「チュチュ様、少しお話が…」
「Shut up!何も聞きたくないわ!」
手で耳を塞ぎながら走るチュチュと、そのチュチュをどうやってるんだと聞きたくなる移動の仕方で追い掛けるパレオちゃん
そしてそんな2人を煽るますきと、『頑張れ〜』と呑気にそう言うレイ、そして若干あわあわした様子の六花ちゃん
そして何故かあるホワイトボードには、デカデカと『チュチュ様生活改善作戦』と書かれていた
「何これ」
今しがたチュチュのマンションに着いたばかりで、状況が読み込めない
ビデオ通話でレイに案内されながら、チュチュのマンションに来たら目の前の光景が広がっていた
取り敢えず何が起きているのかわからないけど、持ってきたベースが入っているケースを置いて、ソファに座る
「レイ、これ何があったの?」
「あぁ、実はね…」
当たり前のように隣に移ってきたレイに、何でこんな状況になっているのか聞く
どうもチュチュが何時もじゃーきー?なるものしか食べていないらしく、そんな偏食?具合なるものを心配したパレオちゃんが、チュチュ以外のメンバーで『チュチュ様生活改善作戦』なるものをやっていた所、通りかかったチュチュが何をしているのかと問い質して、そんなチュチュをパレオちゃんが追いかけて、今の光景が出来上がっているらしい
「銘!私を助けなさい!」
レイからそんな話を聞いていると、いつの間にか傍まで来ていたチュチュが私の腕に自分の腕を絡ませて、体を隠そうとしてくる
「チュチュ様〜、怖くないですから〜」
そう言って両手をわきわきさせているパレオちゃん
そんなパレオちゃんに、威嚇のつもりか『シャーッ』と吠えるチュチュ
昔追い出された時にいた公園で、よく猫同士で喧嘩してた時のあれみたいだなと思いながら、宥めるつもりで頭を撫でようとしたけど振り払われる
それでも私の腕は離さない、そして何故かレイの目が若干怖い気がする
「まぁまぁ…良いじゃん、好きな物食べさせてあげたらさ」
「that's right!野菜なんて食べなくても生きていけるわ!」
「そうは言ってもですね…」
私の意見に同調するチュチュ
流石に野菜を全く食べないでも生きていけるかどうかは…よくわかんないから良いや
まぁでも、好きな物があるってのは良いことだ
私にはない
「でもチュチュ様、今のままの食事続けてたらやがて体を壊しますよ?そうなると音楽続けられなくなっちゃいますよ?」
「そ、それはそうだけど…」
パレオちゃんの言葉に詰まるチュチュ
音楽を続けられなくなる、というのが一番効いているのだろう
チュチュの音楽に対する情熱は、友希那と同じくらいだと思うし
まぁ、健康でいることが良いんじゃないんだろうか
知らないけど
「そ、そうよ!銘!貴女も嫌いな物があるでしょ!?」
「え、私?」
そんなふうに考えていると、急に話を振ってくるチュチュ
パレオちゃんに丸め込まれると自分の形勢が悪いことを察したのか、味方を増やそうと私に話を振ったのだろう
嫌いな物…
「うーん…特にないかなぁ…食べられれば何でもいいし…」
私がそう言うと、途端に絶望したような顔をするチュチュ
その表情がちょっと面白い
「で、でも!その中でも苦手な物もあるでしょう!?」
僅かでも希望を見出そうと、食い下がってくるチュチュ
そうは言われても、昔は兎に角口に入れば何でも良かった
…あぁ、でも
「そうだなぁ…泥とか砂はもう食べたくないかなぁ…」
味もしないし、何よりお腹を痛めたし
公園の砂は、よく野良猫が糞をしてて、臭かったし
でも、何かを食べなきゃどうにもならないくらいお腹が空いていた時は、よく食べていた
「ど、泥…砂…?え…?」
そんなパレオちゃんの声が聞こえて、思考を中断して顔を上げる
レイは悲しげに顔を伏せてるし、パレオちゃんと六花ちゃん、ますきにチュチュは驚いたような顔で目を見開いてこちらを見ている
あれ、私何か変な事言ったのかな
「え…?泥とか砂って…?食べてたんですか…?」
「ん?あぁまぁ、最初の親に当たる人間の所に居た時とその次の親戚に当たる人間の所に居た時にね、蘭達や友希那達、あとレイの所に行けなかった時にね…まぁ、自業自得だよ」
自嘲気味に笑いながらそう言う
「自業自得って…!」
「そうだよ、だって自分勝手だったんだから」
蘭や友希那達、レイからも離れたのだって、結局自分が大切だったから
迷惑をかけたくなかったなんて言い訳だ、結局自分が虐められたりこれ以上殴られたり蹴られたり、犯されたりされたくなかっただけ
自分の都合しか考えなかったんだから、そんな物しか食べられなかったとしてもしょうがない、全部私の自業自得だ
「…銘」
そんな風に考えていると、隣にいたレイが私の手に手を重ねてくる
視線を向けてみれば、レイがこちらをじっと見つめていた
何で、そんな悲しそうな目をしているのだろうか
周りにも視線を向けてみれば、レイと同じような視線を向けてきていた
何で、そんな悲しそうな目をしているのだろうか
私に、そんな目を向ける必要なんてないのに
レイなんかは、被害者なのに
私は、加害者なのに、何で
私は、他人を傷つける事しかできない、屑なのに
体に当たる雨が冷たい
若しくは雪だろうか、よく分からない
お腹が空いて、目の前が暗い
ただ、殴られ蹴られした傷が、体に当たる雨か雪が、痛い
体を丸めても、何も変わらない
あぁ
寒い 痛い
ダ レ カ
周りが騒がしくて、目が覚める
寝ている間に全部終わったのか、教室の中に人は疎らだ
今日も殆ど寝てたな、紗夜さんやリサ辺りにバレたら怒られるなぁと考える
でも仕方ない、席が太陽の日が当たる隅っこなのが悪い
と、そこで違和感を覚える
既に教室には数えるほどの人間しかいないが、その殆どが外を見ている
なんだろうと思って視線を向ければ、校門前にかなりの人集りが出来ていた
何だろうと思っていたけど、ふと心当たりが浮かぶ
視界の半分を占めている前髪をわずかに掻き上げて、校門前に目を凝らす
それで見えたのは、羽丘でも花咲川の制服でもない、紺色のセーラ服と、おどおどしているような動きをしている水色の頭が見える
「…まさか一人で?」
嘘だろと思いながら、急いで鞄を肩にかけて教室を飛び出す
同級生は、そんな私の様子を見て驚いてたけど、気にしてる場合じゃない
転びそうになりながらも急いで靴に履き替えると、校門前でたむろしている生徒を搔き分けて、待っている人物のもとへ向かう
「う、うう…あ!銘さん!」
周りからの視線や声をかけられることに、主に緊張で縮こまっていたけど、私を見つけた瞬間に顔を輝かせる子犬…じゃなかった、倉田ましろちゃん
この子もバンドをやっていて、『Morfonica』というバンドでボーカルをやっている
初めて会った時は、こんな風貌だからめちゃくちゃ怖がられて、会ったら一言二言話す程度だった
今じゃ、私を見つけた瞬間に駆け寄ってくるようになったけど
「ごめん、待たせたね」
「い、いえいえ!ついさっき来たばかりですから!」
気にしないでください、というましろちゃん
そんなましろちゃんが可愛くて、頭に手を置いて撫でる
最初は驚いていたけど、撫でられるのが嬉しいのか、目を細めて頭を摺り寄せてくる
何故かは分からないけど、ましろちゃんに耳と尻尾が見える
そんな風に考えていると、周りからの視線に気づく
面倒ごとになりそうな気がして、撫でていた手をましろちゃんの頭から離す
「そろそろ行こうか、今日も練習?」
「はい…あ、でも瑠偉さんは今日少し遅れるって言ってました」
「あぁ、確か生徒会長になったんだっけ」
「はい、いろいろと忙しいみたいで…大変そうでした」
そう言うましろちゃんは、撫でたことをやめたのが若干寂しかったのか、少し暗い顔をしている
頭の上で見えない筈の耳がペタリと畳まれているのが見える
「…後でいっぱい撫でてあげるから、取り敢えず練習頑張ってね」
「!はい!じゃあ行きましょうか!」
私がそう言った瞬間に顔をぱあっと輝かせて、私の手を取るましろちゃん
見えない筈の耳と尻尾が、凄い速さで揺れているのが見える
…可愛いなぁ
あんな家庭環境で過ごして来たら考え方も歪むよね
因みに銘は、まともな家庭環境で過ごせていたら、音楽で食べていけたよ
その才能はあったからね
潰れちゃったけど
次回は多分『MyGO!!!!!』になる
メンバーの一人とは、今銘がいる親戚の親戚にする予定だよ
感想宜しく