン美味しいな。羊肉って結構クセがあるもんかと思ったけど全然そんなことなくてさ。初めて食べた時驚いたよ」

「ん〜♡おいひぃ♡」

「んまいな」

 

3人は黙々と食べ続ける。しかしそれは先程の気まずい沈黙ではなく、料理に集中するためのものだった。

 

少ししてあれだけあった料理をペロリと平らげた3人は、ノームの女性に礼をしてから店を出る。店を出たところでアセビがイツキに話し掛ける。

 

「あれだな、お前の人脈のおかげで肉が多くなったんだな」

「え?まあ…そういう事になるかな?」

「ふぅん……なるほどな」

 

アセビは再び2人の前を歩き出す。イツキとイヌタデは目を合わせなんとなく察してアセビの後を追う。

 

「あれ入る」

 

アセビが入ったのは冒険者向けの武器屋だった。3人が入ると、そこは所狭しと武器が置かれてた。

 

「……いらっしゃい」

 

ドワーフの男性がカウンターから新聞を見たまま挨拶する。アセビは気にすることなく短刀やその鞘を見定め始める。

 

「ああそういえば、おれもそろそろ鞘変えないとな」

「タデは金棒なので……」

「いっそ特大剣でも見てみたら?」

「そうします!」

 

タデはあまりにも重そうな大雑把で鉄塊な剣を持ってみたり、イツキは自分の剣に合った鞘と短剣を購入。そこで、アセビはイツキの後ろから声を掛ける。

 

「お前」

「ん?」

 

「ここは安くならないのか?」

 

アセビの言葉は、先程の食堂でのサービスのことだろう。

 

「いや、おれは初めてここに来たから」

「ふぅん…店出る」

 

アセビはスタスタと店を出た。

 

「猫みたいに気まぐれだな…」

「あはは…」

 

その後3人はアセビの赴くままに移動し、雑貨屋を見たりして時間を潰した。昼食を済ませ、そして公園に辿りつく。子供達が自由に遊びまわっていた。

 

3人は公園にあるベンチに座り、購入したデザートのクレープを食べながら話し出す。ほとんどイツキとイヌタデが喋っていたが。

 

「寝る」

 

少しして真ん中に座っていたアセビが身体を丸くして眠り始める。確かに今はお昼時で太陽が程よく暖かく、昼寝にはちょうど良い気温だった。

 

アセビは寝息をたてはじめた。

 

「ここまで来るとほんとに猫だな」

「うん……あのね、イツキくん」

「ん?」

「アセビちゃん、猫なの」

 

まさかのカミングアウトにイツキは目を見開いた。そして、少しアセビをチラリと見てから納得したように微笑んだ。

 

「なるほどね、猫の獣人…ワーキャット?」

「えっと…人間なんだけど、猫なの」

「……?あ、もしかして呪いか何かなのか?」

「うん」

「そうか……」

 

イツキはアセビの頭を軽く撫でる。アセビは喉を鳴らしながら無意識に受け入れていた。

 

「あ、しまった…女の子にすることじゃないか」

「いいんじゃないかな。珍しいよ、アセビちゃんが初対面の人の前で寝るなんて」

「そうなの?」

「うん、嫌なことだったら帰っちゃうもん」

「そうか…」

 

猫に懐かれたようで、悪い気分では無かったイツキ。

 

「結局、なんでシュローさんはおれ達を会わせたんだろうね」

「え?歳が近い…から?」

「だったら、おれ以外にもメリニには沢山の子供がいるだろ?」

 

「……わかんない」

「だよなぁ……まあ、楽しかったからいいんだけどさ」

 

イヌタデはその一言にほっとする。そこで、アセビがモゾモゾと動き出しイツキの膝の上に頭を、イヌタデの膝に足を置いた。

 

「マジで自由だな…」

「ふふ、アセビちゃん可愛いなぁ」

 

イツキはアセビの頭に手を置いて、大きな欠伸をした。イヌタデも同様に大きな欠伸をする。

 

「はあ……おれも眠くなってきた」

「お昼寝しちゃおうか」

「だなー…」

 

ゆっくりと、目を閉じる。こっちに来てから初めての完全なる平穏。イツキは前世界のことを少し思い出し、嫌な気分になったのですぐやめた。

 

思考を放棄し、身体を楽にし、それでも周りの気配には気を配りながら眠る。

 

イツキは少し前の夢を見た。中学三年の春。陸上の大会で優勝したあの日。

 

なにもかもを置き去りにしたあの日のことを。

 

 

そんなイツキを、というよりは3人を見張る影があった。

 

「……寝たぞ」

「ああ」

 

シュローと、そのお付きであるくノ一のヒエンだった。2人は最初から尾けていたようだ。

 

「で、そろそろ話してくれてもいいんじゃないか?坊ちゃん」

「なにをだ」

「なんであの2人とあの子を会わせたんだよ」

 

「…イツキは、今年で15歳だそうだ」

「知ってるよ」

「俺はあのくらいの年のころ、鍛錬に明け暮れていた。お前らとな」

「…だな」

 

シュローは静かに語り出す。その目は悲哀に満ちていた。

 

「本音を言うと、遊びたかった。なんでこんな辛いことしなきゃいけないんだって」

「……」

 

「イヌタデもアセビも、そしてイツキも。そう思うことはあるんじゃないかって…それで…」

「余計な気を回して3人に会わせた、と?」

「……ああ」

 

シュローとヒエンの後ろの方でマイヅルが「立派になって坊ちゃん…」と泣き腫らしていた。ベニチドリはハンカチを手渡した。

 

「少しは、思い出してくれると良いんだが…自分達がまだ子供で、俺達大人に庇護されるべき存在ということを…笑うか?こんな俺を」

「ま、もしかしたらあの3人には余計なお世話かもしれないけどさ」

 

「少なくとも、私は笑わないよ」

「……ありがとう、ヒエン」

「っくりしたぁ…急になんだよ」

「別に、そう思っただけだ」

 

 

2人(4人)が見守り続け、夕方になったころにイツキは目を醒ます。

 

「ん……やべっ、もうこんな時間か」

「んん〜…なんだ、帰るのか?」

 

アセビも目を醒ましたのか、起き上がり衣服を整える。

 

「そうだな…そろそろ帰らないと心配するだろうし」

「そうか。おいタデ」

「んあああ〜……?」

「なに寝ぼけてんだ、帰るぞ」

「ふぁい…」

 

3人は立ち上がり、公園を出る。しばらく無言のまま歩き続け、路地に出た。

 

「じゃあ、タデ達はこっちなので」

「ああ、じゃあ……また」

「はい。また」

 

イツキは2人と別方向に歩きだす。なんかお土産でも買ってかろうかなーと思っていたが、後ろから声を掛けられた。

 

「おい!」

「え?」

 

声を掛けたのはアセビ、アセビは頭巾を外し顔だけ振り向いていた。

 

「またな」

 

そう言い、スタスタ歩き出した。イヌタデは慌てて追いかける。

 

「え……かっこよ」

 

仮面でも付けようかな。とイツキは思った。

 

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