「演習の申し込み?」
大淀の言葉に俺は驚いた。例の無謀な東京急行任務の成功で、ここショートランドの知名度は上がっていたが、まさかそんな物好きがいるとは・・・
「はい、あのヘンダーソン飛行場を陥とした提督と、ぜひ一戦交えてみたいとのことです」
生真面目な顔で大淀が言うと、何か違う意味合いにも聞こえるが・・・
「失礼致します、提督!演習相手の司令官がお見えになりました!」
噂をすればなんとやら、本日の秘書艦を務める曙が、その物好きさんを連れてきた。ずいぶん手際がいいな。ま、誰か知らんが適当にあしらって、さっさとお帰り頂こうか・・・
・・・って、どうした曙!?敬礼してるぞ、あいつ!?言葉遣いも何かスゲェまともだ!どっかおかしいんじゃないか?あれ?自分でも何言ってるのか、よく分からなくなってきた・・・
「久し振りだな、比企谷」
にわかに健気かつ優秀な艦娘へと豹変した曙の後ろから、その原因となった男が現れた。爽やかな笑顔も眩しい葉山隼人。第2種軍装を完璧に着こなし、そのまま大本営のPRポスターにできそうなイケメンだ。あぁ・・・そう言うことか。さすがの
泣ける。
「お前・・・何しに来た?」
自然と声が硬くなるのが抑えられない。べ、別に顔で負けてるのが悔しいとかじゃないからね!
「先日、特別枠で提督に推薦されたばかりなんだ。横須賀鎮守府を任されている。でも、まだまだ新米さ」
ちっ!新米がいきなり横須賀の提督になれるわけねぇだろ!そんなの二次小説の中だけだ・・・
「初任地が横須賀とか、どんだけチートなんだよ。やっぱ『みんなの葉山君』はひと味違うな」
思ったままを口にしつつ、俺は考えをめぐらせていた。こりゃ、一色とは会わせない方がいいのか?
「比企谷、
と、いきなり辛そうに視線を下げる葉山。はい?あの時?やっぱこいつ馬鹿坊っちゃんか?
突然謝罪モードに突入した愛する提督さんの姿を見て、後ろに控える秘書艦らしき戦艦娘が凄い目付きでこっちを睨んできた。Why?ってか胸に名札付けてるってどうよ?ヤツにこんな趣味があったとは・・・手書きで「戦艦榛名」とか、ちょっぴり萌えたわ・・・
・・・じゃなくて、ち、ちょっとタンマ!君たち演習しに来たんでしょ?ガンを付ける相手間違ってません?そんな目で睨まれたら、か弱いはちまんはナンドデモシズンデシマウ・・・あっ深海棲艦になっちゃった、てへ♪
「・・・そんなことを言うために、わざわざ貴重な航空燃料を使って来たのか」
脳内劇場のドタバタを表情に出すことなく、醒めた口調で俺が放った皮肉に、初めてヤツのイケメンがひび割れる。
「そ、そうだったな・・・済まない」
が、直ぐに煮え切らない態度から一転、お手本みたいな敬礼を決める葉山。何から何まで絵になるのが鼻に付く。偶々居合わせた艦娘たちが、黄色い声を上げた。
「横須賀鎮守府所属、葉山隼人ほか艦娘18名、演習のため当基地への一時滞在許可を申請する!」
・・・お前、何人連れて来てんだよ・・・
「全員却下だ。呼んだ覚えはない」
「はは・・・手厳しいな、君は。まぁ、確かに演習を申し込んだのはこちらだからね。受けてくれて感謝する。最精鋭のメンバーを連れて来たから宜しく」
話聞いてんのか?こいつ・・・
「は?最精鋭って・・・何をマジになってるんだ?たかが演習のためにこんな最前線まで来るなんて」
「
「・・・あんなのは、単なるまぐれだ。世間で言われてるような奇跡なんかじゃない」
あの東京急行任務の一部始終は「鉄底海峡の奇跡」というタイトルでアニメ化が決定し、早くも先行PV動画がユーチューブにアップされているとか。魔術師の異名をとる提督のキャラデザは、目元の涼しげな超イケメンらしいと鈴熊が言ってた。あ、そりゃ俺じゃないな。(泣)
てか、それよりもKADOKAWAさん、もっと優先すべきアニメをお忘れでは?
「本当に君は変わらないな。じゃあ、取り敢えずそういうことにしておくよ」
明るく笑う葉山。とにかくこの笑顔を出しときゃ、みんな仲良しでいられると信じている残念ハンサム野郎。勘違いリア充の発散するオーラで、冷蔵庫のマッカンが煮えちまいそうだぜ。
「ところで比企谷、この演習にひとつオプション条件を付けたいんだが」
他意など微塵も感じさせない微笑みを浮かべて、ヤツが提案する。どうせ碌でもないことなんだろうが・・・
「演習に勝った方が、負けた方から1名、艦娘を引き抜けるというのはどうだろう?」
「なん・・・!?そんな条件、受ける訳ないだろ・・・!」
彼女たちをモノ扱いするかのようなその言いぐさに、思わず俺が言い返そうとしたその時・・・
「受けましょう、提督」
さっきから、葉山のイケメン振りにも顔色ひとつ変えずにいた加賀さんが、ようやく口を開いた。
「ちょっ・・・何言ってるんだ。もし負けたら・・・」
「提督。私たちを、私を信じて下さらないの?」
真っ直ぐ俺を見詰める瞳が忽ち潤んでゆく。まずい、これはこの後、一色が乱入してくるパターンだ。今あいつが登場するのは色々とよろしくない。って加賀さん、お願いだから胸の前で両手を握り合わせるのやめて!勘違いから恋が始まっちゃうかも知れないから!
「いいだろう。受けてやる。俺にこんな勝負を仕掛けたことを後悔させてやるぜ」
威勢よく葉山に勝利宣言を叩き付けてから、気付く。あ、これ完全にやられ役の台詞だったわ。(D敗北確定)
帝都を守る横須賀鎮守府は確かに高い練度を誇る強敵だが、ショートランドも南方最前線を担う基地として、戦い慣れた艦娘は多い。充分勝機はあるだろう。エリートに現場の力ってもんを見せてやる。
「あ、あの・・・」
その後、大淀と加賀さんを連れ、遅めの昼食を取ろうと食堂へ向かっていた俺は、不意に呼び止められた。振り向くと、そこには見慣れた白露型の制服姿・・・胸に「駆逐艦時雨」の名札。ん?葉山が連れて来た艦娘か。迷子かな?
「何か用かね?言ってみなさい。私に出来ることなら良いのだが」
大人キャラの提督を一人芝居。恥ずい・・・
「えっと・・・クスッ・・・ひ、久し振りだね、八幡・・・」
たっぷり3秒ほど固まってから、国語学年3位の頭がようやく回転し始める。
「た、ち、つ、て、とーつか!?!」(男の裏声)
北斗の拳に出てきそうな断末魔の叫びと共に、苦労して作り上げた大人キャラが一瞬で崩壊する。と、戸塚?!まさかのMy lovely Saika Kanmusu version!戸塚が時雨たん!KADOKAWAさんありがとう!
「こ、今夜は月が綺麗だな」
「え?まだ昼間だよ、八幡・・・」
がはっ!!
うん?しかし彩加は男子・・・じゃなくて少なくとも艦娘には成れないはず・・・
「あ、あのね、ボク・・・実は女の子だったんだ」
「ほぅ・・・」(キタコレ!)
加賀さんたちの手前、暴走機関車はちえもんに急ブレーキをかけ、提督キャラを正常発動させる。鈍い反応を取り違えたのか、戸塚の瞳に浮かぶ不安の色。
「は、八幡・・・ボクのこと嫌いになっちゃった?」
「はうっ!」(提督轟沈)
好きの反対は無関心!嫌いの反対は彩加!男の子の反対は時雨たん!
想像してみてくれ。あの戸塚が時雨たんの制服で上目遣いの涙目になってる姿を!今の彼女なら、この戦争を終わらせることだって出来るかも知れない・・・
その者、青き衣をまといて南海の戦場に降り立つべし・・・(ナウシカ風)
「な、何を言う?我とお主の仲ではないか、案ずるでない!」
あ、間違えて
いや待てよ?そうだ!この演習に勝てば戸塚を我がショートランドに引き抜ける!是非とも俺の私室で寝泊まりしてくれ!一色?あぁ、あんなのは直ぐに片付けるから問題ない。なんなら、特注家具職人妖精さんに頼んで戸塚専用の部屋を用意するまである。
まずは勝たねば。
「全艦隊、総力戦用意!主砲を短距離砲に切り替え、ワレキューレを発進させろ!」
俄然やる気になった八幡を、呆気に取られて眺める加賀さんと大淀。思わず顔を見合わせる。
「わ、われきゅーれ・・・?」
「さあ・・・新型艦載機の名前でしょうか?」
「はっ!まさか近々実装される私の改三標準装備とか・・・」
「それはないと思いますが、でも・・・」
僅かに頬を染めて続ける大淀。
「熱い提督も素敵です」
「ええ、そうね・・・」
ふたりの頭には、見えないフラグがはためいていた。
あの白露型の
男の
次回予告:横須賀鎮守府との激戦を前に、交錯する思惑、乱立するフラグ。生き残るのは、誰だ・・・?
第18話:艦娘 vs 艦娘(中編)