「無茶振りなのです・・・」
「いきなり鉄底海峡って、無理ゲーっぽい・・・」
「格好いい・・・じゃなくて、まともなヤツかと思ってたのに、やっぱりクソ提督だったわ!」
その日の午後、私たち臨時第3水雷戦隊はソロモン海を進んでいた。このまま何事もなければ、今夜遅くには鉄底海峡へ突入できるだろう。
もしこの遠征が失敗したら、ショートランドの艦娘は全員動けなくなってしまう。実戦経験もない寄せ集めの私たちに、基地の命運がかかっていた。それにしても、着任後初めての遠征先が、私でも知ってるあの海峡だなんて・・・いくらなんでも、めちゃくちゃだ。
実弾演習、加賀さんの言葉、そして一色さん・・・せっかくはちまんの側にいるのに、彼との距離はどんどん広がっていくばかり。着任式でも、なんであんな質問しちゃったんだろう・・・
日が傾き始めた海を進みながら、私は最近の出来事を思い返していた。
「予定より遅れています!先を急ぎましょう!」
「は、はい・・・うわぁ!」
神通さんの指示で速力を上げようとした瞬間・・・脚部艤装から火花が散り、派手にひっくり返る。
「朝潮ちゃん!!」
こちらに手を伸ばす睦月さんの姿が、波の向こうに霞んで消えていった・・・
(完)
・・・んな訳ないでしょ!
そして私たちはいま、応急修理のため遠征ルート半ばにあるコロンバンガラ島にいる。さっきの騒ぎの原因は・・・
「
ただでさえ予定より遅れ気味なのに、よりによってこんな時に・・・とにかく艤装のことは、妖精さんにお願いするしかない。
「皆さん、突貫工事でお願いします」
私は深々と頭を下げる。
「よーし!野郎ども、かかれ!もたもたしてるとケツに51㌢徹甲弾をぶちこむぞ!」(妖精隊長さん)
「喜んで!!」(残りの妖精さん一同)
砂浜に上がって艤装を解き、装備妖精さんたちがスクリューユニットに群がるのを見ていたら、神通さんがやって来た。他のみんなは、ドラム缶を片付けている。その
「朝潮さん、どうですか?」
「はい、もう少しで終わりそうです。済みません、私のせいで・・・」
「いいえ、気にしないで下さい。私たちは仲間なんですから。それよりも・・・」
そう言って、夕暮れ間近の海を眺める神通さん。
「こうしていると、思い出します・・・」
彼女はかつてこの海域で戦い、沈んだ。その記憶は、艦娘となったいまでも脳裡に焼き付いているそうだ。私も、この先に待ち構える
「
夕闇迫る砂浜に響く、妖精隊長さんの誇らしげな声。私がお礼を言おうとしたその時、対空警戒を続けていた電さんが叫んだ。
「16時の方向、敵機なのです!」
「そ、総員退避!!」
みんな慌てて椰子の木陰に身を隠す。私も咄嗟に逃げ惑う妖精さんたちをスカートのポケットにねじ込み、艤装を抱えて茂みに飛び込んだ。
「むぎゅ!」「ひでぶ!」「はろは!」「たわば!」
ポケットの中から何か聞こえたけれど、今は構っている暇はない。間一髪、息を潜める私たちの頭上を、大きな影が横切って行った。
「
神通さんが呟く。あんなに大きな飛行機が・・・改めて、ここが戦場なんだと思い知らされる。
「あの方角・・・どうやら深海棲地へ帰る途中だったようですね・・・」
「でも、朝潮ちゃんのおかげで助かったね」
「え?私の・・・?」
睦月さんの言葉に戸惑っていると、
「もし予定通りに進んでいたら、間違いなく見つかってたわよ」
曙さんが言う。
「ええ、この島に立ち寄ったのが幸いしました」
神通さんも微笑みを浮かべた。そっか、私の失敗で寄り道したのが・・・
「やっぱりあんたやるじゃない!運も実力のうちって言うし!」
思わぬ形で敵の哨戒網を潜り抜けた私たちは、再び進撃を開始する。鉄底海峡へと続く海は暗く、不気味に静まり返っていた。
「彼女たちのことが、ご心配ですか」
沈み行く夕陽を眺めていたら、隣に立つ加賀さんが口を開いた。朝潮たちを送り出した後、俺はずっと執務室に詰めている。無線封鎖してるから、彼女らの状況は全く分からない。もし連絡が入るとすれば、作戦成功の知らせか、玉砕電か・・・
今頃になって俺は、こんな馬鹿げた遠征任務に許可を出したことを後悔し始めていた。これでもし、あいつらのうち誰かが帰って来なかったら・・・いや、あんな練度では全滅する可能性だって充分あり得る。
「提督、時には轟沈を受け入れるご覚悟も必要です」
「なっ!?まだそんなことを・・・!」
俺のひとり言に反応した加賀さんの言葉に、思わず語気が強くなる。
「絶対に沈まないなんてことは、あり得ません。これは戦争なのですから」
いつもの調子で淡々と話す、一航戦の青い方。
「じゃあ・・・俺って何なんだよ。艦娘の帰りをただ待っているしか出来ない俺は・・・」
思わず、情けない本音が零れる。
「信じて下さい、私たちを」
気付くと加賀さんが俺の手を握っていた。微かな甘い香りが全身を包み込んでゆく。
「艦娘は入渠ドックと補給物資があれば戦えます。兵器としては。でも・・・」
彼女の瞳が真剣な光を宿す。
「心の拠りどころ、つまり
真っ直ぐな瞳が俺を捉えて離さない。
「私たちは
「・・・!」
「必ず無事に任務を果たして帰ってきます。私を人間だと言って下さる貴方の元に・・・」
「か、加賀しゃん・・・」
潤んだ瞳に、間抜けな提督が映っている。
・・・いや、これは勘違いだ。この気持ちは本物なんかじゃない。やはり俺の艦隊ラブコメはまちがっている。そして、見つめ合うふたりの距離は自然と近付いてゆき・・・
「お茶いかがすかー?」ガンッ!
無粋な棒読みの台詞と共に、一色が湯飲みを執務机に置く。そんなに叩きつけたらお湯呑み砕けちゃう!てか、ち、ちょっと一色さん?!
「休憩入りまーす(怒)」
振り返った先で執務室から出て行く後ろ姿。小柄な背中から姫級深海オーラが溢れていた・・・((( ;゚Д゚)))ゴウチン
誰もお茶なんて頼んでいなかったのだけれど?(加賀さん)
中身は熱湯なんで気をつけて下さいねー。(いろはす)
次回予告:ソロモン戦線が風雲急を告げる頃、はるか遠く千葉県立総武高校でも、物語が動き始めようとしていた・・・
第15話:生徒会長さんの抜錨