一人暮らしをするにあたって、親戚から出された条件というのは特に何もなかった
ただ、週に一回でも月に一回でもいいから、必ず連絡をしてくれと
何で、と聞いたら子供で一人暮らしは心配だから、と
そうか、自分はまだ子供だったか、と思わず鼻で笑ってしまった
ただ、自分が行きたいという高校に行かせてくれるのはありがたい、と思う
「…こんなものか」
そう言って制服をかける
何もない荷物を片付け、昨日親戚の家に送られていた制服だ
これを着て三年間学校生活を過ごすことになる
まぁどうせ一人だし虐められなきゃいいなぁと、あり得ないことを思う
諦め…いや、慣れか
と、そこでふと喉の渇きを覚える
冷蔵庫を見てみるけど何も入っていないから、仕方なく近くにあるコンビニに行こうと、フードを目深く被って財布を持つ
途中で見えた公園で、親子が遊んでいるのが目に入った
笑顔で遊ぶ子供と、それを優しく見守って、一緒に遊ぶ親
そんな光景に、嫉妬心から思わず拳を握り締める
同時に、そんな自分が醜くて、その場から足早に歩きだす
何で私だけ、あんな家庭環境だったのだろうか
うらやましいなぁ
いらっしゃいませ~、というありふれた言葉を聞き流しつつ、飲み物コーナーへと向かう
コンビニの中はちょうど良い温度に保たれている
適当に何個か飲み物を取り、ついでに菓子を数個籠に放り込む
会計済ませてさっさと帰ろうと、レジに向かう
「ありがとうございます、お預かりします」
籠を置くと、会計を進めるレジの店員
フードから僅かに覗くと、茶髪の天然パーマの恐らくアルバイトの店員
なんか見たことあるなと思って胸元の名札を見れば、『今井 リサ』の文字
「…あぁ、リサか」
私のそのつぶやきが聞こえていたようで、怪訝な顔でこちらを見てくるリサ
「えっと…どこかで会ったことありましたっけ?」
「…いや、覚えてないならいい」
今更過去の人間を思い出してなんだというのか
自分から勝手に離れていったくせに
怪訝そうな顔をするリサに一言謝ると、会計を済ませる
と、自動ドアが開いて、誰かが入ってくる
「あ、友希那!いらっしゃーい!」
友希那
開いた自動ドアの方向を見ると、最後に会ったころから何も変わっていない友希那がいた
相変わらずの無表情、何を考えてるか最初は分からなかったものだ
しっかりとしたた足取りでこちらに向かってくる友希那
「ごめん!このお客さんの会計済ませるまで待ってて!」
「その必要はないわ」
そう言うといきなり腕を掴んでくる友希那
友希那!?と驚くリサの声を無視して、フードで隠れている私の顔を覗き込んでくる
そのまっすぐな視線に耐え切れなくて、ふいと視線を逸らす
「…久しぶりね、銘」
「…人違いだ」
「首にある傷跡、私たちが見た時から変わってないわね」
「っ!」
その言葉に思わず手で首を隠す
…しまった、条件反射でつい隠してしまった
これでは、そうですと認めているようなものではないか
「銘…え、銘なの!?」
友希那の言葉に驚いて、レジの向こうから身を乗り出してくるリサ
逃げたいけど、友希那が腕を掴んできてる
振り払うことぐらいできるだろうけど、もし怪我でもされたら嫌だ
そんな私にできることは
「…そうだよ、久しぶりだね」
観念して、フードを脱ぐことだけだった
「いつからこっちに戻ってきてたの」
「つい最近、春からこっちの学校に通うから」
「一人暮らし?」
「そうだけど」
リサの家で尋問を受けている
出口は友希那が塞いでるから逃げようにも逃げられない
あの後、リサのバイトのシフトが終わるまで友希那に捕まってて、リサのバイトが終わると同時にリサの家に連行された
リサの家族がいないことは不幸中の幸いだったか
「さっきこっちの学校に通うって言ってたけど何処に通うの?」
「…別に関係ないじゃん」
自分から終わらせた関係なのに何故この二人はこんなに聞いてくるのだろうか
知ったところで関係ないはずだ
「関係あるわよ」
そう言って私の顔を覗き込んでくる友希那
そのまっすぐな視線が嫌で顔を逸らすけど
「よそ見しなーい」
そう言ってリサに正面を向かされる
「私やリサがどれだけ心配したと思ってるの?急に来なくなって公園も探したのに居なくて、やっとあなたの家がわかったかと思えば刺されて入院したなんて聞いた時のリサの混乱っぷりが想像できないあなたじゃないでしょう?」
「…それは、ごめん」
そう言うと私の顔に手を当てる友希那
父親と母親に当たる人間、そして親戚にあたる人間から受けた傷跡をなぞる様にして、ちょっとくすぐったい
「事件のことは聞いたわ…その後、どうしてたの?」
その質問には反応せずに髪をいじる
無表情で二人を見つめていれば、二人はとても悲しそうな顔をする
何でそんな顔をするのか分からないまま、顔に当てられていた手を払う
「…ごめんなさい、話すのが辛いなら別に話さなくてもいいわよ」
「別に話すのは構わないよ」
「え?」
「たださ…今更聞いてどうすんの?」
「…それは」
「同情する?それとも相手に怒りを覚える?」
「そんな…!」
リサが絶句してるけど今更どうでもいい
だってもう終わったことだもの、過去の事なんて
「…平気なら話しなさい、私たちには知る義務があるわ」
「いや義務はないでしょ」
「あるわよ…だって、貴女のことが大切だもの」
大切…?
何で私が大切なのだろうか、よくわからない
まぁいいか、考えても分からないことだし
「…ん」
周りが騒がしくなって目が覚める
まだ眠たい目を擦れば、既に授業が終わって、各々教室で駄弁ったり出て行ったりしていた
いつの間にかこんな時間になってたのかと考えると同時に、今日は蘭達は各々用事があると言っていたことを思い出す
じゃあ今日一人かと思っていると、教室の中と外が騒がしくなる
何だろと思っていると、スマホが震える
画面を見てみれば、簡単なメッセージが一つ
『帰るわよ、早く来なさい』
校門の方が騒がしいと窓から見下ろしてみれば、友希那にリサ、紗夜さんに燐子さん…
あこちゃん以外のRoseliaメンバーが校門前で立っていた
一体何をやっているのだろうか、今や有名人になっているというのに
目立つことこの上ない
と、友希那と視線が合った気がした
気のせいだろうと思っていた時、再びスマホが震える
『こっち見てる暇があったら早く来なさい』
…結構距離があるはずなんだが
あいつの視力は一体どうなっているのか
若干引いていると、再びスマホが震える
『早く来なよー、そろそろあこが行くと思うよー?』
「めいめーい!一緒に帰ろー!」
リサからそんなメッセージが送られてきたのと同時に、ドアの方であこちゃんが私を呼ぶ
根回しが完璧すぎやしないかと呆れつつ、カバンを肩にかけてあこちゃんのもとへ向かう
「早く早く!友希那さん達が待ってるよ!」
そう言いながら私の手を掴んで走るあこちゃん
相変わらず元気だなぁと思いながら、あこちゃんに引っ張られて友希那達のもとに向かう
「友希那さーん!連れてきましたー!」
「ありがとう、あこ」
…周りの視線が痛い
ただでさえ蘭達や他のバンドのメンバーとも交流があって視線が凄いのに、今や有名になって全国での知名度もすごいことになっているバンドメンバーと一緒にいたらそりゃあ目立つだろうなぁとは思うけど
「行くわよ」
そんなことを考えていると、友希那が私の手を掴んでそのまま歩き出す
以前に自分で歩けると言ったんだけど
『駄目よ』
の一言で断れた
他のメンバーに説得頼んでも、全員断ってくるからもう諦めてる
「そういえば銘、貴女また赤点ギリギリだったそうじゃない」
「…何の話かな」
「こっちを向きなさい」
掴んでいたいた手で私の顔を挟んで正面に向けてくる
…一体どこから漏れたのか、誰にも言わないように言ったはずなんだが
「あこ経由で宇田川さんから聞いたのよ」
巴…裏切りか…
そんなことを考えていると、肩に手を乗せる感触を覚える
…振り返りたくないなぁ、想像しなくても分かる
約二名が笑ってない笑顔なのがわかる…自分で言っておいてなんだが笑ってない笑顔ってなんだ
「めーい♪」
「銘さん?」
…振り向きたくない
いつの間にか友希那は私の手を放してあこちゃん達の方にいるし
誰か助けてくんないかなぁ
そんな微かな願いは、体ごと向き合わされることで砕け散る
「「勉強、しよっか(しますよ)」」
「…いや、バンドの練習しなきゃダメで『今日はオフよ』…」
「「返事は?」」
「…はぁい」
二人の圧が強くて、頷かざるを得なかった
…あの頃よりは、楽しいかな
次はAfterglow
感想残してくれると嬉しい