~ショートランド前進鎮守府 入渠ドック~
「ひ、ひどいのです・・・」
「ぽい・・・」
「にゃしい・・・」
「二水戦の誇り、華と散りました・・・」
湯気と自主規制の光に満ちたお風呂場には、沈んだ空気が漂っていた。あんな目に遭ったら、誰だってショックを受けるに決まっている。みんなすっかり、自信も元気もなくしてしまっていた。
あの実弾演習が終わり、損傷艦たちは入渠を命じられた。集中砲火を浴びて大破した神通さんたちは、敵役だった金剛型四姉妹に曳航されて帰還。演習中に「朝潮改」へ至った私は無事だったけれど、改装直後の身体を安定させるため、同じく無傷の曙さんと一緒に入渠扱いとなった。
で、今はみんな揃ってのお風呂タイム。当然、その・・・は、裸です。最初私は、水着で入ろうとしたのに、天龍さんが・・・(中略)それにしても、同じ艦娘なのにどうしてあんなに
(以下伏せ字)
「あ~夜だったら返り討ちにしてやったんだけどなぁ」
「フッ・・・世界水準が俺に追い付けなかっただけだぜ」
あ、このおふたりは、どこまでもポジティブだ。
「ねぇ、あたしは曙。あんたなかなかやるわね。名前は?」
色々と恥ずかしいので首までお湯に浸かっていたら、やっと落ち着いたのか、駆逐艦のみんなが話し掛けてきた。
「え?えっと・・・鶴見・・・」
「ツルミって?新規実装艦っぽい?」
「IF艦・・・なのです?」
どうも話が噛み合わない。せっかく始まろうとしていた言葉のやり取りが、途切れる。あれ?私また何か失敗しちゃったのかな・・・
「はぁ?ち、ちょっと!あんた馬鹿じゃないの?本名じゃなくて艦名よ!」
「あ!朝潮です・・・」
慌てて訂正する。今の私は朝潮型駆逐艦の1番艦だ。ずっとひとりぼっちだったから、こんな友達同士みたいな会話のやり方は、すっかり忘れていた。
「しっかりしなさいよ!さっきの切れ味はどこに行っちゃったわけ?」
「す、すみませ・・・きゃあ!!」
と思ったら、最後まで言うことが出来なかった。川内さんが抱き付いて来たからだ。
「なになに?今から夜戦しよっ!」
ぐいぐい迫って来る川内さんに悪気はなかったんだと思う。きっと。だけど、お互い裸でぴったり抱き合ったら、その・・・ああ、刻が見える・・・ブクブク
「にゃしい?!朝潮ちゃん失神してるよ!」
「しっかりするっぽい!」
「生娘はいいねぇ、生娘とイクのも、また・・・」
「キムスメって何だにゃし?」
「姉さん!!」
無傷だったはずなのに、今になって大破してしまう私だった。
「ちょっといいかしら」
長い入渠を終え、部屋に戻ろうとしていた私は、思わぬ相手に呼び止められた。振り返ると、そこにいたのは加賀先輩。防衛省のPV動画にも出ていた超有名艦娘だ。ヘアスタイル以外は、いつもはちまんの側にいた「あの人」によく似ている。
「はい!何でしょうか」
まだ慣れない敬礼をしながら、直立不動の姿勢で答える。すると、
「貴女はその・・・以前から提督と知り合いなの?」
「え?!」
予想外の言葉。
艦娘養成学校では、いくつも禁則事項を教え込まれた。そのひとつが「互いの身の上を詮索しない」というものだった。当然、今の私は「鶴見留美」ではなく「朝潮」としてここにいる。加賀さんともあろう艦娘が、そんなルールを知らないはずが・・・
「き、禁則事項です!ご存知ないのですか?!」
言ってから、しまった!と思ったけれど、もう遅い。はちまんとの関係を聞かれて、つい口調が強くなっちゃったけど、大先輩相手にただじゃ済まないよね、これ・・・女の子同士でも鉄拳制裁ってあるのかな?痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいけど、駆逐艦は装甲より足の速さだからなぁ・・・
ところが。
「そう・・・そうよね、私が間違っていたわ、ごめんなさい」
あっさり引っ込む加賀さん。僅かに上気した頬と、微かに潤んだ瞳、そして「提督」と言った時の切なげな色。
ああ、そういうことか・・・
彼女の表情の裏にあるものを感じ取り、私は即座に全てを理解した。ずっと他人からの悪意に晒されてきたから、観察眼には自信がある。電探も熟練見張員も必要ない。目標、恋する乙女。照準よし!撃ち方はじ・・・って撃っちゃダメだよね・・・
でも、負けられない!この鎮守府にいる艦娘の中で、はちまんとの付き合いがいちばん長いのは、私だ。T字有利。絶対S勝利しなくちゃ。
「・・・?」
ふと、加賀さんがこちらを見た。
「し、失礼しました・・・!って、うわっ?!」
回れ右をして立ち去ろうとしたら、勢い余ってその場で1回転。ここの床、滑りが良すぎるよ。何やってるんだろう、私・・・
恥ずかしさのあまり、顔を伏せる。
「ふっ・・・」
小さく吹き出してから、思い出したように口を開く加賀さん。
「忘れていたわ。第一次改装おめでとう、朝潮さん。それから」
一度言葉を切って、続ける。
「
「・・・!」
驚いた私が顔を上げた時には、加賀さんはもう背中を向けていた。せっかくまた、はちまんと逢えたのに、私の心には憂鬱な気持ちが広がってゆくばかりだ・・・
ため息を飲み込んで、歩き出す。そんな私が、廊下の端で亜麻色の髪を揺らす人影に気付くはずもなかった。
「なるほどぉ・・・やはりここでも色々とまちがっているみたいですね、せ・ん・ぱ・い」
次回予告:きのうの昼、加賀さんを抱いて着任した。きょうの朝、共食いの果てに黒歴史を更新した。そしてあしたの夜、あの子が鎮守府にやって来る・・・あさって、そんな先のことは分からない。
第11話:新艦娘着任!