やはり俺の艦隊ラブコメはまちがっている。   作:いろはす@

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第10話:提督は誰のもの?

~ショートランド前進鎮守府 入渠ドック~

 

 

「ひ、ひどいのです・・・」

 

 

「ぽい・・・」

 

 

「にゃしい・・・」

 

 

「二水戦の誇り、華と散りました・・・」

 

 

湯気と自主規制の光に満ちたお風呂場には、沈んだ空気が漂っていた。あんな目に遭ったら、誰だってショックを受けるに決まっている。みんなすっかり、自信も元気もなくしてしまっていた。

 

 

あの実弾演習が終わり、損傷艦たちは入渠を命じられた。集中砲火を浴びて大破した神通さんたちは、敵役だった金剛型四姉妹に曳航されて帰還。演習中に「朝潮改」へ至った私は無事だったけれど、改装直後の身体を安定させるため、同じく無傷の曙さんと一緒に入渠扱いとなった。

 

 

で、今はみんな揃ってのお風呂タイム。当然、その・・・は、裸です。最初私は、水着で入ろうとしたのに、天龍さんが・・・(中略)それにしても、同じ艦娘なのにどうしてあんなに()()んだろう・・・

 

 

 

 

(以下伏せ字)

 

 

 

 

「あ~夜だったら返り討ちにしてやったんだけどなぁ」

 

 

「フッ・・・世界水準が俺に追い付けなかっただけだぜ」

 

 

あ、このおふたりは、どこまでもポジティブだ。

 

 

「ねぇ、あたしは曙。あんたなかなかやるわね。名前は?」

 

 

色々と恥ずかしいので首までお湯に浸かっていたら、やっと落ち着いたのか、駆逐艦のみんなが話し掛けてきた。

 

 

「え?えっと・・・鶴見・・・」

 

 

「ツルミって?新規実装艦っぽい?」

 

 

「IF艦・・・なのです?」

 

 

どうも話が噛み合わない。せっかく始まろうとしていた言葉のやり取りが、途切れる。あれ?私また何か失敗しちゃったのかな・・・

 

 

「はぁ?ち、ちょっと!あんた馬鹿じゃないの?本名じゃなくて艦名よ!」

 

 

「あ!朝潮です・・・」

 

 

慌てて訂正する。今の私は朝潮型駆逐艦の1番艦だ。ずっとひとりぼっちだったから、こんな友達同士みたいな会話のやり方は、すっかり忘れていた。

 

 

「しっかりしなさいよ!さっきの切れ味はどこに行っちゃったわけ?」

 

 

「す、すみませ・・・きゃあ!!」

 

 

と思ったら、最後まで言うことが出来なかった。川内さんが抱き付いて来たからだ。

 

 

「なになに?今から夜戦しよっ!」

 

 

ぐいぐい迫って来る川内さんに悪気はなかったんだと思う。きっと。だけど、お互い裸でぴったり抱き合ったら、その・・・ああ、刻が見える・・・ブクブク

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃしい?!朝潮ちゃん失神してるよ!」

 

 

「しっかりするっぽい!」

 

 

「生娘はいいねぇ、生娘とイクのも、また・・・」

 

 

「キムスメって何だにゃし?」

 

 

「姉さん!!」

 

 

無傷だったはずなのに、今になって大破してしまう私だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっといいかしら」

 

 

長い入渠を終え、部屋に戻ろうとしていた私は、思わぬ相手に呼び止められた。振り返ると、そこにいたのは加賀先輩。防衛省のPV動画にも出ていた超有名艦娘だ。ヘアスタイル以外は、いつもはちまんの側にいた「あの人」によく似ている。

 

 

「はい!何でしょうか」

 

 

まだ慣れない敬礼をしながら、直立不動の姿勢で答える。すると、

 

 

「貴女はその・・・以前から提督と知り合いなの?」

 

 

「え?!」

 

 

予想外の言葉。

 

 

艦娘養成学校では、いくつも禁則事項を教え込まれた。そのひとつが「互いの身の上を詮索しない」というものだった。当然、今の私は「鶴見留美」ではなく「朝潮」としてここにいる。加賀さんともあろう艦娘が、そんなルールを知らないはずが・・・

 

 

「き、禁則事項です!ご存知ないのですか?!」

 

 

言ってから、しまった!と思ったけれど、もう遅い。はちまんとの関係を聞かれて、つい口調が強くなっちゃったけど、大先輩相手にただじゃ済まないよね、これ・・・女の子同士でも鉄拳制裁ってあるのかな?痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいけど、駆逐艦は装甲より足の速さだからなぁ・・・

 

 

ところが。

 

 

「そう・・・そうよね、私が間違っていたわ、ごめんなさい」

 

 

あっさり引っ込む加賀さん。僅かに上気した頬と、微かに潤んだ瞳、そして「提督」と言った時の切なげな色。

 

 

ああ、そういうことか・・・

 

 

彼女の表情の裏にあるものを感じ取り、私は即座に全てを理解した。ずっと他人からの悪意に晒されてきたから、観察眼には自信がある。電探も熟練見張員も必要ない。目標、恋する乙女。照準よし!撃ち方はじ・・・って撃っちゃダメだよね・・・

 

 

でも、負けられない!この鎮守府にいる艦娘の中で、はちまんとの付き合いがいちばん長いのは、私だ。T字有利。絶対S勝利しなくちゃ。

 

 

「・・・?」

 

 

ふと、加賀さんがこちらを見た。可愛い後輩(恋のライバル)への眼差しにしては、少しきつすぎる視線。辺りの空気が張り詰める。向こうもきっと分かっているに違いない。はちまんに寄せる私の気持ちを。ひとまずここは転進・・・じゃなくて撤退あるのみ。

 

 

「し、失礼しました・・・!って、うわっ?!」

 

 

回れ右をして立ち去ろうとしたら、勢い余ってその場で1回転。ここの床、滑りが良すぎるよ。何やってるんだろう、私・・・

 

 

恥ずかしさのあまり、顔を伏せる。

 

 

「ふっ・・・」

 

 

小さく吹き出してから、思い出したように口を開く加賀さん。

 

 

「忘れていたわ。第一次改装おめでとう、朝潮さん。それから」

 

 

一度言葉を切って、続ける。

 

 

ここ(提督)は譲れないわ」

 

 

「・・・!」

 

 

驚いた私が顔を上げた時には、加賀さんはもう背中を向けていた。せっかくまた、はちまんと逢えたのに、私の心には憂鬱な気持ちが広がってゆくばかりだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

ため息を飲み込んで、歩き出す。そんな私が、廊下の端で亜麻色の髪を揺らす人影に気付くはずもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどぉ・・・やはりここでも色々とまちがっているみたいですね、せ・ん・ぱ・い」




次回予告:きのうの昼、加賀さんを抱いて着任した。きょうの朝、共食いの果てに黒歴史を更新した。そしてあしたの夜、あの子が鎮守府にやって来る・・・あさって、そんな先のことは分からない。

第11話:新艦娘着任!
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