「・・・というのが、今回の作戦案だ」
対葉山オペレーションの説明を終え、俺は顔を上げた。作戦室には主だったメンバーに加え、非番の艦娘たちもひしめいている。ここ、遊び場じゃないからね?
「ずいぶんと思い切った作戦ですね、提督」
赤城さんが感心したように言う。
「確かに、成功すれば一瞬で決着をつけられます」
翔鶴ねぇも賛同する。
「しかし、初手でしくじると後がありません」
これは加賀さん。
「相手の編成が分からない以上、もっと慎重な作戦をとるべきでは?」
蒼龍も異論を唱える。
「皆の心配は当然だと思う。でも、今回に限っては大丈夫だ」
「なぜです?」「なぜなのだ?」「なぜっぽい?」(艦娘一同)
いつの間にか、お喋りに夢中だった面々も含め、殆どの艦娘たちが作戦台の周りに集まっていた。っていうかこれ、部屋の扉も開けっ放しだし、防諜的には大丈夫なんだろうか?まぁ、葉山に限ってはスパイなんて真似はしないだろうが。何しろ坊っちゃんだからな・・・甘いぜ。
因みにこっちは、ヤツの控え室に川内を張り込ませている。ん?まぁ適材適所と言ってくれ。
「葉山は良くも悪くも常識人だ。おそらくは対空、対艦、対潜全てに対応した、万能型の編成で仕掛けて来るだろう。そこが狙い目だ」
バランスのいい編成。そう言うと聞こえはいいが、裏を返せば全てに中途半端。
他の鎮守府と行う演習では、互いに艦隊編成を伏せておくのが暗黙のルールになっている。従って、メンバー選びの時点で勝敗は半ば決していると言ってよいだろう。あとは戦術と、艦娘の技量次第だ。
「分かりました。では、直ちに準備に入ります」
「うむ!ショートランドの興廃この一戦にあり!(時雨たんをお迎えするため)各員一層奮励努力せよ!」
か、噛まずに言えた・・・
俺のひと言で全員が立ち上がろうとしたその時、
「提督って、横須賀の司令官と仲が悪いっぽい?」
「なっ?!」
周りをうろちょろしていた夕立の爆弾発言に、中腰のまま固まる面々。素早く目を見交わしているあたり、本当はみんな気になっていたのね・・・
「ふっ・・・この演習に勝利した暁には教えてやろう」
「え?暁ちゃんだけ?夕立にも教えてほしいっぽい!」
・・・ぽいぽいは、国語のお勉強をしっかりやろうね。あと、きょとんとしてる他の子たちも。
仮設の観覧席に座ると、俺は双眼鏡を手にした。隣で葉山も席に着く。既に双方の艦隊は旗艦を除いて沖合いに出ており、互いに相手の編成は分からない状態だ。
「比企谷、周辺海域の警戒は大丈夫なのか?」
「心配ない。第3水雷戦隊を展開させてある」
「例の彼女たちか?」
「あぁ、そうだ」
ここは最前線。よがり泣く艦娘も黙る地獄の一丁目だ。演習中に敵襲なんて洒落にもならないから、そのあたりの対策には万全を期している。
しかし葉山のヤツ、まさか戸塚・・・じゃなくて時雨たんを演習メンバーに入れてないだろうな。彼女が模擬弾のペイントまみれにされるところなんて、可哀想過ぎて、とてもじゃないが見てられん・・・
「グスッ・・・酷いよ八幡、ボクに頭からぶっかけるなんて・・・」
制服が乱れ、粘液質のペイントにまみれた時雨たんが、恨めしげな涙目でこちらを・・・
あうっ!い、いかん!ぼ、煩悩退散煩悩退散、寿限無寿限無・・・
「じゃあ比企谷、宜しく頼むよ」
「ひょ?!あ、あぁ・・・オプションの件、忘れるなよ」
一瞬、忘我の境地に達しようとしていた俺は、葉山の言葉で現世に帰ってきた。ふぅ・・・後ろでは、ウチの非番艦娘たちが早くもお弁当を広げている。暢気なもんだ。その中に交じる大和や武蔵、ビスマルクなどの顔ぶれに、目を見開いて呻く葉山。
「ひ、比企谷・・・き、君はもう大型艦建造をフルコンプリートしたのか?!」
「あぁ・・・あれはその、ちょっとした
「く・・・やっぱり君ってヤツは・・・」
なぜか屈辱感にまみれて俯く葉山。まさかペンギンさんのおまけだったなんて言えねぇ・・・
そして、項垂れるイケメンに止めの一撃が。
「お飲み物はいかがですか?
「あ、有り難う・・・って、い、いろはっ!?」
新しすぎる断末魔の叫びを上げ、爆裂するイケメン。いろは百裂拳、これがホントのリア充爆散・・・
いきなりの一色登場に俺も固まる。あいつ、あれほど出てくるなと言っといたのに・・・だが、俺の心配を他所に、今度はこちらにやって来るいろはす。
「はい、比企谷提督もどうぞ」
「お、おぅ・・・」
冷えたマッカンを受け取りながら、それとなく表情を伺う。
「
怖っ!でもどうやら、一色の中では踏ん切りがついていたようだ。
「なんか・・・却って気を遣わせたみたいで、悪かったな」
「いえ、こちらこそ、有り難うございました」
「そ、そうか・・・」
やけに素直な反応に戸惑っているうちに、彼女はスカートを翻し立ち去って行く。そしてその去り際の呟きが、俺に届くことはなかった。
「ええ、もう上書き済みですから、
「まもなく演習が始まります、提督!」
一色の背中を見送る俺の隣で、ハキハキと報告する秘書艦の曙。今日は頑なに、このキャラで行くつもりらしい。
「曙・・・それ疲れないか?」
「う、うるさいわね・・・このクソ提督・・・!」
声を潜めながらも
「やっぱ、そっちの方がお前らしくて好きだけどな」
「なんっ?!!」
人間も艦娘も、自然体が一番だ。無理はイカン。思ったままをストレートに伝えてから、正面に向き直る。
それにしても、戸塚の件も含め、殴り込みを掛けてきた相手に負ける訳にはいかない。ましてやそれが葉山となれば、尚更だ。だからこそ必ず勝つ。どんな手を使ってでも。え?体育祭の棒倒し?果て、何のことやら・・・ハチマンワカラナイ・・・
目の前の演習に意識を集中させていた俺は、背後で茹で蛸のようになって震えているぼのたんに、気付くはずもなかった。
「それではこれより、横須賀鎮守府対ショートランド前進鎮守府の演習を行います」
インカム越しに聞こえる大淀の声。構えた双眼鏡の先では、場を仕切る彼女が両軍の旗艦に注意事項を伝えていた。こっちの旗艦は加賀さんだが、さて、あちらは誰かな・・・って、か、加賀しゃん!!?(噛んだ!)
同じ艦娘が複数存在すること自体は、決して珍しいことではないが、凛とした瓜二つの美人が並ぶと、ちょっと怖い・・・いや、よく見るとやはり個人差はあるか・・・
え?どっちが好みかって?それはその・・・モジモジ
「了解したわ」
「ええ、こちらも了解よ」
ふたりの加賀さんが答えた言葉を、大淀のインカムが拾う。ん?何かあちらの加賀さん、声に聞き覚えがあるような・・・
しかしそれを確かめる前に、彼女らは各々、自軍艦隊が展開する水平線の彼方へと消えて行った。
やがて、戻って来た大淀が敬礼と共に告げる。
「準備完了しました」
その言葉を聞き、俺は葉山へ確認する。
「そっちはOKか?」
「あぁ・・・だ、大丈夫だ」
まだいろはすショックから覚めやらぬ様子の葉山だったが、あれなら艦隊指揮は出来るだろう。
そして俺はインカムへ、最初の指示を出す。
「艦隊前進!」
葉山、戸塚、ふたりの加賀さん、そして一色・・・様々な想いを乗せて今、艦隊演習が始まろうとしていた。
葉山提督へのお飲み物って、あなたまさか・・・(加賀さん)
次回予告:遂に始まった艦隊演習。激戦の果てに艦娘たちを待つ運命とは・・・
第19話:艦娘 vs 艦娘(後編)