~某鎮守府執務室~
「こんな目の腐った提督と何日もふたりっきりにさせるなんて、皆さんをそんな危険に曝す訳には参りません!」
涙ながらに訴える翔鶴姉。
「提督には失望したよ。この僕にここまで酷い任務を押し付けるとはね。まあいいさ、引き受けるよ」
決意と共に小さく拳を握る時雨。
「いや、これほどの苦行、ビッグセブンたる私が犠牲となろう。たとえそれで斃れようとも、駆逐艦のためなら悔いはない」
悲壮感溢れる長門。
「ダメ!私がやるっぽい!みんなに辛い思いはさせないっぽい!」
悲痛なまでの覚悟で瞳を紅く染めるソロモンの悪夢。
「夜はいいねぇ、不愉快な提督の護衛任務で逝くのも、また・・・」
すでに捨て身の夜戦バカ。手にしているのは・・・さ、酸素魚雷!?誰だよ、装備品の持ち出し許可出したの?
皆が嫌がる危険な任務に次々と志願する艦娘たち。自己犠牲を厭わず、仲間を思いやるその心。やはり彼女たちは兵器なんかじゃない。人間だ。俺は改めて深い感動に打ち震える。それにしても、ここまで艦娘を苦しめる提督って、とんでもないヤツだな。顔を見てみたいもんだぜ。あ、それって俺?
いま彼女たちは、休暇で里帰りする俺の護衛を誰にするか、延々と話し合っている。もともと好かれていないことは分かっていたが、ここまであからさまにディスられると、さすがに凹む。誰もが言葉を選んではいるが、要するに提督と一緒はイヤなのね。まぁ、確かに三日間もふたりっきりってのは、かなり難易度高いわな。
とにかく、このままじゃ収拾がつかない。いい加減うんざりして口を挟もうとした時、ツインテの空母娘が小さく呟いた。
「そんなこと言って、ホントはみんな提督とふたりっきりでお泊まりしたいだけなんじゃない?」ボソッ
瞬間、執務室は水を打ったように静まり返った。え?なんで?
「な、何てことを言うの、瑞鶴!私は抜け駆けなんて全然考えていないわ!」
「ぼ、僕も自分だけいい思いをしようだなんて、これっぽっちも考えていないさ!」
「ビッグセブンの下心、侮るなよ!」
「提督と素敵な夜のパーティーしたいっぽい!」
あまりに的外れな瑞鶴の指摘に、不快感を露にする面々。特に長門と夕立は、もはや敵意を隠そうともしない。もし、ふたりのどちらかを護衛に選んだら、間違いなく俺は実家へ辿り着く前に爆散させられるだろう。リア充でもないのにそんな最期はヤダ!そもそも、そんなに護衛任務が嫌なら「行きたくない」の一言で済むだろうに・・・
ああ、もうめんどくせぇ・・・
「護衛は大淀で決まりだ。以上」
「なっ・・・?!」(艦娘一同)
提督権限で決裁すると、席を立つ。明日は朝が早いのだ。これ以上付き合ってられん。
見ると、ご指名を受けた当の大淀は硬直し、白い顔が驚愕と憤怒で赤く染まっている。やっぱりそんなに嫌だったのね、知ってたけど。(泣)
「わ、私が・・・?て、提督とふたりっきり・・・えへ、えへへへ」
ショックのあまり、機能不全を起こして悶絶する大淀。すまん。壊れちゃったよ、あの子。連合艦隊旗艦だった過去を持つ彼女は、どこの鎮守府でも必ず筆頭秘書艦を務めている。だからこそ、一番しっかりしてそうだと思って選んだのだが、あそこまで嫌がられるとさすがに罪悪感を覚えるわ。
「ひ、比企谷提督は眼鏡っ娘属性なのです!!」
「何だと?!」(大淀を除く艦娘一同)
電の言葉に、今度は眼鏡組の霧島や鳥海、巻雲あたりの様子が目に見えておかしくなる。制服を直したり手櫛で髪を整えたり。あ、次は我が身かと、危険を感じているんですね、分かります・・・って違うからね?俺にそんな属性ないから!
「眼鏡、眼鏡はどこだ?!」(長門)
「か、加賀さん?その眼鏡はどこから?!」(赤城)
「これは譲れません!」(加賀)
「ど、どういうことでしょう?め、眼鏡をかけたくなってきてしまいました・・・」(神通)
またもや大騒ぎになる艦娘たちの様子にため息をつきながら、俺は過去を振り返っていた。そう、この鎮守府に着任してから今日までの出来事を。
【次回予告】失意に沈む八幡の前に現れたのは、あの艦娘だった。悪意とリア充とを青春ラブコメに混ぜてぶちまけた、ここは千葉県立総武高校。そして今日も、八幡が食べるカレーパンは、辛い・・・
第2話:加賀さんはいい匂い