二度目のTS転生でVtuberになりまして   作:くろうさぎ

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3.輪廻越しの再会

 

 

 

 

 ――私立星祥学園・1年B組。

 

 ああああああ!

 やらかしたやらかしたやらかしたあああーーっ!

 

 私の頭の中は絶賛混乱の真っ只中にあった。

 一応、平静を装いながら一限目の授業の準備を行っているが、正直いつも通りに振る舞えている自信がない。

 アニメとかだったら真っ青になり、目がグルグルと渦巻いているところだろう。

 

 でもしょうがないじゃん!

 まさかあの水無月先輩が配信してるとは夢にも思わなかったんだもん! 

 〝星祥の黒薔薇〟なんて呼ばれる孤高の人だよ!?

 二次元に登場するようなバリバリなクールキャラだよ!?

 そんな人がゲーム配信なんて誰が想像付くと言うのか。

 

 どうしよ……バレてないよね?

 声だけしか乗ってなかったのが不幸中の幸いと言うべきか。

 そこから私を特定するなんて事にはならないよね?

 でもネットの世界は何が起こるか分からないからなぁ。

 デジタルタトゥーなんて言葉があるくらいだし。

 

 あのときの喋り方、語った内容は間違いなく私のものだ。本当の私だ。

 だけどそれを証明する手立てはなく、傍から見れば完全に痛々しい発言この上ない。

 友人から『こんな人だったのね、幻滅したわ。いてててて』なんて言われたら流石に泣くよ?

 

 どうか話題にならず、このまま過ぎ去ってくれますように。

 私は手を組んで祈った。

 大丈夫。人の噂も七十五日と言うし、きっと大丈――長いなあ!

 七十五日もあったら挽回できないでしょ!

 

「……リア。アリア!」

「は、はいっ」

 

 ポンポンと肩を叩かれ、私はビクンと跳ね上がった。

 声のした方を振り向くと、亜麻色の髪をミディアムボブにしたダウナー系の少女がいた。

 私の友人である浅川環だ。

 

「どうしたの? 急に祈りのポーズなんかして」

「い、いえ、その……!」

 

 首を傾げる環。その背景からチラチラと色んなクラスメイトの視線が飛んでくる。

 やたら注目を浴びる我が身が憎い!

 

 男が思い描く可愛いの理想像を具現化したような容姿。

 透明感があるのは北欧の血が半分入っているからだ。

 

 毛先が若干ウェーブがかった銀の長髪を緩くハーフアップに結び、長い睫毛を侍らせた藤色の瞳は神秘的な美しさを湛えていた。

 

 触れれば折れてしまいそうなほど華奢な体躯。

 そんな儚げな身体とは裏腹に、二つのお山さんはそれなりにご立派だ。

 少なくともタピオカチャレンジは出来るくらいはある。

 

 どこからどう見ても完全無欠な超絶美少女――それが私、白織アリアだった。

 自分で言うか? と思うだろうが、ホント見た目だけは良いのである。

 告白された回数も、ずば抜けてる自信あるし。

 

 水無月先輩が『星祥の黒薔薇』なら、私は『星祥の白百合』と呼ばれているのだ。

 まあ中身が元男だからプラマイゼロなんだけどね。

 

 TS転生者さん、銀髪になりがち。

 や、前世は金髪だったけど。

 どちらにせよ、日本人が好きそうな見た目なのは間違いない。

 特にオタクくんには特攻だ。

 

 ――っと、今は感慨に耽っている場合じゃなかった。

 とりあえず適当な言い訳を口にしないと。

 

「先ほど、友人が体調を崩したとの連絡があり、どうか復調しますようにと」

「ふうん」

 

 ……よ、弱かったかな?

 環の胡乱な瞳が痛い。

 

「おお、さすが白織さんっ」

「友だちのために祈れるなんて、何て心優しい人なんだ」

「俺も白織さんに祈られてぇ!」

 

 そしてあっさり騙されるクラスメイトたちよ。

 ボカァ、キミたちの将来が心配です。

 良いとこの生まれなのに、そんな純粋でええんか?

 美少女補正って凄いよね。

 前々世の俺が祈っても『いきなり何してんの? キッモ』と言われること請け合いなのに。

 

「ま、そういう事にしとこっか。それよりさ、今日の数学って宿題あったじゃん?」

 

 ホッとするのも束の間、そんなことを言い出した。

 

「やらなかったんですか?」

「やー、昨日はゲームに熱が入っちゃってさ。気が付いたら深夜だったんだよねえ」

「そう言えば昨日が発売と言ってましたね」

「YES。当たりも当たり。大当たりだったよ。……クリアしたら貸したげる」

 

 環が他の人に聞かれないよう、そっと耳打ちをする。

 私も同じ声量でお礼を返した。

 水無月先輩もそうだけど、私のようなキャラがゲームをしてるのがバレるのはね。

 こういうのを内緒にしないといけないのも、お金持ちの面倒臭いところだ。

 体裁。嫌な言葉だ。

 おかげで自分でゲームも買えやしない。

 

「その代わりと言っちゃなんだけど……」

 

 と、環が強請るような目をする。

 

「ちゃんとやらないと身に付きませんよ」

 

 そう言いつつ数学の宿題を取り出し、環に渡すおいどんでした。

 ゲームを引き合いに出されたら断れんよー。

 

「へーき、へーき。一夜漬けは得意だからさ。それより――」

 

 環が別の話題を切り出そうとしたとき、にわかに教室が騒然となった。

 自然と私たちの会話も止まり、何があったのかと辺りを見渡し――げっ!

 

 そこには朝に別れたばかりの水無月先輩がいた。

 しかも真っ直ぐこっちに向かってきてるぅ!?

 どうしよ、いきなりぶっ込まれたりしないよね!?

 ここで『アレが貴女の素なのかしら?』とか言われたら色々終わるんですけどお!

 

「白織さん」

「は、はい。何か御用でしょうか?」

 

 内心慌てふためきながらも何とか返事をする。

 

「放課後、時間あるかしら?」

 

 その言葉に、私は内心で安堵の息を零した。

 どうやら水無月先輩も配信関係のことは、大っぴらにしたくないようだ。

 よく見れば水無月先輩もどこか落ち着きがなく、微かに焦燥のようなものが感じ取れる。

 

「はい、大丈夫です」

「そう。なら私にその時間を貰えないかしら? ――貴女に大事な話があるの」

 

「「「!!!???」」」

 

 あ、そうだ!

 私も水無月先輩に口止めをお願いしとかないとっ。

 げっ、とか言ってる場合じゃなかった!

 

「是非お願いします。私も先輩とはじっくりお話がしたいと思っていましたから」

 

「「「!!!??!!!??」」」

 

 ……? 何かさっきから周りがすっごい騒がしいような。

 キマシ?

 まあいいや。今はそんなことを気にしてる場合じゃない。

 

「放課後になったら迎えに行くから、貴女の部屋で待っていてくれるかしら?」

「分かりました」

 

 用件を伝えるなり、水無月先輩は踵を返した。

 艶やかな黒髪がふわり靡く。

 凛とした後ろ姿を一礼して見送っていると、途端にあちこちから視線が。

 ありありと『私、興味あります!』という感情が伝わってきた。

 ……何人かの男子がすっごい鼻息が荒いのが気になるんですが。

 

「アンタ、水無月先輩と仲良かったっけ?」

「まあ色々ありまして」

 

 このあとメチャクチャ質問攻めにあった。

 キマシってそういうことかーい!

 

 

 

 

 

 放課後を迎えた私は、クラスメイトの関心を多分に引きつつも早々に教室を後にした――の、だが。

 

「…………」

 

 見られてる。

 それ自体は特に珍しいことじゃない。

 私も同じ学校に銀髪の美少女がいたら何度でもチラ見すると思うし、前々世なら如何わしい妄想の対象にしていたかもしれない。

 だけど今日の視線は、昨日までとは明らかに別種のものだ。

 

 どうやら朝の件は、噂として拡散されたらしい。

 廊下を歩いてもクラスメイトと同様の視線が雨あられだ。

 

 もう、居心地悪いなぁ。

 確かに話のネタにしたい気持ちは分かるよ?

 何せ水無月先輩は〝星祥の黒薔薇〟、私は〝星祥の白百合〟と対を為すような異名が付いているのだ。

 

 後輩である私の異名が水無月先輩を意識して付けられたのは間違いない。

 だと言うのに、私と水無月先輩は今まで碌な関わりが無かったのだ。

 

 水無月先輩は、どういうわけか私を避けていた――と思う。

 私も水無月先輩を『あの人』と重ねてしまうから、放っておけないと思いつつも過度な接触は避けていた。

 異名を理由に接点を持とうとするのも普通にいててててて案件だしね。

 自分から異名を名乗るとか痛々しいにも程がある。

 

 そんな事情から私と水無月先輩の間柄は『ただの後輩』、『ただの隣人』という関係に落ち着いていた。

 それを壊すような一射が放たれたのだ。

 他の生徒からすりゃ『遂に物語が動き出したか……!』というリアリティーショーを見ている観客の気分なのかもしれない。

 

 当事者からすれば堪ったものじゃないのですが!

 そこ! ひそひそとキマシタワーとか言わない!

 違うから!

 私、男は論外だけど、ガチ百合もNG出してるから!

 普通に水無月先輩にも迷惑が掛かるから止めなされ!

 何故そのように荒ぶるのか。鎮まれ、鎮まり給えー。

 

 ……はぁ。

 ちゃんと訂正したのに、噂って怖い。

 人の噂も七十五日――だから長いってえ!

 

 居た堪れなくなった私は、いそいそと校舎を後にする。

 さすがお金持ちが通う学校と言うべきか、無駄に大きな敷地を経由し、ようやく学生寮に到着。

 

 ちなみにこちらも、余程の金が注ぎ込まれていることが一目で分かる立派な外観だ。

 学生寮というか高級マンションである。

 ミーティングルームにパーティルーム、フィットネスルームまで完備していると来た。

 

 もちろん私が使ったことはない。

 精神年齢的にも、ゆるふわ清楚系お嬢様のロールプレイ的にもパリピと同じ空間はNGなのである。

 

 水無月先輩が配信をしていた事から分かる通り、部屋は基本的に完全防音の2LDK。

 広々とした空間を一人で自由に満喫することが可能だ。

 やりたい放題チャンネルはここですか?

 

 エントランスに入った私が真っ先に向かったのは、売店だ。

 水無月先輩を出迎えるための茶菓子を買っておかないと。

 

 えーと、和菓子で良いかな? あと緑茶。

 う、うおお……一箱七千円。

 

 一度目の人生は庶民、二度目の人生は孤児だったから、未だ手が伸ばし辛いんだよなぁ。

 何でお菓子に五千円以上もするんですか?

 

 お菓子というのはね、五百円以内で、こう……子どもたちが『どれ買う?』、『俺はコレ!』、『ぼくはコレ!』、『なあ半分こにしようぜ』と笑顔で買えるような金額じゃないといけないんだ。 

 カルビー! ロッテー! メイジー! ブルボーン! 早く来てくれー!

 

 泣く泣く高い買い物を済ませ、エレベーターに乗り、自室のある階層をポチっとな。

 他に乗客がいないことを認め、鼻歌を口ずさみながら待つこと数秒。

 静かに扉が開き、エレベーターを降りると、仄かな照明に照らされた薄暗い廊下が広がっていた。

 

 高級住宅さん、薄暗くしがち。

 やめてよね。ホラーを見てしまったとき、私が気軽に外出できないでしょ。

 怖いもの見たさという欲求に毎秒敗北してるこっちの身にもなってほしいものである。

 

 自室に帰った私は、早々に出迎えの準備を始めた。

 いつもは寝室に直帰してロールプレイにサヨナラバイバイ。

 ぐで~とベッドで蕩けながら解放感に身を浸すところなんだけど、この後すぐ水無月先輩が来るからね。

 涙を飲んでルーティンを見送った。

 

 購入した品々を食器に移し、テーブルに並べる。

 どこか不備がないか細かくチェックも怠らない。

 ゴミなんて論外だ。

 一応、突然の来客に備えて掃除は欠かさなかったから大丈夫のはずだけど、念のためにね。

 そうして一連の作業がひと段落したタイミングでインターホンが鳴った。

 どうやら来たようだ。

 

「は~い! 今、行きます!」

 

 すり足で玄関へ出向き、そっとドアノブを引っ張り、静かに扉を開ける。

 自室だろうと気を抜くわけにはいかないと、淑女然とした笑顔を貼り付け――瞬間、私の身体に衝撃が走った。

 

「え?」

 

 突然の事態に対応できず、簡単に押し倒されてしまう。

 

「えーと、先輩……?」

 

 やはり、と言うべきか。

 それをやったのは水無月先輩だった。

 

 え? ちょ、はい?

 何でいきなり抱き着いて。

 も、もしかして本当にキマシタワー案件だったの?

 朝の出来事はただの建前で、今から襲われちゃったりするの?

 そんなの絶対嫌なんですけど!

 

 私にも元男としての矜持がある。

 前世では戦士として数多の戦場を駆け抜けた実績も。

 そんな私が平和な日本で育ったJKに組み伏せられるなど、あっていいはずがなかった。

 

 ――そうだ。私はただのJKなんかに絶対負けたりなんかしない! きりっ!

 

 ……あ、そう言えばこの水無月先輩、剣道の大会で長年に渡り無双の限りを尽くし、『リアルなろう系』やら『現代に蘇った侍』とか呼ばれてたんだった。

 そして今の私は、例え前世が戦士だろうとただのか弱いJK。

 護身術は習得してるけど、既に押し倒された後だ。

 

 Q.え? ここからでも利く保険があるんですか!?

 A.死ぬがよい。

 

 これはダメかもしれませんね。

 ぎゃわー!

 

 ――なんて内心慌てふためいたが、様子がおかしい。

 

 私の知っている水無月神夜は、常に凛とした態度であり続ける孤高の女傑だ。

 他者を連れ添い歩くことはせず、笑っている姿すら見た人はいないと聞く。

 無口、無表情、無感動を地で行く氷の女王。

 

 ――そんな水無月先輩が、私を強く抱きしめながら泣いていた。

 

 静寂の空間に、衣擦れの音と嗚咽が響く。

 可哀想なくらい身体が震えていた。

 声を必死に押し殺し、それでも食いしばった歯の隙間から零れ落ちる泣き声が、感情の大きさを雄弁に物語っていた。

 

「先輩、どうかしたんですか? 大丈夫ですか?」

 

 只ならぬ様子に意識を切り替える。

 頼り甲斐を感じさせるため、声のトーンを落として話し掛けた。

 

「アリアちゃん……アリアちゃん……っ!」

 

 道を見失った迷い子が親を見つけたときのように。

 私の名を呼ぶ水無月先輩の声音には、寂寥と歓喜が入り混じっているように感じた。

 

「え、と……はい、私はここにいますよ。大丈夫ですから、安心して下さい」

 

 私は困惑しながらも背中に手を回し、子どもをあやすように優しく撫でる。

 一体水無月先輩に何があったのか、そんなことを考えながら。

 だけどそんな思考は、次の一言で吹き飛ぶことになる。

 

「やっと見つけた……! やっと会えたわ……! ――アルフェリアちゃん……っ」

「――――え?」

 

 あり得ない言葉が強く鼓膜を震わせた。

 身体が一切の動きを放棄し、果たして何と言われたのかと思考が反芻する。

 

 ――アルフェリア。

 

 それは二度と聞くことがないと思っていた名前だった。

 当たり前だ。

 何故ならそれは、私の前世の名前なんだから。

 

 でも、どうして水無月先輩がその名前を……?

 やおらに水無月先輩が顔を上げる。

 彼女の肩から、黒髪が一房、流れるように落ちた。

 驚愕のあまり間抜け面を晒す私の視界に、その表情が映り込む。

 

 今まで学校で見掛けた鉄面皮は何だったのか。

 滂沱の涙を流す瞳は、永遠に希った願いが成就したような熱を帯びていた。

 その喜色に満ちた笑みが、微笑みという色彩が鮮やかに実った表情が、昔の記憶を呼び覚ます。

 

「…………カグヤ先輩?」

 

 また一筋の雫をこぼし、水無月先輩は。

 ――『あの人』は、莞爾として笑った。

 

 

 

 

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