「銘、おいで」
布団の上に座ってそう言いながら隣をポンポンと叩くリサ
そんな声に釣られて隣に座ると、リサに抱き締められてそのまま布団に倒れ込む
布越しに感じるリサの体温が、暖かい
「良い子だね、銘」
私を抱き締めたまま、背中をポンポンと叩いて、頭を撫でてくるリサ
その感触が気持ち良くて、段々と眠くなって
「おやすみ、銘」
リサのそんな声が聞こえたのを最後に、意識が暗転した
「…不眠症ですね、それも重度の」
目の前で医者がそう言う
チュチュのマンションで皆に怒られたその日のうちに、私は病院に連れてこられた
大したことはないって言ったけど
『そんな顔して言われても説得力がない』
って言われて連れてこられたのは、病院
しかも、私があの親戚に当たる何かの家から警察に保護された後に入院していた病院だ
「そのせいで食欲減衰による体重の減少、及び集中力の低下により意識が朦朧として危うく轢かれかける、栄養不足によって本人は自覚していないが体調不良…貴女何で死んでないんですか?」
「さぁ、強いて言うなら慣れてるからですかね」
そう言うと頭を抱える医者
何かおかしなことを言っただろうか
「…本来なら睡眠薬を出すのですが、貴女の場合長年の栄養失調が祟ったせいで睡眠薬を飲んだら3日間は目覚めない可能性が高いです、なので睡眠薬は無しです」
「つまり?」
「薬では打つ手無しってことですよ」
そう言ってペンを机に投げ出すと再び頭を抱える医者
そうなると、今後私は一生あの悪夢に悩まされるということか
…ハハハ、面白いね
結局、過去はずっと追いかけてきて逃がしてはくれないんだ
「無論私も医者ですからあらゆる手は尽くします、カウンセリングだったり民間療法だったり…一つお聞きしますが、あなたを連れてきた方々は親族の方ですか?」
「いや親族じゃないけど…まぁ、親族みたいなものなのかな」
私から離れたのに、見捨てないで心配までしてくれる
少なくともこれまで関わってきた『家族』という名の何かの中では、心配なんてされたことがない
そんな私を、心配してくれるのは友希那達だけ
あちらがどう思ってるのかは、分からないけど
「成程…では連れてきた方々を呼んでください、貴女はまた呼びますので」
「はぁ」
そう言って診察室から出る
待合室で座っていたリサ達が、こっちに駆け寄ってくる
「銘、お医者さんはなんて?」
そう聞いてくるリサに、医者と話した内容を伝える
重度の不眠症だって、よく生きてますねって言われた、薬も効きすぎて使えないんだって
そう伝えていくうちに、どんどん表情が
「…そっか」
そう言ったきり黙り込むリサ
後ろにいる友希那や蘭、レイ達も何処となく空気が重い
私の問題なのに、なんでこんなに重い雰囲気になってるんだろうか
そんなふうに思っていると、私が出てきた診察室の扉が開く
「失礼、銘さんを連れてきてくださった方達ですかね?」
「あ、そうです」
「彼女に関して少しお話があるので…代表の方、どなたか来てくださって宜しいですか?」
そんな医者の話を聞いて、誰が行くか話し合うリサ達
やがてリサ、蘭にレイが診察室に入っていって
何を話し込んでいたのかは分からないけど、しばらく出てこなかった
「ただいま」
とはいっても、誰かが返事をするわけでもない
今まで一度も返事が返ってこなかったから、今更の話だ
服を脱いで、シャワーを浴びて、服を着る
その行為も、体が凄く重かった
リサ達があの医者と何を話していたのかは、結局教えてくれなかった
「はぁ…」
何か食べないといけないんだろうけど、全然食欲がわかない
身体は空腹を訴えているのは分かる、けど
取り敢えず病院で点滴打ってもらったから大丈夫なんじゃないのかな、よく分かんないけど
頭が、くらくらする
目の前が、揺れる
あぁ、眠い
『…~~~っ‼』
これは、何時の記憶か
…あぁそうだ、親戚という名の何かの家での記憶か
手錠に足枷、首輪をつけられて転がされてるところに、蹴りが飛んでくる
腹に足がめり込んで、胃液を吐き出す
何も食べてないから、精々出てきてもそれぐらいしかない
でも親戚の何かは、それが気に入らなくて頭を蹴ってくる
殺人犯の娘の癖に、家を汚してるんじゃないぞと
顔を上げれば目が血走っている何かの顔、また薬でもやったのだろうか
そんなことを考えている私の顔が気に入らなかったのか、顔を踏んづけてくる何か
鼻の骨が折れて鼻血が噴き出して床に零れ落ちる、すると何かがまた激怒して体を蹴ってくる
散々蹴られた後、髪を掴んで連れていかれるのは寝室
ベットに放り投げられたかと思えば、ズボンを降ろす何かの姿
嫌悪感溢れるそれを、私の体のナカに突き立ててくる
「…い、銘!」
誰かが私の名前を呼んでいる
なんか、冷たい
目を開ければ、床に倒れこんでいた
顔を少し横に向けてみれば、何故か蘭の姿
「…ら、ん?」
「大丈夫?」
そう言うと、安堵したように息を吐きだす蘭
一体、どれだけ倒れこんでいたのだろうか
いや、その前に蘭は何で
「立てる?」
「…ん」
蘭に引っ張られて、床から起き上がる
目の前がぐわんぐわんして、まっすぐに歩けるかどうか怪しい
そんな私の状態を察したのか、私の傍らで寄り添うように歩いてくれる
そのおかげで、何とかリビングに辿り着いた
「はい、白湯」
「ありがと…」
蘭が差し出してきた白湯を口に入れる
暖かさが、体に広がっていく
同時に、視界も若干マシになっていく
「…魘されてたけど、またあの時の事?」
「いや…転校した際に引き取った親戚の時の夢だよ」
そう言うと黙り込む蘭
多分レイから、あの時の私について詳しく聞いたんだろう
…蘭の表情見る感じ、あそこでの生活も地獄だったんだろうなって
何処が普通で、何処からが地獄なのかよく分からないけど
「というか蘭、なんでここにいるの?」
「何でって…あんたに連絡しても全く反応がないから心配だったからに決まってるでしょ、そしたらリビングに向かう途中の倒れこんでて…初め見た瞬間心臓が止まりかけたんだから」
そう言われてスマホを見れば、大量の通知が入ってきていた
凄い心配をかけてちゃったというのが、通知の量でわかる
というか時間大丈夫なのだろうか、もう夜だけど
「ご飯は…まぁ今は無理だよね」
「うん…正直食べる気力がない…」
そっか、というと立ち上がる蘭
帰るのかなと思っていると、私の手を取る
「蘭?」
「ほら、行くよ」
そう言うと私の手を引っ張って、寝室に向かう蘭
そうして寝室に入ったかと思えば、私をベットに横たわらせてくる
かと思ったら、隣に横になってきて、私を抱きしめる蘭
「…蘭?」
「いいから」
何が起きてるのかよく分からずに、名前を呼ぶ私にそう言うと頭を撫でてくる蘭
何で一緒に寝ることになっているのか、よく分からない
けど、蘭の頭を撫でる手が、優しくて
それが心地よくて、段々と眠くなってきて
何故かは分からないけど、何の根拠もないけど
今なら、家族や親戚にあたる何かが、夢に出てこないような
そんな気がして、瞼がだんだんと閉じていく
「…お休み、銘」
蘭がそう言ったのが聞こえて
それを最後に、意識が暗転していった
目が覚める
窓から光を感じて時計を見てみれば、既に朝
「めーい!」
「おはよ、リサ」
既に起きていたリサにそう言う
夢に家族と親戚にあたる何かは、あれ以来出てきていない
「おはよー、もうご飯できてるから早く来てね♪」
「ん、分かった…あ、リサ」
そう言うとリビングの方へ向かおうとするリサを呼び止める
何となく恥ずかしい、けど言わなきゃいけないことだから
「…いつも、ありがと…助かってる」
「~~~っ!!もう、可愛いんだから!」
「わぷ」
そう言って私を抱きしめると、頭を撫でてくるリサ
…でも、感謝してるのは事実
皆が一緒に寝てくれるおかげで、ちゃんと寝れてるんだから
抱きしめてきてたリサから解放されて、リビングでリサが作ってくれたご飯を食べる
…そう言えば、あの時が夢に出てきて思ってたんだけど
あの頃の皆は、どうやって私の部屋に入ってきてたのだろうか
合鍵も渡した覚えがないのに、今や皆持ってるし
特に、初めて一緒に寝てくれた時
鍵閉めてたと思ってたんだけど、開けっ放しだったのかもしれないけど
仮に閉めてたとしたら
蘭は、どうやって部屋に入ってきたのだろうか
まぁ、今更考えたところで無駄なんだけど
あ、この焼き鮭美味しい
感想宜しく
次回は日常編か『Morfonica』との邂逅になる