やはり俺の艦隊ラブコメはまちがっている。   作:いろはす@

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第16話:アイアンボトムサウンド

鉄底海峡(アイアンボトムサウンド)

 

 

そこはかつて、多くの艦娘たちが激戦の果てに沈んでいった因縁の場所。そして、その海を越えた先、ガダルカナル島ヘンダーソン飛行場に居座る「リコリス飛行場姫」の撃破こそが、今夜の私たちに与えられた任務だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『最近、任務の内容がちょっとおかしいのだが』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「発、臨時第3水雷戦隊旗艦。宛、ショートランド前進鎮守府司令部。我が隊はこれより鉄底海峡へ突入し、敵飛行場姫を撃滅せんとす」

 

 

先頭を行く神通さんが暗号電を打ち始めた。この通信が終われば、いよいよ戦いが始まる。僅かな星明かりだけが頼りの海に、私たちが波を切って進む音だけが響く。

 

 

初めての実戦。不充分な練度に貧弱な装備、しかも相手はこの海域最強の深海棲艦だ。恐怖感に押し潰されそうな(留美)の傍らには、冷静に夜戦へと向かうもうひとりの自分(駆逐艦朝潮)がいた・・・

 

 

「全艦、単縦陣に移行。艦隊速力28ノット」

 

 

「ドラム缶の()()に注意!」

 

 

「22時の方向にサボ島を確認」

 

 

その報告に、思わず全身が強張る。あの戦いから、幾星霜。今夜、私たちは遂にこの海を越えようとしている・・・

 

 

さっき電さんから貰ったブルーベリーサプリのお蔭なのか、視界はとてもクリアだ。このまま会敵せずに行けたなら、あるいは・・・

 

 

だけど、そんな淡い期待は最悪の現実によって打ち砕かれた。

 

 

「戦艦ル級発見!周囲に直衛の水雷戦隊を伴う!」

 

 

「重巡ネ級1、軽巡ホ級2、駆逐ロ級後期型3を認む!」

 

 

「さらに重巡リ級4及び駆逐ハ級2!複縦陣で増速しつつあり!」

 

 

この作戦のために一時出向してもらった熟練見張妖精さんたちが、次々と正確な報告を上げてくる。さすがだ。ってそれよりバックで「シズメシズメ」の旋律を流すのはやめて欲しい・・・

 

 

と、敵艦隊の中で何かが明滅し始めた。発光信号だ。

 

 

「・・・?!」

 

 

みんなに緊張が走る。このまま砲雷撃戦になったら、私たちは一瞬で全滅させられてしまうだろう。胸の奥から湧き上がる、()()()()・・・

 

 

「仕方ありません・・・ドラム缶投棄!貴女たちは逃げなさい!」

 

 

非情な決断と共に探照灯へ手を伸ばし、身構える神通さん。自分が囮になるつもりに違いない。

 

 

「待って下さい!!」

 

 

私は小さく叫んだ。胸に燻る微かな違和感。この直感は大事だと、私はあの実弾演習で学んでいた。目の前の敵艦隊はまだ、戦闘態勢に入ってはいない・・・

 

 

「敵の様子が・・・その・・・変です!」

 

 

「状況報告は正確に!」

 

 

「て、敵艦隊は後退しつつありと判断します!」

 

 

発光信号を交わしながら、ゆっくりと遠ざかって行く敵艦の影。こちらの姿にも気付いているはずなのに、なぜか全く攻撃してくる気配はない。

 

 

「なっ・・・?!?まさか・・・この暗さで私たちを味方と誤認しているのかも知れませんね・・・」

 

 

僅かに考え込む素振りを見せてから、神通さんは顔を上げた。

 

 

「彼女たちに付いて行ってみましょう」

 

 

「ち、ちょっと正気?!そんなの無理よ!」

 

 

「無理は百も承知。当たって砕けろです」

 

 

反対する曙さんを諭し、柔らかく微笑む神通さん。どうやら彼女は、いざという時には大胆になれるタイプらしい。砕けるのは嫌だけど。

 

 

「両舷前進、敵艦隊と速力を合わせて・・・」

 

 

こうなれば半ば自棄(やけ)だ。どうせまともに撃ち合っても勝ち目はないのならと、敵に紛れて進むことに。あれ?結局これって当たって砕けちゃうんじゃ・・・

 

 

私たちは何食わぬ顔でこっそりと敵艦隊の後衛に加わり、海峡の奥へと進んで行った。新人だからこその無鉄砲な戦術、なのかも知れない。夜の海に漂う見えない緊迫感。今ここで正体がバレたら、もう二度とはちまんには逢えないだろう・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがてヘンダーソン飛行場を臨むポイントリコリスに到達すると、私たちは静かに面舵を切って艦列から離脱した。間抜けな敵艦隊は、そのまま夜の闇に消えて行く・・・その後ろ姿を見送ってから、みんな揃って安堵のため息を漏らした。

 

 

「き、緊張したのです・・・」

 

 

「スリル満点だったっぽい・・・」

 

 

「ガチの肝試しだにゃしぃ・・・」

 

 

でも、ホッとするのはまだ早い。むしろ本番はこれからだ。今夜の相手は飛行場姫なのだから。

 

 

「朝潮さん、前路警戒をお願いします。くれぐれも気をつけて」

 

 

「はい!」

 

 

いちばん練度が高い私が先行して、敵の様子を探る。他のみんなは、今夜の切り札となるドラム缶を下ろしていた。陸上型深海棲艦と呼ばれる飛行場姫をやっつけるには、WG42や三式弾、陸戦隊などの対地装備が必要だ。でも、練度の低い私たちにそんな装備を載せる能力は無い。そこではちまんが考え出したのが、このドラム缶戦法だった。

 

 

「往きはどうせ空っぽなら、()()入れてけばいいだろ?」

 

 

彼のひと言で、蓋を外したドラム缶が用意された。あとは「ドラム缶を満載」という遠征条件を逆手に取り、その中に陸戦隊妖精さんたちを乗せてきたというわけ。彼らがミニチュアサイズだからこそ可能になった作戦だ。狭苦しい場所へ詰め込まれることになる妖精さんたちへは、報酬の金平糖を倍量支給することで話がついているとか・・・

 

 

いかにもはちまんらしい、ちょっと捻くれたアイデアだったけれど、これで陸戦隊妖精さんを上陸させることが出来れば、私たちの勝ちだ。

 

 

陸地に近付いたところで、暗視装置付きの双眼鏡を取り出した。震えそうになる手でヘンダーソン飛行場にピントを合わせる。もう、いつ敵弾が飛んできてもおかしくない。ところが・・・

 

 

「あ、あれ?」

 

 

双眼鏡が捉えたヘンダーソン飛行場に敵影はなく、そこにはただ「祝!11周年!」と書かれた大漁旗が静かに揺れているだけだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでいいでしょう」

 

 

謎の大漁旗の横に「ルンガ飛行場」と書かれた任務達成旗を立てる神通さん。全員で敬礼をして、私たちの遠征は終わった。結果としてみんな無傷だし、飛行場も制圧。こうして「東京急行(参)」は大成功のうちに幕を閉じたのだった。

 

 

「暁の水平線に勝利を・・・」

 

 

思わず呟いた私の目の前で、鉄底海峡にゆっくりと朝日が昇りはじめていた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとうございます、提督!任務達成です!」

 

 

いつも冷静沈着な大淀が、珍しく興奮した様子で話している。うっすらと汗までかいているのが少しエロ・・・ゲフンゲフン!

 

 

「ふっ・・・さすが私の提督ね・・・」

 

 

加賀さんは一見いつも通りだったが、微妙に顔が赤いし、語尾がよく聞き取れない。やっぱり興奮してんのか?

 

 

()()()()()()()()()()()の爆誕ですね!あ、1枚お願いします!」

 

 

シャッター音とフラッシュの嵐。

 

 

「味方に全く損害を出さず、一発の砲弾を撃つこともなく、あのヘンダーソン飛行場を陥とすとは・・・素晴らしい作戦指揮でした」

 

 

加賀さんからの称賛に、俺は事実だけを述べる。

 

 

「いや、今回はたまたま敵の撤退とこっちの突入のタイミングが合っただけだろ。なによりあいつら(第3水雷戦隊)の頑張りがあってこその結果だ。俺は何もしてない」

 

 

「提督・・・」

 

 

それに、遠征作戦の成功よりも全員が無事に帰って来ることの方が、俺には重要だった。

 

 

なおも鳴りやまないシャッター音とフラッシュの嵐。ってか青葉、なぜお前がここにいる・・・?

 

 

 

 

 

 

 

「青葉、来ちゃいました・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

味方に全く損害を出さず、一発の砲弾を撃つこともなく、あのヘンダーソン飛行場を・・・(加賀さん)

 

 

それ、さっきも言ってませんでした?(いろはす)




次回予告:突然の艦隊演習。演習相手としてショートランドに乗り込んで来たのは、あの男が指揮する鎮守府だった・・・艦娘同士のプライドをかけて、戦いが始まる・・・

第17話:艦娘 vs 艦娘(前編)
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