非常食になってしまった貴方。   作:wokka

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7話『不羈』のエト視点です。
地の文の書き方も変えました。
番外編だと思って下さい。


愛執

 

ただの好奇心だった。

 

ただ知りたかった。

 

わたしは彼を愛すると言っておきながら、彼の好きな物や彼の趣味も知らない。

 

だから────彼が1人で何をするのか知りたい。

 

彼を知れば、また好きになる。

 

また愛してあげられる。

 

だから適当な理由を付けて1人で外出させた。

 

それから白々しく彼を尾行しながら期待に胸を膨らませる。

 

────彼の事をもっと知りたい。

 

知的好奇心を理性で抑えられるのは生物においてはヒトだけ。

 

喰種である自分もそうだと言いたかった。

 

自分は他の喰種とは違い、ただ喰らって腹を満たす獣とは違うと。

 

だが────わたしは彼の前では理性を保てない。

 

醜悪な獣に堕ちてしまう。

 

それでもいい、彼の前で我慢はしたくない。

 

彼を愛して、彼を喰らって、満たして……満たされたいと思っている。

 

わたしは獣で────どうしようもなく(メス)なのだと自覚した。

 

そんな彼は肩の傷や痛む右目を気にしながら歩いている。

 

それを見た時、凄く嬉しくなった。

 

わたしが残した傷痕()を感じてくれているんだと。

 

なんて浅ましい、なんて愚か。

 

しかし、それと同等もしくはそれ以上に満たされる心。

 

ああ────今すぐ抱きしめたい。

 

今度はもっと大きな()を残したい。

 

物陰に潜んで、彼の後ろ姿を目に焼き付ければ焼き付ける程、とめどなく疚しい事ばかり浮き出てくる。

 

「ああ……すき。スキ────好きよ」

 

わたしは自分の身体を腕でクロスして抱き締めながら愛を説いた。

 

昂ぶる感情は身体を震わせ、湧き出す劣情は脳漿が吹き出しそうな程に脳神経を麻痺させる。

 

わたしが悶えてる間に彼はスマホを片手にふらふらと歩いていた。

 

何かを探しているのだろうか?

 

────そういえば、彼の家にはあまり物が置いていなかったのを思い出す。

 

生きる為に最低限必要な物だけで、何かをコレクターしている訳でもなければ、家具等に拘っている訳でもない。

 

いや……確か────お酒はよく飲むと言っていた。

 

わたしと()()()()()()をした時も彼は酔っ払っていた筈。

 

うん、決めた。

 

今度、一緒に晩酌でもしようじゃないか。

 

酒はヒトの本性を暴く便利な物だ。

 

彼の本性を知るには絶好の機会。

 

それに────わたしばかりじゃなくて、彼から愛して貰うのも好いだろう。

 

まだ1度しか愛を貰ってない訳だし。

 

酒を使って彼の判断能力と理性をぐちゃぐちゃにしてから、その後に一緒に堕ちてしまおう。

 

そう思って引き笑いをしていた時、見覚えのある街並みに辺りを見渡した。

 

「……ここの道は確か────」

 

最悪だ。

 

気付けば区を跨いで20区に来てしまっていた。

 

それに、ここから少し先に進んだら()の店がある。

 

遠く離れた場所から彼の背中を見て"そこには行くな"と願う。

 

モヤモヤとした感情を抱いてしまい、思わず顔を顰める。

 

だがしかし、わたしの願いは無情にも届かず────彼は導かれるがままに、喫茶店で立ち止まってしまった。

 

もういい、偶然を装って彼を連れ出してしまおう。

 

そう思って彼の元へ行こうとしたが、別の道から()が現れて、思わず物陰に身を隠した。

 

そして顔だけ出して様子を窺う。

 

困った様に笑う彼と父の背中。

 

顔は見えないが、どうせ薄っぺらい笑顔でも浮かべているんだろうと思えばとても腹立たしかった。

 

それよりも腹立たしかったのは彼が浮かべている笑顔。

 

「なんで────笑うんだ……。ソイツは────わたしを捨てたクソ野郎なのに……」

 

そんな愚痴を零したとて、頭では分かっている。

 

彼は目の前にいる男がわたしの父である事を知らない。

 

それでも────その笑顔はわたしにだけ向けて欲しかった。

 

彼を満たせるのはわたしだけなんだ。

 

わたし以外の有象無象から貰う優しさを享受するな。

 

ギチリと歯軋りを鳴らして2人が店に入るのをただ盗み見する。

 

わたしはその場で座り込む。

 

このままでは、あの人を盗られてしまう。

 

わたしは爪を噛んで思考を巡らせたが、どうにもノイズが走ってしまい、中々良い案は浮かんで来なかった。

 

思考をクリアにする為に立ち上がり、自動販売機にて缶コーヒーを買ってプルタブを開けて中の液体を体内に流し込んだ。

 

それでも尚、曇り続ける思考に舌打ちをしてしまう。

 

「────わたしは、どうしたら……」

 

自分に言い聞かせる様に独り言を零した。

 

わたしは囚われている。

 

この歪な鳥籠(世界)ではなく、貴方という小さな鳥籠に。

 

愛を知った。

 

温もりを知った。

 

それでも、こんなに苦しくなるなら……いっそ────。

 

わたしは口を手で塞ぐ。

 

そうでもしないと、また溢れそうだったから。

 

多分、わたしは彼に恋をしている。

 

食べる為でもなく、痛みを持って愛する為とかでもなく、ヒト並の恋心を持ってしまった。

 

しかし、わたしはそれを受け入れたくはない。

 

あのクソ野郎()と同じ尺度で生きる事に反吐が出そうだから。

 

だから……わたしは自分なりの愛を持って、彼を愛すればいい。

 

彼が求めるなら何でもしよう。

 

言葉で分かり合う事も、口吸も情事も何だってする。

 

貴方だけは────絶対に離さないよ。

 

もし、わたしから離れるなら────お腹の中に大事に仕舞ってあげるからね。

 

「青年、久々のコーヒーブレイクは楽しめたかい? ────愛しい愛しい……わたしの()()()()ちゃんヨ♡」

 

わたしは店から出て帰路に向かうであろう彼の姿を見て告げた。





愛されたいと泣いているのは、人の温もりを知ってしまったから。
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