ざわざわと騒がしい教室の中
なんとなくで買ったいちごミルクは妙に甘ったるくて、こんな味なら買わなければ良かったなと思う
外に視線を向ければ、雲一つない晴れ模様
窓際だから尚更太陽が当たる
眩しさに目を細めながら、いちごミルクを飲み干す
甘ったるさに喉の乾きが増長される
空は、晴れ
でも、私には、曇り
私の過去は…まぁ他人とは大分違うのだろう
私の両親に当たる人間は、控えめに言ってもクズだった
ギャンブル、酒、女、男…
それらに浸って、働きもせずに過ごしていた
ギャンブルに勝てば、そのお金で酒を飲み、女を抱き、男に抱かれる
負ければヤケクソで酒を飲み、酔って暴れる
私はと言うと、ただただ、家の隅っこに縮こまっているだけだった
見つかれば、ストレス発散という名の暴力を振るわれるから
しかし負けたときの二人の視界は広く、簡単に私を見つけると、隅っこから引き摺り出して暴力を振るっていた
あとから知ったが、世間一般的にカワイソウと言われるらしい私には、何人か友達?かどうかよくわからない人間が何人かいた
幼馴染5人グループとは、その時からの出会いだ
学校でも暗く、ボサボサの髪を伸ばして、いつものクセで教室の隅っこにいた私に対して、遠ざけること無く『銘』や『銘ちゃん』、『めーちゃん』と呼んで輪に入れてくれるのに対して、崇拝の念すらあった
そのうちの一人…蘭とは家が近く、かなり大きな家で何かの名家だったのに、何回もお邪魔させてもらっていた
先程述べたことから評判が悪い大人の子供を、嫌な顔一つしないで受け入れてくれるその家族が、私は好きだった
でも、彼女達と私では住む世界が違う
その事に気づいたのは、陰口を聞くようになってからだ
クラスの中でも、一人を除いて人気者だった5人組が、教室の隅っこで髪をボサボサにしてる私に構うのが面白くなかったんだろう
その事に気づいてからは、距離を置いた
昼休みでもトイレに隠れて、最低限の会話しかしないようにして
それ以来、皆の家に行くこともなくなった
ある日、いつものように家を追い出されて雨の中、公園で座り込んでいた
打たれる雨が冷たいなぁと思いながらも、足を抱えて震えていると、ふと雨が止んだ
何でだと思って顔を上げれば、女子中学生が二人いて、そのうちの一人が私に傘を差し出していたからだ
「君、こんな雨の中どうしたの…っ!?」
傘を差し出してきている女子…リサが私の体を見て口を抑える
もう一人…友希那はリサの様子に首を傾げていたが、リサの視線を追って私の顔を見て、同じく絶句していた
それから二人にリサの家に連れられて、リサの家族に手当てしてもらって
それからリサと友希那に送らせて、一安心だと思ったのだろう
よくある子供同士の喧嘩だと言って誤魔化していたから
しかし翌日も、更に傷を負って公園で座り込んでる私を見て、学校帰りの二人がまた現れて、前日より酷くなっている私の傷を見て絶句していた
この公園来ないほうが良かったかな、と当時はそんな事を頭の中で考えていた
そして気づけばまた二人に連れられて、気づけばリサの家で手当を受けていた
とても喧嘩じゃつかない傷があることを問い詰められて、正直に白状した
二人はまるで自分の事のように泣いていた、何故泣いていたのだろうかと今でも考える
「あたしは今井リサ、こっちは湊友希那」
そうして自己紹介されたあと、「辛かったらおいで、家族にはあたしから話しておくから」と言ってくれた
それから数日後、追い出されて5人組の家にも行けず、恐る恐る近くまで行ってみれば、友希那に見つかって連行されて
そこで『音楽』というものを知った
友希那が歌っているのを聞いているだけだったけど、当時の私にはとても新鮮なものだった
リサの家族だけじゃなくて、友希那の家族も親切にしてくれた
5人組の家に行けない時の、頼り先
そんな身勝手で私にだけ都合が良すぎるのに、優しくしてくれた
でも、5人組から距離を置き始めたのと同時に、ここも行かなくなった
ある日、何時ものように部屋の隅っこで膝を抱えながらウトウトしていると、声が聞こえた
なんだろうと思って、睡魔に襲われている頭を揺らしながら隅っこから出てみれば、二人の言い争う声が聞こえて
そうこうしている内に、母親に当たる女が苦しげな声を上げたあとに、声が聞こえなくなる
なんだろうと思って部屋を覗いてみれば、口から血を出して倒れている母親に当たる人間、血で濡れた包丁を持って目を血走らしている父親に当たる人間
そこからは覚えていない、ただ私に馬乗りになって包丁を振りかぶっていた父親の姿は覚えている
次に記憶があるのは、救急車で搬送される時から
その時、蘭の事を思い出してストレッチャーに載せられたまま顔を傾ければ、私の名前を叫びながらこちらに来ようとして、両親に押さえ込まれている5人組が目に入った
それが、高校で会うまでの、5人組を見た最後だった
幸いというべきか不幸と言うべきか、私は腕を切り裂かれて、腹も三回刺されたというのに、命に別状は無かった
この時は自分を呪ったものだ
片方が死に、もう片方が逮捕された為、親戚に引き取られることになった、父親に当たる人間の血筋だった
まぁ予想通りであり、親戚もまぁクズだった
仕事はしているが、いつも女遊びをしている人間と、大量の買い物をする人間
私は、人殺しの娘として扱われて、人間扱いされなかった
いつも水ばかり飲んで、飢えを凌いでいたので、ただでさえ細かった体が、益々細くなった
でも、何も思わなかった、何も変わらなかったのだから
ある日、何時ものように目障りだと追い出されて、公園のブランコに座り込んでいると、
「土谷さん…だよね?」
そう話し掛けてきたのは、同じクラスの女子
名前は…あぁそうだ、確かレイだっけ
学年の中では珍しく、私に声を掛けて、私を虐めてくるクラスメイトを諌める人間
当時の私は、その程度の認識でしか無かった
けど、レイはそうではなかったらしい
私の顔を見て何をされたのか理解したらしく、気が付いたら手を引かれてレイの家に連れて行かれていた
この感じ前もあったなと、レイが家族に説明しているのを聞きながらそう思っていた
ここの家族も優しかった、でもその優しさに甘える訳にはいかないと思った
でも、引き取られてからというもの周辺の地理なんてあるわけないから、追い出されて公園にいると、毎日寄っているレイに見つかって、家に連れて行かれた
何度も何度もお邪魔する私を邪険にすること無く、まるで自分の身内のように扱ってくれるレイとその家族が、眩しかったと同時に、そんな家族の様子に嫉妬する自分が嫌だった
「レイも…音楽やってんの?」
レイの部屋にあるベースを見てそう言うと、「興味あるの?」と聞いてくるレイ
音楽は好きだよ、と伝えると弾いてみる?と聞いてくるレイ
お言葉に甘えてレイに教えられつつベースを弾いてみれば、音が鳴る
こんな音が鳴るのかと、音楽というものは凄いなと思った
だけど、そんな私の様子に親戚は気付いていたらしい
私が誰かの家に泊まっている事を察した親戚は、私に手錠と首輪をつけて、学校以外の場所に行けないようにして、学校での会話も禁止にした
中学には親戚の子供が通っているから常に監視の目があって、少しでも誰かと話すと、帰って殴り蹴られするから、それが怖くて、誰とも話さなくなった
勿論、レイとも
そんな生活が続いたある日
何時ものように手錠と首輪に繋がられて暴力を受けていると、外が騒がしくなった
何だ、と親戚が部屋から出ていったのも束の間、扉が開かれて警察官が大量に部屋に入ってきて、親戚は逮捕された
あとから聞いたが、二人が麻薬売買に手を出したらしい
確かに最近機嫌が悪くなっていたと思ったら急に良くなったりしていたから、おかしいとは思っていたが
元々証拠を見つけて逮捕する予定だったが、私が部屋に監禁されているのを見つけて、逮捕・監禁罪で現行犯逮捕したらしい
そのまま保護されて、警察に連れて行かれる時に、親戚の子供が私の名を叫んでいるのが聞こえた
すぐに警察官が耳を塞いでくれたけど、はっきり聞こえた
「お前のせいで、幸せな生活が台無しだ」
…その通りだな、と
パトカーの中で自嘲気味に笑った
病院に連れられて、私を診察した医者に、開口一番
「よく生きてましたね」
と言われた
人間慣れると生きてられるものですよと答えると、慣れちゃダメですと言われた
何故なのか、よくわからなかった
入院して、一応人間らしい体に戻って
私はまた、親戚に引き取られた
今度の親戚は、今までの親戚と違って、まともな親戚だった
ただ、私との距離感が分かっていないみたいで、積極的に関わってこようとせず、必要最低限なコミュニケーションしか取らない
それは今でも変わっていない
…まぁ当然か、自分で言うのはおかしいかもしれないが虐待を受けてた被害者であり人殺しの娘
扱いに困るだろう、こんな代物
ただ、高校だけは出ておきなさいと熱弁されたから、受験をして、羽丘女子学園に入学が決まった
地元の高校だったから、けど迷惑じゃないかと悩んでいたが
「銘ちゃんの好きにして良いんだよ」
と言って、親戚は賛成も反対もしなかった
お金は、と思っていたが、「子供がお金の事なんか気にしなくていいから」と親戚が言っていたので、お言葉に甘えることにした
ただ、家に居てもお互い気不味いだけだろうし、距離もあるので一人暮らしをすることにした
一人暮らしは慣れてる、何でも自分でやらなければいけなかったから
そして、今に至る
いつの間にか授業が全て終わり、皆が帰ったり、部活に行ったりしている時間になっていた
まだ教室に残って談笑している生徒がいる
私にそんな相手は居ないから、帰ろうと席を立つと
「銘ー!一緒に帰ろうぜ!」
教室の扉の前で待っている巴
後ろには蘭、モカ、ひまりが手を振っている
「今行く」
そう言って鞄を肩に掛けると、巴達の元へ向かう私
「つぐみは?」
「生徒会の仕事があるんだってさ」
ここにいない相手の事を聞きながら、巴達と一緒に歩を進める私
明日は、まだ見えていない