非常食になってしまった貴方。   作:wokka

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9話です。

書き溜めしていた分がPCの買替と共に全てぽしゃってしまい、完全に心が折れてエタっていました。
これからはボチボチ進めていきますので、よろしくお願いします。


酩酊

真夜中の道を歩く貴方。

 

向かう先は24時間営業のコンビニ。

 

久し振りに酒でも呷ろうと思い、軽やかな足取りで店へと入りました。

 

そして真っ先に酒が入った冷蔵ショーケースに向かい、何本か籠へ放り込んだ後、今度はアテでも探そうと乾き物のコーナーでしゃがみ込んで物色。

 

あれでもないこれでもないと手に取っては陳列棚へ戻してを繰り返していると後ろから聞き慣れた声がしました。

 

「────奇遇じゃないか。こんな所で逢瀬するとは……やはり私達は運命の赤い糸で結ばれていると言っても過言ではないな」

 

横に顔を向けて見上げると、そこには紙袋を手に持ってニコニコと笑うエトの姿。

 

彼女は貴方の隣に置かれた籠を見て目を細めると、同じ様にしゃがみ込んで目線を合わせました。

 

「これから1人で寂しく晩酌かい? 私と酌み交わそうじゃないか。────ははは、そう遠慮するなよ。私との誘いを断るなんて無粋な真似はしないよな?」

 

言葉を捲し立てて貴方の返答を聞く間もなく立ち上がると、ハッとした表情を浮かべて何処かへと向かってしまいました。

 

少しして貴方の元へ戻って来たエトは何やら()()()()を持っています。

 

「これも買っておくといい。()()()()()()で使うかもしれないだろう?」

 

まるで反応を窺っているのか、ニンマリと笑って手渡して来ましたが、貴方は恥ずかしそうに首を横に振ると、彼女は目をぱちくりとさせてまた、薄ら笑いを浮かべました。

 

「ほうほう……付けない方が好みだった? ────あぁ、なんて厭らしい。理性の欠片もない獣だよキミは。今度はどんな風に私を貪るつもりかな?」

 

棘のある文言とは裏腹にその表情は歓喜に打ち震えています。

 

小さく息を漏らしながら笑い続ける彼女に口をへの字にして睨むと、1つ咳払いをして言いました。

 

「ちょっとした戯れじゃないか。許してちょ」

 

「────うふふふ、キミがそうしたいならいいよ。私がちゃぁんと……受け止めてあげる」

 

目を細めて笑う彼女に恥ずかしくなって思わず目を逸らした貴方。

 

その反応を見て楽しそうに笑う姿に我慢出来なくていそいそとレジへと向かおうとすると、腕を掴まれました。

 

「機嫌を悪くしたのなら謝るよ。だから怒らないでこっちを向いてよダーリン。────おぃちゃん悲しくて泣いちゃうぜぇ?」

 

後ろを振り返ると、いつものヘラヘラとした顔で貴方を見つめるエト。

それに苛立ってしまい、思わず手を振り払うと彼女はぽかーんとした顔付きで払われた手をじっと見つめていました。

 

やってしまった────。

 

そう思った貴方は慌てて弁解の言葉を並べ始めると、彼女は"ケッケッ"と気味悪く嗤いながらコンビニの入口へと足を運んで立ち止まって振り返ります。

 

「……先に外で待っているよ。私が暇を持て余して退屈する前に済ませるといい」

 

店の外へと消えた彼女に思わず溜息を吐いた貴方。

へそでも曲げていなければいいのですが、その願いは届くのでしょうか。

会計を済ませようとしていると、レジカゴの中にはいつの間にか()()()()()()が。

思わず顔に熱が籠ると、慌てて店員に買わないからと告げるとバタバタと急いで元の場所へと戻しました。

────決して、決して付けない方が良いとかではなく、単純に使う事なんてないだろうと自己暗示をブツブツと唱えながら会計を済ませて外に出ると、すぐ傍で顔に手を振って風を煽るエトが立っていました。

 

「終わったかい? ほら、早く帰ろうか。────夜になっても蒸し暑いな……。これだから夏は嫌いなんだ」

 

歩き出した彼女の後を追い掛けて並んで歩く2人。

不快感を露わにしたエトの顔は汗で滲んでいました。

暑いのは嫌いかと尋ねると、彼女は舌打ちをして頷きます。

 

「嫌いだとも。食い物は腐るのが早いし、ジメジメとした湿気が大嫌いだ。降り注ぐ日差しも好きじゃない。()()での暮らしが長かったせいだろうね」

 

「我々にとっては安息の地だったが────人間にとっては肥溜めの様な場所だよ」

 

その言葉に"今と比べるとどっちがいいのか"聞いてみたいと淡い期待と好奇心が芽生えました。

その心情を察したのか、ぎゅっと腕に抱き着いてきたエトは囁く様に貴方に言います。

 

「────当然だけど、あんな場所よりもキミといる世界の方が心地良いよ」

 

夏特有の蒸し暑さに抱き着かれた腕を振り払おうとしましたが、離すまいと抱き着くその力に勝てる訳がありませんでした。

貴方は観念したのか、はたまたこれ位ならとぬか喜びをしたのか、エトに抱き着かれたまま自宅へとその足を進めます。

 

「楽しみだねぇ、キミとお酒を交わすのは。割とイける口だろう? 何せ私と初めて会った時もベロベロに酔っ払っていたんだから」

 

その話はしないでくれと苦笑いを浮かべる貴方。

貴方はお酒が入ってしまうと、気分が高揚してしまってどんな些細な事でも笑ってしまう────所謂、笑い上戸。

しかも記憶も残ってしまうのだからこの悪癖には随分と困らされたものです。

 

そういえば、彼女もお酒は呑めるのだろうかと気になった貴方はそれとなく聞くと、頷きながらも答えてくれました。

 

「……うん、私もお酒は好きだよ。嗜む程度だけどね。まぁ……初めて酔っ払うという気分を味わった時は思わずノッちゃって白鳩を何人か……────いや、失言だったな。今のは忘れてくれ」

 

不敵に笑う彼女に言及などできるはずもなく、愛想笑いに似た乾いた笑いをしながら部屋までの階段を駆け上がると、後ろから着いてくるエト。

扉を開けて2人揃って部屋に入ると、彼女は乱暴に靴を脱ぎ捨ててテーブルの前に座りました。

 

「ほら、早く座って座って。────ところで、キミの部屋にワイングラスはある?」

 

杜撰な行動に溜息を吐きながら2人分の靴を揃えて棚からワイングラスを手に取ってエトに手渡した貴方。

紙袋から取り出したのはラベルも何も付いていないワインボトル。

テーブルに座った貴方はそれをじっと見ていると、どうやらその視線に気付いたみたいです。

 

「キミも飲むかい?」

 

コックを開けてグラスに注いだのはワインにしてはドロドロの液体。

ふわりと香ったその匂いは血腥くて思わず顔を顰めてしまいました。

 

「むはは、喰種は人間が飲む様な酒は飲めないんだ。────これは血を発酵させた物だよ。面白いだろう? これを飲めば喰種は酩酊状態になるんだから」

 

そんなもの飲める訳がないだろうと思いながらコンビニで買ってきた缶酎ハイを取り出してプルタブを開けてから彼女を見るとワイングラスを近付けて傾けていました。

同じ様におずおずと近付けると"カンッ"と鳴る金属音。

お互いに"乾杯"の掛け声と共に酒を口にしました。

 

「────この身体に染み渡る感覚はいつになっても癖になるね」

 

それは同感だと頷いて一気に飲み干しました。

不意に彼女を見ると美味しそうにワイングラスに口を付けて血酒を飲み干しては感嘆の息を漏らしています。

その視線に気付いたのか、にんまりと笑って言いました。

 

「何だい? 私をジッと見つめて────ははぁん……さては見惚れていたか?」

 

そんな筈は無いと否定しながらも持っていた缶酎ハイを持つ手が震えます。

顔を俯かせて黙り込むと、クックッと笑う声が聞こえて貴方に言いました。

 

「焦らされるのはあまり好みじゃないんだ。────素直に言ってくれればそれを肴に気持ち良く飲めるんだけどねぇ」

 

何という恥辱でしょう。

既にほろ酔いとはいえ、そんな歯が浮く様な台詞はどうなのかと自問自答をしてしまいます。

しどろもどろになりながらも言うと、彼女は何とも嬉しそうな表情を浮かべました。

 

「……悪い気分じゃないね。もっと言ってもいいんだぞぅ。そうだな────"愛してる"とか"好きだ"とか口説いてみるのはどうかな?」

 

「……────好いね。悪くない。今度は……うん、今度は私を抱き締めて耳元で囁いてみるのはどう? 壊れ物を扱う様に慈愛を持って優しく────ね?」

 

もう酔っているのか頬を紅潮させている彼女は引き笑いをしながら貴方をジロリと見ました。

その瞳は黒く、赫く────ギラギラと輝いて此方を捉えて離しません。

その視線に思わず顔を逸らすと、彼女は不機嫌そうな態度で身を乗り上げて貴方を頬を掴んで顔を無理矢理振り向かせました。

 

「キミは私を見るより外の景色を見るのが好きなのかい? ほら……私を見ろ。じっくりと舐め回す様に視姦してごらんよ」

 

艶かしい雰囲気に包まれてすっかりも酔いも覚めてしまった貴方。

眼前の距離に迫ったエトを黙って見つめていると、嬉しそうに顔を歪めて頬に手を伸ばしました。

 

「おや……キミは案外、睫毛が長いんだね。────うふふふ、こうして小さな気付きを得てもこんなに嬉しいと思った事はない」

 

「頬の感触はどんな感じ? 耳の形は? 髪質はどう? 息遣いは? 落ち着いているのか……それとも、動悸が走る程に荒い? ────さながらショーケース越しのペットを品定めしているみたいで高揚するよ」

 

「何? 私が酔っているのかだって? ────理性がぶっ飛ぶ位にはキミに酔っているとも。……むはは、キザすぎたかい? キミの真似事をしてみたんだけど」

 

貴方の顔を触りながらベラベラと話し続けるエトはテーブルを乗り越えて貴方の元へ。

ワイングラスや飲みかけの缶酎ハイを薙ぎ倒してその液体が零れる事に目もくれずに抱き着いてきました。

 

「私が付けた傷……もう治ったんだね。────また付けてあげる」

 

貴方の首筋に噛み付いてきたエト。

この痛みにも慣れてしまった様で最初は声を上げて悶えていた貴方は小さく呻き声を漏らすだけでした。

そして子供を宥める母親の様に優しく頭を撫でられながら耳元でひっそりと囁かれたのです。

 

「我慢出来て偉いね。それとも……私からの愛に冷めちゃったかな?」

 

「────そんな慌てた顔しちゃって……。キミは私の期待通りの反応をするね。うふふふふ……やっぱり好きよ」

 

はぁ、と零した吐息は鼻腔を刺激して吐き気を催す程の血生臭い香り。

貴方は()()()()に彼女に対して恐怖を感じました。

 

「おやおや……怖いって顔に出てるよ? 一体どこに恐怖を感じたの? 私そのもの? それとも今された事に? ────違うよな? なぁ? 嬉しいって────幸せだって言えよ」

 

違う、違うと首を横に振って否定しましたが、ケッケッと気味の悪い引き笑いをするばかりで聞く耳を持ちません。

スっと耳元へ近付いたエトはまるで悪魔の囁きの様に言いました。

 

「これは地下で知った事だけど────喰種同士が結婚若しくは契りを交わす時はお互いに噛み跡を付けるらしい。今の私達にぴったりと思わない?」

 

「ほら……キミも付けていいよ。────私が逃げない様に、逃げられない様に刻んでくれる?」

 

貴方は頬に添えられた左手を掴んで恐る恐るとその口へと指を運び、ぐっと噛み締めた後にチラリと様子を窺うと、エトの顔は茹でダコみたいに真っ赤。

口から指を離して銀色の糸が指の先にアーチ状にかかり、ポタリと落ちました。

 

「は……ぇ……? な────なん……くすり……ゆび────ッ……?」

 

口をパクパクと動かしながらその顔色まるで沸騰寸前。

口元に手を当ててブツブツと貴方に届かない声量で譫言を繰り返しています。

心配になった貴方は手を伸ばしてエトの肩に触れると、気弱な小動物の様にビクリとその身体を震わせながら此方を見つめていました。

 

「は……ははは……情け……ない……。────こんな……生娘の様な反応までしてしまって……」

 

モゴモゴと口を動かしてしどろもどろになりながらも続けました。

 

「キミは……本当に私が初めて……いや────別に変な意味は無くて……ああ、違う……違うんだ。そういう事を言いたい訳じゃなくて────」

 

カチカチと歯を鳴らしながら貴方が咥えた薬指をなぞるエトの姿を見つめて貴方はどんな言葉を掛けるべきかと悩みに悩んだ結果、"謝罪"を述べてしまいました。

それを聞いた彼女は目を細めて冷ややかな顔をして。

 

「ああ────そう……そうか。相変わらず人をおちょくるのが好きだね。キミは────」

 

その真意を問いただす前にエトの顔が近付くと、貴方にぎゅっと抱き着いて身を寄せてきました。

強ばらせた身体にゴクリと喉を鳴らして狼狽えた貴方にエトは耳元で小さく吐息を漏らしながら言葉を放ちます。

 

「キミは本当に罪な男だ。私を誑かすのは楽しいかい? うん? "そんなつもりはない"だって? はっ……ははは────。じゃあ私のこの昂りと胸の高鳴りはどうしてくれるんだ? オイ、目を逸らすな。私の目を見ろ。私の全てを見ろ。誰のせいでこうなってしまったか分かっているのか? 責任位は取ってもらわないと困る」

 

そんなつもりは無い、そういう事じゃないと必死にエトに言い聞かせる貴方。

しかし彼女にとってはそんな答えは求めていないのか、表情は曇ってどんどん子供の様に不貞腐れていきます。

 

「私は謝罪を求めている訳じゃないんだ。────ああ、うん。キミが私に泣いて詫びる姿なら私の情愛と嗜虐心を燻ってくれるんだけど。……うふふふ、そこまで熱い眼差しを送るなんて────やっぱり私達は運命の赤い糸で繋がっているのかしら」

 

エトが身を捩って更に密着すると、"ギシ…"と古くなった床が悲鳴を上げたと同時に貴方がコンビニで買った袋の中身がドサドサッと倒れました。

彼女は反射的に一瞥したものの、興味無さそうにしていましたが、どうやら袋の中身が見えていたらしく、何かに気付いて"くふっ…くふっ…"と気味の悪い笑みを零していました。

 

「────ああ……やっぱりキミ、()()()()()()()()? 厭らしい……厭らしいなぁ……。 私を貪る事しか頭に無いケダモノ────。うふ、うふふふふ……。そういえば────」

 

()()()()()()()()()()()()()()()? キミに夢中で忘れていたけど……。あの時が忘れられなかった? 脳裏にこびり付いて離れないの? いいともいいとも。どんな時でも男を立てるのが淑女たるものだ」

 

「────ん? 酔っ払いすぎだと? だから言ったじゃないか。……────理性がぶっ飛ぶ位、キミに酔っているとね」

 

色んな意味でまたかと思いました。

決してマイナスな意味でも無く、どこか嬉しそうで、何かを期待する様な顔付きで思わず口角が緩やかに上がってしまいました。

どうやら貴方自身も今この状況は満更でもないみたいです。

 

「今日は私が上になろうか? キミに組み伏せられるのもいいけど……────アレはダメだ。私が羞恥心と幸福感で爆発してしまいそうになる」

 

余裕そうに軽口を叩くエトの顔は耳まで真っ赤。

そう意識されてしまうと、貴方も恥ずかしくて顔に熱が溶け込む感じがしました。

固唾を飲んで黙ったまま彼女を見つめていると、居心地の悪さからなのか、目を逸らして歯切れの悪い様子。

顔の前で手をパタパタと風を煽りながら漸く話し始めました。

 

「暑い……暑いなぁ……。キミも……そう思わないかい? ────いや、そう黙られると困るんだ。私にもプライドという物があってだね……。────何度も言っているだろう? キミの前じゃ私はどうしようもなく、か弱くて恋愛脳にボケた1匹の雌になってしまうと」

 

「……そろそろお開きにしよう。流石に飲み過ぎたかな。────これ以上キミといると私が私じゃいられなくなりそうだ」

 

その言葉に一瞬身構えた貴方でしたが、彼女の様子からして危険な目に遭う事はないようです。

何せ未だに顔を真っ赤にしてモジモジと身体を動かしているその姿は挙動不審。

謎の優越感を覚えてしまってだらしない顔に。

 

「何その顔? 私を辱めるのが趣味になったの? 全く……────そんな厭らしいキミにお願いがあるんだけど」

 

「その……もう一度……噛んで……欲しいんだけど……」

 

貴方の顔の前に差し出された左手。

その薬指には先程貴方が付けた歯形がありました。

エトの要求したお願いは声が小さくて聞こえませんでしたが、まあ何となくして欲しい事は理解していました。

手首をゆっくりと握ると、"ひゅっ…"と息が詰まる音がしたのが聞こえて、不意に彼女の顔を見るとそれはまあ……────今にも卒倒しそうな程に狼狽えながらも貴方と自分の手を交互に見て唇をきゅっとキツく結んで身構えていました。

捨てられた子犬の様にか弱い姿に"どんな風にしてやろう"とか"このまま焦らしてみたらどうなのか"とか、普段の貴方からは想像も付かない嗜虐心と悪戯心にあっという間に支配されたようです。

 

「今度は……や、優しく……えぇと……────キミの……好きにしてくれたら……いい……」

 

貴方はエトが前に言っていた言葉をふと思い出しました。

 

"痛みこそが最上級の愛情"。

 

その言葉の真意が漸く理解した貴方は柔らかく微笑むと、彼女の指を口に運びました。




直ぐイキる癖にいざカウンター貰うと汐らしくなるの可愛いね
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