~千葉県立総武高校 生徒会室~
「お疲れ様でした、会長」
「ええ、お疲れ様。気をつけて」
完璧な笑顔で生徒会役員たちを送り出してから、深々とため息をつく。そんな私の気持ちを表すように、窓の外では冷たい雨が降り続いていた。曇った窓ガラスを指でなぞりながら、心はまたあの日へと遡ってゆく・・・
あの修学旅行の夜、私と由比ヶ浜さんは彼の行動を激しく責めた。戸部君と海老名さんの気持ちを踏みにじるようなやり方を。依頼を達成するためには、自分自身を傷付けても構わないという考え方を。
そして、私たち奉仕部の人間関係は崩壊した。
でも、本当にそうだったのだろうか。いや、あの夜いちばん心が痛んだのは、彼の偽りの告白を耳にした
そう、はじめから全部分かっていたのに・・・
ちっぽけなプライドが邪魔をして意地を張っているうちに、彼は提督となり手の届かない場所へ行ってしまった。この私に何の断りもなく。
いち早く行動したのは、一色さんだった。生徒会長の座を私に押し付けると、艦娘適性試験に出願してあっさり学校を去っていったのだ。もちろん、だからと言って彼女が
私はどうしたいのだろう、どうすればいいのだろう。今のこの気持ちこそが、彼の欲しがっていた「本物」だとしたら・・・
「全部、貴方のせいよ・・・」
「誰のせいだって~?」
「ひゃっ?!ね、姉さん!!」
思わず飛び上がる。い、いつの間に・・・
「の、ノックひとつも出来ないのかしら?!さすが平塚先生の教え子ね・・・!」
「雪乃ちゃん、やっぱり寂しいんでしょ?無理しない無理しない」
私の攻撃をさらりと躱し、笑顔の仮面を付けて土足で踏み込んでくる。以前はこの表情が怖くて仕方なかった。けれど今ではむしろ、憐れみを通り越して滑稽にすら感じる。そう気付かせてくれたのは、今頃どこかで艦娘といちゃついているだろう新米提督だ。
「姉さんには関係ないわ」
そう言い捨てて、私は生徒会室を出ようとした。もう、姉の背中を追いかけていた頃の私じゃない。
「ふーん・・・じゃあ私が艦娘に志願しちゃおうっかな♪」
「・・・!!」
この人ならやりかねない・・・思わず振り返ってから、彼女の策に乗せられたことに気付く。
「もう、素直じゃないんだから!そんなんじゃ私が貰っちゃうよ?」
小馬鹿にしたような口調で、勝ち誇った笑顔を見せる姉さん。
「何のことか良く分からないのだけれど、姉さんの好きにすればいいわ」
今度こそ、私はその場を後にする。彼への想いまで弄ばれたような気がして、家に着くまで顔の火照りは収まらなかった。でも・・・
「首を洗って待っていなさい。私はもう、まちがえたりしないから・・・」
脳裏に浮かぶアホ毛を立てた後ろ姿に、改めて私は誓うのだった。
そしてひとり、生徒会室に佇む陽乃。その表情はさっきまでとは打って変わり、深い憂いを帯びていた。曇った窓ガラスに残された文字を見て、小さくため息をつく。
「これは、思った以上に重症みたいね・・・」
そこに書かれていたのは、ただひと言。
は ち ま ん
今回、出番がなかったのだけれど?(加賀さん)
気のせいじゃないですか?(いろはす)
次回予告:唸る艦砲、飛び交う砲弾、弾ける艦娘。ここは地獄の三丁目・・・
第16話:アイアンボトムサウンド