ほのぼの(嘘であり嘘ではない)生活   作:狼黒

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食べる量が増えた?…そうかもね

「…ねぇ、リサ」

 

「ん~、どうしたの~?」

 

目の前で座ってこちらを見ているリサに話しかける

場所はショッピングモールにある店、そこで今パフェを食べている

リサはというと、頼んでいたメロンソーダを飲みながらこっちを見ているだけだ

 

「いや…そんなに見てて…楽しいのかなって」

 

「楽しいに決まってんじゃん!」

 

「そっか」

 

目が死んでて表情筋も死んでるだろう人間の食事風景なんか見て、そんなに楽しいもんかなと思いながらパフェを頬張る

…甘くて、美味しい

初めて食べた時は、何も感じなかったのに

昔と今で違う自分の体に戸惑いを感じながらも、パフェを食べきったところで、リサが再び声をかけてくる

 

「他に何か食べたいものある?」

 

「…まぁ、あるけど…リサの財布が大丈夫なの?」

 

「大丈夫だって!ほら、好きなもの頼んで!」

 

そう言ってメニュー表を差し出してくるリサ

本当に大丈夫なのかなと思いながら、メニュー表を見始めた

というか最近、皆が何かしら私に食べ物を買って食べさせてくれる

初めは私もお金を出そうとしてたのだけど、『いいからいいから』と流されて、結局出せていない

…こうなっているのは確か、学校の健康診断の少し後だったか

 

 

 

「銘さん、ちょっといい?」

 

学校終わり、教室から帰る人が多い中、迎えに来た蘭達と一緒に帰ろうとしていると、先生に呼ばれる

 

「…何ですか?」

 

「ちょっと話したいことがあって…良かったら会議室まで来てもらえる?」

 

「…分かりました、ごめん、ちょっと行ってくる」

 

蘭達にそう言って先生の元へ向かう

そのまま先生について行って、会議室の中に入ると、座るように促される

促されるままに座ると、対面に座る先生

 

「ごめんなさいね、急に呼び出しちゃって」

 

「いえ、別に…それより、何でしょうか」

 

そう言うと持っていた書類の束から一枚の紙を取り出す先生

その内容は、先週にあった学校の健康診断の結果だった

 

「この前健康診断があったでしょう、その時の結果が今日返ってきたんだけど…まぁ、見てちょうだい」

 

そう言って見てみれば、私の健康診断の結果が写っている

…まぁ、予想してたことではあったけど、身長、体重、栄養状態が平均より遥かに下回っている

恐らくこの事で呼び出されたのだろう

 

「確認なんだけど…銘さん、貴女ちゃんと食事とか睡眠とかとってるわよね?」

 

「…昔…いや、今ですか、ちゃんと食べさせて貰ってますよ…睡眠も…まぁ、皆のおかけで取れてますし」

 

毎日誰かが朝ご飯を作ってくれるし、昼間は誰かが弁当を作って持ってきてくれるし、夜も誰がが作ってくれる

私なんかに作らなくても誰も責めやしないのに

睡眠に関しても、少し前まで全然と言っていいほど取れてなかったけど、今は誰かが一緒に寝てくれる

 

「なら良いのだけど…このままだといつか倒れるかもしれないって医者が言ってたから…くれぐれも気をつけてちょうだい」

 

「…はい」

 

どう気をつけろと言うのだろうかと、思う自分が嫌だった

 

 

「ふーん…そうなんだ…」

 

 

 

 

 

そんな話を先生とした後に、蘭達にラーメンやパン、スイーツを食べさせて貰ったのを切っ掛けに、リサやレイヤ、日菜に立希達が私に何かを食べさせてくる

 

「どうだ銘、美味いか?」

 

「…うん」

 

そうかそうかと言って笑顔を見せる巴

今いるのは巴とますきがバイトをしているラーメン屋

ますきは、今奥の方にいる

まぁもう少ししたら、こっちに来ると思うけど

れんげの上に麺を載せて、息をかけて少し冷まして食べる

初めてラーメンというものを食べた時、口の中を火傷しかけた経験から、こうしている

それより気になるのは

 

「ねぇ巴」

 

「ん?どうした?」

 

「私の食べてるところなんか見て楽しい?」

 

「楽しいに決まってんだろ?そんな事より替え玉食うか?」

 

「…食べる」

 

最近よく食べさせてもらっているせいか、かなりの量が食べられるようになってきている

…昔の私からしたら、とても考えられないな

 

 

 

 

 

リサ

 

 

目の前でパフェを頬張る銘を見ながら、メロンソーダを啜る

そんな事をずっとしていたからか、疑問に思った銘が問い掛けてくるけど、何とか誤魔化す

…本人は気づいていないだろうけど、パフェが美味しいのだろう、表情に幸せという感情が少しながら出てきている

…昔の銘は、何を食べても感情の一つも表さなかった

本人は美味しいと言っていたけど、こっちは心配した

今思えば感情の表し方が分からなかったのだと思う

あんな家庭で、あんな扱いをされていれば、仕方ないのかもしれない

久し振りに再会した時、最後に会ったときと比べて腕や体の細さが明らかに酷くなっていた

それに、生きる事に疲れ切ったかのような、絶望した顔

あの時友希那が勘で銘だと気づいていなかったら、恐らく気づくことはなかっただろう…そして、二度と会うことはなかっただろう

自分勝手な理由で私達から離れたと思っている銘だ、私がバイトしていたコンビニは勿論、学校でも会わないように過ごしていただろう

現に、再会してから始めの頃は私達とは関わらないようにしようとしていた

きっと、自分のせいで私達に迷惑を掛けると思ってたんだろう

…馬鹿なことしてるなぁと思った

私が…私達が、銘を離すわけないのに

 

「…リサ」

 

「ん?どーしたの?」

 

「次…これとこれがいい…」

 

いつの間にかパフェを食べ終わって、メニュー表を見ていたらしい銘が、メニュー表を差し出しながら指で指す

…2つとも、比較的値段が安い

私の財布に配慮してこの2つ選んだんだろうなぁ

一番安いもの頼むと、私が別の物も一緒に勧めてくるだろうと思って、2つ頼んだのならこの事に気付かれないだろうって

…馬鹿だなぁ

 

「分かった、この2つね、すいませーん!」

 

まぁ、そんなとこも可愛いんだけどね♪

 

 

 

 

 

 

ふーふーと麺を冷ましながら食べる銘

始めて食べた時から学習したんだろうなと思う

始めて食べた時は、熱々の麺をそのまま啜ったもんだから思いっきりむせていたし

…食べる量が増えたなと、思う

昔…銘と同じ小学校の頃は、ほんの少し食べただけでお腹いっぱいと言っていたのだから

銘が実の親にあたる何かに刺されてから、ずっと気になっていた

けど、所詮子供でしかないあたし達に出来る事なんて、たかが知れていて

何処に行ったのか、あたしは勿論、蘭達も分からなかった

 

 

結局分からないまま中学を卒業して、高校生になって

入学式が終わって、蘭と一緒に帰ろうと廊下に出た時に見たのは、誰かの手を掴む蘭の姿

何やってんだと思って、近づいて、絶句した

無秩序に顔が隠れるまで伸びたボサボサの髪、顔に着けられたガーゼ、分かりにくいが腕を掴んだ蘭を見て困惑している、絶望と疲れが溜まりきっているような、真っ黒な瞳

蘭が掴んでいた相手は、間違いなく銘だった

後から本人に聞いたが、その時は誰なのか分かっていなかったらしい

まぁ、引き取られた先でもあんな扱いをされてれば仕方ないか

そんな銘の様子に苛立ったのか、次々と言葉をぶつけようとする蘭を、銘から引き離した

…正直、蘭の気持ちは痛いほど分かった

あたしだって聞きたいことは山程あったし

けど、いきなりで困惑している銘に落ち着きを与えなければ駄目だと思ったから

後から来たつぐみ達も、驚いていた

 

「…悪いけど多分人違い、じゃあね」

 

そう言って背中を向ける銘

そんな銘の言葉に、嘘つくなよと叫びそうになった

けど、抑えているあたしの腕の中で暴れる蘭を抑えるのに、必死で

気が付いたら、その背中は見えなくなっていた

 

 

あの後、モカ、そして落ち着いた蘭が銘と改めて話して

その時、銘から刺された後の事を聞いた

…今思い出しても腸が煮えくり返る

引き取られた先でも、人間らしい扱いをされなかったと聞いて

その時服を捲って説明されたけど…正直、気持ちのいいもんじゃない

くっきりと残る痣、火傷の跡の数々…そして、骨が浮き出た体

もし目の前に銘にそんな事をした人間がいたら、躊躇なくあたしは手を出していたと思う

一緒に寝る時、銘を抱き締めて感じた、その体の細さと冷たさ

躓いてコケかけた時に支えた時に感じた、身体の軽さ

そして、モカが盗み聞きしていた、先生と話していた内容

…させない

倒れさせはしない、あたし…いや、あたし達はそう決めた

 

「…巴」

 

そう考えを巡らせていると、銘が話しかけているときに気づく

 

「おう、どうした?」

 

「…替え玉、欲しい」

 

「OK!任せろ!」

 

そう言って厨房に向かう

…あぁ、一つ忘れていた

銘を探している時に、あたし達全員で決めたことがあった

 

 

銘…二度と離さないからな




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