二度目のTS転生でVtuberになりまして 作:くろうさぎ
「白織さん、お届け物が届いてますよ」
学校から帰ってきた私を出迎えた一言がそれだった。
「お届け物、ですか?」
はて、何のことだろう。通販を利用した覚えはないんだけど。
寮の管理人が台車に乗せて持ってきたのは、大きめのダンボールだった。
それが二つ。どちらも精密機器と記されている。
「配信用の器材一式よ。今日届く予定だったでしょ?」
「あ」
隣にいたカグヤ先輩の耳打ちに、そうだと思い出す。
つい先日、カグヤ先輩に「Vtuberにならない?」と打診され、その了承をしたんだった。
あの日から割りと忙しなかったからすっかり忘れてた。
「ありがとうございます」
管理人に深々と一礼。台車を借りてエレベーターを経由し、自室へと帰宅する。
静かに扉を閉じ、ふぅっと一息付きながら猫かぶりを解く。
途端にふにゃりと曲がる背筋。
「今日もお疲れ様、アリアちゃん」
「うん。カグヤ先輩もおつー」
今すぐベッドかソファーに身投げして、ぐで~と怠けたいところだが、もうひと踏ん張りだ。
「それじゃあ私はコレを運んでくるね」
「大丈夫? 私が運ぼうかしら?」
「こんくらいよゆーよゆー。あ、でも設定とかは色々教えてほしいかも」
「もちろん、お安い御用よ。落とさないよう気を付けてね」
「いえっさー」
よっこいせと台車に乗せたダンボールを寝室に運ぶ。
はい、もうひと踏ん張り終了!
パパッと着替えを済ませ、早速とばかりにぐで~と寝転んだ。
ああ、癒やされる。
っぱ学校終わりのオフトゥンは最高よ。
「今から寝ちゃうと夜に寝られなくなるわよ」
二人分の飲み物をトレイに乗せて、カグヤ先輩がやって来る。
「だいじょぶだいじょぶ。ぐで~ってしてるだけだから」
「もう、仕方のない子ね」
カグヤ先輩にお礼を言って飲み物を受け取る。
っぱコーヒー牛乳よ。
私は前々世の幼少期からこいつと一緒に育ってきたんだ。
もはや相棒と言っても過言。
再びぽてんとベッドに寝転がり、欠伸を噛み殺しながらぼんやりと虚空を眺める。
――お互いの正体を知った日から三日が経過した。
その日の内からカグヤ先輩は、食器を始めとした生活必需品を私の部屋に持ち込み、ルームシェアをするようになった。
リビングでのんびりと寛ぐ自由時間もカグヤ先輩が寄り添うようになり、寝室も一緒だ。
や、寝室自体は別々にあるんだけど、就寝時間になると私の寝室へやって来るのである。
まるで数日間家を空けていた飼い主に全力で甘える飼い犬のようだ。
まあお世話されるのは私なわけですが。
昔はここまで拗らせてなかったんだけどね。
私が原因なのは明白なため甘んじて受け入れるしかない。
ただ私のベッドに入り込んできたときに「さすがに暑苦しくない?」と拒否しようとしたからってホラー映画を見せてきたのはどうかと思いますの。
もう! もう! 一人で寝れるわけないじゃん!
人の怖いもの見たさを的確に刺激してぇ!
オフトゥンの中に悪霊を忍ばせるのは人間の所業じゃないよ!
オフトゥンだけは、オフトゥンの中だけは絶対の安全地帯じゃないといけないのに!
オフトゥン最強説は絶対じゃないといけないのに!
あ、思い出すだけで鳥肌が。
これ数週間は引きずるヤツだ。
学校生活も当然と言うべきかな、一大事となった。
革命でも起きたのかと言わんばかりの大騒動だ。
何せ、〝星祥の黒薔薇〟と謳われた氷の女王と〝星祥の白百合〟と呼ばれていた私たちが遂に関係を持った。
それだけでもあの反応だったというのに――たった一日で〝星祥の黒薔薇〟がデレッデレになったのだ。
私の隣をニコニコと幸せそうに歩くカグヤ先輩の姿に、誰もが愕然としていた。
そりゃあ大騒ぎにもなるよね。
しかも私だけじゃなくて誰に対しても人当たりが良くなったのだ。
上から下まで、教師すら目玉を飛び出さんばかりに仰天したのは致し方ないことだろう。
但しキマシタワー勢、テメーはダメだ。
ホントあの勢力は、す~~ぐ友情と百合を直結しようとするんだから。
「どうかした、アリアちゃん」
昨日、一昨日のことを振り返っていたら、いつの間にかカグヤ先輩に視線が向いていたようだ。
「ちょっと学校の様子を思い返してた」
「学校の? そう言えばいつもより騒がしかったわね」
「カグヤ先輩の態度が百八十度ターンを決めたら大騒ぎにもなるよ」
「? 余裕が無かったのは確かだけど、わざわざ噂になるような事かしら?」
「ええ……」
そう言えばこの先輩、ちょっと天然が入ってて自分のことに頓着しない人だったな。
「カグヤ先輩、自分が学校で〝星祥の黒薔薇〟って呼ばれてるの知ってる?」
「え、そんなの初耳よ。恥ずかしいわ」
やっぱり知らなかったんだ。
頬を朱に染めるカグヤ先輩に苦笑を浮かべる。
「どうしてそんな名前が」
「そりゃあカグヤ先輩が黒髪で薔薇みたいにツンツンしてて、すっごくキレイだからじゃない? カグヤ先輩よりキレイな人、見たことないし」
「そ、そうからしら?」
「そうそう。前世でもそうだったけど、もっと自信持った方が良いよ」
お金持ちというのは、美男美女を選り好みできる立派なステータスだ。
故に、その勝ち組遺伝子を受け継いだ星祥学園の生徒たちは、比較的容姿に優れた者が多い。
子供の頃から美容に掛ける金額に糸目を付ける必要がないのも大きいか。
テレビで芸能人を見ていても『普通にクラスメイトの方が可愛くね? カッコ良くね?』と思うことがあるほどだ。
私のように外国の血が入った子も珍しくないしね。
そんな星祥の中でもひと際輝く容姿を持つのがカグヤ先輩――水無月神夜だ。
鴉の濡れ羽色の如くしっとり艶やかな黒の長髪に、凛とした瞳。
身長は百六十後半と女性にしては高く、すらりと伸びた細長い四肢。
身体のラインは艶やかな曲線美を描いており、制服の上からでもバチバチの主張をかます豊かな双丘は、厳しい教育を受けた本物の紳士淑女ですら『でっっっっっっっっっっっっっ!!』と凝視してしまうほど。
常に憂いを帯びた瞳と他者を寄せ付けないオーラは、神秘的な雰囲気として昇華され、『美しさ』というジャンルに於いて他の追随を許さない。
故に彼女は、畏怖と憧憬を込めて〝星祥の黒薔薇〟と呼ばれるのだ。
まあ後半の内容は一昨日から完全にお亡くなりになったわけですが。
見える。見えるぞ。
高嶺の薔薇から本来の優しいカグヤ先輩に戻ったことで『あれ? もしかしてこの人、俺のこと好きなんじゃ』と哀れな勘違いする輩が続出する光景が。
これも全部白織アリアってヤツが悪いんだ。
マジかよ、最悪だな。
…………。
ワシやんけ!
「でも、それを言うならアリアちゃんだってとっても可愛いわよ。お人形さんみたい」
「まあ外面だけだけどねー」
と、私は苦笑で返した。
カグヤ先輩が『キレイ』極振りなら、『可愛い』極振りが私だ。
外面だけは、思わず守ってあげたくなるような純粋無垢なお姫様だからね。
本当に、本当に自分で言うのもなんだけど、私より可愛い人とか見たことないし。
一日に何人もの男子から告られたとか、他校からも告白する生徒がやって来たとか、街を歩けばスカウトに始まりナンパが後を絶たないとか、隠し撮りが高値で売買されてるとか、非公式ファンクラブがあるとか、そういうモテエピソードは完全制覇済みだ。
尚中身。
「そんなことないわ。私はアリアちゃんの内面の良いところ、いっぱい知ってるもの」
「えー? 顎を使った指パッチンが上手いところ?」
前々世で頑張りました。
付け根の皮が破けるくらい。
「それは初耳だし、チョイスするのそれで良いの?」
「じゃあ鉛筆カーブ」
「内面はどこ行ったのかしら?」
前々世で以下略。
某2~3頭身の野球ゲーム並みに多彩な変化球を習得済みである。
ホップアップもできるよ!
「……アリアちゃんも意外と照れ屋よね。おべっかに弱くて調子に乗りやすいのに、こういう時はすぐ適当なこと言って煙に巻こうとするんだから」
「べ、別にそんなことはないよ。褒められるの嫌いじゃないし?」
「軽い賛辞ならね。だけど純粋な賛美や敬意には弱いでしょう? いつも目が泳いでるもの」
「んぐ……」
完全に見透かされてる件。
私は目を逸らした。
「ふふっ、承認欲求はあるけど、いざ褒められると恥ずかしくなっちゃう。そういうところが本当に可愛いわ」
「あーあー! 聞こえなーい!」
私はスッポリと掛け布団の中に逃げ込んだ。
パタパタと火照った顔を手団扇で扇いでいると、何かを剥がす音が耳朶を打った。
カメのように顔だけを出す。
カグヤ先輩がダンボールを開封しようとしていた。
「カグヤ先輩? 置いといていいよ。設置くらいは自分でやるからさ」
「気にしないで。好きでやってる事だから」
なんて笑顔で言うが、それだとこちらの罪悪感くんが。
居た堪れなくなった私は渋々と起き上がった。
とりま半時間くらいはグータラしたかったが、仕方ない。
「アリアちゃんは休んでていいのよ?」
「や、カグヤ先輩に任せっきりとかあり得ないから」
そう言うとカグヤ先輩は嬉しそうに笑う。
「早速出たわね、アリアちゃんの良いところ」
「え? 何が?」
「グータラするのが好きなのに、何だかんだ放っておかないわよね」
「そりゃ私の荷物だし。さすがにそこまで面の皮は厚くないよ」
敬愛する先輩に自分の荷解きをやらせてグータラとか、普通に人間として終わってね?
なろう系もしくは祖父母みたいな雑な上げ方やめてつかぁさい。
アレ向こうにそんなつもりは無いと分かってても反応し辛いのよ。
「例え私の荷物だったとしても、アリアちゃんは手伝ってくれたわよ。そういう優しい子だもの」
だからそういう気恥ずかしいこと言うのやめー!